前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_20ランチタイム

職員室で保護したあの日以来、錆兎と義勇、そして宇髄と不死川は天気の良い時は屋上で、悪い時は美術室で昼食を摂っている。

一応善逸も誘ってみたのだが、前世の時の不死川の印象が強烈に恐ろしかったようで、丁重に辞退されたので残念ながら不参加だ。

そんなとある昼休みのことである。



「…甘ぇ……」

恐ろしげな容貌に似合わず最近は次男の玄弥のすぐ下の中学生になった妹が張り切って作ってくれているのだという可愛らしい弁当の中からハートを形取った卵焼きの片割れを口にすると、そう言って眉を寄せる実弥に、

「なになに?卵焼きか?」
と、その弁当に伸ばした宇髄の箸は、実弥のすばやい手の動きに阻止される。

「ちげえ!寿美の味加減は完璧だぁ!…甘ぇのはあっちだ!」

そう言って視線を向ける先には錆兎と義勇の二人。

相変わらずぽろぽろ零したり頬に米粒をつけながら食べる義勇に錆兎がどこか楽しそうに甲斐甲斐しく世話を焼いている。

「あ~、あれはな、もう平安時代からのことだからどちらもDNAに刻み込まれてるんだと思うぜ?
諦めて慣れろ。俺も慣れた」
と、それに対してけらけら笑う宇髄。



宇髄が記憶している限りでは、平安時代の初対面の時、幼い頃から宮中にも連れてこられていた錆兎は落ち着いたものだったが、ほとんど自宅で限られた人間にしか会ったことのなかった義勇は青い目を極限まで見開いて固まっていた。


なにしろいきなり頼光四天王のそれぞれの血筋の人間を初めとして、ごつい大人が多数という場に連れてこられたのである。
普通の子どもなら萎縮するだろう。

膳が前に運ばれても手を伸ばすどころか震えるばかり。

義勇を同行させた父親に言われて箸を取ったものの、箸を持つ手が震えて料理を口に運ぶどころか動かすことすら出来なかった。

皆は酒もはいっており、人慣れない子どもには赤くなって声高に叫ぶように話す大人達はよけいに恐ろしいものに見えたようである。

そんな周りの連中に臆することなく、見知った大人に言葉をかけられて淡々と答えながらも飯を食っている錆兎のほうが子どもとしては稀なほうだと宇髄は思っていた。


しかし酒で気が回らなくなった上に気が大きくなりすぎた大人達はそうは思わなかったらしい。

そんな風に怯えた様子を見せる義勇に、卜部の血を引く子のくせに情けないなどと心ない言葉をかける者も出てきて、とうとう限界を迎えた義勇のその大きな目から涙が零れ落ちそうになった時である。


「卜部は弓の射手で後ろに下がる者だから、前に立つ近接の他3人より広くなる視界で得た情報を全体に伝える役割も担う。
見知らぬ場所で見知らぬ者が集まった状況で情報がまだない中、他者より緊張感を強く持つのはまさにその血筋によるものだと思う」

と、いきなり錆兎は立ち上がって、自らの前に供えられた膳を持って、泣きそうになっている青い瞳の子の横へと移動した。


あまりに当たり前に堂々と行動したので誰も止める間もない。


そのまま義勇の隣に座り込んだ彼は

「俺は渡辺さびと。綱の孫だ。
今この時より俺がお前の前に立つ。
お前のところまで悪しき者をやることはしないから、お前は安心して状況を見てお前の為すべきことをしろ」
と、卜部の家の少女のように愛らしい顔をした少年に、にこりと力強い笑みを向けた。


