前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_11不安

一方で一年の教室。
義勇は授業に集中できず、教室の前方の掛け時計と教室のドア付近を何度も視線で往復している。

まあ、休み時間のたびに訪ねて来られるのはいつものことなのだが、今回は朝にあんな状況だったにも関わらず、まるで何もなかったかのように送ってこられた――あとで迎えに行きますね――と言うメールが不気味で怖すぎた。

会いにではなく、迎えに…という言葉もよくよく考えてみれば怖い。

いや、炭治郎はそんな深い意味がなく言葉を使っている可能性のほうが高いのだが、国語的には“会いに”と違って“迎えに”というと、何処かに連れて行かれるという意味合いがある気がする。

不死川は宇髄と錆兎がなんとかしてくれると言っていたが、本当になんとかしてくれるんだろうか…

宇髄はとにかくとして錆兎を疑うなんてことはありえないが、それでも今までの経験が経験過ぎて、見限られたらどうしようという不安がぬぐえない。



幼稚園の頃…転園した年中の間はずっと炭治郎が張り付いていて本当に友達が出来なかった。

1年後…炭治郎が卒園、小学生になって幼稚園から居なくなると、ようやくちらほらと出来た友達。
同じ小等部に進むからずっと友達でいような、と、言ってくれた彼らは実際に小等部にあがるとほとんどが離れていく。

一部それでも一緒にいてくれた少年達もいたが、1ヶ月、2ヶ月と時が経つと共に減り、最後の一人も3ヶ月後には、何故か──ごめんな──という言葉を残して距離を置くようになった。


そして誰もいなくなった同級生の友人達。

何故離れて行かれたのかも本当のところはわからないので、義勇は親しく接してくれる相手が出来ると嬉しいよりも離れて行かれたらどうしようという不安が先立つようになる。

そして5年後…義勇が6年になった時に炭治郎はまた中等部へ。

その年にたまたまなった図書委員でよく一緒の当番になる少年と友人と一緒になり、その友人は義勇と違って友達が多く、その友人つながりで一気に友達が増えた。


しかし中等部にあがるとまた何故か皆ぽつりぽつりと離れていく。
二度もそんなことが続くと、さすがに義勇も何故だろう?と思う。

漠然とおかしいとは思っていたものの、相談する相手もいなくてぽつねんとする義勇にこっそりとそれを教えてくれたのは、中等部でやっぱり一番最後まで一緒にいてくれた、図書委員で最初に友人になった少年だ。

中等部に進級して2ヶ月もたった頃、皆が離れても一緒にいてくれたその最後の友人が、小等部の頃のように、最後に

──ごめん…もう一緒に居られない。本当にごめんな?──
と言って去っていったのだが、そのときに

──俺…何かみんなにしちゃったのかな?──
と、どうしようもないことだが肩を落とす義勇に

──本当は言っちゃいけないらしいんだけど…義勇は悪くないしせめて理由を知りたいよな──
と言って、こっそりとメールで教えてくれた。


友人いわく、義勇の周りの友人達に…義勇と一緒にいると不幸になる…というメールが一緒に居るあいだ毎日のように届いたらしい。

それほど親しくないあたりはその時点で離れていって、それでも離れなかったあたりには実際に物がなくなったり壊されたり、電車を降りて気づいたら制服が切られていたり、マジックか何かで汚されていたりしたらしい。

その友人はそれでも満員電車に乗らないとか対策を取っていたらしいが、休日に人がにぎわう交差点でいきなり車道に突き飛ばされてあやうく車に轢かれそうになったところで、さすがに命の危険を感じて諦めたのだと言われた。


誰か個人の嫌がらせというには何人もが違う場所で同じくらいの時刻に被害にあっているのでおかしいし、学校外や他の人間が居ないところで話した内容などがメールで送られてきたりするので、もう一般の学生がどうこうできるレベルじゃない気がすると、友人は言う。

そのメールでは絶対に義勇には言うな、言ったら命の保障は出来ないとあったので、皆黙って距離を取ったのだそうだ。

だから高校ではもう友人作りは諦めていた。
誰かを危険な目に合わせるわけには行かないと思う。


だが、宇髄達なら……今生では高校生をやっているにしても、前世の鬼殺隊の柱だ。
簡単にやられたりはしないだろう。
錆兎だって今生では一般人をやっている義勇と違って剣道の道を極めた全国大会の優勝者だ。

そうは思ったのだが、それはそれ。

考えてみれば物理的に振り払えるとしても、そんな厄介な何かを背負っている義勇を面倒に思わないだろうか……

義勇には確かに彼らが必要だが、彼らには義勇は必要じゃない。

そう気づいてしまうと、ああは言ったものの本当に錆兎と宇髄が全ての問題を解決するために動いてくれるのか、不安になった。


錆兎が自分を見てくれて声をかけてくれて一緒にいてくれて本当に嬉しかった分、大好きな錆兎に離れて行かれるのが怖い。
錆兎に見限られたら…そう思うだけで心臓がズキズキ痛んで、泣きそうになる。


