もちろん周りの人間全般に対して誠実であろうとするし、手を差し伸べられる範囲でなら助けを求める相手を無視することはない。
だが自分の身内判定をした人間に対してはその範囲を超えて尽力をする。
前世では人生を終えて霊魂になった状態でも、義勇がそれを望んだから彼が連れてきた少年が剣士として鬼殺隊に入ることができるように、剣の稽古をつけてやった。
気合と根性だけで霊魂の身で生者に物理的に介入したのだから、もう、手を差し伸べられる範囲どころか、努力でどうにかできる問題なのか、それは?というレベルの入れ込み方である。
本来は霊は視覚的に姿を見せることは出来ても、触れることは難しい。
実際に霊の状態で一緒にその少年炭治郎の前に姿を現した真菰は、言葉で説明をすることはしても物理的に彼に触れて指導するということは出来ては居ない。
姿を見せ言葉を交わすだけでも十分簡単には出来ないことではあるのだが、誰かへの思いだけで長期間に渡り物理的に介入し続けられたのは、平安の頃からずっと戦い続けてきた錆兎の強い意志と、いつの時代も恋人であった義勇への深い想いの賜物だった。
ともあれ、炭治郎もその長い長い時間かかわり稽古をつけてやったことで、錆兎の脳内では身内認定されている。
だから相手が義勇でなく、また、そのかかわり方が相手の負担になるような形でなければ、協力してやることもやぶさかではなかった。
いや、あるいは義勇であってさえも、義勇が本当に幸せになれることがわかれば、今生だけという限定で託すこともあったかもしれない。
しかしそのどちらの条件も満たしていないので、義勇を炭治郎から有無を言わさず取り上げて自分の手の内に保護してしまったのだが…
自宅に連れ帰ったあと、炭治郎と電話で話したストレスで戻して疲れたのだろう。
後ろから抱え込んでいた錆兎の手の中で眠ってしまった義勇は本当にこれまでと変わらず可愛らしい。
安心しきった様子で身を預けられて、このまま居ようかどうしようか悩んだが、長く眠っていると義勇も体制的に辛いだろうと錆兎はそっと後ろから抜け出して義勇を抱え上げると寝室へと運んだ。
そうして義勇をベッドに寝かせると、自分はその端に腰をかけ、少し長めの義勇の髪を手で梳くようにその頭を撫でてやりながら、──炭治郎はいったいどうしてしまったんだ──と、優先度からして突き放すことになってしまった弟弟子について考える。
前世で同じ鬼殺隊に属する者として炭治郎と同じ任務についたことがある宇髄は、あれは前世の炭治郎とは別人だと思うと言った。
何かの比喩ではなく、中身がそのまま別の何かに入れ替わっている気がするとまで言う。
しかし見た目は炭治郎そのものだし錆兎とのやりとりの記憶もあったのだ。
義勇関連ならとにかくとして、錆兎との諸々は狭霧山のあの場所で…しかも錆兎は霊魂で炭治郎にしか見えない状態だったので、別人なら絶対に知ることはできない。
だからあれは炭治郎なのだ…と錆兎は判断していた。
ただ、そもそもが錆兎は炭治郎に関しては、剣術の鍛錬に対する姿勢以外のことに関してはあまり知らないので最初はそれほど違和感を持たなかったのだが、今、宇髄からあの現世の炭治郎が中等部の頃にやってきた諸々を聞くと、そうは言ってもやはり何かが違うと思った。
他人を陥れることで本来自分が身に着けていないことを身に着けているように見せると言うのは違う。
炭治郎じゃない。
彼もまた師匠の鱗滝先生の弟子が皆そうだったように、何か必要なことを身につける時は鍛えて鍛えて鍛えるしかない…という、いまどきの言葉で言うなら脳筋といわれる部類の考えを持った人間だ。
だからこそわからない。
物理的な事象は全て炭治郎が前世の炭治郎であることを示しているのに、精神的なものは錆兎の知っている炭治郎ではない。
ふむ……
他人を陥れることで本来自分が身に着けていないことを身に着けているように見せると言うのは違う。
炭治郎じゃない。
