前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_17変わらぬ魂

そうは言うものの、今回の諸々は宇髄が関わる気が満々らしいので、おそらく無事終わるのだろうな…と錆兎は思う。

正確には、転生のたびそうであったように今生でも宇髄のバックについているのであろう産屋敷耀哉が関わり始めたら…というところだろうか。

もちろん自分の半身のことなのだから錆兎は解決に尽力したいし、できれば自分の手でという希望がないわけではない。

だが、目の前のわかりやすい事象について忍耐強く努力を重ねたりは出来ても、広い視野で状況を見て人の心を読み、多くに根回しをするなどということを耀哉ほど上手にやれるかというと、絶対に無理だと思う。

それでも自分のことなら失敗を繰り返し、その失敗による反動に耐えながらでもこなしていくのも良いのだが、それによって傷ついていくのが自分ではなく義勇だと思うと、極力失敗を避けてスムーズにことを運びたい。

戦いに限らず常に全面に出て戦う錆兎と違って、後方にいる義勇は打たれ弱いのだ。
前世のように心を守りきれずに感情を失って表情のなくなった義勇を見たくはない。


錆兎はしばしば正面から突き進む脳筋と言われていたが、それは自分自身のことに関してだけで、義勇を始めとする自分にとって大切な人間に関しては、周りに協力を求めたりして可能な限り傷つかずにすむように動くのだ。

今回に関して言えば、情報を集めがてらの学生周りの根回しは宇髄がして、宇髄では得られない方面の情報と公的な根回し、そして必要なら物資の確保は耀哉、そして錆兎自身は裏からではなく物理的に手が伸びてきた時の護衛と義勇の心身のフォローを担当することになるのだろう。

とにもかくにも今回は義勇の問題なのだから錆兎自身のプライドとかより義勇ファーストだ…と思っているし、実際にそう動くと決めている。


そんな錆兎からすると、相手をどれだけ傷つけてでも自分の手に入ればそれで良しと考えているとしか思えない今回の炭治郎の行動性その他がよく理解できない。

好きな相手を独り占めしたい…それは仕方の無い欲求だったとしても、あんな方法で本当に手に入ると思うのだろうか。

影で他人に害を与えて周りを騙して自分を大きく見せてもいずれはバレるだろうし、バレたら好意を持たれるどころか軽蔑をされるか引かれるかして終わりだろう。

現に義勇は吐くほど怯えて引いている。

愛する半身と手をかけて育ててやった後輩。

もし自分の存在が今生の義勇の負担にしかならなくて、自分の代わりに絶対に義勇が幸せになるように支えてくれるのだとしたら、身を切るような思いではあるが託すこともやぶさかではないと思ったこともあったが、こうなってしまうともう炭治郎とは戦うしかない。

いや…宇髄に言わせると、あれは飽くまで炭治郎の姿をした“炭治郎ではない何か”らしいが、そのあたりについては錆兎はまだ半信半疑なので、とりあえず炭治郎だと思ってやりすぎないようにということは心がけようとは思ってはいるが…。


あの錆兎が知る自分の信じる道に対して真摯に努力する弟弟子でなければ、義勇をこんなに怯えさせたことは万死に値するところだ。

だってずっと…義勇とは気の遠くなるほどの昔から互いに守り守られてきたのだ。
錆兎の中での優先順位で一番で何より大切なのはやはりこの愛する半身なのである。




…ん……んぅ……

そんなことを考えているうちに、きゅうっとさらに握られた手に目を覚ましたのかと見下ろすが、どうやらまだ半分眠っているらしい。
義勇はむずかるように握った錆兎の手にこしこしと頭を擦り付けている。

…可愛すぎて変な声が出そうになった。


錆兎の愛しい恋人は、しばしば無意識にこんな風に赤ん坊か小動物のような行動を取る。

このあどけなさと自己評価が低くやや後ろ向きな大人しい性格…なのに戦闘スイッチが入ると途端に広く隙がなくなる視界と驚くほど正確な弓の腕前。

遥か昔…平安の頃に10歳で先祖が同じ頼光四天王ということで初めて引き合わされて、しばらく一緒に過ごしてた時にそのギャップにやられて夢中になって今に至る。

錆兎としては自分が先に好きになったと思っているのだが、義勇に言わせると義勇が先だそうだ。


…さびと……さびと……

と、やたらと自分の着物の裾を掴んでは後ろに引っ付いていたのだが、それを見知らぬ大人に囲まれて心細くて物怖じしない同世代の自分について歩いていたのかと思ったら、後に互いに思いを明かして恋仲になった時に、あれは精一杯の愛情表現だったんだと言われてそのいじらしさと愛らしさに思わず抱き潰してしまったのは懐かしい思い出だ。

