前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_26ピンチの後

鳴り響くスマホ。
部屋に響く、『炭治郎、炭治郎』のスマホ音。


「…ど、どうしようっ……」
と、自分の電話なのにどうして良いかわからず錆兎にお伺いをたてる善逸に、錆兎は

「何の用件かは聞いたほうがいいかもしれないな。
でも炭治郎の部屋を見たことは絶対に言うなよ。危険だと思う。
あと俺の所にいるって言うと不自然だし色々バレバレになるから、親がいないから友人宅に誘われて泊まりで遊ぶことになったとでも言っておけ」
と、淡々とした様子で指示をする。

善逸はもう、自分で判断するのも恐ろしいというのもあって、その言葉に頷いて、錆兎の指示に従うことにした。

そして返されたスマホを受け取って、震える指先で通話をタップする。


「…俺だけど?」
と出ると、電話の向こうからはいつもの不機嫌な声ではなく、極々普通の炭治郎の声。
それがかえって不気味で恐ろしい気がした。


しかし
『善逸、母屋にいないようだけど、こんな時間にどこにいるんだ?』
と、その炭治郎から聞かれていることは特に不自然だったり変わったりしたことではない。
今は夜の22時前なのだから、そんな時間に家にいなければ普通はどうかしたのかと思うだろう。

そう、普通だったら……


でも、普段は善逸が何をしていようとどこに居ようと、炭治郎は興味を持たない。
善逸の家に引き取られて6年ほどになるが、炭治郎が自分から用もなく母屋に来たことなんて、一度もないのではないだろうか…。
それが今日に限って…と思うと、なんだか薄気味悪い。

それでもどこまで気づかれているのかわからないし、とぼけるしかない。
なので善逸は少し気持ちを落ち着けようと小さく深呼吸して、そして言う。


「ああ、急でごめんな。親がいないなら、泊まりで遊びにこないか?って誘われてさ。
ベル鳴らしても出なかったから夕飯は玄関に置いておいたから」

と、それっぽいことを告げると、電話の向こうで、一瞬の沈黙。

その後、
『…ふ~ん……』
と値踏みするような相槌が聞こえて、善逸はじっとりと手に汗をかいた。


『なあ…善逸…』
「なんだよ…」

しばらくの沈黙のあと、静かに切りだされた言葉に反射的に答えると、電話の向こうで一言一言区切るように、ゆっくりと言葉が紡がれる。

『お前…俺の部屋に入らなかったか?


内心、ひぃぃーー!!と思うが、認めたら最後だ。
善逸は必死に声の震えを抑えてごくごく普通に聞こえるような声音で答えた。

「炭治郎の部屋?玄関なら入ったよ?」

『…その奥には?』
と言われて脳裏に浮かぶ不気味な室内の光景を無理やり頭から追いだすと、善逸はさらに答える。

「夕食運ぶだけで、なんでそこまで入るんだよ。入ってないよ」
と、とぼけて言うと、炭治郎は静かに…静かに笑った。


『そうか…それならいいんだ』
と、返ってくる言葉に善逸がホッと緊張を解いた途端、笑いが消えて、炭治郎の低い…低い声が耳を突き刺す。

『…なら、なんでだろうなぁ…?
家開ける時は確かに開いてた寝室の机の上のノートPCが家戻ったら閉じてたんだ…


ひぃぃっ!!やっちゃったよっ!やらかしちゃったよっ!!!

