錆兎や不死川、そして善逸とはそれなりに楽しくやりながら、宇髄は2年に進級していた。
そしてそれと同時に1年に入ってきた顔ぶれを見て、例の弐校の同級生の話を聞いて、炭治郎もどきの行動の理由を悟る。
冨岡義勇…大正時代の前世の同僚。
鬼に家族を殺されて妹も鬼にされた竈門炭治郎を任務で助けて以来、えらく懐かれていたと記憶している。
義勇にとってはおそらく、それにプラスして、妹を助けるために鬼殺隊士になりたいという彼を自分の師匠に紹介した縁で兄弟弟子になったという認識で、その二点から懐いているとしか思っていなかったのだろうが、その手のことに敏い宇髄からすれば、炭治郎の義勇への好意は、そういう恩義や親愛というものを超えたものに見えた。
そして実際そうだったのだろう。
今生では同じ幼稚舎の一学年下に転生した義勇をわかりやすく他を牽制し追い払いながら抱え込んでいるらしい。
おそらく炭治郎が周りからの評価にこだわるのも、義勇の目からみて優秀で頼りがいのある人物に見られたいという気持ちからなのだろう。
普通の相手なら放置決定の案件である。
だが、義勇はぎゆうだ。
そう、錆兎が転生を繰り返すたびずっと寄り添い愛し続けた半身なのだ。
平安に初めて彼らと会って以来、宇髄もその様子を毎回見せ付けられている。
錆兎は常に記憶があったが、ぎゆうの方は前世の記憶があったりなかったり。
それでも彼らは毎回のように惹かれあい愛し合った。
冨岡義勇…大正時代の前世の同僚。
鬼に家族を殺されて妹も鬼にされた竈門炭治郎を任務で助けて以来、えらく懐かれていたと記憶している。
義勇にとってはおそらく、それにプラスして、妹を助けるために鬼殺隊士になりたいという彼を自分の師匠に紹介した縁で兄弟弟子になったという認識で、その二点から懐いているとしか思っていなかったのだろうが、その手のことに敏い宇髄からすれば、炭治郎の義勇への好意は、そういう恩義や親愛というものを超えたものに見えた。
そして実際そうだったのだろう。
今生では同じ幼稚舎の一学年下に転生した義勇をわかりやすく他を牽制し追い払いながら抱え込んでいるらしい。
おそらく炭治郎が周りからの評価にこだわるのも、義勇の目からみて優秀で頼りがいのある人物に見られたいという気持ちからなのだろう。
普通の相手なら放置決定の案件である。
だが、義勇はぎゆうだ。
そう、錆兎が転生を繰り返すたびずっと寄り添い愛し続けた半身なのだ。
平安に初めて彼らと会って以来、宇髄もその様子を毎回見せ付けられている。
錆兎は常に記憶があったが、ぎゆうの方は前世の記憶があったりなかったり。
それでも彼らは毎回のように惹かれあい愛し合った。
おそらく大正時代の前世ではぎゆうの転生前の記憶はなかったが、それでも側にいた錆兎に惹かれていたらしい。
宇髄がそれをぎゆうと認識できないほどに、どちらかと言うとかなり感情表現が豊かなぎゆうが一切の感情がなくなるほどに無表情になった原因は、十中八九、その時代の錆兎の死だ。
ということで、義勇の記憶があろうとなかろうと彼らは運命の恋人同士だし、絶対に惹かれあう。
なので今生での炭治郎のその行動はその障害になるだろうと思われた。
前世の炭治郎であれば、それを知った時点で自ら身を引くくらいはした気がするのだが、今生の炭治郎もどきはむしろそれを知っていたからこそ、高等部に錆兎が居ることを知って悪評を広めて追い落としにかかったのだろう。
だとすると、ぎゆうが同じ高校に入って錆兎を認識するこれからが戦争だ。
優秀だが真っ直ぐで画策が下手な錆兎に変わって、裏の諸々は自分が引き受けることになるだろう。
そんな思いで気合を入れていた宇髄だが、あろうことか、先を越されたらしい。
ということで、義勇の記憶があろうとなかろうと彼らは運命の恋人同士だし、絶対に惹かれあう。
なので今生での炭治郎のその行動はその障害になるだろうと思われた。
前世の炭治郎であれば、それを知った時点で自ら身を引くくらいはした気がするのだが、今生の炭治郎もどきはむしろそれを知っていたからこそ、高等部に錆兎が居ることを知って悪評を広めて追い落としにかかったのだろう。
だとすると、ぎゆうが同じ高校に入って錆兎を認識するこれからが戦争だ。
優秀だが真っ直ぐで画策が下手な錆兎に変わって、裏の諸々は自分が引き受けることになるだろう。
そんな思いで気合を入れていた宇髄だが、あろうことか、先を越されたらしい。
高等部の新入生に義勇の姿を認めた錆兎が彼に接触を持つ前に炭治郎から接触があり、
『義勇さんは前世の鬼狩りの時の記憶がないんです。
あの人は元々争いの嫌いな人でしたし、嫌な記憶を思い出させたくないと思いませんか?
