という母親からの電話。
それに憂鬱になる善逸がいる。
離れに住んでいる炭治郎は善逸が前世を知る限り、善逸が作って届けなくたって善逸以上に料理が上手いはずだ。
そもそももう高校生なのだから保護者がいない日の食事くらい自分でなんとかできる。
でも、母親に言わせるとそういうことではないのだそうだ。
家族を亡くして一人きりの炭治郎を一人ぼっちにしない、そのための食事なのである。
今生での善逸の家は教会だ。
元々は母方の祖父である桑島慈悟郎が牧師をやっていたのだが、善逸が幼い頃、婿養子の善逸の父親にその座を譲って、自らは全国を渡り歩いて奉仕活動に勤しんでいる。
炭治郎は母の姉の子だ。
幼稚園の年中までは地方にいてほぼ会うことはなく、年中で親の転勤で東京に来た。
そして善逸が通う壱校で空きがなかったため系列の弐校の幼稚舎に転園。
それでも系列校で色々が似ているので、善逸の母は自分の姉に色々アドバイスもしていた。
家族を亡くして一人きりの炭治郎を一人ぼっちにしない、そのための食事なのである。
今生での善逸の家は教会だ。
元々は母方の祖父である桑島慈悟郎が牧師をやっていたのだが、善逸が幼い頃、婿養子の善逸の父親にその座を譲って、自らは全国を渡り歩いて奉仕活動に勤しんでいる。
炭治郎は母の姉の子だ。
幼稚園の年中までは地方にいてほぼ会うことはなく、年中で親の転勤で東京に来た。
そして善逸が通う壱校で空きがなかったため系列の弐校の幼稚舎に転園。
それでも系列校で色々が似ているので、善逸の母は自分の姉に色々アドバイスもしていた。
そんな状況で引越しの挨拶がてら家族で教会を訪ねてきた時に初めてくらいに会い、その時に従兄弟が炭治郎だと気づいて善逸は喜んで駆け寄っていったが、なんとかこっそりと二人きりになって話しかけた時に、嬉しかった自分とは対照的に思い切り迷惑顔で『過去のことは今生に引きずりたくない』と言われた。
前世では仲が良かったと思っていたので寂しくは思ったが、それならそれで今生では従兄弟として仲良くしていきたいと差し出した手は、それも煩わしいと拒絶され、地味にショックを受け、それからは微妙な距離感で、表面上の付き合いを続けている。
そんな関係にさらなる要素が加わったのは善逸と炭治郎が小学校5年生の時。
炭治郎の親はまた転勤で今度は長期で海外に行くことになり、この微妙に気まずい交流もこれで終わりかと正直ホッとしたのだが、なんとその前に炭治郎の家が火事になり、たまたまこれで最後だから…と、気まぐれに善逸の家に泊まりに来ていた炭治郎以外の家族が全員焼死したのだ。
そうして保護者を失った炭治郎を、牧師一家である善逸の家が見捨てるはずも無い。
善逸達が住んでいる母屋には家族の居住スペースの他に信者さんを招いたりするために広い20畳ほどのリビングの他にも数室の客間があるので、最初はその客間を一つ炭治郎用にと思っていたのだが、一般の核家族で育った炭治郎が、他人がウロウロするのが落ち着かないから嫌だと強固に主張したため、バストイレ付きの離れの部屋を炭治郎用にと片付けた。
それでも一人ぼっちになった炭治郎を孤独にしないようにと、最初の頃こそ両親も熱心に炭治郎に母屋で一緒に食事を摂ろうと勧めたが、頑なに嫌がる炭治郎のために、今では離れの方に食事を届けている。
そうやって母屋から炭治郎の食事を届けるのは善逸の役目になっていた。
親は食事だけではなくおやつなども善逸に用意するものは、全て炭治郎の分も用意する。
今回、今日から3日間、普段は家を開けられない善逸の親である牧師夫妻が20回目の結婚記念日だからと、ずっと行きたがっていた吸収の教会を主とするキリスト教関係の史跡を巡る旅に出ている間の食事も母は当たり前に準備していて、レンジで温めれば良いだけのそれを温めて炭治郎の分はいつも通りに届けるよう、善逸に厳命していた。
炭治郎がここに住むようになって7年になるが、未だに慣れない。
