前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_14恐怖の電話

明日が週末だということもあり、このまま一人で帰すのは心配だと言われて泊まることになり、そこからは、錆兎の作ったご飯を食べ、錆兎の家の風呂を借りて錆兎が普段使っているシャンプーとボディーソープを使って、錆兎に借りたパジャマを着るという錆兎尽くしで、幸せすぎて死ぬかと思った。

もう錆兎が好きすぎて、いっそ錆兎になってしまいたいと思う。

錆兎の家はリビングと別に2つ部屋があって、一つはリビングにある以上に一面本棚な勉強部屋。
もう一つ寝室で、そこにあるのは一人で寝るには随分と広いベッド。
聞くところによるとダブルよりも広いキングサイズという大きさらしい。

まだ昼過ぎなのだが、真っ青だった顔色が錆兎の行動の諸々で一気に真っ赤になったせいか完全に病人認定をされて、食事が終わって風呂に入ると一気にそのベッドに放り込まれた。

普段ここで錆兎が寝てるのか…と、そう思うとそれだけでドキドキする。

ここもまさに錆兎づくしだ。
錆兎のベッド、錆兎の布団、錆兎の枕……

いちいちそんなことに動揺するのは本当に変態ぽいと思うものの、ついつい布団に顔をうずめて赤面してしまう。

今度生まれ変わる時はいっそのこと錆兎の布団か枕に生まれ変わりたい!!

…思考がそんな風にぶっとんだ方向に行っているのは、本当は体調不良なのか、それほどメンタルがやられてしまっているのかどっちだろう…。

錆兎の布団でゴロゴロと転がりながらご機嫌でそんなことを考えていると、寝室のドアのほうからコンコン!とノックが聞こえて、義勇は慌てて飛び起きた。

「あ~寝たままでいいぞ。
ちょっと確認を取りたかった」
と言う錆兎。

自分の部屋なのに自分以外が使っているとなるとちゃんとノックをするあたりが、さすが紳士、さすが俺の錆兎だ!と、義勇は感動した。

そう言えば前世でもとても男らしいが非常にきちんとした性格だったように記憶している。
鱗滝さんが礼儀とか礼節とかそのあたりのことを弟子達に厳しく躾けていたということもあったのだろう。

が、義勇はどうもぼ~っとした子どもで、それでも他人にはそれなりに出来ていたとは思うが、慣れた場所ではなかなかきちんと出来ていなかった。
錆兎が居た頃は義勇があれこれ言う前に錆兎が言ってしまっていたというのもその要因の一つだと思われる。

ともあれ、そんな思い出に浸っている余裕は、どうやらないようだ。
錆兎が手にしているのは制服のポケットに入れっぱなしだった義勇のスマホ。

そして錆兎は
「あ~…さっきから電話の着信がすごくてな。
メールもきてるみたいなんだが…」
とそれをちらつかせる。

そう、言うまでも無い。
どちらも炭治郎からだろう。

“あとで迎えに行きます”
と言うのをガン無視して帰ったのだから、まあ当たり前と言えば当たり前か。

どうしよう…どうすればいい?
自分でもわからずに困った目で錆兎を見上げれば、ちょうどそのタイミングでまた鳴り出す電話。

そこでスマホに視線を落として、錆兎は少し眉を寄せる。
それだけで自分の予測が正しかったことがわかってしまって、義勇はベッドの上で半身を起こしたまま、ブランケットをぎゅうっと握り締めた。

鳴り続ける着信音に義勇が思わず身をすくめると、
「まあ…出ないでもいいんじゃないか?大事な用事だったらメール送ってくるだろうし」
と、錆兎が気遣わしげに言うが、義勇は
「…早く終わらせたいから……」
と、首を横に振った。

