前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_9戦闘開始

放課後で、さらにテスト前一週間ということで部活が禁止されているため、誰もいない廊下。
宇髄が4階にあがる途中で前を行く不死川の姿が見える。
そこで宇髄の足音に気づいた不死川は足を止めて振り返った。


「おい、結局なにが起こってんだ?説明しろォ」
と、言う不死川の腕を取り、先にこれまで全く説明をしていなかった事情を説明しようと、宇髄は4階を通り越して、屋上に続く階段をあがって4階と屋上の間の踊り場のあたりでカバンを置いて階段に座り込んだ。

そうして自分と錆兎の平安からの付き合いから、前世のこと、錆兎と義勇のこと、そして今生での炭治郎のことなどを話して聞かせる。

「あぁ~~そういうことなのかよぉ…。
なぁんか今生の冨岡って、なんか冨岡っぽくなくて気味悪ぃというか…記憶がねえからあんなんなのかと思ってたんだが、実は今のが地かぁ?」

「そそ。元々は弟根性マックスでほわほわした良いとこのお坊ちゃんだ。
大正時代は錆兎の奴がポカやってさっさと死んじまってな。

お前も聞いたことねえか?
藤襲山の鬼をほぼ全部一人で倒した末に死んだ伝説の男。

あれ、錆兎だったらしいぜ?
すさまじい数斬ってたら刀の方が限界来てぽっきり折れて最後の鬼に殺されたらしい」

「まじかっ!」

「まじまじ。あの脳筋らしい行動だけどな。
で、同じ師匠についた兄弟弟子として転生してた義勇がそれでおかしくなっちまったってわけだ。
あのちょっと足りないんじゃねえかと思うくらいぽわぽわしたキャラと違いすぎて、知ってるはずの俺でさえ似た面差しの別人だと思うくらいにおかしくなってた」

「そいつぁ…あ~…仕方ねえけど、知ってたらもう少し対応も考えた気ぃするなぁ…」
と、根は面倒見がよく気が優しい長男な実弥は過去の自分の対応に今更ながらに罪悪感を感じたらしく、少し気まずそうに頭を掻いた。

確かに…平和な世界でも前世と同じく大勢の弟妹を持って幸せそうに面倒を見ている実弥のことだ。

前世で最愛にして信頼をしきっていた相手を失くして心を壊してしまった元々は甘えたな弟気質の少年だとわかってそれを前にすれば、さぞかしよく面倒を見ただろうと、宇髄も思う。

ともあれ、過ぎた時代のことは今更悔やんでも仕方が無い。
問題は今生だ。

「そう思うなら今生でその分助けてやってくれや。
厄介な邪魔が入るしな、色々」

「おぅ」
と、実弥もしっかりと巻き込むことにして説明を終えると、宇髄は実弥と共に美術室に荷物だけ届け、鍵は翌朝に返してもらうことにして錆兎と義勇を置いて実弥と帰路につく。


もちろん錆兎がいきなり対応を変えた理由などは、帰宅後に電話をしてきいてみた。
いわく、あの日、廊下で義勇の声が聞こえて耳を済ませていると、なんだか炭治郎と言い争っているような状況のやりとりが聞こえたらしい。

宇髄は耳がかなり良いほうだが、それでもそんな声には気づかなかったので、錆兎は義勇に関してはもう、人外なレベルの耳の良さなのだろう。

まあ、義勇も常に錆兎を気にしているが、これまでの人生の中で、義勇の方は先祖が弓の名手だったからだろうか…耳というよりは目で追っている気がするが、錆兎はだいたいにおいて遠距離武器の義勇を後ろにかばうように自らが前に出ることが多かったため、聴覚や気配など、視覚以外のところで気にする傾向があるような気がする。

まあ、そのあたりはおいておいて、それで案の定、義勇が職員室に入ってきたことでその存在を確認し、どうやら用事を済ませたあとも入ってきた前方の扉を気にしながら、どこか出て行きたくないような素振りをみせていた時点で確信したと言う。

炭治郎といることが義勇の幸せではないどころか、不幸せの原因になっているらしい…そう判断してしまえば、元々決断の早さには定評のある錆兎は行動も早かったというわけだ。

──炭治郎避けに義勇と仮に付き合うことにした。でもひとたび一緒に居始めれば、俺達のことだ、すぐ仮にというのも取れるだろうな。

そんな錆兎の報告を聞いて、宇髄は心の底から安堵したしすっきりした。

おそらく今までの諸々からすると、炭治郎もどきに影で嫌がらせの限りを尽くされるかもしれないが、そのあたりは錆兎が義勇を抱え込むと決めてくれたら、あとは自分に任せておけと思う。

錆兎の許可を得た上で、そのあたりの報告は実弥にも流して、翌朝は何かあったときのためにと、宇髄は早めに学校に行くことにした。

そしてこれは正解だったらしい。


試験一週間前で部活も休みなせいで、駅からの道もほぼ学生はいない。

そんな中、早足で学校の校門をくぐると、まあ、お前ら何やってる?朝っぱらから青春だなぁ、おい!とでも言いたくなるような光景が繰り広げられていた。

炭治郎と言い争う錆兎…の後ろに、ヒロインよろしく庇われている義勇。


もう笑いたくなるくらいお約束な場面に、宇髄が

──お~。なんか揉めてる最中かぁ?
と、声をかけると、炭治郎は露骨に嫌な顔をし、錆兎はわかりやすくホッとした顔をした。


「あ~、宇髄、いいところに。
俺は炭治郎と少しばかり話があるから、義勇を部屋に連れて行ってやってくれ。
そろそろ寒くなってきたし、風邪でもひいたら大変だしな」
と言う錆兎の言葉に