俺はそういう気遣いを出来る前に幼稚舎で出会ってしまって、でも俺を見ても義勇さんは何も思い出さないようなので、逆に全てを知っている俺が義勇さんが思い出す可能性が高いような相手を近づけないようにしてきたんです。
だから今義勇さんは平和な時代で本当になんの悩みもなく幸せに生きていられてるんですよ。
でも前世で義勇さんと縁が深かった錆兎が近寄ると、あの辛い前世を思い出して、自己嫌悪に苦しんだりすると思うんですよね。
だから義勇さんの幸せのために、距離を取ってもらえませんか?』
と、言われたらしい。
本当に嫌なところをついてくる…と宇髄は思った。
『義勇さんは前世の鬼狩りの時の記憶がないんです。
あの人は元々争いの嫌いな人でしたし、嫌な記憶を思い出させたくないと思いませんか?
俺はそういう気遣いを出来る前に幼稚舎で出会ってしまって、でも俺を見ても義勇さんは何も思い出さないようなので、逆に全てを知っている俺が義勇さんが思い出す可能性が高いような相手を近づけないようにしてきたんです。
だから今義勇さんは平和な時代で本当になんの悩みもなく幸せに生きていられてるんですよ。
でも前世で義勇さんと縁が深かった錆兎が近寄ると、あの辛い前世を思い出して、自己嫌悪に苦しんだりすると思うんですよね。
だから義勇さんの幸せのために、距離を取ってもらえませんか?』
と、言われたらしい。
本当に嫌なところをついてくる…と宇髄は思った。
炭治郎もどきは絶対に義勇の幸せのために動いてはいない。
全て自分のためなのだが、言っていることは地味に真実味があったりするから、難しい。
案の定、義勇の幸せのためにといわれて、錆兎は義勇と接触を持つのを避けると決めてしまったようだ。
錆兎にとっても炭治郎は前世で剣術を教えた弟子のような存在で実際に同じ師匠に学びもした弟弟子でもあるので、宇髄のようにはなっから疑ってかからない。
しかも錆兎本人は絡め手が嫌いな真っ直ぐな人物ということもあり、根拠のない中傷に思えるような発言をしようものなら、下手すれば宇髄が切られる可能性がなくはない。
だから錆兎が炭治郎のいう事に一理あると認めてしまった時点で炭治郎もどきの事を疑ってかからせるには、なんとか確固たる証拠を提示しなければならない。
自分のことでもないのに馬鹿馬鹿しい…と、他の人間に対してなら思うのだが、宇髄は彼ら…特に錆兎には長い時の中で助けてもらっている事も多いし、厚い友情も感じている。
だから、その数少ない大切な友人の大事となれば、動かないという選択肢は当然ないのである。
こうしてジリジリしながら尻尾をつかもうと弐校出身者達と接触を持つこと半年ほど。
事態は思わぬ方向から動き出した。
その日は本当にたまたま用事があって職員室に行くと、なんと、錆兎と不死川もそれぞれ別の用事で担任のところに来ていた。
そこで宇髄が訪ねたのは別の教科の教師だったのだが、担任のところに行ってすでに用件を終えて軽い雑談が始まっている二人と担任の輪に加わる。
時間にして数分のことだから、とても短い時間だ。
その本当に短い時間の間に事は起こった。
ノックされる職員室のドア。
入ってくる一年生。
宇髄は背は向けていたものの、その、
──失礼します。
の声で、それが誰だかすぐわかった。
宇髄ですらわかったので錆兎もわかっているんだろうな…と思う。
全て自分のためなのだが、言っていることは地味に真実味があったりするから、難しい。
案の定、義勇の幸せのためにといわれて、錆兎は義勇と接触を持つのを避けると決めてしまったようだ。
錆兎にとっても炭治郎は前世で剣術を教えた弟子のような存在で実際に同じ師匠に学びもした弟弟子でもあるので、宇髄のようにはなっから疑ってかからない。
しかも錆兎本人は絡め手が嫌いな真っ直ぐな人物ということもあり、根拠のない中傷に思えるような発言をしようものなら、下手すれば宇髄が切られる可能性がなくはない。
