前世からずっと一緒になるって決まってたんだ42_チケット

「おい、これ行かねえか?」
と、春休み直前、昼食を取ろうと集まった昼休みの屋上で宇髄がちらつかせたのは一枚のパンフレット。

【加瀬兄弟による演奏会、豪華客船での旅】というものである。

春休みに客船で1週間ほど旅をしながら若い音楽家と楽しく交流しつつその演奏会を楽しみましょうというものらしい。


宇髄は相変わらず平安時代から続く名家産屋敷家に仕える家に転生し続けている。
当然、配下と言っても宇髄の実家自体もそれなりの家だ。

だからまあおかしくはないよな…と思いつつ錆兎と不死川がちらりとパンフレットに視線を向けると、宇髄は誘ってきたわりにそれほど気乗りがしなさそうに


「前世の嫁たちが今生では3姉妹で揃って音大に通ってんだ。
で、音大内ですげえ話題になってて嫁たちも興味深々だったから、あいつらと行こうかと思って耀哉経由でコネ枠で入手してもらったんだけどな、いきなりあいつらのお袋が事故にあって今入院中なんだわ。
で、そんなことになっている時に行けねえってことで、今更他を探すのもなんだし?
下手に誰かを誘うと、誘われなかった人間との関係がやばくなりかねええ代物だからな。
…ってことで、お前らならいいかと思って。
もちろん拒否権なしな~」
と、肩をすくめながら言う。

なるほど、いきなりなんでこのメンツで音楽の夕べなのかと思えばそういうことだったか…と、錆兎も不死川も思っていたわけだが、事情を聞けば納得だ。


「ああ、いいんじゃないか?
4人分てことはあと一人は義勇を誘っていいんだな?」
と、そこで念のためと確認を取る錆兎に、

「元々そのつもりだが、ぎゆうがこねえとお前来ないだろうが」
と、宇髄は苦笑した。


「ああ、そうだな。
宇髄の事情はとにかくとして、加瀬英一、英二を囲む夕べとなればぜひ義勇を連れて行ってやりたい。
…というか、俺もこれ一般の募集で応募したんだが、見事外れたんでありがたい」

錆兎はご機嫌でそう言うと、渡されたチケットに唇を近づけてチュッとリップ音をさせる。


「あ~、そうだったのか。じゃあちょうど良かったな」
と言う宇髄と、
「ぁあ?誰だそれ?」
と眉を寄せる不死川。

対照的な反応の二人に笑顔を向ける錆兎。


「本当に…耀哉様々だ。
くれぐれも礼を言っておいてくれ、宇髄。
で、加瀬兄弟ってのは日本が誇る双子の天才バイオリニストだ、実弥。
双子で外国のバイオリンコンクールの賞を総なめにしてる。
いくつかのコマーシャルにも出てるぞ。
ぎゆうは昔は琴だったが、今生ではバイオリンを俺もフルートをかじっててな。
先週、帰国してる加瀬兄弟のコンサートに行ってきたばかりなんだ」
と、説明をすると、不死川は

「あ~…俺ぁあんまそっちの方向のことわかんねえけど…」
と、ガシガシ頭を掻くが、宇髄はそのあたりも分かったうえで

「豪華客船の旅だから、飯も上手いしたらふく食って楽しんどけ」
と、そう進めた。

まあどちらにしろいつもつるんでいる時点で同行することは決定事項なわけだが…。


「本当に…ぎゆうが喜ぶだろうな。
2人して抽選応募して2人して外れたから。
まあ、当たるのがおかしいくらいの倍率だけどな。
相変わらず産屋敷家はすごいな」

本当に嬉しそうにチケットを撫でまわしている錆兎を横目に、

「まあ…なぁんかすげえ価値あるもんだっていうのはわかった!」
と、苦笑しつつ、なくさないようにと大事なものを入れる書類入れにそれを丁寧に収納する不死川。


そこに一人学年が違うため、少し遅れた授業がようやく終わって義勇が屋上に来たので、錆兎が手の中のチケットをちらつかせた。

最初は何かわからなくてそれを凝視していた義勇だが、それが何かを悟ると、

「どうしたんだっ!これっ!!!」
と、錆兎の手からチケットを取り上げて叫ぶ。


「ぎゆう、行くだろう?」
と、そんな義勇に錆兎がニマニマと笑いながら言うと、義勇には珍しく興奮した様子で
「行くっ!!」
と、叫ぶと思いきりコックンと頭を縦に振った。


「実弥、フォーマルなければうちで用意する。
錆兎とぎゆうはあるよな?」
「頼むわ」
「もちろん」
と、不死川と錆兎。


それに義勇は

「ああ、そうか。フォーマルなのか。
錆兎はフォーマルもさぞや似合うだろうな。
いや、普段の服もありえないくらいカッコいいが…フォーマルはめったに見られないから楽しみだ」
と、もう気持ちはすっかり船の上でタキシードを着た錆兎一色だ。

他の相手なら、宇髄も、『まあそれでも世界一タキシードが似合うのは派手にカッコイイ俺だけどな』などと軽口の一つでも叩くところだが、義勇相手にそれをやるとやばい。

『錆兎を侮辱するなっ!!』とマジギレされる。


本気で殴る蹴るをしようとしてくる。
今生では義勇は特に鍛えてはいないのでそれを交わすのは簡単なのだが、問題はそのあとだ。

義勇が泣く。

そして義勇が泣くと、別に自分の容姿になど興味はないし、よしんば宇髄の方がカッコいいと言われても全く構わない錆兎が、単に“義勇を泣かせたから”と言うそれだけの理由で本気でかかってくる。


こちらがやばい。
正直何度転生をしても、正面からガチで戦って錆兎に勝てる気がしたことがない。
錆兎が本気でキレたら、ほんとに怪我する、殺される。

なので、他なら気にせず口にするそんな軽口も、義勇の前ではグッと飲み込む宇髄なのだ。


そして…こんなやりとりがあった数日後、4人は無事船上の人となる。
それが全ての始まりであった。


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