前世からずっと一緒になるって決まってたんだ43_船上パーティー

今回のこの催しは、加瀬兄弟を自社のコマーシャルに使っている某企業主催のこの企画…ようは今人気の若手バイオリニストを使った宣伝らしい。

初日の今日の夜は船上パーティで、本格的な音合せや演奏は明日以降になるとのこと。

演奏会と銘打ってはいるが本格的なものではなく、”一般の学生達と触れ合う加瀬兄弟”という図を作るのが主催側の狙いなのだろう。

最近日本国内で開かれたコンサートでも1位2位を独占した天才バイオリニスト達を中心に、音楽家を目指す学生達が集まっている。



「義勇も行って来いよ。なんならついてってやろうか?」
チラチラとそちらを気にしている義勇に宇髄が声をかけるが、

「いや、本格的にやってるわけじゃないから。話の邪魔をしたくない」
と、義勇は小さく首を振った。


せっかく一流の音楽家との少人数の集いに出席が叶ったのに相変わらず随分と無欲な奴だ…とは思ったが、よくよくその集団の話に聞き耳をたててみると、どうやら演奏の技術的な話ではなく、コンクール関係の話をしているようなので、あまり興味がないのだろう。


そういえば初めて出会った平安の時代から一貫して義勇は争いごとが好きではないので、転生するたび何らかの楽器を扱うことを楽しんだとしても、それで競ったり食っていこうとすることが全くなかったな…と、宇髄は思い出す。

義勇が他人と争うことになっても執着するのは、錆兎のことのみだ。


宇髄に言わせれば、錆兎は生まれも育ちも…そして本人の資質的にも他人を引き付けるカリスマ的存在で、あれこそ手にしようとすればとてつもない競争率だと思うのだが、幸いにして義勇は最初の生の時からずっと、その戦いにだけは勝ち続けている。

錆兎に特別な思いを持って近づく者はみな、

──俺は義勇のものだから…すまんな。
と、錆兎自身の苦笑まじりの言葉で遠ざけられているのだ。


今だって錆兎はおそらく義勇が加瀬兄弟の方に耳を傾けていて、結局話題がコンクールのことだったので興味をなくしたのに気付いているからこそ放置しているが、もしそこで義勇が興味のある話題だったとすれば、宇髄が気を遣うまでもなく、義勇のために彼らに割って入ることくらいはしているだろう。

そのあたり義勇と違って、失礼にならぬよう、場を乱さぬよう、話の中に入るなど平安時代の頃からお手の物だ。


今はおそらく加瀬兄弟の生演奏を聴ければそれで良いくらいの気分でいる義勇のために、義勇が好きそうな料理を義勇が食べられそうな分、皿に取り分けている。

本当に甲斐甲斐しい男だ。


しかし今にして思えば、どんなに好きだろうと、そういう部分のない月哉が義勇の隣に立つのは無理だったように思う。

もちろん物理的に何かをしてくれるから…というだけの愛情ではないだろうが、そういうことに疎い人間とマメでよく動く人間、相性というものはある。

義勇は本来受動型の人間で、まず相手の方から色々働きかけてやらねば動かない。

平安時代から放置をしていれば延々と一人で碁を並べていたり琴を弾いてみたりと、部屋でじっと過ごしている人間だ。


錆兎はそんな義勇にあれこれ面倒をみてやったり、義勇がそれでも気に入るであろうものを見つけて連れ出してやったり、そんなことが楽しい男だが、月哉こと無惨は逆に他人にしてもらって当たり前な人間だ。

自分があれこれ世話を焼くなんてありえない。


もし義勇が人見知りな人間でなければ、金で人を雇って必要なことを命じてワンチャンあるかもしれないが、他人が苦手な義勇は慣れない使用人にうろちょろされるくらいならむしろ放っておいてくれと言うタイプだ。

