前世からずっと一緒になるって決まってたんだ2_7我が世の春

今生では今までになく義勇に近く生まれたのはいいが、邪魔者を力づくで排せないのはそれができる環境に900年ほどいた無惨は不便を感じていたので、ちょうどいい。

今までにない恩恵と今まで持っていた既得権益。
その両方を手にすることが出来るなんて、今生ではどれだけ神に愛されているのだろうか。


実際今生では無惨は幸せだった。

小学校時代、2年から6年までの5年間も義勇と一緒に過ごすことができた。
しかもいつも義勇の横をうろちょろしている渡辺錆兎がいない状態でである。

義勇に一番近しいのが自分で、義勇も錆兎がいない状態と言っても大正時代の時のように錆兎と出会ったあと死なれたということではなく出会っていないので、心を閉ざしているわけではなく、あの少し気弱そうなおっとりした性格のままで、とても愛らしい。

その愛らしい義勇の一番傍にいることのできる自分に、皆が羨望のまなざしを向けている気がする。


しかし順風満帆な今生でも少しばかりの危機はあったのだ。

あれは小学校5年生の時…親から海外転勤を告げられた。
もちろん小学生の無惨だけ残るなどという選択肢はない。

無惨の父はサラリーマンで転勤先は欧州だったのだが、その会社では欧州に転勤というのは戻ってから役職につける出世コースだったらしい。
父も母も機嫌がよく、その日は食卓にはごちそうが並べられた。

…が、無惨にはそんなことは関係ない。

転勤の期間は短くとも3年。
それを聞いて無惨は内心激高した。

冗談じゃない!!
そんなに長い期間離れていたら、誰かにぎゆうを取られてしまう!!

苦節900年。
ようやくここまでぎゆうに近づけたのだ。
ふざけるな!この愚民どもっ!!


そこで無惨は一応反対をしてみた。

親が海外に行くのは仕方がない。
でも自分は行きたくない。
大変不本意ではあるが近くに伯母の家があるから、そこで世話になりたい、と。

しかし一人息子である無惨に執着する親はそれを却下した。


──…一応ここまで衣食住を提供してきたことを考慮してやろうとは思ったが馬鹿めが。
と、反対されてあっさり引いて自室に帰った無惨は、そう思いつつ引き出しの奥に隠しておいたスマホを手に取った。

前世、大正時代までの自分なら自らの手でもできたのだが、今は体も能力もただの小学生だ。
物理的にも消せないし、もし殺すことができたとしても警察に捕まる。

少し前ならお手上げ状態だったのだが、本当に都合よく使える元部下が現れたのも、これまでと違って神に目をかけられている証なのだろうと無惨はほくそ笑んだ。


そこからはもう簡単だ。

童磨に命じれば信徒が動く。
ことは簡単だ。

無惨は外国へ行けばしばらく会えなくなるから…と、近くで教会を営んでいる伯母夫婦の家に泊まりに行く。

そしてその夜に強盗に扮した信徒が無惨の両親を殺害。
自宅には火をかける。


めでたく孤児になった無惨の身柄は引き取り手がなければ施設から信徒が引き取るが、それは教団との関係がどうしても浮かび上がるので極力避けたい。

そもそもが教会など営んでいる伯母夫婦が見捨てるわけもないだろう…と思っていたら案の定、自分の所で引き取る旨を申し出てきたのでそれに乗る。

こうして学校もそのままで、伯母夫婦は教会を生業としているので引っ越しもないので、今後こういうことも起こらないだろう。

…ということで、無惨は平穏な生活を手に入れたのだった。


無惨の父はそれなりに稼いでいたので保険金や遺産もそれなりにあり、今後、大学を卒業するくらいまでは安泰である。

鬼の長であった頃ほどの強大な力や権力はなかったが、実は無惨自身が欲しいものなど本当に少なくて、自身の命、生活に不自由しないほどの資産か仕事、それともう一つ、ぎゆうだけであった。

そのすべてがこれにより手に入る予定だ。


大学まで卒業して社会人になったら親の遺産を頭金に小さなマンションを買って一緒に住もう。
そうしたら朝から晩まで一日中、愛おしいぎゆうを独占出来る。

部屋は多少狭めのほうがいい。
そのほうが二人より添って生活ができる。

小学校を卒業して中学に入る頃には、そんな漠然とした将来の設計図も描くようになった。


少しでもぎゆうとの将来をより良いものにするためには、学生時代から良い評価を得て、良い就職先を見つけなければならない。

そのためには内申も必要だ…と、それまでは人との関わりを極力避けてきたが積極的に委員会や部活動に参加するようにし始めた。

もちろんやるなら長だ。

大抵は誰がやる?となった時に皆尻込みをしたり譲りあったりするので、そこで颯爽と手を上げる。

必ずしも部や委員会に通じていたりするわけでもなく、ときには、え?という顔をされたり、誰か他の人が良いのでは…と実際長にしたい人間の名を挙げられたりもするが、『やりたないって言う奴より、やりたいって奴がやった方がいいだろう?それとも私だとよくないという理由でもあるのか?◯◯』と、実際に名指しで言ってやれば、大抵は黙った。

仕事はわからないことがあれば副に言えば大抵は前年度までの資料を調べてくるし、やることがわかれば部員や委員に命じれば良い。

引き継ぎ資料などは作らない。必要なことは自分の頭の中にのみ記録してある。
わからないことがあれば聞きに来れば良いと思う。
その都度時間があれば教えにいってやるのだから、感謝くらいはして欲しい。

それで数度グダグダ言ってくる輩も多くいたが、結局情報がなければ回せないので頭を下げてきた。
出来の悪い後輩を持つと本当に苦労する。


こうして順調に中学生活を送る。

途中で稀に出没する邪魔者は、童磨に行って信者を使って遠ざけさせる。
ただし死なさず大怪我をさせない範囲で。

現代ではあまりやりすぎると警察がしつこい。
前世と違ってそのあたりはなかなか面倒だが、まあ仕方ない。

しかし危機はこの先、高等部へ進学して起こるのである。


Before <<<  >>>Next (11月10日公開予定)


0 件のコメント :

コメントを投稿