前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_24_避難先

タクシーに乗ると善逸は宇髄に教えられた住所を告げた。
金は心許ないが、足りなければ宇髄に言われたように電話をかけて、申し訳ないが親が戻ってくるまで避難先の家主に借りておこうと思う。


そんなこんなでどこに行くのかもわからないまま車に揺られること20分ほど。
善逸を乗せたタクシーはなんだか大きくご立派なマンションまでたどり着いた。

そこで運転手に待ってもらって教えてもらった番号に電話をかけると、
──ああ、宇髄から聞いてる。今行くからちょっと待ってろ。
と、若い男の声で言われた。

そして待つこと1,2分。
マンションのエントランスのドアが開いて、どこかで見た宍色の髪のイケメンが中から出てきた。


確かこいつはいつも宇髄とつるんでいるイケメンである。
善逸の敵だ。

顔が良いだけじゃなく剣道の全国大会の覇者でそれ系の雑誌に載ったことがあるせいか、宇髄と並んで帰っているとたまに他校の女生徒が待ち伏せしててきゃあきゃあ騒がれている。

イケメン消えろ!いや、女子校生達の前で無様にすっころんでしまえ!!
…と、それを見て何度思ったかわからない。


…が、たったいま、自分のことでもないのにタクシーの運転手に礼を言いつつ札を渡しているその姿を目の前にして、善逸はそれを撤回、猛省した。

いくら親友らしき宇髄に頼まれたからといって、こんな時間にいきなり知らない人間を自宅に受け入れてくれるだけじゃなく、タクシー代まで当たり前に支払ってくれるなんて、なんて良い奴なんだろうか。


あまつさえ、
「今回は本当に大変だったな。
もう一人かくまってる相手はいるが、まあ気を使わないといけない大人はいないから寛いでくれ」
と言われて、え?と驚く。

なに?この人なんなの?シェルターか何かの人?駆け込み寺??
すでに一人かくまってるのに、自分のことまで受け入れてくれるのか??

そう思って思い出してみれば、前世では宇髄もたいそう偉そうではあったが面倒見の良い人物だった。
類は友を呼ぶのかもしれない。


「えっと…今回はお世話になります。
宇髄さんから聞いているとは思いますが、俺、我妻善逸と言います。
宇髄さんとは親しい人…なんですよね?」

と、礼と自己紹介と共に相手のことを訪ねると、善逸を連れてエントランスのドアを開け、ぴかぴかの廊下を進んでエレベータのボタンを押した彼はにこりと振り返って

「ああ。俺は渡辺錆兎。
お前は宇髄と前世繋がりと聞いているからここだけの話として言うが…俺と宇髄は平安時代からほぼ同時期に転生を繰り返している腐れ縁だ」
などと、もうぽか~ん!と呆けるしかないような驚くべき事実を、なんでもないことのように口にした。

「へ…へいあん…じだい……」
唖然とする善逸をチーンと言う音と共にドアの開いたエレベータに先に乗せると、自分も乗って5階のボタンを押すと、彼はさらに追加。

「大正にも転生してたんだが、合流前に最終選別で死んでしまってな」
「え…??あの…錆兎さんて…強くは無いんですか?
俺みたいな弱い奴でもなんとか越えたのに…」

ここに居れば大丈夫。家主は自分より強い男だと宇髄に聞いていたので、不安と驚きでついつい随分失礼な質問をした気はするが、男、錆兎は気を悪くする風もなく、はははっと笑った。

「あ~、単なる力勝負ならガチでやれば宇髄になら軽く勝つな。
ただ、頭が悪かったというか…どうせなら山の鬼を全部なぎ倒しておこうと思ったのは良いが、刀の強度を考えて無くてな。
あと1匹までいったんだが、最後の鬼が固くてすでにボロボロになっていた刀が折れて死んだんだ。
そういうことをするなら、予備の刀を持っておくべきだったよな」

「ぜっ…全部っ?!!
あの山、何十匹鬼がいると思ってんですかっ?!!
馬鹿じゃないっ?!!!」


本当に馬鹿だっ!…と思う。
なんというか…本当に気持ちの良い脳筋という感じで、宇髄よりは煉獄を思わせる。


だが確かに強いことはとてつもなく強いのだろう。

あの選別は鬼を倒すためのものじゃない。
普通は鬼に出くわさないように逃げ回って命をつなぐものだ。
1匹でも2匹でも倒せる奴はすごい強い奴なのに、ほぼ全ての鬼をというのは普通ありえない。
さすがに自分が最強な宇髄が自分よりも遥かに強い男と認める相手だけある。

まあどちらにしても今の善逸の状況を思えば失礼なことを言っていい立場ではないのだが、相手は全く気にした様子は無い。
大らかな男のようだ。


そんな話をしているうちに、チン!とまたエレベータが目的の階に着いたことを告げ、ドアが開いた。

そこで錆兎は乗った時と同様に、先に善逸を下ろして自分も降りると、今度は善逸の前に立って歩き始め、そしてふと止まる。

「ああ、そうだ。もう一人の同居人のことなんだが…」
と、振り向きざまに口を開いた。

「お前も知っている。
前世で宇髄と柱をやっていた冨岡義勇。
俺はあれとも長い付き合い…というか、半身のようなものなんだが、今生では前世の記憶がないらしい。
だから口にすれば混乱するし、争いが好きじゃない奴だから鬼狩りのこととかも良い記憶ではない。
せっかく平和な世界に転生して平和な生活だけを記憶しているところに辛い記憶を与えるのは可哀相だからな。
前世のことは口にしないでやってくれ」

と、その言葉で、善逸は宇髄が何故錆兎の所に避難しろといったのか納得した。
炭治郎から逃げている人間だから同じ場所に保護しようと言うことなのだろう。


炭治郎とは中等部までは系列校ではあっても別の学校だったのでが義勇に執着していることは高等部に入って2年目、1年に義勇が入ってきて初めて知ったのだが、なるほど、自分に対しては塩対応だった炭治郎は、義勇からは逆に嫌がられていたのか…

一瞬、わが身に置き換えて炭治郎が少し可哀相だなと思ったが、すぐ、たった今見てきた炭治郎の部屋の諸々を思い出して、考え直す。

あれは異常だ。

というか、これまでもそうだったが、善逸の知っている前世の炭治郎とは随分と変わってしまっている気がする。


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