前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_27清と濁の狭間で自嘲する男

──宇髄さん、何か危ないことしようとかしてないよね?
──あぁ?炭治郎もどきごときが何しようと俺様が危険に陥るわけねえだろ?
──…うん…そうだね……でも、あのさっ
──…?
──炭治郎も悪い奴じゃないはずなんだよっ。だから…できれば少し手加減……
──下手に手を抜くほうが双方にとって危険なんだよ。やるならバシっと容赦なくだ
──……


ああ、本当に。
相手は知らない間柄じゃない。
前世でとは言え、一緒に死線まで越えた仲だと思えば、目の前の少年のように多少の情を持つのが普通の人間なんだろう。

自分と自分の身内に敵対する者は完膚なきまでに叩き潰す!と、どす黒い感情で画策を楽しむ自分は歪んでいる…。

あの炭治郎もどきを追い詰めると同じく決めているのであろう錆兎ですら、それでもそれを楽しんではいないし、出来れば元弟弟子を傷つけずに遠ざけるだけに留めたいと思っているというのに…。


平安の昔からずっと近くで戦ってきたわりに、あの古い友人は武術も戦いも好きだが、一方でそれで他人を不用意に傷つけるのを嫌っていた。
彼が刀を振るうのは、己と己の大切な者を守るためであって、それ以外を傷つけるためではない。

そう、同じように血にまみれながらも彼は自分と違って真っ当に美しい世界に生き続けている。


それに比べて自分はどうだ。

刀を振るうのは手段であって、目的は敵の殲滅だ。
正面きっての強さで敵わないなら、根回しをして画策をして、罠を仕掛けて…どんな手を使っても敵を二度と立ち直れないように叩き潰す。
その行程を楽しんでさえいる。

本当に…善逸から炭治郎の部屋の話を聞いて錆兎に一時避難場所になって欲しい旨を申し出た時、錆兎がまず口にしたのは善逸の身の安全についての気遣いで、そのことに宇髄は愕然とした。

宇髄自身が最初に善逸から救助を求められてまず思ったのは、彼からもたらされた情報でどれだけ敵に追加ダメージを与えられるだろうか…という事だったからだ。

自分を頼ってきた元後輩の身の安全…それよりも敵の殲滅をまず考えてしまったことに、さすがの宇髄も自己嫌悪に陥った。


それを自宅に連れ帰って一息ついたあとの善逸とのやりとりで思い出して、小さく息を吐き出すと、驚いたことに善逸は、

「宇髄さん…容赦ないのは他人だけにしてね。
自分のことでもないのに大切な相手のために自分にも容赦ないことするから、俺なんかが心配しても仕方ないのはわかってるけど、少し心配だよ」
などと、苦い心のうちを見透かした上でそれを否定して慰めるようなことを言うので少し焦った。


ああ、炭治郎もどきも馬鹿野郎だな…と、宇髄はそこで思う。

あんなにひどい態度を取っている奴にも、そして偉そうに上から目線の宇髄にも、誰に対してもこんなに優しい人間が側に居るのに…。

錆兎が関わると他には情がなくなる冨岡を追いかけてるより、こっちに手を伸ばしたほうが幸せになれるんじゃねえ?

まあ、そんな風に心配されながら、相手が同じく気遣う炭治郎もどきに引導を渡そうとしている自分も大概かもしれないが……


それでも今更後にはひけない。

錆兎はなんとか出来るまでに1週間と言っていた。
その前に善逸の親が戻ってきてしまうだろうし、そうなれば善逸を家に帰さねばならなくなる。
家に帰せば炭治郎に何をされるかわからない。


…ちっとばかし時間が足りねえなぁ…しかたねえ、明日決行か…

今日、ちょうど善逸から電話が来て5分ほど経った頃にこっそりと庭に侵入し、【死ね!呪ってやる!】と自宅の窓に血文字で落書きされた様子は赤外線カメラで撮影し、不用意にも素手で触っていた部分は、こんなこともあろうかとAmazo◯で通販しておいた指紋検出キットでしっかり採取してある。

そのほかにも、これまでの送られてきたメールや、その添付写真から割り出した写真の撮影位置が炭治郎の離れであるという事もきっちりまとめておいた。
あとは今回善逸から入手した写真をそこに加えれば尚可だ。


完全に追い詰めるにはややパンチは足りないが、少しばかり煽る材料は揃っていた。


これから先は自分以外にははさせられない。
それどころか、しようとしていることをバラすわけにもいかない。
真っ直ぐにお育ちになった面々には絶対に止められる。

決行すること、時、場所を知っているのは自分一人。
最悪…刺されそうになるくらいはあるかもしれないがそれはそれ。
というかそうなったら、学校からいなくなるどころか厚い塀の中に追い込める。

そこまで行かなくても誘いこむことさえ出来れば、少なくとも学校にはいられなくなるはずだ。


「ねえ、宇髄さん…」
「ん~?」

寝巻き代わりに貸してやったTシャツをずり落ちそうな状態で着ながら、客間に行きかけた善逸が心配そうに宇髄を振り返った。


「本当に…何かあったら言ってね?
俺じゃあ頼りないかもだけど、猫の手くらいにはなるかもしれないし、一人で無理しないでね?」

という表情は真剣そのもので、どうやら先ほどの宇髄の沈黙に納得したわけではなく、聞いても答えないだろうと、空気を読んで諦めたというのが正しいらしい。
まあ、その判断は全くもって正しいものではあるのだが…。


「まあ…無理はしねえよ。」
と、宇髄は答えたあとに、心のなかで

(…必要な分以外はな…)
と付け足してみた。

善逸はその言外の言葉もなんだかわかっているように少し悲しげな顔をするが、結局それ以上追及はせず、

「おやすみなさい。今日は本当にありがとね」
と、客間の中へと消えていった。



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