無惨の学校は中等部まではいくつかの学校に分かれていて、高等部になるとその系列校全てから生徒が集まってくる。
だから弐校と呼ばれる無惨の学校だけではなく、壱校と呼ばれる学校に通う伯母の息子である従兄弟、善逸も同級生になるので、やや煩わしい。
が、まあそのあたりは今まで通り無視しておこうと、高等部の入学式に臨んだ無惨は、そこでとんでもない面々を目にすることになる。
系列校の中でもエリートの集まりである本校と呼ばれる学校出身の人間が固まっているその中心に、ひときわ目立つ宍色の髪をみつけた無惨は、まさかっ?!と思った。
まさか、まさか、ここまで来てやめてくれっ!!
と、思ったが、間違いない。
…渡辺錆兎……
相変わらず人の輪の中心で笑っているその姿にぞっとした。
これは…取られる!!
いや、取られてなるものかっ!!!
そんなことを思いながら無惨が青ざめていると、腹が立つくらいキリリと美しい藤色の瞳が、ぴたりと無惨に向けられた。
しまったっ!!
と、無惨は思う。
ここで自分のことをぎゆうに暴露されたら全てが終わってしまうっ!!
平安時代、ぎゆうを攫って自死させて以来、常に記憶を持って転生してきた錆兎にはずっと蛇蝎のごとく嫌われ、付け狙われてきたのだ。
だから絶対にバラす!!
そう思って無惨は絶望的な気持ちになったが、神は無惨を見捨ててはいなかったらしい。
「炭治郎っ!久しいなっ!俺のことを覚えてはいないか?」
と、錆兎は今までにない親しみのこもった声で無惨に声をかけてきた。
そこで無惨は気づく。
ああ、そうだった!今生の自分は竈門炭治郎だったのだっ!!
「顔色悪いけど大丈夫か?」
と、駆け寄って来て無惨の顔を覗き込んでくる表情には一片の曇りもなく、本気で元弟弟子に対する気遣いと親愛がにじみ出ている。
そうかっ!気づかれてないのか!!
と、無惨は内心喜びに飛び上がった。
そして
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。
覚えているよ、久しいな、錆兎」
と、にこやかに返す。
幸いにして竈門炭治郎の記憶はすべて知ったので、錆兎との関係もよくわかっている。
と、駆け寄って来て無惨の顔を覗き込んでくる表情には一片の曇りもなく、本気で元弟弟子に対する気遣いと親愛がにじみ出ている。
そうかっ!気づかれてないのか!!
と、無惨は内心喜びに飛び上がった。
そして
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。
覚えているよ、久しいな、錆兎」
と、にこやかに返す。
幸いにして竈門炭治郎の記憶はすべて知ったので、錆兎との関係もよくわかっている。
来年にはぎゆうが高等部に進学するのを阻止するのは難しいが、それまでになんとかできるはずだ。
そう思って無惨は考える。
結果…ぎゆうと出会ってはいるが記憶がないため、平和な今生で幸せに暮らしている争いごとの嫌いな彼にそれを思い出させる要素を遠ざけてやりたいので思い出さぬように近づかないでやってほしいと錆兎に申し出ると、偽善者らしくそれを了承した。
馬鹿め…とそれに内心ほくそ笑みながらも、無惨はもしぎゆうが錆兎を見つけた時に近寄らない様に念のためと錆兎の悪評を流しておくことにしたが、これがまずかったらしい。
錆兎の隣にはあの腹の立つ耀哉の腰ぎんちゃくの宇髄天元がいて、それを上手に打ち消しつつも、こちらを警戒し始めたようだ。
錆兎も無惨が神に目をかけられたのとは雲泥の差でいつものように目をかけられているらしく、クラスどころか学年の中心にいて一目置かれ始める。
本家に生まれただけで尊重されて尊敬される耀哉も嫌いだったが、それよりも身分が下の家に生まれたのに敬われ憧れられ皆から優れ者よと当たり前に評価されるだけでは飽き足らず、ぎゆうの心まで奪い去るこの男が無惨はこの世で一番嫌いだった。
