前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_28放送室の対決

「よお、待たせたな。」
と、翌日の放課後の放送室前。


「放課後…15時に放送室で待つ。
お前がやってきた諸々の証拠あるからな。来なきゃこれを学校でばら撒くぜ?」

これ、どっちが悪役かわかんねえよなぁ…と思いつつ、保護した善逸を客間に放り込んで一人になってから炭治郎に送ったメール。

それには
──わかった──
と、ただ一言の返答が来た。


そして翌日の放課後、おそらく居れば絶対に自分も介入しようとするであろう錆兎と今回の諸々には絶対に近寄らせない方がいいであろう義勇を帰宅させてから15時ぴったりに放送室を訪れれば、すでに相手は部屋の前で待っていた。

放送部の同級生に頼み込んでこっそり入手した放送室の鍵を手に中に入れば黙ってついてくる。

中に入ってドアを背に、ガチャリと中から鍵をかけても炭治郎はそのことは気にする様子もなく、いらいらした様子で、

「で?何の話なんだ?」
と、聞いてきた。

さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
ここからが正念場だ!…と、宇髄は手にしたファイルをポンと炭治郎に投げてよこした。


そこには宇髄に送ってきたメールや添付された写真、その写真から割り出した位置情報の地図のスクショ、宇髄の家に強襲をかける旨を仲間に告げているラインのログ、宇髄の自宅の窓に壁に血で『死ね!呪ってやる!』と落書きをしている炭治郎の姿の写真、窓から採取した指紋や、昨日善逸から送られて来た写真など、諸々がファイリングしてある。

黙ってそれを開いた炭治郎は、ページが進むに連れて顔色を変えていく。

そりゃあそうだろう。
そんな事をしていると知られれば一般的にどう思われるかまでわからないわけでは、さすがにない。


「俺の要求はただひとつだ。
いい加減義勇につきまとうの止めてやれ」

おおよそ目を通し終わったあたりで宇髄が静かにそう言うと、怒りに顔を赤黒く変え、ブルブルと震えながらそれを見ていた炭治郎は、いきなり、バン!!!と、それを壁に投げつけた。

「どいつだっ?!!!
どいつが裏切ったんだっ?!!
そいつをまず殺してやるっ!!!」


大声で怒鳴りキレる炭治郎。

前世でも声が大きい少年だったと記憶しているが、どうも雰囲気が違う。
どこかヒステリックで禍々しい。

そのキレ方にも覚えがある気がするのだが、誰だったか思い出せない。
とてもよく知っている気がするのだが……


誰だったか…と、目の前でキレている相手に構わず額に手を当て考え込む宇髄だが、相手も相手で怒りの矛先がややそれていて、宇髄があまり目に入っていないようだ。


「あいつら…馬鹿にしおって…。あんなに目をかけてやったというのに…。
いつだって仕事教え、手伝ってやり…忙しい中いつだって色々やってやったのに……」

こめかみに血管を浮き立たせながら歯噛みをする炭治郎に、宇髄が言う。


「お前…手伝うって言ったって、わざと資料捨てて自分を頼るしかねえようにしてって……そいつは他人に対する善意じゃねえだろうよ。
単に自分の評判あげたくてやってるだけだ。
そのために後続利用すんなよ。
自分なしじゃ出来ねえように画策して、他は役立たずだから自分がやるしかない、自分ばかりやってるって愚痴られたら、そりゃあ嫌になんだろうよ」

「うるさい、うるさい、うるさいっ!!!

「俺に密告してきたのは、そんなお前の偽善にうんざりしつつも、離反して嫌がらせの標的になるのを恐れたヤツだよ。」

「うるさいっ!!だから、それは誰だっ?!!」

ああ…そろそろ目が正気じゃなくなってきてんなぁ……
と思いつつも、宇髄はさらに煽る。


「義勇に対してだっていい加減嫌がられてるの気づけよ。
本気で毎日迷惑してる」

「うるさいっ!貴様があの者をそそのかしているのだろうっ!!」

「してねえよ」


「うるさいっっ!!!!」
チキっと音がした。
以前はポケットの中にしまわれたままだったそれが、今は外に出されている。


「…まずは貴様から殺してやる……俺は悪くない…貴様らはいつだって俺の邪魔をする。
毎回毎回本当に飽きもせず。
こちらは貴様らには近づかないように構わないようにしているというのに、性懲りもなく俺のやろうとすることをわざわざ邪魔しにくる貴様らは異常者だ!」


…あ…これ、わかったわ。
と、宇髄はその発言でこのところずっとひっかかっていた人物像がわかった気がした。

本当に何故気づかなかった?という気持ちと、これ、耀哉様に振っても良かったんじゃね?という気持ちがグルグルする。

しかし今この状況では、自分でなんとかするしかないだろう…と、炭治郎もどきが取り出すカッターを見て宇髄は行動に迷う。
扉を背にしているので、鍵を開けて逃げる事も出来るわけだが……


