前世からずっと一緒になるって決まってたんだ2_9焦燥と絶望

こうして数ヶ月も経過して、ぎゆうに告白するのもすっかり日常の挨拶のようになってきた頃のことである。


その日、無惨はいつもの告白からの流れでぎゆうの口から不穏な言葉を聞くことになった。

『付き合うとかは本当に無理だ。今でも少し近すぎだろう?』

『いまさら近すぎとかはないでしょう?
今までだって本気で嫌がってはいなかったじゃないですか』

いつものやりとりの中で出てきたそんな言葉に、ぎゆうは心底困ったように眉尻をさげた。


『すまない…。本当に無理なんだ』
『どうしてです?どうして今さらそんな事言うんですか?』

自分(無惨)相手ならとにかくとして、この炭治郎という弟弟子に対してはいつも流されてきたはずだ…そう、ぎゆうは身内に弱いはずだ。

と、押し切ろうと少し強気に出る無惨の言葉に、ぎゆうは少し伏し目がちに逡巡して、しかしすぐ思い切ったように顔をあげて言う。


──好きな相手がいるんだ…
と。


その言葉を聞いた瞬間、無惨は体中から血の気が失せる思いがした。

まさか…まさか?

恐ろしすぎて、誰だ?とは聞けなかった。
ぎゆうの言葉の向こうに嫌というほど見知った男の姿を想像して、しかし頭の中で打ち消す。

今生こそ奴の影響はなかったはずだった。
しかしもしぎゆうがまた奴に恋をしたら?

今まで何度も転生したぎゆうの心を手に入れようとしてきたが、一度として奴に敵うことはなかった。
奴と関わらせたらもう、ぎゆうの心はいつでも奴のものになってしまう…

だから今生こそだったのに…


無言になることで無意識に結論を先延ばしにする無惨に、

「そういうことだから…っ」
と、その日は日直だったらしく日誌を持って職員室に駆け込むぎゆう。


少なくとも今生では錆兎の方はぎゆうに関わる気はないはずだ。
自分がそう仕向けた。

だから義勇がもし奴に思いを寄せていたとしても叶うことはない。

叶わないなら自分といればいいじゃないか…
互いに手に入らないものを想いながら身だけ寄り添えばいい。

『それでも…それでもかまわないから…』
追い詰められた無惨の言葉は誰に聞かれることもなく、誰もいない放課後の廊下に消える。


白雪姫の継母のように…毒入りリンゴが欲しかった。

たとえ最後に王子に…光の側にいる多くの人々に救われてしまうとしても…少しくらいはこの苦しみに近いモノを体験してもいいんじゃないだろうか…。



その日は最悪だった。

「おはよう、ぎゆう。今日も愛らしい顔をして寝ているな」

目を覚ますとまず視界に入ってくる愛しい少年の寝顔にそう声をかけて無惨はベッドから起き上がった。

可愛らしいそのレアな様子は、気付かれないようにソッと取った写真で、大きく引き伸ばして天井に貼ってある。

それから同じく気づかれないように取った可愛らしい笑顔の写真の入った写真立てに口づけ。
極度のはにかみ屋なため滅多に見られないその笑顔は、もちろん、同じように気付かれないように撮った写真だ。


その後、朝食。

もちろん食器も椅子もぎゆうの分と二人分用意する。
椅子の上に置くと見えなくなるので、ぎゆうの分の席のテーブルの前にぎゆうの写真。

皿には少なめに朝食を盛るが、小食なぎゆうは量を食べられないため、いつも残った分を無惨が食べてやる。

そうして二人で朝食を済ませると身支度を済ませ、カメラを確認。
この作業もぎゆうの無事を確認し、健やかな生活を守るためには欠かせない。

小さなディスプレイの向こうの玄関にはきちんと磨かれた登校用の革靴が揃えておいてある。

そこでチャネルを切り替えて、今度は玄関にしかけた別のカメラの映像を映しだすと、玄関から居間に続く廊下が見えた。
たまに運が良ければぎゆうが洗面所に行ったりする姿が見えるのだが、今日は見えない。
もう身支度をすませてしまったのか、これからか…。

ぎゆうが自宅を出る時間までには電車で1駅の彼の自宅まで迎えに行きたいので、これ以上ぎゆうが通りがかるのを待っても居られない。

触れる事ができないだけで一緒に暮らしているようなものだが、やはり直に触れたい。
いっそのこと今生では他にかっさらわれる前に童磨に言って攫わせて、自死される前に薬でも使って既成事実を作ってしまおうか…

そんなことを考えながら、無惨は今暮らしている離れを出て、母屋の方を通らずに裏門から外へ出た。

いつもの電車に乗って隣駅へ。

ぎゆうが自分がいようといまいと自宅を出る時間の5分前にぎゆうの自宅マンションのエントランス前で待ち合わせだ。

本当は部屋まで迎えに行ってやりたいのだが、中に入るにはボタン認証のドアがあり、その番号はセキュリティ上教えられないと断られた。

まあ、四角四面なところのあるぎゆうの事だ。
住人以外に教えてはいけないというマンションの規則を遵守したいのだろう。
別に自分くらい良いと思うのだが、そういう不器用な性格も可愛い。

ぎゆうの部屋、305号室のチャイムを鳴らして待つ事数分。

全く反応がない。
おかしい…。
この時間なら家にいるはずだ…。

不審に思って電話をかけてみた。

最近は下手をすると出なくて留守電に吹き込むことも多いので今日もそれかと思ったが、留守電に切り替わるギリギリくらいで電話がつながる、

部屋にいるにしては随分と周りがざわついているようだが、テレビだろうか…

そんなことを思いつつ、

「義勇さん、今日は学校お休みされるんですか?
もしそうなら俺も一緒に休みますから、とりあえず開けてください」
と、エントランスのドアの前で言うと、ぎゆうからはとんでもない答えが返ってきた。

『いや、今はもう駅だ。今日は早く家を出たから』
と、その言葉によくよく耳を澄ませば、後ろから駅のアナウンスのようなものが聞こえる。


何故?どうして?

今日は何か早く出なければいけない日だったか?

いや、そんなはずはない。
ぎゆうの予定は全て把握している。

おかしい…おかしい…おかしい……何かがおかしい!

いや、動揺している場合ではない。
すぐに追わなくては!!


『え?!なんで今日に限って?ちょっと待っててくださいっ!急いで行きます!』

結局わけがわからずそう言うと、ぎゆうは当たり前のように

人と一緒だし、もう電車来たから切る』
と言って通話を切ってしまった。

それからは再度電話してもつながらないので、おそらく電源を切ってしまったのだろう。


人といると言っていたが、一体誰と?!
ぎゆうと一緒に登校するのは自分だけの特権のはずだ。

大変だ。確認しなければっ!と、無惨は迷わず大通りに出るとタクシーを拾った。


童磨からある程度の額の金は渡させているので、無惨は一万円札を運転手に握らせて、

「出来る限り急いでくれっ!」
と頼み、まだ人もまばらな学校へとたどり着くと校庭へと急ぐ。

そうして待つこと数分。
ぎゆうが登校してきた。

…にっくき渡辺錆兎と一緒に…。


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