前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_13錆兎の家

学校の最寄り駅からは電車で3駅。
義勇の自宅マンションはそこからさらに電車で2駅だが、今日はそこで降りた。

義勇は始めてその駅で降りたが、駅はターミナル駅ほどではないが小さな駅ビルになっていて、2方向にある改札を出ると、それぞれに色々な店が立ち並ぶ商店街になっている。

義勇の自宅マンションのある駅の周りは小さなスーパーとコンビニくらいしかない静かな住宅街だが、たった2駅違うだけでずいぶんと違うものだと思った。

「ちょっと買い物してくな」

と、錆兎は当たり前に商店街の中の八百屋や魚屋に寄ってサラッと買い物を済ませると、自分と義勇のカバン、そして買った物を入れたエコバックを手に、

「ごめんな。待たせたな」
と、また義勇の手を取って歩き始める。


そうして道々

「俺も義勇と同じく一人暮らしなんだ。
小学生の頃に親を事故で亡くしてな。
中学までは爺さんとやっぱりその事故で両親を亡くした従姉妹と3人で一軒家に住んでたんだけど、高校入ったタイミングで従姉妹が就職したからってことで、爺さんが所有してるマンションで従姉妹と隣同士で住んでる。
で、爺さんはそれまでセーブしてた仕事に戻って、全国を飛び回っているんだ。
ちなみにその従姉妹がうちの養護教諭の真菰な」
などと、現状について話してくれた。

なるほど。
真菰は苗字が鱗滝だから、錆兎と真菰の祖父と言うのは、前世の師匠、鱗滝左近次先生なのだろう。
従姉妹といっても苗字が違うのは、錆兎にとっては母方の、真菰にとっては父方の祖父にあたるというところか…。

錆兎と従兄弟同士なんて、ものすごく羨ましい。
義勇みたいに理由がなくともずっと一緒にいられるし、さらに一緒に住んでいたということは、赤ん坊の頃の錆兎、幼児の錆兎など、義勇の知らない幼い頃からの錆兎を見放題だっただろう。

そんなことを考えながら活気のある商店街を抜けて、駅近くの6階建てのマンションのエントランスで錆兎が部屋番号が並ぶ下にある鍵穴に鍵を入れてカチッと回すと開くドア。
中に入ってエレベータに乗ると5階のボタンを押した。

「さっきも言った通り、隣には真菰が住んでるけど、俺の部屋は一人暮らしだから気を使わないでも大丈夫だからな」
と、チャリチャリと指先にひっかけた狐の面のマスコットのついたキーホルダーを鳴らしながら錆兎が言う。

平和な世界の高校生として笑っている錆兎の手にあるその狐は前世の面と同じく錆兎を模した物で、おそらく鱗滝先生は前世の記憶があって錆兎に作ってやったのだろうと思うと、なんだか切ない思いが胸にあふれた。


チン!と音がしてエレベータのドアが開く。
その先には温かみのある薄い茶系の壁に同色の床。
左右に5つずつ並ぶドアは壁よりは少し濃い茶のドアで、錆兎の部屋は一番奥の角部屋だった。

「誰かを呼ぶ予定もなかったから散らかってるけど気にしないでくれ」

鍵を開けてドアを開き、そう言いつつ中に促す錆兎だが、その言葉は明らかに社交辞令だろう。

玄関には他の靴がないところを見ると、おそらく全て横に備え付けの靴箱に収納されているのだろうし、玄関を入ってすぐの塵一つない廊下には、錆兎自身のものであろうシンプルな濃紺のスリッパが進行方向に向けてそろえておいてある。

そしてそれに足を通すとすぐ、横にある棚からきちんと収納されていた来客用のスリッパを出してくれる錆兎。

一人暮らしの男子高校生にしては随分と几帳面な印象だが、錆兎は元々そういうところはきちんとしている少年だったし、今生でも鱗滝さんと暮らしていたとしたら、彼もまたそのあたりには厳しい人だったので、この几帳面さも納得できた。


「風呂とトイレはそれぞれ左側な。
玄関から向かって手前のドアがトイレで奥のドアが風呂。
で、風呂の正面のドアは洗濯機。
乾燥機と一体型だから、一応今日義勇が使うように新品の下着だすけど、かぶれたりしたらアレだから、一度洗うな。
乾燥機にいれたらすぐ乾くから、風呂入るまでには使えるから」

と、錆兎は洗濯機の横の棚から袋に入ったシャツとパンツを出して、洗剤と共に洗濯機に放り込んでスイッチを入れる。

もうなんというか手際が良過ぎて、口を挟む隙がない。

その後、脱衣所にもなっているらしい風呂のドアを開けた先にある洗面所で手洗いうがいをしたあと、廊下を奥へ進むと突き当たりはリビング。

10畳ほどのフローリングの部屋の中央に茶のラグを敷いて、その上に黒いローテーブル。
実はこれ、コタツテーブルらしく、冬はコタツにしてくつろぐらしい。


──そろそろコタツにしても良いんだけどな。
と言いつつ、錆兎はテーブルの四方に無造作においてある座布団の一つを義勇に勧め、

「ちょっと買ってきた物を冷蔵庫にしまいがてら何か入れてくるから待っててくれ」
と言って左手のカウンターの向こうのキッチンへ。

それを見送って、義勇はあたりを見回してみる。


この部屋にはコタツのほかにはテレビ台に乗ったテレビと大きな本棚。
本棚の中には様々な本が分類ごとにきちんと整理されて収納されていた。
剣道関係のほかに歴史や植物、コンピュータ…料理本まである。

これが今生の錆兎の興味の対象なのか…と、思わず種別をチェックしていると、

「あ~、何か読みたい本があったら読んでいいぞ」
と、後ろから声がかかる。

その声に振り向くと、温かいお茶と一人用の土鍋、そして何品かの副菜を乗せた盆を持った錆兎が立っていた。

「…それは?」
と、土鍋に視線を向けると、

「ん?ああ、たまご粥な。
一人暮らしってことは、昼は購買ででも買うつもりだったんだろ。
体調悪そうだし、昼は消化に良いものが良いかと思ってな。
副菜は今日の俺の弁当に入れた残りで悪いが…」
と、ローテーブルの義勇の側にトレイを置き、自分は学生カバンから弁当箱を出す。

「…錆兎は…自分で弁当作ってるの?」

義勇はさすがに前世の記憶もあるので前世で24年+現世で15年と、39年間分生きた経験があるので料理が全くできないということはないが、自分のためだけに料理をするという気は起きず、食事はほぼ出来合いの物を買って、昼は錆兎が言うとおり購買のパンですませていた。

錆兎は驚いたように目を丸くする義勇の頬にそっと温かい手を伸ばして優しく触れると、

「健康を保つには栄養バランスの良い食事と規則正しい生活からだからな。
義勇はなんだか身体強くなさそうだし、これからは俺がちゃんと作ってやるからな」
と、笑みを浮かべる。


顔が熱を持ち、脳が沸騰した。

今自分は絶対にゆでだこのような顔をしている…

そう思うと、そんな顔を錆兎の目に晒すのは恥ずかしすぎて思わずうつむくと、錆兎はフッと笑って

「お前は本当に可愛いな…」
と言いながら、本当に一瞬、すべるように義勇の頬に唇で触れた。

その錆兎の行動にもうパニックどころの話じゃない。
義勇の頭の中はどっかんどっかん大爆発だ。

なのに錆兎は全く動じることもなく、

「とりあえず飯食おう」
と、義勇の手にレンゲを握らせた。


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