それ以来、いつの時代に生まれて周りにどれほどの美男美女が居ても、錆兎が惹かれるのは義勇だけである。


直前の大正時代の自分達は出会うまでに10年ほどの歳月を要したが、それまではたいてい生まれながらの幼馴染だった。

親同士も親友の幼馴染とか、自分達が兄弟関係だったことはないが従兄弟同士だったことはある。

異性に生まれたことはないのだが、錆兎的には一度くらいは異性でも良いかな、と、思わないでもない。
いや、性別問わず義勇は義勇だから良いのだが、異性なら正式に婚姻関係を結んで、なんなら義勇にそっくりな娘くらい授かれれば楽しいかもしれないし…。

それでもとりあえず転生するたびに常に義勇に出会えているだけで幸せだ。


耀哉と宇髄もだいたい近い位置で近い年代に生まれているらしいが、錆兎と義勇もだいたい錆兎が先に生まれて1年以内には義勇が生まれる感じだ。

そしておそらくこちらは探されているのか、生まれて10年以内くらいには耀哉や宇髄とも、声をかけられて出会うことがほとんどである。


今生は出会うのがあまりに遅くて少々焦りはしたが、宇髄も相変わらず転生をしていて、しかしいつもなら錆兎と義勇と同様に比較的近い場所に近い年齢で生まれてくるらしい耀哉の合流がいつもより随分と遅れていたので、義勇も絶対にそうだと信じていた。

ともあれ、こうしてようやくあるべきところに落ち着いたと言うか、手の中に取り戻した感のある恋人の相変わらずの可愛い動作に愛おしさがこみ上げる。



「義勇…何か食えそうか?
食えそうなら何か作ってくるが…」
と、義勇がじゃれ付いているのと反対側の手で頭を撫でてそう言うと、そこでようやくうっすらと白い瞼が開いた。

そうしてその下からまだ少しぼんやりとした潤んだ青い瞳が現れる。


…さびと……

と、その視線がじゃれついていた手に向けられ、それから手を伝って徐々に確認するように腕をあがり、肩、そして顔までたどり着くと、そこでふにゃりと笑みがこぼれた。


……っ!…かっ…わいすぎだろう!!!
と、内心悶える錆兎。


義勇はまだ寝ぼけ眼でまたスリっと錆兎の手に頬をすりつけたあと、突然なにか驚いたようにぱっちりと目を開けた。

そして何度かぱちぱちと瞬き。
その後、何故かむぅ~っとしたように眉を寄せる。


──義勇?どうした?
と、不思議に思って訪ねると、錆兎を見上げて

──下着…汚した
と、全く恥ずかしげもなく言う。

──…夢精か?
と錆兎の側も当たり前に聞くと、義勇はコクコクと頷いた。


正直いままでの転生では生まれた時からほぼ一緒にいる状況だったから、互いに自分と相手の体の境界が希薄で、第二次成長とかも当たり前に見てきた。

…というか、だいたいにおいて義勇にそういうことを教えてやってきたのは一歩早く生まれて一歩早く成長した錆兎である。

精通後…すぐそういう関係になってしまってその後いつでも一緒にいるので、大正時代に錆兎が早く亡くなってしまったあと以外は、義勇は自分で処理をしたこともなく、錆兎に任せっぱなしだった。

なので、それが魂の奥底に染み付いているのだろうか…。
当たり前にあけっぴろげに打ち明ける義勇に、なんだか拍子抜けして笑ってしまう。


しかし、そんなノリで

「最近、抜いてなかったのか?」
と聞いて返ってきた

「…自分でしたことないから…」
と言う言葉には唖然とした。


え?ええ???

「…下着…汚さないか?」
「…汚れる…けど……家だと替えがあるから」
「いやいやいやいや、そういう問題かっ?!!」

わけがわからないっ!
話が通じているということは、知識はあるんだろうが、何故処理しない?!