今だってよしんば月哉がいたとしても、料理や飲み物を用意してやるでもなく、義勇を気遣ってやるでもなく、ひたすら自分の音楽の知識をひけらかすだのなんだのして、義勇をうんざりさせているに違いない。


「ほら、義勇、これお前が好きそうな味だ」
と、いそいそと皿とグラスを手に戻って来て、義勇の前のテーブルにおいてやる錆兎。

そして、その錆兎の分の料理はどうやら一人手持無沙汰な不死川に運んでもらっているらしい。

そう、錆兎も人を使うことはあるが、基本、他人に緊張する義勇の分は自分がやり、それでできなくなった自分に必要なことを他人に依頼する。

そのあたり、もう義勇をよく理解している上に常に義勇がまさにして欲しいのであろうことをしてやる義勇ファーストなので、そりゃあ懐くだろうと宇髄は苦笑した。


地頭がいい男な上に、かれこれ1000年前からの付き合いで、しかもほぼ近い位置に転生してずっと一緒なので、義勇についての知識はもう誰も錆兎を超えることはできない。

月哉もいい加減諦めればいいのに…と宇髄は思う。


だから普通ならあそこの二人はあまりに絆が強すぎるので自分が色々気を回すこともないのだが、月哉は手段を選ばず、結果義勇が傷ついて最悪死ぬことで錆兎が壊れるので、それを避けるために毎回宇髄は苦心する。

そう、相手に依存しているのは実は義勇の方だけではない。

過去の転生で一度だけ、無惨に攫われた義勇が自害したことがあったのだが、その時の錆兎の壊れっぷりがすごすぎて、宇髄はいまだに忘れられない。


あれはまさしく修羅だった。

無惨の居城に乗り込んで、当時はそういう名称はなかったのだが、後世でいうところの上弦レベルの鬼を防御など全く微塵も残さずかなぐり捨てた、まさに捨て身の剣で斬り捨てて、血の涙を流しながら無惨に迫った。

そこで別の上弦が立ちふさがらなければ、あるいは無惨はそこで倒されていたかもしれない。


そうして命からがら逃げた無惨を放置でたどり着いた城の奥ですでに事切れた義勇を発見した錆兎は、迷うことなく二度と離れることのないようにと、抱きしめた義勇の遺体ごと、己の刀で自らの心臓を貫いて息絶えた。

一緒に城に突入してその一部始終を目にすることになった宇髄にとって、あの一件はいま思い出しても身震いするほど衝撃的で、体にぞわりと鳥肌がたつ。

あれは嫌だ。絶対に避けたい。


大正時代には錆兎を失くした義勇というのも見たのだが、本当に容姿が生き写しの別人だと思うほどに心を壊しすぎて感情がない状態だったが、義勇はそれでも生きていた。

が、錆兎は突然壊れてぽっきり折れるので本当に怖い。
奴の中では義勇は心の支柱のようなものなのだろう…と、宇髄は理解している。


まあどちらにしても月哉の粘着があったにしても、今生は平和だ。

本当に何度生まれ変わっても食べるのが下手で口の周りを汚す義勇の口を錆兎が楽しくて仕方がないと言った様子でせっせせっせと拭いてやっている。

それでいて義勇は突然自分で料理をフォークに刺したと思うと、いきなりそれを

──これ、美味しいから、錆兎も……
と、錆兎の口に放り込んだり、まあなんというか、二人の通常運転を繰り広げていて、以前はうわぁ~という目でそれを見て固まっていた不死川も毎日昼を共にすることでいい加減慣れたのか、隣でそれを完全スルーで黙々と食っていた。


まあ加瀬兄弟と周りの会話を聞いていると、じきに加瀬兄弟かあるいは楽器持参の学生の演奏でも始まりそうな話の流れになっているので、まあ自分は楽器も弾かないしいいか…と、宇髄も船上パーティーの料理を楽しむことにして、バイキング形式の料理を取りに行った。


Before <<<  >>>Next (11月29日公開予定)


0 件のコメント :

コメントを投稿