前世からずっと一緒になるって決まってたんだ2_10朝の攻防

やられたっ!!と思った。

それがぎゆうのためだから近づかないという奴の言葉をうかつに信じた自分が愚かだった…と、無惨はほぞを噛む


苛立ちと焦りを隠せない無惨の目の前で、ぎゆうはびっくりした顔をしている。
綺麗な青い目をまんまるく見開いたその少し怯えたような表情は、初めて出会った時を思わせた。

無惨はぎゆうのこういう表情が好きだったが、それは自分の庇護を求めるという前提であり、そんな不安げなぎゆうに対して、──大丈夫だ。まかせておけ──などと言う男が隣にいる今の状況は不快極まりない。

しかもさらに腹立たしい事には、相手、錆兎は自分に対してなんら敵対的な態度をとることもなく、極々普通に

「おはよう、炭治郎。今日は早いな」
などと言ってくることであった。

心底あたまに血が上るが、ここで激高して余裕のないところを見せては相手の思う壺である。

無惨は腹に力を入れて怒りをやり過ごして、錆兎のことは目に入れないようにしてぎゆうに声をかけた。


「義勇さん、今日はどうしたんです?
家の前で待ってたのに、置いてきぼりはひどいですよ。
あの電話のあと、俺、タクシー拾っちゃいました」
と言いながらゆっくりと近寄れば、ぎゆうの顔が見る見る間に青くなる。

今自分は彼が恐れる鬼ではない。

彼が親愛の情を感じている弟弟子の姿なのだ。

なのになぜぎゆうはこんな目で自分を見るのだ。

――なぜ…そこまでやるんだ…
と、小声で漏らす義勇の声は震えている。


何がそこまでなんだ?
何故ぎゆうは自分を愛さない?!

ショックを受ける無惨の前で、甘えるように錆兎の上着の背に張り付く義勇に、錆兎が大丈夫だぞ、とでも言うように優しく笑う。

二人の間に漂う甘い空気。
錆兎の言葉にぎゆうは安心しきった様子でこつんと錆兎の背に額を預けた。

それは無惨がぎゆうに心を奪われてから1000年ほどの間、いつもいつも見てきた光景だった。

ぎゆうに出会った時に錆兎の影も形もなかった今生こそはと思っていたのに、神はやはり自分のことを疎んじているのか…
と、無惨は絶望的な気持ちになった。


「炭治郎、すまないが義勇が怯えてるから、少し距離を置いてやってくれないか?
義勇に言わせると毎朝お前に家に迎えに来られるのも困るらしい」

と、昨日までと立場が一転したような言葉をかけられて、余裕をもってなどと言う気持ちはあっという間に吹き飛んでしまう。


常に自分の前に立ちふさがって、明るい光を遮り続けた憎い相手。
いつもいつも自分を暗闇の中に突き落とす男……。
何故こいつは自分の邪魔をするんだ。

いつも、いつも、いつも、いつも………!!!!!


「いったい何なんですか?錆兎には関係ないでしょう。
どいて下さい。俺は義勇さんと話しをしているんです」
という無惨の声は声を荒げこそしていないが、もう苛立ちを隠せずにいる。

しかしそうやって必死に怒りをこらえている無惨の耳に入ってきたのは、信じられない言葉だった。

「義勇はそうやって問い詰められることを嫌がってるから、やめてやってくれないか?
で、すまんな、俺も無関係ではない。
…何なのかと言われると、義勇の恋人なんだが…」


「はあ??」
その言葉に炭治郎は大きく目を見開いた。

さすがにこの段階でもうそこまでの展開は予想していなかった。

「なにを…言ってるんですか……」
と、まだ事態を飲み込めない無惨に、錆兎はやはり少し困った風に…しかし、きっぱりと

「ああ、色々あってな。付き合うことにしたんだ。
だからこれからは俺が毎朝迎えに行くし、義勇は俺と登校するから」
と、現実をつきつけた。


何故…?という言葉が無惨の脳内をぐるぐる回る。
今生ではうまくいっていたはずだ。
錆兎よりも早くぎゆうと出会って、距離を縮めて、邪魔者も全部排除してきた。

なのにどうして??