「おう、じゃあ行くか~」
と、宇髄は義勇の背に手をやって校舎内へと促す。

「ちょっと待って!勝手に決めないで下さい!」
と、それに炭治郎が気色ばみ、義勇は少し困った顔を錆兎に向けるが、錆兎はその視線に気づいて振り返ると、

「ああ、大丈夫だ、義勇。
これは“俺と炭治郎の話”だから。
宇髄は俺の幼稚舎からの親友で色々事情も話してあるから安心して行け」
と、笑いかけたあと、

「そういうわけで、宇髄、義勇を頼む」
と、さっさと行けとばかりに宇髄をうながした。

「行くぞ、富岡」
と、もうここで色々言っていても埒が明かないので、宇髄はやや強引に義勇を連れて校舎内へと向かう。


「あの…」
「あ~、話はあとでな。ちょっと色々考えてっから」

義勇と共に校舎内に入ると、宇髄はとりあえず1年の教室にカバンを置かせに行く間に、授業が始まるまで義勇をどこに保護するかということについて考え始めた。

一人にすれば炭治郎が来るだろうし、教室では他の生徒も来るだろうから揉め事もいやだろう。

できれば炭治郎に見つからない場所がいいのだが、自分の姿を見られたということは、美術室にもチェックが入るかもしれない。
そもそも昨日貸したまま美術室の鍵を錆兎から受け取っていないので、その選択肢は使えない。

…とすると…と考えながら、義勇のカバンを置いたあとに自分のカバンを置きに二年の教室に行くと、まあ本当に律儀にもありがたいことに、すでに不死川が来ている。

「さねみちゃ~ん!俺、お前のそういう律儀なとこ大好きだわっ!」
と、思わずふざけて抱きつくと、
「気色悪ぃ!!」
と、容赦なくどつかれた。

ともあれ、宇髄が相談すると、実弥は

「ん~~、じゃあ数学準備室行くかぁ…」
などとありえない提案をし始めた。

「はぁ?お前、なんでそんな所使えんのっ?!!」
と、さすがに宇髄が驚いて言うと、実弥はあっさり

「あ~、数学の山ちゃんの手伝いよくするから?
数検を受ける生徒向けの補習授業のプリントの相談に乗ったりな。
その関係で資料の貸し借りもしてっけど、数学は少人数のクラスも担当と違うし会えないことが多いと互いにいちいち返すの大変だから準備室にまとめておいてあんだよ」
と、言いつつ立ち上がる。

さすが数学の天才と呼ばれる男。

当たり前にポケットのチェーンにつけた鍵をチャリチャリさせながら、先にたって歩き始めた。


その実弥にぽかんと口を開けたまま半ば呆然とした視線を送る義勇。

確か前世の記憶がないと聞いていたので見た目怖かろうと思い、

「あ~、あいつは不死川実弥っつってな、あんなおっかなそうな顔してるが下に6人の弟妹がいる面倒見の良い兄ちゃんだから、怖がらなくてもいいからな。
俺と同じく錆兎とも幼稚舎からの親友で仲がいいし…」
と、フォローを入れてやると、錆兎の名が出た途端、

「そうか…錆兎の…」
と、うつむきがちにそう言うと、素直に宇髄と並んで実弥の後について歩いた。


こうして錆兎に数学準備室にいる旨をlineして、おずおずと落ち着かない様子で宇髄と実弥を交互に見ている義勇に、実弥は苦笑。

「あ~、まあ、これでも食って落ち着けぇ」
と、ポケットから何故か大きいまん丸の飴玉を出して、それを義勇の小さな口にコロンと放り込んでやる。

そうしてリスのようにほっぺを膨らましながら飴玉を口の中でころころしている義勇の頭をクシャリと撫でると、

「錆兎が来るまで暇だし、幼稚舎からのあいつの諸々でも話してるかぁ」
と、子どもの頃からの錆兎を含めた自分達のエピソードを語り始めた。

それを飴玉をなめながらキラキラした目で聞いている義勇は、さながら紙芝居屋に来ている子どものようで、なんのかんので弟心を瞬時に掴む実弥の手際に、宇髄は感心する。
たかが長男、されどお兄ちゃんだ。

こうして実弥の絶妙の弟あやしで緊張させることもなく待っていると、しばらくして義勇のスマホに着信音。


おそるおそる覗く義勇に

──もしかして炭治郎からか?
と、宇髄が聞くと、頷いてスマホをみせてくる。

本文なしのタイトルだけのメール…
──あとで迎えに行きますね
とだけ。

いつ、どこに?というのはない。

「あとでって…いつだよ」
と、ため息をつく宇髄。

「あ~、返事はしないで放置でいいぞぉ。
あとは錆兎と宇髄がなんとかする」
と、実弥はまず対応に悩む義勇に声をかけてやる。

義勇がそれにコクコクと頷くと、数学準備室のドアが開いて錆兎が駆け込んできた。


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