(ここで少し傷を負っとけば、しばらく…錆兎が手を打つまでくらいは塀の中に送り込めるか……)

転生するたび元々の武術の腕を取り戻すため鍛錬を欠かさないこともあって腕に覚えがあるので致命傷を追う気はせず、安心しきっていたのがまずかったらしい。

いきなり後ろで開いたドアに対応できず、一瞬体制を崩したところにナイフを持っていた炭治郎が踏み込んできて、銀色に光るナイフの刃が宇髄の横をスッポ抜けていく。


うああああ~~~!!!!!
と音声多重で悲鳴があがった。

へ?と後ろを振り返ると、よく知る顔の4人が同時に叫んでいる。

ぽかんと目と口を見開いて突っ立っている義勇に向かいかけたナイフ。

それを当たり前にかばう錆兎のブレザーの右袖がスパっと切れて聞こえる義勇と善逸の悲鳴に混じって

「錆兎っ!怪我はっ?!!」
と気遣う実弥の声。

「あ…いや…袖が切れただけ…」
とあっけらかんと答える錆兎の言葉に善意と実弥はとりあえずホッと胸をなでおろすが、そこで冷やりと空気が変わった。


「お前……俺の錆兎になにしてくれるっ!!!許さんっ!!殺してやるっ!!!」
義勇がぶちキレる。

あ~あ、そう言えばあいつ前世に錆兎に先に逝かれた記憶だけ持ってるから、トラウマ突きまくったか…
と、苦笑いする宇髄と思わぬ展開に動揺する炭治郎もどき。


「あ~…俺達が急にドア開けたからすっぽ抜けただけで不可抗力だ。
たぶん悪気はなかったんだろうし、怪我もないからやめておけ。
こんなことでお前が犯罪者になるほうが俺は嫌だぞ?」
と、手にした傘で刺し殺しに行かんばかりの勢いの義勇を錆兎が苦笑交じりに止めた。

その錆兎の言葉でそれぞれ一変する。

「さびと……でも……」
うるると、子犬に戻った義勇はどこか甘えるように涙目で錆兎を見上げるが、その様子を見て今度は炭治郎もどきがぶちキレた。


「藤原の錆兎ぉぉぉーー!!!!
だから貴様は嫌いなんだっ!
そうやって何でも苦もなく自分の手にして善人ぶるところが、昔から大っ嫌いだった!!
貴様に比べれば底意地が悪く陰湿な耀哉のほうがまだマシだっ!!!」

と、その絶叫に、ああ、やっぱり奴だったか…と、笑い事ではないのだが宇髄はついつい噴き出した。


一方で錆兎はいきなり出てくる産屋敷耀哉の名前と自分に対する言葉にわけがわからずきょとんとしている。

「…俺は…炭治郎に嫌われていたのか?
剣術を教えただけなんだが、余計なお世話だったのか?」
と、本当に驚いているようだ。

「なんでそこでお館様の名が出てくるんだぁ?」
と、大正時代の人間関係しか知らない実弥も呆然組である。

もちろん善逸も同じくだ。


そうして3人の疑問の視線は、ただ一人全てを知っているらしい宇髄へと向けられた。
が、かなり集まった第三者の前でそれを言うわけにもいかず、宇髄は全員に、あとでな、と、目配せをする。


実は宇髄が待ち合わせ前に一度放送室に来て、こっそり放送をオンにしていたため、生徒はだいぶ下校はしていたものの、教師達は全てを聞いて、慌てて放送室前に集まっていた。

一人は錆兎と彼が寄り添う義勇を保護し、一人は炭治郎が放送室に叩きつけたファイルを回収し、一人は宇髄に付き添い、一人は床に放り出されたナイフを拾い、二人が抵抗する炭治郎を拘束し、他の教師は部活などで残っていて放送を聞いて集まってきた生徒達を押しとどめている。


「…とりあえず…別室に…」
と、生活指導の教員が関係者一同を促した時、群がる生徒達の間からざわめきが起こった。

「ちょ、通して頂けんか」
と言う野太い声は、どこか聞き覚えがある。

思わず振り向いて、善逸が叫ぶ。

「爺ちゃんっ?!なんでこんなとこにいるんだよ?!!」
その言葉に教師の一人が合図をし、生徒に混じっていた初老の男をこちらに通す。

「昨日な、孫に頼まれた左近次から連絡もらって駆けつけたんじゃが…ちっとばかし遅かったか~」
と、苦い顔で頭をかく男。

「保護者の方…ですね?」
との言葉に、

「あ~、こいつらの祖父です。今回は本当に迷惑をおかけしまして…」
と頭をさげると、

「とりあえず…ここではなんですので、別室で…」
と、男、桑島慈悟郎も同行することになった。




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