ぎゆうは年を追うごとに本当に綺麗に成長していっている。
そして来年には高等部に追ってくるだろう。
現在の年は14歳。
昔なら立派な大人と言っていい年だ。
過去…平安も末期の頃だったか…。
忌々しい渡辺錆兎の隙をみて、ちょうどこのくらいの年のぎゆうを攫って手折ろうとしたら自害されたことを思い出す。
そう思って無惨は考える。
結果…ぎゆうと出会ってはいるが記憶がないため、平和な今生で幸せに暮らしている争いごとの嫌いな彼にそれを思い出させる要素を遠ざけてやりたいので思い出さぬように近づかないでやってほしいと錆兎に申し出ると、偽善者らしくそれを了承した。
馬鹿め…とそれに内心ほくそ笑みながらも、無惨はもしぎゆうが錆兎を見つけた時に近寄らない様に念のためと錆兎の悪評を流しておくことにしたが、これがまずかったらしい。
錆兎の隣にはあの腹の立つ耀哉の腰ぎんちゃくの宇髄天元がいて、それを上手に打ち消しつつも、こちらを警戒し始めたようだ。
錆兎も無惨が神に目をかけられたのとは雲泥の差でいつものように目をかけられているらしく、クラスどころか学年の中心にいて一目置かれ始める。
本家に生まれただけで尊重されて尊敬される耀哉も嫌いだったが、それよりも身分が下の家に生まれたのに敬われ憧れられ皆から優れ者よと当たり前に評価されるだけでは飽き足らず、ぎゆうの心まで奪い去るこの男が無惨はこの世で一番嫌いだった。
ぎゆうは年を追うごとに本当に綺麗に成長していっている。
そして来年には高等部に追ってくるだろう。
現在の年は14歳。
昔なら立派な大人と言っていい年だ。
過去…平安も末期の頃だったか…。
忌々しい渡辺錆兎の隙をみて、ちょうどこのくらいの年のぎゆうを攫って手折ろうとしたら自害されたことを思い出す。
清らかなくせに匂いたつような色気があった。
汚れない真っ白な新雪を汚すときのような、そんな高揚感に包まれてその細い身体を組み敷こうとしたら、気づけばおそらく常備していたのだろう毒を含んで事切れていて、そこまで自分のことを嫌なのかと憤った記憶がある。
だが今回はぎゆうが操をたてる渡辺錆兎はいなかった。
むしろ自分がその位置に立てるはずだった。
なのでぎゆうが高校生になったあたりで、そろそろきちんとした形を取っても良いだろうと無惨は思っていたのである。
幼稚舎からの男子校だし、周りには付き合っている奴らも結構いたので、性別などは問題ない。
平安時代から1000年以上も抱えてきた恋である。
どうせ告白するなら思い出に残るように進学式のあとに体育館横の桜の木の下で、桜吹雪が舞い散る中で…なんていうのは、なかなかいいんじゃないだろうか…
そんな幸せな計画がここにきて一気に崩れかけている。
もう一刻の猶予もない。
錆兎を陥れるのが不可能に近いと悟った無惨は今度は自分がそうであったように親の転勤その他を狙ってみようと思ったのだが、あいにく錆兎はとうに親を亡くして一人暮らしであることを知る。
脅してどうにかできる相手ではないのはもう1000年見てきたので思い知っているし、直接的に害そうにもそれでなくとも本人の身体能力が優れすぎている上に宇髄が見張っている。
そうこうしているうちに1年が過ぎ、ぎゆうが入学してきてしまった。
そうとなればもう予定通りに進めるのが正しいだろう。
錆兎は約束通り極力ぎゆうの目につかないようにふるまっていたので、ぎゆうはまだその姿に気づいていないと思われた。
なので、式の帰りにぎゆうを呼び出した。
汚れない真っ白な新雪を汚すときのような、そんな高揚感に包まれてその細い身体を組み敷こうとしたら、気づけばおそらく常備していたのだろう毒を含んで事切れていて、そこまで自分のことを嫌なのかと憤った記憶がある。
だが今回はぎゆうが操をたてる渡辺錆兎はいなかった。
むしろ自分がその位置に立てるはずだった。
