前世からずっと一緒になるって決まってたんだ45_嵐の夜

今回のこの船上パーティーのチケットを用意したのは間違いなく自分である。
嫁達にサービスしてやりたくて、主である耀哉に頼み込んで取ってもらい……
そしてたまたま嫁達が行けなくなって錆兎達を誘った。

全ては自分が主導で参加したはずである。
それなのに何か今回はモヤっとした感じがぬぐえない。

確かに目玉である加瀬兄弟は居るし、他にも音楽をやっている学生が居る。
なのに感じるこの違和感はなんだろうか……。


まとわりつくような空気…。

海の上で海風に吹かれているから…というわけではあるまい。
これはもっと感覚的なものだ。

実に非論理的な考え方だと思うが仕方ない。


【貴様だけは死んでも許さん…。
…絶対…裏切り者ともども絶対に…悪魔に身を売ってでも呪ってやる…
…覚悟しておけ…】

ふと近頃来たメールを思い出して宇髄は軽く首を横に振った。


何故今あんなモノを思い出す?

――俺も思いのほか疲れてんのか…。

と窓の外に目をやれば、外はポツリポツリと降りだした雨がずいぶんと激しくなってきて、嵐のようになっている。

そういえば少し風が出てきたようだ。
豪華ではあるが大きくはない船は波に揺れ、カタカタと微かに食器のぶつかり合う音がする。
しかし話に没頭している周りはそれを気にした様子もない。

なんだか神経質になっているから気になってしまうだけなのだろうととりあえず割り切ることにして、宇髄は夜の海から視線を再び船内に向けた。


自分の入手先がそうだったように、一応一般募集となっていたこのパーティのチケットも、半数くらいは音楽関係者や各財界周りの有力者に流れている。

だから加瀬兄弟の周りにいるのは、そういう財界有力者の子どもか著名な音楽界の教育者の弟子などらしく、その他の本当の公募で来たあたりは、どこか入りにくい雰囲気のその集団の中に入れずに、せめてもと美味い料理を食いながら、遠くからこっそり加瀬兄弟にカメラをむけていた。

とはいっても、参加条件自体がきちんとドレスコードを守れることなので、正装でない時点で乗船できないと明記してあるため、中にはいかにも慣れていませんと言う風な貸衣装に着られているような人間も少しはいるが、本当にそういう世界に縁のない人間はあまり来ていないように見受けられる。


さて、今回のメインである加瀬兄弟だが、双子と言っても二卵性双生児なので、若干顔立ちが違う。

若干柔和に見えるあの顔立ちは長男の英一の方だ。

テレビ番組で見たり、雑誌の取材を受けたりしているのを見る限りでは、性格も穏やかで人当たりが良い。

一方の英二の方は顔立ちも性格も勝ち気で、芸術家にありがちなやや偏屈なところがある。

集まっている学生たちの相手をしているのももっぱら英一のほうで、英二は面倒くさそうな表情を隠さない。

まあ、でも特に大きな問題があるわけでもなく、普通の光景だ。
なのにどうしてもいやな感じがぬぐえない。


(…なあんか嫌な空気があるんだよなぁ…)

本当に、…何も起こらなきゃいいんだがな……としつこく思ってしまうのは、前回のぎゆう関係で巻き込まれた騒動のせいで神経過敏になっているせいなのだろうか…。

と、その瞬間だった。

ドンっ!!!とひどい衝撃が船に走る。


「「なんだっ?!!」」
と、皆が走り寄ると船の横腹に小型船舶が突っ込んでいる。

いつのまに?!どこから来た?!何故今まで気づかなかったんだ?!!

色々確認したいところではあるが、

「皆様、静粛に願います。他船に追突されたため、この船はじきに沈みます。
が、救難ボートはもちろん人数分用意しておりますので、まずは学生さん達から係員の誘導にしたがって避難して下さい」
とのアナウンスが入り、取るものも取りあえず避難することになる。

とにかく仲間5人集まり、係員に誘導されるまま救難ボートへ。

どういう人選なのかはわからないが、5人は加瀬兄弟と同じ救命ボートに乗ることになった。
あるいは産屋敷家の関係者ということで、ビップ待遇なのかもしれない。


「全く、どうなってるんだっ!!」
と、避難する道々激怒する加瀬英二を兄の英一が
「ぶつかられたんなら、この船の側の落ち度じゃないだろ?係員さんに言っても気の毒だ」
と、なだめる。

「「でも…」」
と、そこで宇髄が口を開いたのとほぼ同時に口を開いたのは、不死川。

あ…とお互い顔を見合わせるが、まあこういう時の役割は決まっているとばかりに

「宇髄が言えよ」
と、不死川が譲ってくるので、宇髄はそれに頷いて、係員に視線を戻した。


「ぶつかるくらい近づくまで何故わからなかったんだ?
こんな船ならレーダーくらい付いてないのか?」

どうやら不死川もそれを言いたかったらしい。
宇髄の言葉に無言でコックリと頷いた。


「あ~申し訳ありません。私は客室係なのでそのあたりの詳しい事は存じ上げないのです。
そのあたりについては岸についてから船長の方から改めてきちんとした説明があると思いますので、それまでお待ちください」

本当に申し訳無さそうに身を縮めるようにそう言う係員をこれ以上吊るし上げても何も出てこなさそうだ。

宇髄は
「わかった」
と小さくため息をつくと、救難ボートまでの道を急ぐ。

そしてボートにたどり着くと、最初に加瀬兄弟、その後宇髄達5人、そして高校生らしき3人と、最後に一人係員が乗って客船を離れた。


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