彼もまた師匠の鱗滝先生の弟子が皆そうだったように、何か必要なことを身につける時は鍛えて鍛えて鍛えるしかない…という、いまどきの言葉で言うなら脳筋といわれる部類の考えを持った人間だ。
だからこそわからない。
物理的な事象は全て炭治郎が前世の炭治郎であることを示しているのに、精神的なものは錆兎の知っている炭治郎ではない。
ふむ……
と、顎に手を当てて錆兎はうつむいて考え込む。
と、そんなことを考えていると、
──…ん……
と、ベッドについた手を義勇の手が握ってきた。
起きたのか?と思ったがそうではないらしい。
すやすやと眠ったまま、無意識に掴んだようだ。
まるで幼子のようなその行動に、思わず笑みがこぼれ出た。
義勇も頼光四天王の一人、卜部の血を継いでいて転生するたび祖先がそうであったように見事な弓の腕をしていたが、武器が弓で前に立つことがないからだろうか…少しおっとりとしたところがある。
いつもいつも刀を手に前に立つ錆兎の後ろで視界がどうしても狭まる錆兎の代わりに後ろで広い範囲を見渡す目にもなってくれていたし、盾役でもある自分が倒れれば後ろの義勇も死なせてしまうという緊張感がある種ぜったいに負けない無敵の自分でいなければという気概にもなっていたので、義勇を後ろに置いている時の自分は正直とてつもなく強かったと思う。
ただ、前世では義勇のほうが少しばかり成長しきっていなくて視界が狭かったし、錆兎はそういう部分はずっと義勇に依存していたので義勇がまだ足りない部分を自分が補足するということが出来なかったので、結果義勇が脱落、錆兎は自分自身が一人で命を落とす結果になった。
今生ではそのあたりも踏まえて鍛えていくつもりだったが、平和な世界な上に、そのあたりが義勇以上に強い宇髄が側に居たためあまり身についたとは言えず、結果、炭治郎の行動諸々に気づけず義勇を保護してやるのが遅れたのは猛省するところである。
なので、こんな風に義勇を疲弊させることになってしまった。
と、そんなことを考えていると、
──…ん……
と、ベッドについた手を義勇の手が握ってきた。
起きたのか?と思ったがそうではないらしい。
すやすやと眠ったまま、無意識に掴んだようだ。
まるで幼子のようなその行動に、思わず笑みがこぼれ出た。
義勇も頼光四天王の一人、卜部の血を継いでいて転生するたび祖先がそうであったように見事な弓の腕をしていたが、武器が弓で前に立つことがないからだろうか…少しおっとりとしたところがある。
いつもいつも刀を手に前に立つ錆兎の後ろで視界がどうしても狭まる錆兎の代わりに後ろで広い範囲を見渡す目にもなってくれていたし、盾役でもある自分が倒れれば後ろの義勇も死なせてしまうという緊張感がある種ぜったいに負けない無敵の自分でいなければという気概にもなっていたので、義勇を後ろに置いている時の自分は正直とてつもなく強かったと思う。
ただ、前世では義勇のほうが少しばかり成長しきっていなくて視界が狭かったし、錆兎はそういう部分はずっと義勇に依存していたので義勇がまだ足りない部分を自分が補足するということが出来なかったので、結果義勇が脱落、錆兎は自分自身が一人で命を落とす結果になった。
今生ではそのあたりも踏まえて鍛えていくつもりだったが、平和な世界な上に、そのあたりが義勇以上に強い宇髄が側に居たためあまり身についたとは言えず、結果、炭治郎の行動諸々に気づけず義勇を保護してやるのが遅れたのは猛省するところである。
なので、こんな風に義勇を疲弊させることになってしまった。
まだまだ未熟…と、自分の力不足を思い知りながら、
…前に立って直接対峙するのはお前の役割じゃないもんな。遅れてすまん…
と、錆兎は安心しきって眠る義勇を見下ろして心の中で謝罪した。
…前に立って直接対峙するのはお前の役割じゃないもんな。遅れてすまん…
と、錆兎は安心しきって眠る義勇を見下ろして心の中で謝罪した。
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