前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_25安心と信頼の安全地帯

「義勇、帰ったぞ」
高級感あふれるご立派な廊下を進んで居並ぶ立派なドアの前で足を止めると、錆兎は鍵を開けてドアを開くと、そう声をかける。

そこで聞こえてくるのはテチテチとどこか可愛らしい足音。

「おかえりっ!錆兎っ」
と、ほわっと可愛らしい笑みを浮かべて出てくる少年。

炭治郎も善逸の記憶とは大きく違っているのだが、違っていると言えば彼も善逸の記憶と大きく違う。

とにかくクールと言うか表情が変わらない大人だったのだが、今目の前にいる彼に似た面差しの少年はまるで主を前にした子犬のようだ。
嬉しくて嬉しくて堪らないといった表情で、キラキラした澄んだ大きな目を錆兎に向けて、彼に抱きついている。


何故か着ているのはギンガムチェックの割烹着で、手にはwithおたま。
年齢のせいか表情のせいか、もともと可憐な顔立ちのせいか、まるで新婚家庭の新妻のようだ。

「ただいま、義勇。
さっき言ってた宇髄からの預かり人だ。
お茶をいれてやってくれ」
と、それを受け止めて額に軽く口付ける錆兎はさながらその夫というところだろうか。

「うん、じゃ、いれてくるっ!」
と頷いて駆け出す後ろ姿に、
「急がないでも良いから転ぶなよ」
と、声をかける錆兎。


なんというか…あまりの変わりように、水柱はどこにいった?と、聞いてみたくなる。
錆兎は彼を半身と言っていたから、錆兎の前だからか…
でも記憶はないと言っていなかったか?

と、言う善逸の疑問に視線で気づいたらしい。


錆兎はこちらも幸せそうな顔で

「ああ、前世までの記憶はないが、今生でも付き合っている。
義勇は記憶を持ったり持たなかったりで生まれてくるが、今までどんな時代に転生しても結局互いに惹かれて付き合い続けてるんだ」
と、もうご馳走様、というしかないような発言をしてくれる。

まあいいんだが…
それでこの世の可愛い女の子が一人、イケメンに独占されずにフリーでいると思えば大変めでたいことだ。


しかしそうなると、だ、たった今善逸が見てきたこれはかなりまずいものなんじゃないだろうか…。

リビングに案内されてそのど真ん中においてあるコタツを囲みながら、義勇がいれてくれた紅茶を啜って善逸は例の写真を表示したスマホを錆兎に差し出した。


「…俺ね、毎日炭治郎の食事を離れまで届けてるわけなんだけど、今日、何故か炭治郎が出てこなくて、倒れでもしてたらって思って中に入ったらこれみちゃって…見たのバレたらもしかしてすごくまずいもんなんじゃって思って宇髄さんに助け求めたんだ」

善逸の口から“炭治郎”という名が出た途端、義勇が青くなる。

目は自分の隠し撮り写真で埋められた部屋を撮ったスマホに釘付けで、可哀相なくらい震えていて、それを

──俺がいるから大丈夫だ
と、肩を抱いて引き寄せる男。

──ん…。錆兎がいれば大丈夫だよな…
と、抱き寄せられた胸元に顔をうずめる綺麗な顔の少年を見て、善逸は、これ…俺が知ってる人と中身別人…?と、引きつった笑みを浮かべた。


甘い。
なんだか空気が甘い。

もうさっきまでの緊迫した諸々はどこに行った?くらいの勢いで甘い雰囲気を漂わせて自分の胸元に顔を埋めている義勇を当たり前に抱えながら、錆兎はそれでも視線だけは真剣に一人でスマホに撮った写真を淡々とタップして進めていく。

そうして全て見終わると顔をあげ、
「これ…俺と宇髄、あと実弥のメルアドに転送していいか?」
と、聞いてくるので頷くと、全て転送したようだ。

そうして善逸の方から引き出せる情報は引き出し終わったとばかりに彼は礼を言って善逸にスマホを返すと、視線を向けて

──これからのことだけどな
と、言う。


「本当はここにはあまり他人を呼びたくはなかったんだ」
で、始まる言葉に善逸が身を固くすると、錆兎はふと笑って

「ああ、ごめんな。お前が迷惑とかじゃなくて、炭治郎の目を引きたくないということなんだ。
義勇がここにいるのは秘密だから」
と、フォローを入れてくれる。

その上で事情説明が始まった。


「ただ今回は非常時だからな。
すでに宇髄から聞いてるかもしれないが、本当なら宇髄の所に避難ってことになったんだろうけど、実は今晩に炭治郎が宇髄の家に急襲するって情報が入ってて、宇髄は迎撃中というか…まあそれに関わんないとだから忙しいし、その中にイレギュラーを入れたら双方が危険だということで宇髄の家はNG。
実弥んとこは家族で住んでて幼い弟や妹が多いからターゲットにされるとまずい。
ってことで、今晩だけな、俺んとこが避難所になったってわけだ。
このマンションは俺の個人の持ち物で簡単に越せないし、義勇も避難中ってことでなるべく目をつけられたくは無いんだけどな」
と、そこまでで善逸はもう驚きにぽかんと開いた口が塞がらない。


「こんな高級マンション一棟を持っている高校生??」
と、目が零れ落ちそうになっていると、錆兎はにこりと

「父方が平安から続く家系で、遠い先祖が大江山の鬼退治で有名な頼光四天王の筆頭の渡辺綱でな。
その血を色濃く継いだ敵をどつくことと度胸試しが得意な爺さんが築いた資産の一部を生前贈与されたんだ。
両親を亡くしてるからな。
経済的な保護は父方の、身辺的な保護は母方の爺さんがなんとかしてくれた。
隣には成人済みの従姉妹が何かあった時には介入できるようにと住んでくれてるしな。
だからまあ…いざとなればそのあたりに頼めば身の安全くらいは確保してもらえるんだろうが、男として生まれたからには自分の身くらいは自分でなんとかしたいし、これ以上頼りたくは無い。
でもお前のことは引き受けたからには責任を持って俺が守るし、俺が守りきれないと判断した場合にはそういう後ろ盾に依頼するから安心してくれていい。
自分で抱え込める以上の責任を持つのは避けたいというのは俺の矜持の問題だから、お前が気にすることは何もないぞ」
と、さらに驚愕して固まるしかないようなことを言ってくれた。


まあでもわかった。壮絶にわかった。

目の前にいるのは物理的な強さも立場的な強さもとんでもない相手で、そんな相手がその気になれば、確かに善逸の一人くらいきっちり保護することなんてなんでもないことなのだろう。
さすが宇髄の人脈である。


しかしそんな風に安心したのも束の間、スマホの着信音と『炭治郎、炭治郎』という発信元を告げる音が聞こえてきて、善逸はすくみあがった。


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