そして錆兎は彼にしては珍しく少し躊躇しつつも、手を伸ばしてくる義勇にスマホを手渡す。
それを受け取って義勇は一呼吸置くと、通話をタップした。


そして聞こえる炭治郎の声。

『義勇さん、一体いまどこにいるんです?
教室に行ったらいなくて、保健室に行ったって聞いて保健室に行ったら体調崩して帰ったって聞いて心配しているんですけど』
と、その声音はやや固い。

抑揚はそれなりにあるのに、どこか温度を感じない声音。
なにかまとわりつくような探るようなそれに、背中に嫌な汗をかいた。

本能が何故か危険を訴えてくる気がする。

普段はいろいろに鈍感で空気を読むのが苦手な義勇だが、今は痛いほどまずい空気を感じて手が震えた。

本当のことは言えない、言わない方がいい…。
だが上手な嘘や言い訳を思いつかず、仕方なしに話題の方向性のほうを変えてみようと、

「炭治郎、今は授業中なんじゃないのか?お前、電話なんかしていて大丈夫なのか?」
と、気力を振り絞って動揺を押し隠して聞くが、

『義勇さんのことが心配ですし、俺も早退しました。
で、義勇さんは今どこにいるんです?』
と、炭治郎は飽くまで話題をそらさせてくれない。

そこで義勇が
「家に……」
と言いかけると、

『いませんよね?
戻った形跡もないし、制服のままどこに行ったんですか?』
と返ってきて、え?と思う。


「ちょっと待て…。なんで戻った形跡ないって…」

義勇の自宅はマンションだ。
自宅を出る時は窓はもちろんカーテンも閉めるし、当然ドアも閉まっているので表からはいるかいないかはわからないと思う。

インターホンを押して応答するしないで判断はできるかもしれないが、それを“形跡”と表現するのは変だろう。

そんなことを脳内で考えつつ、どう伝えようかと悩んでいると、炭治郎の口から衝撃的な言葉が流れ出た。

『義勇さん、学校に行く時は革靴ですけど、それ以外のプライベートは紺のスニーカー履いてでかけるじゃないですか。
でも今はいつものスニーカーは玄関にあるから履き替えてませんし』


え?!!
その返答は義勇の理解の範疇を遥かに超えていた。


何故義勇の自宅マンションの玄関の現在の様子を炭治郎が知っている??


一気に義勇の顔から血の気が引いた。

隣で錆兎が心配そうな顔で義勇を見下ろしている。
そして、義勇が思わず取り落としそうになったスマホを錆兎が義勇の手ごと支えてくれて、そのついでにスピーカーマークをタップした。

義勇が伺うように錆兎を見上げると、錆兎は黙って頷いて、ベッドの上で義勇の隣に腰をかけると、肩に手を回すように義勇の体も支えてくれる。

そこで義勇は気を取り直して聞いた。


──…炭治郎…お前、何で俺の玄関の様子を知っているんだ?


それに対しての炭治郎の返答はありえない。

『…俺は昔から義勇さんのことだけをずっとずっとずっとずっと見ていますからね…。
一日中ずっと義勇さんのことを考えてるので、義勇さんのことならなんでもわかるんですよ』


一日中……。

その言葉に背筋に冷たいものを感じて目の前が暗くなる。
錆兎が支えていてくれなければ、今にも倒れそうな気分だ。

「一応聞くけど…お前、今どこにいるんだ?」
平静を装おうとしても声が震える。

『えっと…義勇さんのマンションの向かいのマンションの屋上ですよ。
ここからだとちょうど義勇さんの寝室の窓がよく見えるんです』

その言葉を聞いた瞬間、義勇は反射的にプツっと通話終了を押していた。



なんでそんな場所にいる?

何故そこから自分の寝室がよく見えるなんて知ってる?

それより何故玄関に普段履いてるスニーカーが置いてあるなんて知っているんだ?



もう限界だった。

義勇は錆兎の手から抜けだして、トイレへ駆け込む。
そして胃の中の物を全て吐き出した。


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