なのでぎゆうが高校生になったあたりで、そろそろきちんとした形を取っても良いだろうと無惨は思っていたのである。
幼稚舎からの男子校だし、周りには付き合っている奴らも結構いたので、性別などは問題ない。
平安時代から1000年以上も抱えてきた恋である。
どうせ告白するなら思い出に残るように進学式のあとに体育館横の桜の木の下で、桜吹雪が舞い散る中で…なんていうのは、なかなかいいんじゃないだろうか…
そんな幸せな計画がここにきて一気に崩れかけている。
もう一刻の猶予もない。
錆兎を陥れるのが不可能に近いと悟った無惨は今度は自分がそうであったように親の転勤その他を狙ってみようと思ったのだが、あいにく錆兎はとうに親を亡くして一人暮らしであることを知る。
脅してどうにかできる相手ではないのはもう1000年見てきたので思い知っているし、直接的に害そうにもそれでなくとも本人の身体能力が優れすぎている上に宇髄が見張っている。
そうこうしているうちに1年が過ぎ、ぎゆうが入学してきてしまった。
そうとなればもう予定通りに進めるのが正しいだろう。
錆兎は約束通り極力ぎゆうの目につかないようにふるまっていたので、ぎゆうはまだその姿に気づいていないと思われた。
なので、式の帰りにぎゆうを呼び出した。
まるで自分達の新しい関係を祝福しているように晴れ渡った空の下、
「ずっと考えていたんですが…」
と、正式に付きあおうと言った無惨に、ぎゆうは驚きの顔で後ずさった。
「…冗談…だろう?」
と言ったのはきっと照れ隠しだ。
無理…と言ったのも照れているからなんだろう。
そんな人見知りなところも愛らしい。
ぎゆうは何をしていても可愛い。
今回は…今回こそは渡辺錆兎の手がついていないのだ。
なのに自分を拒否するなんてありえない。
だからすべては内気なぎゆうの照れ隠しなのだ。
それでもきちんと正しい返事が効きたくて、それからは毎日のように告白し続けたが、毎日のように無理、付き合えないなどという不思議な言葉が返ってくる。
あまりに頑なにそれが繰り返されるので、さすがに無惨も変だと思い始めた。
もしかして…学校では珍しいことではないものの、男同士だからと、誰かにからかわれるのを恐れているのだろうか…。
ぎゆうは内気で繊細な性格だからそれも十分ありうることだ。
からかうとしたら…どのあたりだ。
それと知られないように、ぎゆうを苦しめるような者は排除してやるのが、それこそ平安の頃からずっと無惨が望み続けてきたぎゆうの年上の恋人としてのあるべき姿だ。
そう、自分は恋人を守るくらいの甲斐性はある男なのだ。
だから中学に上がった時と同様、ぎゆうが席を外している間にぎゆうの携帯のアドレス帳をソッと写しとって、親しそうな学校の知人には捨てアドから不幸のメールを送っておいた。
それでも離れていかない図々しい輩に対しては童磨に連絡を取って信徒に死なない程度の嫌がらせをさせる。
それでたいていは片がついた。
部屋一面にはぎゆうの写真。
普通に撮ると嫌がるので、全てこっそり撮ったものだ。
なので今はいずれも目線がこちらを向いてはいないが、社会人になって本物と住めばあの綺麗な青い目が日々向けられるようになるので、それまでの我慢だ。
…ぎゆう…ぎゆう…私だけのぎゆう……
ぎゆうの写真に埋め尽くされた部屋でPCのディスプレイに視線をやれば、小さなマンションの玄関にきちんとそろえられた革靴とスニーカー。
両方揃っているということは、今は自宅にいるのだろう。
そこで無惨はカメラを切り替えて、ぎゆうのマンションの隣のビルの屋上に設置したカメラの画像を映す。
さすがにカーテンは閉められているが、うっすらと影が見えてそこにぎゆうがいるのがわかる。
動作からするとおそらく着替えの最中らしい。
真っ白で手に吸い付くような肌だった…と、それで無惨は平安時代のあの時を思い出す。
