前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_15癒し

「義勇、大丈夫かっ?!」
慌ててタオルを手に駆けつけた錆兎が背中をさすってくれた。

今生ではまともに口をきいたのは昨日が最初の人間なのに、いきなり自分の家でもどされても嫌な顔一つせずにこうして心配して少しでも楽になるようにと動いてくれる錆兎は本当に優しいと思う。


ごめん…と言いたいのだが、そんな余裕もなく吐いていると、

「大丈夫。大丈夫だからな。
気にしないで良いから全部吐いて楽になれ」
と、義勇の気持ちを察して先回りしてそう言ってくれるので、なんだか気持ちが楽になった。


錆兎はカッコいい。

カッコいいから近くで見ていたいというのは確かにあるのだが、それ以上に何故だろう…側にいると安心する。
全てを理解し許容されている感がはんぱじゃない。

ありえないのだが、ずっと一緒に生きている感じがした。
懐かしくて和んで愛おしい。


錆兎の温かい手が背をさすってくれていると、かなりもどしたのもあってだんだん吐き気がおさまってくる。

そうして吐き終わると、錆兎が水をいれたコップを渡してくれたのでそれでうがい。
吐いたものを流すと、錆兎が手を貸して立ち上がらせてくれた。


「少しそのあたりに座って寛いでろ。
今、ホットミルクでも作ってやるから」
と、錆兎に支えられるようにしてリビングに戻ってふわふわの大きな座布団の上に落ち着くと、錆兎がそう言ってキッチンのほうへと消えていく。

そうしてわずかばかりの時間ひとりになって、義勇は中等部までの同級生達のことを今更ながら思い出していた。


幼稚舎から小等部、小等部から中等部と進学するたびに前年度までは交流のあった友人が離れていった。
新しい環境で見知った顔をみかけて嬉しくなって挨拶をしても、きまずげに避けられてしまう。

それは学校内だけではない。

何故か中等部になると小等部の、高等部になると小等部に加えて中等部の同窓会の招待状が届かなかった。

外部の学校へ進学した同級生もいたのでハガキで着ていたらしく、終わってから同級生が同窓会の時のことを話しているのを聞いて初めて知って、悩んだのだが一応幹事だった同級生に聞いてみた。

が、確かに義勇のところにも出したと言われてそれ以上追求できず諦める。


しかしそれからも何度か同窓会は開かれたようだが、義勇の元に同窓会の出欠ハガキが来ることは一度もなかった。



――もしかしたら義勇さんに同級生達が嫌がらせをしているのかもしれませんね…
そう言ったのは炭治郎だ。

そんな奴らといないでも自分といればいい。

そう言われたのだが、今にして思えば、幹事は毎年変わるし、小等部の6年のクラスと中等部の3年のクラスでは当然メンバーは違う。

幹事だった誰かが義勇のことを嫌っていてハガキを送らなかったとしても、毎回送られてこないのは不自然だ。


疲れているのだろうか…

色々わけがわからないなりに悲しかったこと、怖かったことなど諸々が思い出されて、なんだか心細くて泣きそうになる。

何か見えない悪意に追いかけられているような心細さに義勇がふるりと身を震わせていると、目の前のローテーブルにホットミルクの入ったきつね模様のマグカップが置かれ、錆兎が膝を抱えてしゃがむ義勇を包み込むように、義勇の後ろに座り込んだ。


「今回はちゃんと最後までお前を守れるように自制するから安心していいぞ。
ちゃんとお前の前にいて一生守ってやる。
お前には俺の後ろを任せるから、落ち着いてできることをやればいい」


“一生守ってやる”…という言葉に安堵した。

その、期間限定の仮ではなく、ずっと続くと言うことを示す言葉に気を取られすぎていて、義勇は“今回は”という言葉は流して意味を考えることは無かった。

“今回は”ということは、“前回”があって、その“前回”があるから“今回は”という言葉が出てくるということは、全く考えても見なかったのである。


ただただずっと続く関係にホッとして、

──ずっと一緒で…嬉しい…
と、思わずほわりと笑みを浮かべて言うと、後ろの錆兎は後ろから義勇の肩口に顎を乗せて

──ん。もう寂しい思いも心細い思いもさせないからな。とりあえず胃に何か入れておけ。
と、手を伸ばしてテーブルに置いたマグカップを取ると、義勇の手に握らせた。


蜂蜜が入ってほんのり甘いホットミルクはなんだか優しい味がして、義勇の胃と心を満たしていく。


さらにそこで続く

「本当はホットレモネードとかの方がすっきりするのかもしれないが、吐く時に酸味の強いものよりミルクの方が楽だからな」
と、身も蓋もない言葉が、壮絶に錆兎らしくて笑ってしまった。

義勇にはだいたい優しく時には甘いのだが、基本的には言い方は悪いがムードにかける真面目で現実主義者なところがある。

もっとも義勇はそんなところも含めて錆兎の事が完璧だと思うし大好きなので、今生でも変わっていないらしい錆兎の性格にホッとした。

そしてそんな義勇が愛した前世と全く変わらぬ錆兎が今生で義勇とずっと一緒に居てくれると言ってくれるなら、世界中が義勇の敵に回ったとしても何も怖いことはないのだ…と、義勇は中身を飲み干したカップをローテーブルに置くと、後ろの錆兎にもたれかかる。

そうして義勇は安堵のあまりいつのまにか錆兎の腕に抱えられたままで眠ってしまったのだった。


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