前世を引きずりたくないと言っていたので仕方ないのかもしれないが、あれだけ優しかった炭治郎が、今はまるで他人どころか他人よりもさらに近寄りたくない相手というように自分を見てくるのが悲しい。
それでも…そういう態度を取られ続けているせいだろうか…善逸の方も炭治郎が前世の炭治郎ではないような違和感を感じ始めてしまった。
そんな時、系列校が勢ぞろいする高等部にあがって、宇髄に再会する。
炭治郎のことがあるので声をかけるのを躊躇していた善逸だが、宇髄は彼の方から親しく声をかけてきてくれて、再会を喜んでくれるその様子に泣きそうになった。
そして再会して以来、善逸の事もちょくちょく色々に誘ってくれるのだが、宇髄の周りには前世で随分としごかれた風柱の不死川ともう一人知らない友人が常にいるので、なんとなく気後れして中に入っていけない。
それでも学校で声をかけられるたび、孤独だったこれまでのこともあって、とても温かい気持ちになった。
どうせ従兄弟として生まれるなら、今生でも仲良くしてくれる宇髄が良かったなぁ…と、善逸は炭治郎の分の夕食を温めながらため息をつく。
前世では仲が良かったと思っていたので寂しくは思ったが、それならそれで今生では従兄弟として仲良くしていきたいと差し出した手は、それも煩わしいと拒絶され、地味にショックを受け、それからは微妙な距離感で、表面上の付き合いを続けている。
そんな関係にさらなる要素が加わったのは善逸と炭治郎が小学校5年生の時。
炭治郎の親はまた転勤で今度は長期で海外に行くことになり、この微妙に気まずい交流もこれで終わりかと正直ホッとしたのだが、なんとその前に炭治郎の家が火事になり、たまたまこれで最後だから…と、気まぐれに善逸の家に泊まりに来ていた炭治郎以外の家族が全員焼死したのだ。
そうして保護者を失った炭治郎を、牧師一家である善逸の家が見捨てるはずも無い。
善逸達が住んでいる母屋には家族の居住スペースの他に信者さんを招いたりするために広い20畳ほどのリビングの他にも数室の客間があるので、最初はその客間を一つ炭治郎用にと思っていたのだが、一般の核家族で育った炭治郎が、他人がウロウロするのが落ち着かないから嫌だと強固に主張したため、バストイレ付きの離れの部屋を炭治郎用にと片付けた。
それでも一人ぼっちになった炭治郎を孤独にしないようにと、最初の頃こそ両親も熱心に炭治郎に母屋で一緒に食事を摂ろうと勧めたが、頑なに嫌がる炭治郎のために、今では離れの方に食事を届けている。
そうやって母屋から炭治郎の食事を届けるのは善逸の役目になっていた。
親は食事だけではなくおやつなども善逸に用意するものは、全て炭治郎の分も用意する。
今回、今日から3日間、普段は家を開けられない善逸の親である牧師夫妻が20回目の結婚記念日だからと、ずっと行きたがっていた吸収の教会を主とするキリスト教関係の史跡を巡る旅に出ている間の食事も母は当たり前に準備していて、レンジで温めれば良いだけのそれを温めて炭治郎の分はいつも通りに届けるよう、善逸に厳命していた。
炭治郎がここに住むようになって7年になるが、未だに慣れない。
前世を引きずりたくないと言っていたので仕方ないのかもしれないが、あれだけ優しかった炭治郎が、今はまるで他人どころか他人よりもさらに近寄りたくない相手というように自分を見てくるのが悲しい。
それでも…そういう態度を取られ続けているせいだろうか…善逸の方も炭治郎が前世の炭治郎ではないような違和感を感じ始めてしまった。
そんな時、系列校が勢ぞろいする高等部にあがって、宇髄に再会する。
炭治郎のことがあるので声をかけるのを躊躇していた善逸だが、宇髄は彼の方から親しく声をかけてきてくれて、再会を喜んでくれるその様子に泣きそうになった。
そして再会して以来、善逸の事もちょくちょく色々に誘ってくれるのだが、宇髄の周りには前世で随分としごかれた風柱の不死川ともう一人知らない友人が常にいるので、なんとなく気後れして中に入っていけない。
