前世からずっと一緒になるって決まってたんだ2-11継母の狂気

とりあえず…短い休みの間に行っても、朝あんなことがあったばかりだし、天元達が群がっているだろう。

むしろ午前中の休み時間は素知らぬふりで、相手が油断をした頃、昼休みに迎えに行ってゆっくりと話を聞こう。

今生では自分とぎゆうは確かに愛し合っていてわかりあっているのだから、これ以上詳しく書かなくてもぎゆうにはこれで通じている。大丈夫だ。

しかしながら、こうなったら一刻の猶予もない。
すぐにでもちゃんと付き合うという形式を取って周知させなければ…。


こうして授業など全く頭に入らず昼休みの少し前に、気分が悪いので保健室に行くと言って教室を早めに出た無惨は1年の教室の前で待機する。

幸いにして油断したのか、天元や錆兎が来る気配はない。
自分の勝ちだ。

勝った…自分は渡辺錆兎に勝ったんだっ!!!

自然と笑みが漏れる。
授業終了のチャイムが自分達の仲を祝福する教会の鐘の音に聞こえた。


こうして1年の教室のドアが開くのを待って、中を覗きこんだ無惨は、本日数度目の衝撃を受ける事になる。

……ぎゆうがいない!!


「おい、お前っ!冨岡義勇はどこに行ったんだっ?!」
と、思わず出てくる1年生の腕を掴んで聞くと、1年生はその勢いに驚きつつも
「ああ、早退しましたけど?」
と、教えてくれた。

「いつ?!」
「…ん~1時間目が終わったあと…だったよなぁ?」
と、その1年生が友人に確認すると、友人も頷く。


1時間目……やられたっ!!

無惨は教えてもらったことへの礼も言わず反転して自分の教室へと急いで戻った。
そうして自分の教室へ。

もう教師の許可なんて取っている場合じゃない。
クラスメートに体調不良で早退する旨を教師に伝えるよう依頼して、無惨はカバンを手に学校を飛び出した。


あいつらが一緒にいるならまずチャイムを押しても素直にぎゆうが出てくるとも思えないし、念のためぎゆうのマンションに他に誰かいるのか確認しようと、自分の自宅へと戻る。


誰か来ているなら玄関に靴があるはずだ…。

そう思ってまずぎゆうの家の玄関を確認するが、そこにはいつもぎゆうがプライベートで履いているスニーカーがあるのみで、無惨は首をかしげた。

ぎゆうは自宅に戻っていない?

…ということは……もしかして天元か、下手をすれば耀哉の家とかに連れ込まれているのか?


携帯に電話をするがなかなか出ない。
体調が悪くて眠っているのか、携帯をどこかに置き忘れているのか、それとも……
と、3番目の可能性を想像した瞬間、怒りで目の前が赤くそまった。

放置なんかしているんじゃなかった。
こんなことなら奴らも身近に転生していたとわかった高1の時点で再起不能になるように何かしておくべきだった。

イライラとしながら握った携帯がミシッと嫌な音を立てた。
こうして確認だけ済ませると、無惨は急いでぎゆうのマンションに向かう。

念のため…念のためだ。

ぎゆうは高等部に進学して告白して以来、恥ずかしがって自宅にあげてくれなくなった。
だから無理強いはせず、無惨は色々考えてぎゆうを見守れるスポットを見つける。
そして時間を作っては双眼鏡を片手にそこに行き、ぎゆうの健やかな生活を見守っていた。

今日も念のためと思い、その場所…ぎゆうのマンションの向かいにあるビルの屋上へと向かう。
そこからだとぎゆうの寝室がちょうどよく見えるのだ。

いつもなら遅い時間なので大抵はカーテンが閉められている。
だが、今の時間なら、万が一ぎゆうが在宅ならカーテンが開けられていて、パジャマ姿の可愛いぎゆうが見られるかもしれない。
もし見られたらその姿をきちんと収拾しなければならないため、望遠レンズのついたカメラも持参だ。

無惨が日々ここまで恋人であるぎゆうの事を心配して心を砕いているのだから、もうそろそろ素直になってほしいところである。


ともかく、一応ここでスタンバった上で、再度電話をかけてみる。

やはりなかなかつながらない電話…。
あの忌々しい天元の高笑いが聞こえてくる気がする。

ミシっミシっと、これ以上はやめて下さいとばかりに悲鳴をあげる携帯。

あともう少し力を入れたら…というところで、どうやら携帯の寿命は少しばかり伸びる事になったらしい。
ぎりぎりセーフだ。

無惨が携帯を壊してしまう直前に電話がつながる。


体調が悪いということは本当らしい。
電話の向こうの義勇はどこか元気がないように思われた。

小さな息遣い。
あの子のあの可愛い口から吐き出たそれが電話を通じて感じられて、無惨は携帯をさらに顔の近くに近づけた。

『義勇さん、一体いまどこにいるんです?
教室に行ったらいなくて、保健室に行ったって聞いて保健室に行ったら体調崩して帰ったって聞いて心配しているんですけど』

目をつぶると少し体調を崩したぎゆうの愛らしい姿がまぶたの裏に浮かぶ。

自宅じゃない…ということは、もしかしたら用意された寝間着もサイズがややあっていなくて、年のわりには細身で華奢なぎゆううには少し大きく、肩が少しずり落ちていたりするのかもしれない。

