前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_10根回し

――あとで迎えに行きますね。
という1本のメール。

義勇いわく、おそらくわざとじゃない、単に大雑把で自分の脳内ではわかっている”あとで”の前につく言葉を相手もわかっていると思い込んでいるだけだ…という、この傍迷惑なメールは、錆兎達を大いに悩ませた。

それをわざとじゃないと判断した義勇ですら何の“あとで”なのかまではわかっていない。
しかしとりあえず炭治郎もどきと義勇を二人きりにさせるのは非常によろしくないことだけは確かだ。

かと言って…授業をサボって見張るわけにも行かないので、義勇には呼ばれても3人のうち誰かが来るまでは絶対に教室内を出ないように言い含めて、授業が終わり次第1年の教室へダッシュすることにする。

ついでに…義勇が錆兎と付き合い始めた事、さらに、錆兎があまりよく思わないので、義勇が必要な場合以外は他の人間と二人きりになる状況をあまり作らせないようにしたい旨を、他学年にも友人知人恋人候補などなど知り合いの多い宇髄がそれとなく広めさせようと言う事になったのだが……脳筋はひと味違った。

常に正々堂々としてきた彼の辞書には”それとなく”なんて文字はない。

生徒に…どころの話ではなかった。

全く隠す気もないのか、全校に知らしめるつもりなのか、錆兎は担任である数学の教師が教室に入ってくるなり

「先生、今日は極力時間通りに授業を終了してもらえるとありがたいです」
と、手を上げて言ったのだ。

「お前…唐突だなぁ、おい…。
試験前だから部活ってこともないだろうし、何かあんのか?」
と、授業はたびたび休み時間にかかる勢いで伸びることが多いが、基本的には気さくで生徒とも仲の良い担任は、元々が真面目な錆兎の発言ということもあり、驚きはするものの気を悪くする様子もなく聞いてくる。

すると、普通なら適当に隠すなりごまかすなりするところだろうに、錆兎は馬鹿正直に

「現在交際中の下級生が少し悩んでいることがあって、休み時間は極力側に居てやりたいので。
念のため…交際自体は高校生らしく節度を持った交友関係と思って頂いて大丈夫です」
と、さすがに具体的には言わないものの、本当のことを言ってのける。

あまりに堂々と言うので、錆兎の元々のきちんとした性格もあって、交際云々についてはスルーらしい。

担任は
「あ~…その悩みってのは、校内のいじめとか、そういう学校も対応が必要なことではないよな?
いま、その手のことを放置だと社会がうるさいからなぁ…。
何か学校側の対応が必要な状況があれば早めに言っておいてくれ。
じゃ、今日は延びないように授業をちゃっちゃと始めるぞ~」
と、当たり前にその申し出を受け入れて、普通に授業に入った。


(なあなあ、あの錆兎が付き合ってるって誰だよ?)

と、ひそひそと…授業が始まってしまうと私語なし集中な錆兎と実弥からは聞けないからと、幼馴染の宇髄に質問が飛んでくる。

(あ~、一年の冨岡義勇な)
と、宇髄はそれに乗ってこれ幸いと二人の交際を広めることにした。

(あの錆兎を落とすってすげえな)
(冨岡?どんな奴だっけ?)
(あ~、知ってる!すっげえ綺麗な顔した大人しいやつ)
(錆兎面食いだったのか)
(いや、どっちかっていうと大人しいって方が重要なんじゃね?
錆兎、面倒見のいい奴だから…)

(あ~知ってるわ、そいつ。
錆兎ってよりC組の竈門とよく一緒にいたやつじゃね?)
(竈門って弐校では結構できる奴だったって話じゃね?
相手、竈門捨ててもっとできる錆兎に乗り換えた?できる奴キラーか?)

(いや…竈門って裏では良い噂聞かねえぞ?
成績は並みだし、できるって言われてのは委員会や部活で長やってたからだろ)

(勉強イコールできる奴とは限らないんじゃね?
集団で長やれるなら、それはそれで優秀)
(…ん~、でも長なんて立候補だから、自分がやりたきゃできる)

(でも下級生の世話結構見てるだろ)
(それについては物申したい。あいつは自分の評価あげるために前年度までの長が残したものも全部廃棄して、わざと自分に口頭で聞くしかない状況作って頼っているように見せかける奴だ。俺の弟も委員会でそれやられた)

(まじかっ!そこまでやるか、普通)
(あ~…うん、そう言えば、例の冨岡もなんか竈門が一方的に付きまとってる感があった気がする…)
(もしかして…錆兎、それみかねて介入したらハマッたってやつじゃね?)

(はい、それ正解な)
と、そこまで話が進んだ時点で宇髄が介入した。


(マジっ?!)
(あ~…まあ、錆兎らしい展開だな)

錆兎の幼馴染の宇髄が言うなら本当だろうと、もうそのあたりの人間は授業そっちのけで宇髄に視線を向ける。

(俺も現場にいたから。
元々な、冨岡は結構じ~っと錆兎に熱い視線向けてくるやつで、錆兎はまあ、ああいう奴だからそういうのも慣れてて、微笑ましいなくらいに思って視界には入れてたんだけどな。

昨日、職員室で竈門から逃げるように日直の日誌届けに来て、泣きそうになってたから錆兎が声かけてな、3人で廊下で待ってる竈門に見つからないように連れ出してやって、事情聞いたらもう号泣で…。

で、錆兎がほだされたってわけだ。
あっちは元々錆兎に憧れてて、錆兎も元々ああいう大人しいタイプ好きだしな)


(もしかしてさっき錆兎が言ってた悩みってのもそれ?)
(そそ。お前らも協力してやってくれ。
あ~、佐藤は去年の貸しってことで、特によろしくな~)

(貸し?佐藤なんかやらかした?)
(もしかして今言ってた弟のこと?)

一同の視線は名指しされた佐藤に向かう。
それに対して佐藤の視線はまっすぐ宇髄へ。

(あ~…もう宇髄のことバレても良い感じ?)

(おう。表立って動くことになったからな)
と、それに対して宇髄の許可がでたところで、彼は

(去年、弟が全部の資料捨てられて呆然としてたところに、宇髄が竈門の前の年の委員長と連絡とって、前々年度までの資料のデータを手に入れて助けてくれたんだ)
と、明かすと、クラスメートの意思が一つになった。

(俺もなんか協力してえわ。出来ることあったら言ってくれ)
(俺、弟が冨岡と同じクラスだから、それとなく根回ししとくわ)
などなど、協力を申し出る声があがってくる。

こうして授業終了後、ダッシュで教室を出る錆兎と宇髄と不死川をクラスメートは声援と共に見送った。


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