それでも学校で声をかけられるたび、孤独だったこれまでのこともあって、とても温かい気持ちになった。
どうせ従兄弟として生まれるなら、今生でも仲良くしてくれる宇髄が良かったなぁ…と、善逸は炭治郎の分の夕食を温めながらため息をつく。
なまじ前世でいつも笑顔を向けられていた相手なので、今生の炭治郎のあの突き放した態度は本当に辛い。
というか、気まずいだけじゃない。
今生の炭治郎はなんというか……怖い。
善逸の家族にひどく敵対心を向けているような気がする。
そのくせたまに敷地内でよその人に会うと、前世の時のような人懐こく愛想の良い穏やかな笑みをむけるのだ。
それだけじゃない。
離れに住み始めたのも母屋で食事を摂らないのも炭治郎自身の希望だったのに、敷地内で会った信者さんに、
「俺は両親を亡くして居候の身だからこの家に馴染みたいし手伝いとかもしたいんですけど、伯父さん達は俺に教会の仕事とか関わらせたくないみたいなんですよね。
食事とかも離れで一人で食べてますし。
あ、でも本当なら施設とかに行くしかなかったのを引き取ってもらえて本当に感謝はしてるんです」
などと話しているのを聞いてしまった。
言われた相手はそれを信じたのかはわからない。
ただ困ったように微笑んでいる。
でも普通の勤め人とかではなく、教会の牧師という職業なのでそういう噂をたてられるのは恐ろしい気がした。
さすがに怖くて、もしかして…教会乗っ取るつもりなんじゃないだろうか…とその話を母親に話したら、
『あんた漫画の見過ぎよ。
神様大好きとかじゃないなら教会なんて乗っ取っても仕方ないでしょ?』
と、母に笑われた。
確かにそうだ。
でも気になることは気になって、宇髄にこっそりと打ち明けたことがあるのだが、宇髄は笑い飛ばしたりはせず、
『…あ~、乗っ取りってより、自分の点数稼ぎじゃねえか?
同情されて優しくされるのが嬉しいとか、そういう系だと思うぜ?
ま、どっちにしてもお前らにしたら汚名着せられてるわけだし、不快で不安なのはわかるけどな』
と、ようやく考えていた方向ではないものの、もやもやしていることはわかってはもらえて少しスッキリした。
…とは言うものの、あちこちで悪名を広められているのは変わりないわけで……。
そういう諸々があって炭治郎が嫌いになるとかではないが、接触を持つたび悲しくなった。
出来れば悪意をもたれているのを感じたくないので、離れたい。
そんなことを思いながらも、しかし食事を届けないという選択肢はなく、善逸は仕方なく炭治郎の離れに足を向けた。
母屋から歩いて1分。
今生の炭治郎はなんというか……怖い。
善逸の家族にひどく敵対心を向けているような気がする。
そのくせたまに敷地内でよその人に会うと、前世の時のような人懐こく愛想の良い穏やかな笑みをむけるのだ。
それだけじゃない。
離れに住み始めたのも母屋で食事を摂らないのも炭治郎自身の希望だったのに、敷地内で会った信者さんに、
「俺は両親を亡くして居候の身だからこの家に馴染みたいし手伝いとかもしたいんですけど、伯父さん達は俺に教会の仕事とか関わらせたくないみたいなんですよね。
食事とかも離れで一人で食べてますし。
あ、でも本当なら施設とかに行くしかなかったのを引き取ってもらえて本当に感謝はしてるんです」
などと話しているのを聞いてしまった。
言われた相手はそれを信じたのかはわからない。
ただ困ったように微笑んでいる。
でも普通の勤め人とかではなく、教会の牧師という職業なのでそういう噂をたてられるのは恐ろしい気がした。
さすがに怖くて、もしかして…教会乗っ取るつもりなんじゃないだろうか…とその話を母親に話したら、
『あんた漫画の見過ぎよ。
神様大好きとかじゃないなら教会なんて乗っ取っても仕方ないでしょ?』
と、母に笑われた。
確かにそうだ。
でも気になることは気になって、宇髄にこっそりと打ち明けたことがあるのだが、宇髄は笑い飛ばしたりはせず、
『…あ~、乗っ取りってより、自分の点数稼ぎじゃねえか?