本当に…今までこんな面倒なことになっている義勇から離れていかなかったのは、不本意ながら炭治郎だけだった。

まあ、高校に入るまでは、ややしつこすぎると思いつつも、まだ良かった。

でも本当に本当に、高校になって求愛されるようになってからは、もういっそのこと他に嫌がらせか脅迫か何かをしている奴に追い払って欲しいくらい面倒になってくる。

逃げても逃げても笑顔で追って来る。

炭治郎がこないうちにとホームルームが終わったらダッシュで下校したら、後ろから追って来る足音がして、ふと振り向くと息を切らして読めない笑みを浮かべて立っている炭治郎がいて、思わず悲鳴をあげそうになった。

何か文句なり恨み言なりを口にするならまだしも、本当に何事もなかったかのように、はぁはぁ息を切らせながら横を歩くのが不気味すぎて恐ろしい。

ああ、思えばもう義勇も限界だったのだろう。
最初に告白された時も、困るとか嫌だとか言うより先に、逃げたいと思った。

前世の兄弟子である自分を慕ってくる弟弟子に対してずいぶんひどい事をと思いつつも、怖い、気味が悪いといったん思ってしまうともう駄目だった。

そんな時に助けの手を差し伸べてもらえたのは、本当に嬉しかったのだ。
涙が出るほど嬉しかった。
そのくらい義勇はまいっていた。

その相手が前世からずっと思いを寄せていた相手だなんて、本当に今生の不運や不幸が全部帳消しになるくらいの幸せな出来事である。

でもそんな物語の中の出来事のようなことが、早々あるわけがない。
本当に幸せな出来事は一瞬で消えうせてしまうかもしれない…。


――あとで迎えに行きますね。
またちらりと携帯を見てしまう。

何を考えてこんなメールを寄越したんだろうか…
本当に真意が読めなさ過ぎて不安感が煽られる。

いつでもどこでもあの読めない笑みを浮かべながら出てきそうな気がして、恐ろしさに叫びだしたくなった。

授業時間は刻々と過ぎていき、時計に目をやると短針が授業終了まであと10分のところをさしている。

「冨岡…大丈夫か?真っ青だぞ?保健室に行くか?」
と教師に言われるが、人がいない所は怖い。

だから
「いえ、大丈夫です」
と、首を横に振った。


そうこうしているうちに授業が終わり、休み時間。

迎えにくると言っていた“あとで”と言うのがいつなのかわからないので、義勇は自分の席でジッと固くなって座っている。
自分のクラス以外の教室に入ることは禁じられているため、断固としてここから動かなければ問題ないはずだ。
こういうことになってくると、自分の席が廊下側でなくて良かったとしみじみ思う。

そうして2分もしないうちに、突然入り口のほうにざわめきが起こった。


──本校トップ123だ…
──1年に何の用だろう…
と本校組が言うのに、

──それなに?
と聞く壱校&弐校組。


──本校はどの学年も結構熾烈なトップ争いするんだけどさ、1学年上だけ毎回トップ3が一緒だったんだ。で、その3人は本校トップ123て呼ばれてる。

と、本校組が答えている間に、

「お~い!義勇、大丈夫か?」
と言う錆兎の声が聞こえた。


義勇が不安に青ざめた顔を上げると、錆兎の笑顔が消える。

そして、どうやら通りかかったらしい教師に向かってだろう。

「先生、非常時なので2A渡辺錆兎、少しだけ1年A組の教室に入ります!」
と言いながら、有無を言わさず教室内に入り、義勇の前まで来ると、

「顔色真っ青だぞ。保健室行くぞ」
と、これも本当に全く抵抗する間もなく椅子ごと義勇を自分のほうに向かせると、なんと驚いたことに義勇の膝裏に手を入れて、軽々と横抱きに抱き上げた。

その行動にさらにざわめく教室内。

義勇はあまりの展開にやっぱり固まったまま。
錆兎とどうやっても密接しているので、ふわりと錆兎が使っているらしい制汗剤の匂いがする。

筋肉質な腕や胸、すぐ上を向けば錆兎の男らしく整った顔があって、先ほどまで青ざめていたはずの義勇だがなんだかドキドキしてきて顔が火照ってきた。


一体何が起こってるんだ?と大騒ぎなクラスメート達には、宇髄がどうやら錆兎と義勇が付き合い始めて、朝方に調子が悪そうだったのを心配して様子を見に来たのだと説明している。

教室中の人間に知らせると言うことは、錆兎は本当に義勇のことを本気で助けてくれるつもりなのだろう。
そう思うとなんだか先ほどまでの不安が消えて、体中が安心感で満たされた。



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