錆兎の言葉をきっぱりと否定して欲しくて、今は錆兎の後ろに隠されてしまったぎゆうに視線をを向ける。

それに気づいた義勇はやはり錆兎の後ろに隠れたまま、顔だけぴょこんと出して

「ああ、本当だ。
いつも来ないでくれと言っているが、これからは本当に来られても困るから来ないでくれ」
と、錆兎の言葉が真実であると同意した。


嘘だ…嘘だ、嘘だ、嘘だと言ってくれっ!!!

そこで無惨の中でプツリと何かが切れた。


「何故俺の義勇さんに手を出すんですっ?!
俺の想い人だと知ってますよね?!
同級生の恋愛相手に手を出すって、ずいぶんじゃないですかっ!!」


そうだ、今生ではぎゆうは無惨のものだ!
無惨の恋人なのだっ!!!

そんな無惨からすると当たり前だった事実を思いながら絶叫すると、錆兎はそれに対して憎らしいほど淡々と

「両思いで付き合っているならな。
百歩譲って相手がニュートラルな状態ならまだしも、義勇は本当に困っていたからな。
助け守ってやりたいと思うのが人情だ。
そもそもお前のものではないだろう」
と、その無惨の言葉を否定した。


「幼稚舎の頃からずっと俺のですっ!
ふざけるなっ!!」


つい昨日まで正しく回っていたはずの歯車が、おかしな方向へとずれていく。


今生ではぎゆうは無惨の恋人だ!
幼稚舎で出会ったあの日からずっと無惨の恋人だった。

今も今までもこれからもっ!!
自分の恋人なのだっ!!!!

それが…どうして……?


ぎゆうが裏切るなんてありえない。こんなに二人は愛し合っているのだ…。
ありえない…ありえるはずがない。
きっと犯人は……

怒りと絶望で血管がブチ切れそうになっている無惨の耳に、

「お~。なんか揉めてる最中かぁ?」
と、犯人の声が聞こえてきた。


そう、平安の頃から自分には全く関係がないくせに、面白半分に無惨の邪魔をし続けてきた男…宇髄天元。

今もにやついた顔で自分がしかけてわかっているのだろうに、そんな言葉をかけてきた。
こいつは…こいつだけは許さない…

さらに許せないことに宇髄は無惨が錆兎と対峙している間にぎゆうを攫って行ってしまった。


その後もしばらく錆兎と近寄る近寄らないと言い合っていたが、このままでは埒が明かないと、無惨は反転して校舎内へと駆け込んだ。

どう言いくるめられたのかわからないが、とにかくぎゆうと話をしなくては…
と、無惨はそのまま1年の教室へ。

しかし、まだ数人しか来ていない1年生の中にぎゆうの姿はない。


「なあ…冨岡義勇は知らないか?」
と、教室内の1年生に聞いてみても、まだ登校してきていないという返事しか返ってこない。

彼らが嘘をつく理由もないので、無惨はそのまま1年の教室を出て2年の錆兎の教室へ。
しかしそこにもぎゆうの姿はなかった。


あと…ぎゆうが向かうとしたら…と、次に覗いたのは保健室。
だがそこにもいない。

一体どこに連れて行かれたのだろうか…。
このままでは二人は引き離されてしまう…と、焦る。


そうこうしているうちに予鈴がなった。

さすがにもう自分の教室に戻らなくてはまずい。
どちらにしても予鈴がなったのだから、ぎゆうもこのあとは授業後までは教室にいるだろうから、居場所ははっきりしている。

だから無惨は

――あとで迎えに行きますね。
と、メールを一本入れておいた。



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2 件のコメント :

  1. 「宇髓」さんがこの話以降ほぼ「宇随」さんになってます。宇髓外伝だけでも修正して頂けると多分宇髓さんが喜びます( ̄ー ̄ゞ-☆

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    1. ご報告ありがとうございます。
      どうやら2020年10月あたりからミスってるみたいで…たぶんPC変えた時に単語登録時に間違った模様。
      ただいま絶賛修正中です。
      本当に毎回助かります。またよろしくお願いします🙏

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