「…下着の替えを貸して欲しい…。気持ち悪いんだ…」
との義勇の言葉で我に返った錆兎は、もう新品を洗って乾かしてという時間は無いし、こういう状況なら気にしないだろうと洗濯済みの自分の下着を出しながら、もしかして今生でも今までのように自分が処理をしてやることになるんだろうか…と、漠然と思った。

そして…翌日、その時の理解が正しかったのを思い知ることになるのだが……



とりあえずその時はもう出したあとなので、それ以上はこれと言って何もなく手洗いをしたあとの下着を洗濯機に放り込んで、離れたがらずについて回る義勇を好きにさせたまま夕食を作った。


──しんどかったらリビングのソファにでも座ってろよ。食事はそこに運ぶから。
と言っても、義勇はまるで親にはりつく子どもよろしく錆兎のエプロンの裾を掴んで後ろに立っている。

──…ここが一番落ち着くんだ…
と言う言葉に、やっぱり今までの転生し続けた人生の蓄積が影響しているように思う。

こうして一緒にいると記憶がないはずなのに本当にこんな風にすぐゼロ距離になった気がした。


食事を終えると、錆兎は義勇を怯えさせるので隔離した義勇のスマホを自室に取りにいく。

うるさいので電源を切っておいたのだが、電源を入れた瞬間着信音が鳴り響いた。
それを手にリビングに戻ると、義勇がビクッと身を奮わせる。


「あのな、とりあえずさっきまではうるさいから電源切っておいたんだが、今また電源いれた。
お前は体調崩してるしメンタル削られるだけだからもう応対はしない方が良いと思う。
だが、俺や宇髄はこれからの対処の参考になることもあるかもしれないから、出来れば奴からのメールをチェックしたいんだが、パス聞いちゃだめか?
悪用は誓ってしないし、なんなら代わりに俺のスマホ預けても良い」
と、スマホを差し出しながら切りだすと、義勇はそれを受け取っていきなり設定画面を開き

「錆兎なら好きに使ってくれてかまわない。
指紋認証しておけばいいか?」
と、いきなり指紋認証の追加画面を出して錆兎にスマホを差し出した。


なんというか…もう初っ端から信頼MAXで、こんな危機管理で大丈夫か?と錆兎は自分で言い出しておきながら少し心配になってくる。

だが、今回に関しては必要なので、他の人間にはくれぐれもこういうことを許さないようにと念押しをして指紋を登録した。


「さんきゅ。で、これは俺が預かっていて良いか?
代わりに俺のスマホ貸すから」
と、錆兎が自分のスマホを差し出そうとすると、義勇は

「いや…親や姉さんは何か重要なことは電話じゃなくてメールで寄越すし、電話は万が一かかってくると怖いから持たないでいい」
と、それを制して言う。

今回はよほど堪えているらしい。


「不便じゃないか?」
と、それでも錆兎が念のため言うと、義勇は

「だって…錆兎がずっと側にいてくれるんだろう?問題ない」
となんだか幸せそうな笑みを浮かべて言った。

そして少し考え込む。


「錆兎…あの…相談なんだけど……」
「ん?」

「俺の家は実母が亡くなって父は再婚相手と海外生活で、日本に帰ってこないどころか連絡すらほぼない。
で、姉さんは結婚して北海道で絶賛育児中で忙しくて、たまにメールは来るがこちらも東京に来ることはないと言って良い。
だから俺は実質一人暮らしなんだ」

「ああ、それで?」

「正直…鍵をかけてカーテンを閉めていても、炭治郎に隣のビルの屋上に常駐されてたりしている状態の家にいるのはさすがに怖い」

「あ~…なるほど、そうだよな。
ならしばらく俺の家に滞在してここから学校に通うか?」
と、先回りして聞いてやると、義勇の顔がぱああぁ~と明るくなった。


「じゃ、宇髄や不死川も協力してくれてるから、それ知らせるな?
で、明日4人で当座の荷物を取りに行くぞ」
と錆兎は言って、二人にその旨をLineで伝える。


すると宇髄が車を手配してくれるというので、翌日の早朝に錆兎のマンション前に集合することになった。



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