そして
「何が食いたい?
手の震えが収まるまで俺が手伝おう」
と、震えていた小さな白い手にそっと自らのマメだらけの手を添える。


その姿はまるで弱き者をいたわるおとぎ話の主人公そのものだ。

そして手を添えられた方は青かった顔がぽぉっと赤く染まって、潤んだまんまるの青い目が凛とした少年のややつり目がちな藤色の目をうっとり見上げる。

その時まさに恋に落ちる音がした…と、宇髄は当時を思う。



さらに、主の家の家臣の子として主の子の耀哉に随行していた宇髄は


──ああ、あれが筆頭の子なんだね。

という耀哉の声に、おそらく彼も別の意味であの渡辺の家の子どもを気に入ったのであろうことを察した。

実際に錆兎とはその食事会のあと耀哉が声をかけて以来の付き合いである。



まあ、始まりがそんなものだったものだから、目の前で繰り広げられている錆兎の世話焼きも実弥と違って驚きはしない。

これが彼らの通常運転、正しい姿だ。

むしろ懐かしいなぁとすら思う。

ただ、彼らだという要素を省いてみれば、確かに男子高校生二人で作る空気ではないというのもわかる。



「お前ら、ほんと幸せそうだなぁ。もうこの世の春ってかぁ?」
と、やめておけば良いのにそこで絡む不死川。

それにもっきゅもきゅと噛む速度を若干速めて、最後にゴックンと飲み込んだあと、義勇が

「幸せだけど…色々大変なことも多い」
と、真面目な顔で言い返すので、

「ほお?たとえば?」
と、さらに不死川が聞き返す。


あ~あ、やめておけばいいのによ…と、そのやりとりに内心思う宇髄だが静観。


案の定、義勇の口から出てきた言葉は

──錆兎がかっこよすぎる
で、不死川はぽか~んと口を開けて固まった。


「毎朝目を覚ますと良い匂いがしてきて、朝食のトレイを持った錆兎がそこに立っている。
もうその姿が寝起きには刺激が強すぎるというか…かっこよさが天元突破していて、俺は一瞬自分がまだ眠っていて、ドラマか映画の世界にいる夢を見ているのかと思ってしまうんだ。

それでも頬をつねれば痛いし腹は減るし、ああ、これは現実なんだなと認識するんだが、そう自覚して錆兎が作ってくれた朝食を食べると、これがまたありえないくらい美味い。

トーストにつけるジャムは旬のフルーツで作った手作りで甘すぎず酸っぱすぎず完璧な味加減だし、添えられた卵料理はベーコンエッグはこれも手作りのベーコンをカリカリに焼いた上に程よい半熟。
オムレツの時は本当にふわとろで幸せの味がする。

グリーンサラダの時はシャキシャキの野菜に爽やかな手作りドレッシング。
ポテサラの時だって市販品なんてことはなく、きちんと下味をつけた上でマヨネーズで和えた潰したジャガイモに混じる程よく塩をしたきゅうりやにんじん、たまねぎの歯ごたえが堪らない逸品だ。

そんな朝食を摂っていると、やっぱり俺はこれは夢なんじゃないかとまた思ってしまう。

だってありえないだろう?
顔も良くて声も耳に心地よいありえないほどのイケメンが毎朝ベッドまで完璧に美味い朝食を運んできてくれて、目の前で微笑んでるんだ。

現実ではありえないと思うものの、こんなに完璧に幸せな図だと夢だとわかって覚めてしまったらと思うと悲しくて、俺は思わず消えないようにと錆兎にしがみつかずにはいられなくなるんだけど……」


前世での無口さが嘘のように、すさまじい勢いで流れ出す言葉。

もう勢いがありすぎてどこで止めれば良いのかわからず、実弥は今生では親切に優しく接しようと思っていたにも関わらず、


…こいつ…殴れば止まるかぁ?

などと拳を握り締めてしまう。


しかしその瞬間、宇髄いわくセコムという会社が生まれる遥か前、平安時代から義勇専属のセコムであったという錆兎がその不穏な空気を察知したらしく。


──実弥…その手はなんだ?俺な、確かに専門は刀だが棒っきれが無くても腕を叩き折るくらいのことは出来ると思うぞ?

と、目が笑っていない笑みというものを浮かべながら、指をボキボキ鳴らし始めた。



全くもってカオスな空間の出来上がりに宇髄は空気を読むことにして、

「敵対行動は本当の敵にしておこうぜ?
ちょっと食事中にみせるもんでもねえけどな、相手もだいぶ煮詰まってきてぶっ飛んできてるし…」
と、自分のポケットからスマホを出して、とあるメールを開いてみせた。



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