前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_19何気ない日々

父方の祖父はこのマンションを唯一、生前贈与でいち早く錆兎にくれていた。

…というか、どうやら資産家らしい祖父は、その資産の半分は事業を継いだ長男一家が事業を回せるように、あとの2分の1は他に3人いる、娘、息子一家に平等に…というつもりだったらしい。

が、動産不動産入り交じっているとそうも行かず、祖父いわく、各息子娘達の中では、このマンション1棟のみというのは一番ささやかなものとのことだ。

そしてそれを引き継いだ時点で、この先どれだけ祖父が資産を作ろうと、錆兎にはあずかり知らぬところになった。

だからこその贈与税その他も祖父持ちの、他より早い相続なのである。



「まあ…お前は足りなければ自力でなんとか出来る男だ。
出来ないやつらに多く遺してやらないとだから勘弁な」

と、最後…確か1年ほど前にフラリと訪れた時に祖父はそう言っていたが、錆兎に言わせれば祖父の金銭感覚がすでにおかしい。

確かに莫大な固定資産税、建物の維持費、修繕費、管理を任せる業者に支払う管理料諸々、出て行く費用は多額だが、それを差し引いても有り余る金額が月々入ってくる。


「爺さん…あんまり子どもや孫を甘やかすと働かなくなるぞ?」
と、苦言を呈すれば、祖父は

「何言ってんだ。これを元手にさらに働いて稼げ。
そしてそれを思い切りつかえ!
経済回して自分が今の不景気回復してやるくらいの勢いでな」
と、豪快に笑った。



母方の祖父として転生した鱗滝先生はきちんとしていて無茶はしない。
それに対して父方の祖父は遠い祖先は錆兎が転生し続けている渡辺の血を引いていて、なかなか豪快にして破天荒なところのある男だ。

対照的ではあるが、それぞれ尊敬できる慕わしい祖父である。


まあ今は身辺は母方の祖父のお預かりで父方祖父から生活費を渡されていて、未成年が本当に誰も居ない状況での一人暮らしをするのはよろしくなかろうと、母方の従姉妹の真菰が隣に住んでいる。


成人まではあと3年。

生活の管理は母方、資産の管理は父方の祖父がきちんと教えてくれたので、その後は資産を管理していけば食ってはいけるが、おそらく普通に働いて暮らしていく予定だ。

マンションはまるまる自前なので錆兎自身は一生住み続けるつもりだが、間取りは2LDKと一人にしては広めなので、出来れば義勇がこのまま一緒に住んでくれれば嬉しいと思う。
もし駄目なら別の部屋でも良いのだが、マンション内には呼び込みたい。

高校までは正式にというのは難しいかもしれないが、大学になればシェアと言う名目で同居もおかしくはないだろうし、社会人になったら住む場所は完全に自由だ。


朝起きたら義勇の顔がそこにあって、夜眠る時は義勇を抱え込んで眠りに落ちる。
毎日そんな生活が出来たら、とても幸せだろう。

真菰だって夫婦二人なら今の部屋で十分だし、もし子どもでも生まれることがあれば、隣の部屋の壁をぶち抜いて二世帯分使わせてやってもいい。

もちろん今生では祖父に生まれた鱗滝先生が完全に仕事を引退して隠居生活に入ったなら、できればここに住んで欲しい。

本当は大正時代の狭霧山の面子とは近い場所で親しくしながら暮らしたいと思ってはいたのだが、炭治郎は無理なのだろうか……

現世の炭治郎の中身がおかしくなっているというのが、何かに取り憑かれているとかそういう類のことなら、除霊でもなんでもして元に戻った炭治郎ともこのマンションで一緒に住みたい。

自分は義勇と一緒に生きていくので子が出来ないから、親しい者達の子の世話をたまに引き受けながら、愛する半身と共に年を重ねていきたいと思う。



まあそんな遠い未来の幸せよりもまず今現在か…。

とりあえず、義勇は可能な限りここに居させようと思う。
義勇自身もそれを望んでくれているし、何より今の義勇の自宅は危険である。


「義勇…出来ればうちで生活しないか?
俺もまだ高校生だから、お目付け役というか、何かあった時の保護責任者という立場で真菰に隣に住んでもらってるし、親御さんにしたって完全に一人の家に息子を置くよりは何かあったら対応できる教師が隣に住んでいる前提で俺との共同生活の方が安心だと思う。
もしお前が嫌じゃなければ真菰と俺の祖父から正式に親御さんに連絡してもらうように頼んでみるが…」