熱でもあるなら、うっすらと桃色に染まった普段は白い肌に汗が伝い、あの無惨が大好きな綺麗な青い目がウルウルと潤んでいるのだろう。

ああ…なんと愛らしい…

どうせなら自分の寝巻を着せたいところである。
と、その様子を想像してため息をついた。


遥か昔に一度だけ見た、錆兎と一つの襖に横たわっていたぎゆうを思い出す。

男の胸に安心しきったように収まる小さな頭。
あの時はひどく腹がたったものだが、その相手が自分だったらと想像すると心が躍った。

いつか一緒に暮らし始めたらそうしよう、と、そんなことを考えながら答えを待っていると、返ってきたのは予想からかなりずれた言葉。

「炭治郎、今は授業中なんじゃないのか?お前、電話なんかしていて大丈夫なのか?」

このしばしば頓珍漢なところがぎゆうの魅力ではあるのだが、今はそういう場合ではない。
大事な恋人が早退したとなれば、普通はそれどころではないではないか。


そこで
『義勇さんのことが心配ですし、俺も早退しました。
で、義勇さんは今どこにいるんです?』
と、一番知りたい事を尋ねたら、

『家に……』
と言う声が返ってきてムッとする。


何故恋人である自分に嘘をつくのだ…と、その不本意な気持ちを隠しきれずに

『いませんよね?
戻った形跡もないし、制服のままどこに行ったんですか?』
と、それ以上の嘘を聞いても仕方ないので遮って言うと、電話の向こうで驚いたような声がした。

『ちょっと待て…。なんで戻った形跡ないって…』
『義勇さん、学校に行く時は革靴ですけど、それ以外のプライベートは紺のスニーカー履いてでかけるじゃないですか。
でも今はいつものスニーカーは玄関にあるから履き替えてませんし』
と続くやりとりのあと、

『…炭治郎…お前、何で俺の玄関の様子を知っているんだ?』
と、ぎゆうの質問はまた核心からずれていく。


ああ、もう仕方がない。
そこでぎゆうの質問を優先してやるのが、出来た恋人というものだろう。

そんな理由から、無惨は恋人らしい優しい口調でいかに自分がぎゆうの事を理解しわかっているのかを主張する。

『…俺は昔から義勇さんのことだけをずっとずっとずっとずっと見ていますからね…。
一日中ずっと義勇さんのことを考えてるので、義勇さんのことならなんでもわかるんですよ』

『一応聞くけど…お前、今どこにいるんだ?』
その無惨の愛の深さに感動したのだろうか…聞き返すぎゆうの声は震えている。

あの、初めて会った時に見せていたあのどこか不安げな愛らしい顔が脳裏に浮かんだ。


『ん…義勇さんのマンションの向かいのマンションの屋上ですよ。
ここからだとちょうど義勇さんの寝室の窓がよく見えるんです』
と、自分が常に守られていたということを教えて驚かせてやろうと思って言ったら、その瞬間、いきなり通話が切れた。


いったい何が?と思ってかけ直してもつながらない…というか、電源が切られているようだ。
何度も何度もかけ直して、でもつながらなくて、仕方なしにメールを送ってみたが返事がない。

だんだんとまた疑心暗鬼が頭をもたげてくる…。

まさかさっきのは…ぎゆうを学校から拉致した天元から命じられた、今の無惨の位置を聞き出せという指令だったのか?

ここにいるのは危険かもしれない…と、無惨は大急ぎで荷物をまとめて自宅へ戻った。
そこでもまた何度も電話をし、メールを送るがなしのつぶてだ。

まさか…まさかぎゆうが恋人の自分よりも、あの天元や錆兎を選んだというのか?

嘘だ、嘘だ、嘘だっ!!!


