前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_29しばしの平穏

結局…それから宇髄を中心に事情を聞かれ、学校側に多額の寄付をしている産屋敷財閥の口ぞえもあって警察沙汰は免れることにはなったものの、炭治郎は退学処分と相成った。

もちろん他は無罪放免。部活で残っていた生徒達が話を聞いていたというのもあって、多少気まずさは残るだろうが、まあ人の噂も75日というから、じきおさまるだろう。



数日後、産屋敷邸にて…

「いやあ、皆お疲れ様だったね。
月哉のことなら天元も早く言ってくれれば私も介入したのに」
と、にこにこと言う産屋敷耀哉。


御年27歳。

早逝家系という呪いからは開放されてのんびりと人生を謳歌しているかと思えば、なまじ今まで生き急いで来たせいで、おそらく前世までの人生の下手をすれば4倍ほどの寿命がある現世で、やや時間を持て余し気味らしい。

何故そんな楽しそうな事態になっているのに自分には知らせてくれなかった!と、いつものように笑顔ではあるものの、宇髄に向ける視線に避難の色がちらほら見え隠れする。

宇髄は顔を引きつらせながらもそれに気づかぬふりで、産屋敷の方からの情報もプラスして全員に事情を説明し始めた。



現在、竈門炭治郎として生きている少年の中身は、平安時代に鬼となって本家から袂を分かった産屋敷月哉。
鬼となってからの名は鬼舞辻無惨。

そう、前世の大正時代に鬼殺隊が倒した鬼の始祖である。

耀哉と宇髄、そして錆兎と義勇は人間の頃の彼とも面識があった。
その後も転生のたび関わって来ている。



「あ~、あいつだったのか。どうりで義勇に執着するわけだ」
と、それを知って呟く錆兎の言うとおり、いつの時代も錆兎の前に現れては義勇を強奪しようとしていた。
相手が月哉と知って、錆兎も自分が嫌われていたのを納得する。

しかしそれが何故炭治郎の姿を?と首を傾げる錆兎だが、それには義勇が

「大正の時に、一度炭治郎は無惨に取り込まれて融合しかけた。
おそらくその時に何かの因子が残ってしまったのだろう」
と、淡々と答えた。

それに眉を寄せる錆兎。

「元の炭治郎には戻らないのか…?」
と、どこか悲しげに言うが、義勇の方は

「あいつは錆兎を刺しかけた。
炭治郎だと思うと腹が立つから無惨のままでいい」
と、頬を膨らませる。


「義勇…悪しき行動に出た無惨が消え去って炭治郎が戻ってきたら、それが一番だと思わないか?
体を乗っ取られていたとしても可愛い弟弟子だ」

「…錆兎は俺が斬られていたとしても、それは無惨のやったことだからと、炭治郎を受け入れるのか?」

「いや、それはダメだ。炭治郎とて微塵切りになるほどには切り刻む

「だろう?俺も同じだ」

などと二人が真剣な顔で言い合っているのを横目に、宇髄は

「で?結局どうなんだ?」
と、耀哉に疑問を投げかけた。


「う~ん…それは私にもわからないけど…」
と、耀哉はさらりと髪を揺らして小首をかしげる。

「ただね、炭治郎の記憶はあるみたいだから、炭治郎に戻ったように見えても演技の可能性は高いし、戻らないと思っていたほうが安全かもね」
と続く耀哉の言葉に、しょんと一人肩を落とす善逸。

「おめえには俺らがいるだろうがっ。しょげるな、しょげるな」
と、その善逸の頭を宇髄がガシガシと乱暴に撫で回した。


「まあ…でももう鬼としての能力はないから、そこまで警戒することは無いかもね。
一応、学校側が警察沙汰にしない条件の一つが炭治郎を海外に連れ出して、二度と学校の生徒に迷惑をかけないってことだから、今は海外で奉仕活動中の慈悟郎に預けて同行させてるし、一人では何も出来ないだろうしね」

私はもう少しこちらで遊んであげたかったんだけど…とにこやかな笑顔が怖い。


──今度何か変わったことがあったら、私にも報告してくれないと悲しいよ?天元
と恨みがましい目で見られて、宇髄は

「あ~、これからは錆兎も連絡つくんだし、そっちから聞いてくれ」
と、錆兎に振って逃げ出した。



こうして産屋敷が中が無惨の炭治郎の身柄を管理する桑島との連絡役となり、未だ元同僚と言うことで桑島と交流のある鱗滝からも情報は来る。

もちろん産屋敷の元で仕える宇髄、桑島の現世での孫の善逸、鱗滝の現世での孫の錆兎はそれぞれ学校も同じで、義勇は錆兎の家に住み、実弥は学校で毎日会うので、だいぶ色々と風通しがよくなった感じだ。

学校でも翌日からは若干好奇な目でみられたものの、大半は事情を薄々気づいていたため同情的で、さして混乱もないまま時は流れていった。




そして3月。

あの騒動から5ヶ月ほどたった頃、産屋敷の元に桑島から炭治郎の近況が届いたとのことで、全員産屋敷邸に集められて報告会が開かれた。

集まる意味はない。
大正時代と違って便利になった現代ではメールで済む話だ。
でも少しばかり暇を持て余したお館様の無聊を慰めるための全員集合である。


鬼の力も失った状態の高校生の身体では外国まで連れて行かれるとどうしようもないらしく、仏頂面で奉仕活動をしているらしい。

そんな手紙に一同ホッと息をつく。

ただ桑島の旧友でもある鱗滝左近次だけが、──一人でずっとは慈悟郎でもさすがに辛いだろうし、そのうち個展がてら様子でも見に行くか──などと呟いた。


…と、その報告会から1週間後……

【貴様だけは死んでも許さん…。
…絶対…裏切り者ともども絶対に…悪魔に身を売ってでも呪ってやる…
…覚悟しておけ…】

宇髄の元に届いた1通のメール。

送信元のアドレスは見覚えがないものの、その文面には残念ながら心当たりがありすぎて、宇髄は大きくため息をついた。

そして同時期に産屋敷耀哉の元にも、桑島から報告が来たのである。

『お館様、申し訳ありません。無惨が姿を消しました。
どうやら協力者がいるらしく、その者の手配で今滞在中の国の外に出たようです。
行き先はおそらく…日本です』
と。


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