自分といると義勇はいつも機嫌が良いのだが、それでもさらに少しでも機嫌の良い時に…と、錆兎は前世で義勇の好物だった鮭大根を夕飯に作って出してみる。

すると普段はぽやんとした義勇が、ほぁわぁぁとびっくり目をした後に顔を輝かせて、待ちきれないようにごっくんと喉をならした。

本当は食べながら話を…と思ったのだが、こうなると話どころではない。


──いただきますっ!!
と、言うのももどかしげに鮭大根の皿に伸びる手。

はくはくと子犬のように一心不乱に食べる義勇。
その様子があまりに可愛らしくて、錆兎はついつい箸をとめて見惚れてしまう。


「…ほら、頬についてるぞ」

と笑って、いつの時代にも食べるのが下手な義勇の頬についたご飯粒と取ってやってそれをそのまま自分の口に運ぶと、義勇はぴたっと手を止めてきょとんとあどけない様子で錆兎のほうを見て、それから

「ありがとう!錆兎!」
と、ぱあぁっと笑みを浮かべて礼を言う。


駄目だ…可愛い、俺の半身、可愛すぎる!!

くぅぅ~!!と拳を握り締めて転がりまわりたいのを耐える。

そんな錆兎に義勇が不思議そうな視線を送っているのに気づいて、錆兎は慌てて話題をそらせる…もとい、本題を思い出して前述のように同居の打診を口にした。


「…一緒に…?
良いのか?嬉しいっ」
義勇は全く躊躇もせず、心の底から嬉しそうに言う。

「親はたぶん反対しないと思う。
姉さんもその方が安心だと言うと思うし…」
と、さらに続けるのに、

「じゃ、決まりだなっ!
その手のことは母方の祖父のほうがいいか…」
と、錆兎は母方の祖父として転生している鱗滝に即事情を説明するメールを打ち始めた。

彼は今生では著名な木彫り作家として全国どころか時には海外でまで個展を開いているのですぐこちらに戻ってと言うのは無理だが、そもそもが義勇の親が海外だし、逆に近日中に北海道で個展を開くので、その時に姉の蔦子に会って交渉できる気がする。


そんな互いの親族の予定を確認しながら食事を終えると、試験前ということで二人でリビングのローテーブルに並んで勉強をした。



それから1週間もしないうちに、同居の許可が下りた。

あらかじめ義勇から親と姉に状況を説明。
その後、鱗滝と蔦子が直接話をして、蔦子から親に報告。

真菰が義勇の学校の教諭で隣に住んでいるというのも、説得に一役買ってくれたらしい。
実際に真菰のほうにも確認が来たとのことだ。

本当に今回は真菰様々である。


こうして晴れて始まった共同生活。

義勇はあまり家事が得意とは言えないが、そのあたりは錆兎も一人暮らしが長いので問題ない。
それでも手伝う気はあるらしい義勇は、いつも自宅から持参の割烹着を身につけて錆兎の後ろについてまわる。

何故エプロンじゃなくて割烹着?
と、聞いてみると、

義勇曰く…

──蔦子姉さんが…俺がエプロンだとすぐ服の袖を汚すからと…
と至極真剣な顔で言うものだから、納得できすぎて笑ってしまった。 

それに義勇がむぅっとした表情をしたので、錆兎もさすがにまずかったかと笑みを消して

──いや、それ名案だなと思って。割烹着いいな、割烹着。確かに袖まで汚れない
と真面目な表情を作って言うと、素直な義勇は、ああ、そういう意味だったのか、と、思ったらしく 

──そうだろう?蔦子姉さんの言うとおりだ。錆兎も割烹着にすればいいっ
と、嬉しそうに言う。


どうせならお揃いのものを買いに行こう!
と、ご機嫌で提案する義勇に逆らえるはずもない。

二人で住むなら食器だってペアにしたいしと思い始めたらもうその日は買い物日和だ。



お揃いの割烹着をまず買って、そのあとは色違いのマグにグラス、皿、文具にパジャマまで。

内緒話のように小声で、──まるで新婚家庭みたいだね──なんて嬉しそうに言って、買ったばかりの諸々の入った袋を抱きしめる義勇が可愛い。


買い物を終えると、カフェで一休み。
その後に食材を買って戻った。

そうして夕方、二人でお揃いの柄の色違いの割烹着を着て一緒にキッチンに立つ。
食器棚に目を向ければやはり色違いでお揃いの食器の数々。

姉と仲良しでその趣味をたぶんに受け継いだ義勇のチョイスで、男二人が使うにしては少し可愛らしい感じだが、別に自宅使いで二人しか見ないのだから、二人が気に入っていれば無問題である。

それよりこれからこうやって二人で一緒に暮らしていく支度が少しずつ出来てくることに心が躍った。

二人で作った食事を二人で選んだ食器に盛り付けて二人で食事を摂る。

そんななんでもないような日常が、前世で早く死に別れて一緒に過ごすのが久々なだけにすごく幸せだ。


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