善逸は目の前が真っ暗になった気がした。
そうだ…あの時反射的にPCを閉じてしまった気がする。


あわあわと焦る善逸に、スピーカーにしてやりとりを聞いていた錆兎が

【とぼけろっ!記憶違いじゃないか?と言えっ!】
と、指示をメモして見せる。


「ふ~ん?記憶違いじゃない?無意識に閉じてたとか…」
と、それでなんとか答えた言葉。

本当っぽく聞こえていれば良いが…と半分涙目の善逸。

それに
『…まあ…そうかもしれないな…』
と、返ってはくるが、絶対に信じてない響きだ。

これ以上話してたら自分が何かまずいことを言ってしまいそうだ。

「じゃ、悪い。友達が呼んでるから、用ないなら切るな」
と、善逸は強引に通話を打ち切り、スマホの電源を落とす。

そうするなり、もう恐ろしさでボロボロ涙が出てきた。

「これ、絶対にやばいよっ!バレてるっ!俺、これからどうすればいい?!」
と、号泣する善逸に、錆兎に視線で促されて温かいお茶のおかわりをいれる義勇。

その間に錆兎は自分のスマホを取り出すと、宇髄にでんわをかけた。


「もうそっち終わってるよな?どうだった?」
と、淡々と言う錆兎に、

『あ~…うん、まあ思ったよりは…な。
それよりそっちもどうだったよ』
と、どこか疲れた宇髄の声。


「ん~。早急にな、どうにかしたほうが良いかもなぁ…。
宇髄、今からこっち来れるか?」

『来れるか?じゃなくて来い、だろ?
ま、いいわ。これから行くわ』
と言うと切れる通話。


それから20分もしないうちにベルが鳴った。

インターホンで相手を確認して、錆兎がエントランスの鍵を操作する。
そして1,2分後、今度はドアベルが鳴って玄関に向かい、宇髄を連れてリビングへ戻ってきた。


──う゛ずい゛ざーーーん゛!!!!

顔を見るとホッとして善逸は号泣しながら立ち上がって宇髄の所に駆け寄った。

それを見て、それまで少し疲れた様子だった宇髄は
「おう、善逸。汚ねえ顔してんじゃねえよ」
と、気を取り直したように笑う。

「だって、だって怖かっだんだよ゛おぉぉーーー!!!」
とさらに泣きながら言う善逸。

「あぁ?何が怖ぇんだよっ!
お前、こういっちゃなんだがなぁ、俺が知る限りで今2番目に安全な場所紹介してやったっていうのに」
と、宇髄が言うと、

「…2番目?…錆兎の側だぞ?世界で一番に決まってる!」
と、そこで先ほどまでほぼしゃべらなかった義勇がぷくりと頬を膨らませて、宇髄の言葉に断固とした態度で意義を唱えた。

「あ~、お前さんにとってはそうだろうな」
と、宇髄はそれに強く反論はせず笑いながら流すが、そこで錆兎がやはり笑って

「1番は耀哉んとこか。
さすがにあそこはな…安全かもしれんが雑事は頼みにくいな」
と言うと、義勇の口から驚くべき言葉が出た。


「…耀哉…?産屋敷耀哉?お館様か?」
と、その言葉に部屋がシン…と静まり返った。

義勇以外の全員が固まった。


「ちょっ…冨岡、お前さんもしかして前世の記憶があったりするのか?!」

最初に我に返ったのは宇髄だった。

そして彼が驚いてそう言うと、義勇のほうも驚いたように
「なんだ、宇髄は前世の記憶があるのかっ」
と言う。


「おいおいおいおい!!それ早く言えよっ!!」
パン!と額に手を当てて天井を仰ぐ宇髄。

それに義勇は
「…お前達に前世の記憶がないのに俺がいきなり前世がどうのとか言ったら、俺がおかしな奴だと思われるだけだろう」
と、口を尖らせた。


そんな二人のやりとりに、

──どの時代からの…記憶がある?
彼にしては珍しく最後まで固まっていた錆兎が最後に口を開くと、

──どの時代?
と、義勇はコテンと小首をかしげる。


その義勇の反応に察した宇髄は

「あ~…大正時代だけかぁ」
と、それは錆兎の疑問の答えを導き出したあと、義勇の疑問には改めてそちらを向き直り

「あのな、実は俺らは転生したのは今回が初めてじゃねえ。
なんでかお前だけ記憶があったりなかったりしてんだけどな。
平安時代から何回だっけかな…転生するたび錆兎とお前はいつも一緒でデキてて、俺は産屋敷家の手足として耀哉様と近い年齢に生まれてて、んでもって、双方最終的には色々協力関係みたいな感じでだな」
と、説明をする。


するとそれに大いに驚いたあと、

「なんでそのことを教えてくれなかったんだっ!!」
と、珍しく声高に宇髄に詰め寄る義勇。


それに、宇髄は両手を軽く挙げながら

「あ~…前世、大正時代の時は同姓同名の他人の空似かと思ってたんだ。
なにせいつもは絶対に隣にいるはずの錆兎がいないし、よくピーピー泣く奴だったお前がなんだか感情を一切表に出さない系だったし?
これまでと違いすぎて同一人物だと思えなかった。
で、今生ではお前さん、前世の記憶ないって聞かされてたから、それこそお前が言ったのとほぼ同じ。
そんな相手にいきなり前世の話をしたら、ただの危ない電波野郎だろ?」
と、苦笑した。