いやだ、いやだ、と、高い声で泣く声も艶やかで、無惨の劣情をそそったものだった。
今生では…自分の下に組み敷かれて別の意味で泣く声を聞くことができるだろう…。
そんなことを考えると、高校生という若い身体はすぐ熱を持つ。
そこで無惨は今度は寝室に仕掛けた盗聴器の音源をスピーカーにして目を閉じ、そのわずかな音からそこにいるぎゆうを感じつつ、あの時の記憶を思い出して熱を吐き出した。
渡さない…たとえ奴がどれだけ神の寵愛を受けていようと、自分は今度こそぎゆうの全てを手に入れるのだ…
と、そんな思いを胸にしながら……
「ずっと考えていたんですが…」
と、正式に付きあおうと言った無惨に、ぎゆうは驚きの顔で後ずさった。
「…冗談…だろう?」
と言ったのはきっと照れ隠しだ。
無理…と言ったのも照れているからなんだろう。
そんな人見知りなところも愛らしい。
ぎゆうは何をしていても可愛い。
今回は…今回こそは渡辺錆兎の手がついていないのだ。
なのに自分を拒否するなんてありえない。
だからすべては内気なぎゆうの照れ隠しなのだ。
それでもきちんと正しい返事が効きたくて、それからは毎日のように告白し続けたが、毎日のように無理、付き合えないなどという不思議な言葉が返ってくる。
あまりに頑なにそれが繰り返されるので、さすがに無惨も変だと思い始めた。
もしかして…学校では珍しいことではないものの、男同士だからと、誰かにからかわれるのを恐れているのだろうか…。
ぎゆうは内気で繊細な性格だからそれも十分ありうることだ。
からかうとしたら…どのあたりだ。
それと知られないように、ぎゆうを苦しめるような者は排除してやるのが、それこそ平安の頃からずっと無惨が望み続けてきたぎゆうの年上の恋人としてのあるべき姿だ。
そう、自分は恋人を守るくらいの甲斐性はある男なのだ。
だから中学に上がった時と同様、ぎゆうが席を外している間にぎゆうの携帯のアドレス帳をソッと写しとって、親しそうな学校の知人には捨てアドから不幸のメールを送っておいた。
それでも離れていかない図々しい輩に対しては童磨に連絡を取って信徒に死なない程度の嫌がらせをさせる。
それでたいていは片がついた。
部屋一面にはぎゆうの写真。
普通に撮ると嫌がるので、全てこっそり撮ったものだ。
なので今はいずれも目線がこちらを向いてはいないが、社会人になって本物と住めばあの綺麗な青い目が日々向けられるようになるので、それまでの我慢だ。
…ぎゆう…ぎゆう…私だけのぎゆう……
ぎゆうの写真に埋め尽くされた部屋でPCのディスプレイに視線をやれば、小さなマンションの玄関にきちんとそろえられた革靴とスニーカー。
両方揃っているということは、今は自宅にいるのだろう。
そこで無惨はカメラを切り替えて、ぎゆうのマンションの隣のビルの屋上に設置したカメラの画像を映す。
さすがにカーテンは閉められているが、うっすらと影が見えてそこにぎゆうがいるのがわかる。
動作からするとおそらく着替えの最中らしい。
真っ白で手に吸い付くような肌だった…と、それで無惨は平安時代のあの時を思い出す。
いやだ、いやだ、と、高い声で泣く声も艶やかで、無惨の劣情をそそったものだった。
今生では…自分の下に組み敷かれて別の意味で泣く声を聞くことができるだろう…。
そんなことを考えると、高校生という若い身体はすぐ熱を持つ。
そこで無惨は今度は寝室に仕掛けた盗聴器の音源をスピーカーにして目を閉じ、そのわずかな音からそこにいるぎゆうを感じつつ、あの時の記憶を思い出して熱を吐き出した。
渡さない…たとえ奴がどれだけ神の寵愛を受けていようと、自分は今度こそぎゆうの全てを手に入れるのだ…
と、そんな思いを胸にしながら……
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