ああ、そうか…ぎゆうは騙されて言われるまま自分と応対をしてしまって、今頃きっと怖くて連絡が取れずにいるのかもしれない。

きっとそうだ。そうに違いない…。
本当に…昔からぎゆうは繊細で気が弱い少年だったから…。


「別に私はお前の事を怒ったり恨んだりはせん。安心しろ」
と、無惨は寝室に置いてある写真立ての中のぎゆうに優しく語りかけて口づけをする。

その無惨の言葉に、部屋中に貼ってある写真の中のぎゆうが安心したように微笑んだ気がした。


そうとわかれば、ぎゆうを怒っていない事を知らせてやると同時に、無惨には自分達の間に立ちふさがる悪魔達を断固として滅する覚悟があることを教えて、安心させてやらなければならない。

そこでチラリと目に入ったのが、おせっかいな伯父にたまたま押し付けられた宗教画集の中の一枚の絵。
それをパチリとカメラに収めると、無惨はそれをメールに添付する。


『俺はいつも影に日向に義勇さんに尽くしてきたつもりです。
なのにその結果がこんな風なユダのごとき裏切りで一度も恨まなかったといえば嘘になりますけど、今は義勇さんのことは恨んでません。
黒幕は宇髄さんだったんですね…。
義勇さん、騙されているんです。おそらく錆兎も騙されているだけだと思います。
目を覚ましてください。
本当に…あの人は俺に対してひどく悪意を持った信用できない人間なんです。
恨んでも恨んでも恨み足りない…呪って呪って呪って…呪い殺しても飽き足りない…』

そう…少し勘違いしてしまったことは素直に謝罪し、しかし今は誤解だったことはわかっている。そんな風に自分達の仲を引き裂こうとした奴らが悪いのだ…と、そんな想いを込めて送信ボタンを押した。

出来れば錆兎のことも色々吹き込みたいところではあるのだが、奴はとても単純な男だ。
ぎゆうが入学してからついこの前までの約半年ほどの間は無惨の言葉を信じてぎゆうには一切近寄ってはこなかった。

おそらく天元が入れ知恵をしなければ、今生は自分の方が近い位置に生まれ育っているのでぎゆうから引き離すのは可能だし無害だろう。

それにぎゆうが信頼しすぎているので、奴を落とせば逆に自分がぎゆうからの信頼を失いかねない。

そんな理由で、ぎゆうの受け入れやすさを考えて、錆兎は通りすがりの善意の第三者で宇髄こそが悪の親玉だと主張しておいた。

それでもなかなか返事が返ってこないが、まあぎゆうもそれが無惨の真意なのかどうか悩んでいるのかもしれない。

少し待ってやろうか…。
そう思いつつ、無惨はぎゆうが落とした時拾ったハンカチを抱きしめた。

…ああ…ぎゆうが身に着けている服の柔軟剤の香りがする…。

スン…とその香りを嗅いで、普段ぎゆうを包んでいる匂いにぺろりと舐めてみるが、当たり前だが布地の感触が舌に広がるだけだ。

ああ…あのまだあどけなさを残すふっくらとした頬に口付けたい…。
ぎゆうを直接舐めてみたら、今度こそ甘い味がするのかもしれない。

部屋のあちこちから微笑みかけるぎゆうの視線を感じながら無惨はひたすらハンカチを自分の身体のあちこちに擦りつけた。
そうすることでぎゆうの香りが自分の体臭と交じり合うような気がして、幸せな気分になる。

抱きしめて体中擦りつけて、ぎゆうの香りが私に移ったら、今度こそぎゆうを白い身体を隅から隅まで舐めまわして私の匂いをつけて、私のものだと主張するのだ…。


ぎゆう…ぎゆう…ぎゆう……可愛い…可愛いぎゆう……

私のものだ…絶対に誰にも渡さん…絶対にだ……


片手にハンカチ、片手に写真立てを持ってベッドの上でゴロゴロしながらそんな妄想に浸っていると、ふいにメールの着信音がして、無惨は飛び起きた。


知らないメルアド…誰だ?

タイトルは──黒幕より──

そのメールを開いてみると、本文はたった2行…

『ぎゆうは迷惑してる。
いい加減手を引け』


天元かっ!!!!!

危うくスマホをそのまま投げつけて壊すところだった。

いや、投げたには投げたのだが、落ちたのがベッドの上だったので、かろうじて無事だっただけなのだが……。


「許さん…許さんぞ……絶対に後悔させてやる……
生きてる事が嫌になるくらい後悔させてやるぞ……覚えておけ……」

まずは…周りからジワジワと追い詰めてやる……。
無惨はゆらりと立ち上がると、ベッドの上に転がるスマホを手に取る。

憎しみに染まった目でクスクス笑いをもらすと、無惨はゆっくりと呪うべき相手に毒を注ぎこむ準備にとりかかった。

「せいぜい…毒りんごの味を堪能しろ、耀哉の犬めっ」

唯一の望みを打ち砕かれた童話の中の悲しいお妃は…そうしてゆっくり病んでいく…。


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