「記憶がないって聞かされてたって…誰に?」

「炭治郎に。俺がな。
お前には楽しい思い出じゃないだろうし、思い出さないほうが幸せだろうから、思い出さないように近寄るなって言われてたわけなんだけどな。
お前が炭治郎に付きまとわれる方が嫌な思いしてると判断して介入することにした」
と、そのさらなる質問には錆兎が答える。


「俺はずっと錆兎に声をかけられずに悶々としてたのに…
おのれ、炭治郎!許すまじっ!!」

どうやら錆兎に関しては全ての諸々が吹っ飛ぶらしい。
義勇はぽこぽこ怒りながら拳を握り締めた。


「今生でどのくらい寿命があるのかわからないが、錆兎と居られる貴重な時間をそんなデマで失くしてたなんてっ!!
というか、錆兎と恋仲だったなんて過去のわが身ながら羨ましすぎる記憶をなんで俺は忘れてるんだっ!馬鹿じゃないかっ?!!
ありえない、ありえない、ありえないっ!!!

ダンダンダン!とウサギのように足踏みをする義勇を

「まあ、落ち着け、義勇。
お前が忘れてても俺が全部覚えてるから大丈夫だ。
これからずっと一緒に暮らすんだから、なんなら暇な時間に昔話をしてやるから」
と、錆兎が笑って抱きしめる。


「…冨岡さんて…キャラが違いすぎるんだけど…」
と、そんな二人を前にようやく口を開く善逸に、

「あ~、これが俺が知ってる義勇だ。
普段はおっとりしててよく怖がってよく泣くけど、錆兎のことになると急にキレる錆兎厨の、弟気質満載の人間ってのが奴の本来の姿だ」

「なんていうか…うん、前世と顔は似た別人だと思ったっていう宇髄さんの言葉、俺も今壮絶に理解したよ…」


目の前の子犬…そう、例えるならポメラニアンか何かを思わせる、お育ちの良さそうな可愛いお坊ちゃんとその保護者の図に目を丸くする善逸と、それに苦笑する宇髄。

尾があったとしたらブンブンと振っているんだろうなと思われるような様子で錆兎にしがみついている義勇と、それを可愛くて可愛くて仕方ないと言った目で見ながら抱きしめている錆兎の、まあ、微笑ましいと言えば微笑ましいその光景に善逸は一瞬現状を忘れかけたが、それに同じく微笑ましげな視線を向けていたと思った宇髄は現実は忘れていないらしい。


「まぁ~、あそこはもうどうやっても大丈夫なんだろうが、問題はお前の身の安全だな。
やばいもん見ちまった上にそれがバレてて…従兄弟同士で一緒の敷地に住んでるとなりゃあ縁も切れねえしなぁ…。
炭治郎もどきからかくまうために泊めてやんのは良いけど、お前の親が帰ってきたらそういうわけにもいかねえかもしれねえし、こりゃあ早々に片をつけねえとだなぁ」

そういう宇髄の口元は笑みの形を描いているが目が笑っていないあたりで、現状がかなり深刻であることを善逸も思い出した。

そうだ…善逸の親、特に母親は早くに親を亡くした炭治郎に同情的だ。
その炭治郎を避けるような行動は許さないだろう。


どうしよう…どうしよう!!

これからを思って青ざめる善逸だが、そこでそれまで義勇とじゃれあうように額に鼻先にと口付けを落としていた錆兎がこちらに顔を向けて

「あ~…1週間くらい時間くれればたぶん何とかできると思うぞ」
と、頼もしい発言。

「あ?マジか?最悪の最悪は耀哉案件かと思ってたが、立場的になぁ…俺の方から依頼はあまりよろしくねえっていうか…可能な限り避けてえんだよな。
頼んでいいか?隊長様」

「お~任せろ。
ただ少し時間かかるから、それまでの応急処置はなんとかしてくれ」

「そっちは了解だ。
ちと荒っぽくなるが、なんとかするわ」

なんでもないことのように、まるで簡単な手仕事でも頼むように互いに依頼しあう二人の頼もしい空気にホッと息を吐き出す善逸。

「んじゃ、今日のところはこいつは俺んとこに連れて帰るわ。
世話になったな」
と、ひょいっと襟首を掴まれて猫の子のように反転させられ、そのまま外へ。

そしてその日はマンションの駐車場で待っていた車に乗せられて、宇髄の家まで連れて行かれたのだった。


Before <<<  >>> Next (10月31日公開予定)


0 件のコメント :

コメントを投稿