だから錆兎が炭治郎のいう事に一理あると認めてしまった時点で炭治郎もどきの事を疑ってかからせるには、なんとか確固たる証拠を提示しなければならない。
自分のことでもないのに馬鹿馬鹿しい…と、他の人間に対してなら思うのだが、宇髄は彼ら…特に錆兎には長い時の中で助けてもらっている事も多いし、厚い友情も感じている。
だから、その数少ない大切な友人の大事となれば、動かないという選択肢は当然ないのである。
こうしてジリジリしながら尻尾をつかもうと弐校出身者達と接触を持つこと半年ほど。
事態は思わぬ方向から動き出した。
その日は本当にたまたま用事があって職員室に行くと、なんと、錆兎と不死川もそれぞれ別の用事で担任のところに来ていた。
そこで宇髄が訪ねたのは別の教科の教師だったのだが、担任のところに行ってすでに用件を終えて軽い雑談が始まっている二人と担任の輪に加わる。
時間にして数分のことだから、とても短い時間だ。
その本当に短い時間の間に事は起こった。
ノックされる職員室のドア。
入ってくる一年生。
宇髄は背は向けていたものの、その、
──失礼します。
の声で、それが誰だかすぐわかった。
宇髄ですらわかったので錆兎もわかっているんだろうな…と思う。
しかし特に何も言わず、視線も向けない。
何もなかったように担任の言う軽口に笑い、不死川にそれを横流しするように言葉をかける。
そうこうしているうちに、恐らく日直の日誌を届けに来たのであろう義勇が、担任にそれを渡して何故かしばらく何か迷うように立ち尽くし、そしてどこか意を決したようにドアへと足を向けかけた。
その時だった。
いきなり錆兎が動いた。
大またに一年の担任のほうへと歩み寄り、離れかけている義勇の腕を掴むと自分のほうへと引き寄せる。
何もなかったように担任の言う軽口に笑い、不死川にそれを横流しするように言葉をかける。
そうこうしているうちに、恐らく日直の日誌を届けに来たのであろう義勇が、担任にそれを渡して何故かしばらく何か迷うように立ち尽くし、そしてどこか意を決したようにドアへと足を向けかけた。
その時だった。
いきなり錆兎が動いた。
大またに一年の担任のほうへと歩み寄り、離れかけている義勇の腕を掴むと自分のほうへと引き寄せる。
そして皆がえ?とその行動に驚く中、
──少し話があるんだ。時間大丈夫か?
と、腕の中の義勇に声をかけた。
今まで全く交流のなかったはずの一年生に対していきなりそれで、皆が反応に困るが、当の義勇は錆兎の腕の中で驚いてはいるが抵抗することもなく、ジッとしている。
義勇は記憶があろうと無かろうと錆兎を構成するもの全てが好きになるようにDNAに刻み込まれているような人間だ。
今回は記憶がないということだから、まず目に入った錆兎の容姿に感動していることだろう。
そんな彼をよく知る宇髄が見ると、義勇からは
かっこいい、かっこいい、顔が良い!
本当に顔が良い人だなぁ……
などというクソデカ感情がダダ漏れているように見えた。
だが回りはそんなことは当然知らないわからない。
なので、さすがに放置はいかがなものかと思ったのだろう。
自分達の担任が
「なんだ、渡辺、知り合いか?」
と、言葉をかけた。
すると錆兎は
「いえ…実弥がちょっと弟の事で気になることがあるらしくて、同じクラスの奴からこっそり話聞きたいとのことなので。
たいしたことじゃないって言えばたいしたことないことだから、本人にバレると過保護だって怒られるっていうから、口固そうなあたりに聞くのが良いかなと」
と、にこやかに説明する。
もちろんそんな事実は無い。
なのできょとんとする不死川。
かろうじて、錆兎がいきなりそう言い出すことには何か意味があるのだろうと、それを否定はしないが反応に困っている。
──少し話があるんだ。時間大丈夫か?