同情されて優しくされるのが嬉しいとか、そういう系だと思うぜ?
ま、どっちにしてもお前らにしたら汚名着せられてるわけだし、不快で不安なのはわかるけどな』
と、ようやく考えていた方向ではないものの、もやもやしていることはわかってはもらえて少しスッキリした。
…とは言うものの、あちこちで悪名を広められているのは変わりないわけで……。
そういう諸々があって炭治郎が嫌いになるとかではないが、接触を持つたび悲しくなった。
出来れば悪意をもたれているのを感じたくないので、離れたい。
そんなことを思いながらも、しかし食事を届けないという選択肢はなく、善逸は仕方なく炭治郎の離れに足を向けた。
母屋から歩いて1分。
いつも閉め切られているカーテンは今日も当たり前に閉まっているので中の様子はわからない。
「炭治郎、飯だよ~」
と、ドアをノックする。
いつもなら玄関先で食事のトレイを渡して帰り、1時間ほどして取りに行くと、玄関のポーチの所に設置しておいた小テーブルに空の食器が置いてあるのだが、いくら呼びかけてもノックをしてもドアベルを押しても出てこない。
この時間なら帰ってはいるはずなので単純に手が離せないかうたた寝でもしているのだろう。
さすがに無用心なので食べ物を外に放置するわけにも行かないし、玄関の下駄箱の上にでも置いて帰って母屋から電話で知らせようと、善逸はドアノブに手をかけた。
「お~い、食事持ってきたよ。入るよ?」
と、一応声をかけてドアノブを回せばドアが開く。
薄暗い室内。
勝手に電気をつけるのも憚られて、ここまで来るのに使った懐中電灯をつければ、奥へと続く廊下には仕切りのようにカーテンがかかっている。
確か貸した時にはこんな物はついていなかったはずだ。
奥に何かあるんだろうか……。
「炭治郎、飯だよ~」
と、ドアをノックする。
いつもなら玄関先で食事のトレイを渡して帰り、1時間ほどして取りに行くと、玄関のポーチの所に設置しておいた小テーブルに空の食器が置いてあるのだが、いくら呼びかけてもノックをしてもドアベルを押しても出てこない。
この時間なら帰ってはいるはずなので単純に手が離せないかうたた寝でもしているのだろう。
さすがに無用心なので食べ物を外に放置するわけにも行かないし、玄関の下駄箱の上にでも置いて帰って母屋から電話で知らせようと、善逸はドアノブに手をかけた。
「お~い、食事持ってきたよ。入るよ?」
と、一応声をかけてドアノブを回せばドアが開く。
薄暗い室内。
勝手に電気をつけるのも憚られて、ここまで来るのに使った懐中電灯をつければ、奥へと続く廊下には仕切りのようにカーテンがかかっている。
確か貸した時にはこんな物はついていなかったはずだ。
奥に何かあるんだろうか……。
と、この時ふと好奇心にかられた自分を、善逸は後に後悔することになる。
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