と、腕の中の義勇に声をかけた。
今まで全く交流のなかったはずの一年生に対していきなりそれで、皆が反応に困るが、当の義勇は錆兎の腕の中で驚いてはいるが抵抗することもなく、ジッとしている。
義勇は記憶があろうと無かろうと錆兎を構成するもの全てが好きになるようにDNAに刻み込まれているような人間だ。
今回は記憶がないということだから、まず目に入った錆兎の容姿に感動していることだろう。
そんな彼をよく知る宇髄が見ると、義勇からは
かっこいい、かっこいい、顔が良い!
本当に顔が良い人だなぁ……
などというクソデカ感情がダダ漏れているように見えた。
だが回りはそんなことは当然知らないわからない。
なので、さすがに放置はいかがなものかと思ったのだろう。
自分達の担任が
「なんだ、渡辺、知り合いか?」
と、言葉をかけた。
すると錆兎は
「いえ…実弥がちょっと弟の事で気になることがあるらしくて、同じクラスの奴からこっそり話聞きたいとのことなので。
たいしたことじゃないって言えばたいしたことないことだから、本人にバレると過保護だって怒られるっていうから、口固そうなあたりに聞くのが良いかなと」
と、にこやかに説明する。
もちろんそんな事実は無い。
なのできょとんとする不死川。
かろうじて、錆兎がいきなりそう言い出すことには何か意味があるのだろうと、それを否定はしないが反応に困っている。
だから変なツッコミが入る前に、宇髄はフォローに入ることにした。
「あ~、実弥兄ちゃんはこんな顔してても弟が可愛くてしゃあねえって過保護だからなっ。
じゃ、場所変えるか?」
「あ~、実弥兄ちゃんはこんな顔してても弟が可愛くてしゃあねえって過保護だからなっ。
じゃ、場所変えるか?」
と、とりあえず邪魔が入らない所で説明をと、不死川の腕を取って義勇を抱え込んでいる錆兎に歩み寄る。
そうして錆兎がどこか義勇を何かから隠すようにしているのに気づいた宇髄は、一番大柄な自分が後ろに立ち、左右に錆兎と不死川が来るようにして、錆兎が気にする前方のドアを避けて、後ろのドアから職員室を出た。
さてどこで話をするのかと言う質問を投げかけると、錆兎が教室でもなく図書室でもなく、普通は無関係な人間は授業の時以外はほぼ足を踏み入れない美術室を指定してきた時点で、ああ、これは誰かを避けているんだな…もっと言うと、義勇に関してということだから炭治郎もどきを避けているのか…と気づいた宇髄は、部長なので預かっている美術室の鍵を錆兎に託したあと二人と分かれて、不死川には自分達3人の荷物を教室に取りにいってくれるように頼んだ上で、自分は1年の教室に急ぐ。
さっき職員室の前方のドアのあたりに炭治郎が居た。
あれはおそらく義勇を待っているのだろう。
もし義勇が職員室にすでに居ないことに気づいたら教室に来るに違いない。
だからその前に急がないと…
そんなことを考えつつ、階段を一気に駆け下り、すでに皆帰るなり部活に向かうなりして誰もいない1年の教室へ。
教室内の机にぽつんと置かれたカバンが義勇のなのだろうと念のために開けて中の教科書の記名で確認すると、宇髄はそれを持って人通りが少ない方の階段から特別教室が並ぶ4階まで駆け上った。
そうして錆兎がどこか義勇を何かから隠すようにしているのに気づいた宇髄は、一番大柄な自分が後ろに立ち、左右に錆兎と不死川が来るようにして、錆兎が気にする前方のドアを避けて、後ろのドアから職員室を出た。
さてどこで話をするのかと言う質問を投げかけると、錆兎が教室でもなく図書室でもなく、普通は無関係な人間は授業の時以外はほぼ足を踏み入れない美術室を指定してきた時点で、ああ、これは誰かを避けているんだな…もっと言うと、義勇に関してということだから炭治郎もどきを避けているのか…と気づいた宇髄は、部長なので預かっている美術室の鍵を錆兎に託したあと二人と分かれて、不死川には自分達3人の荷物を教室に取りにいってくれるように頼んだ上で、自分は1年の教室に急ぐ。
さっき職員室の前方のドアのあたりに炭治郎が居た。
あれはおそらく義勇を待っているのだろう。
もし義勇が職員室にすでに居ないことに気づいたら教室に来るに違いない。
だからその前に急がないと…
そんなことを考えつつ、階段を一気に駆け下り、すでに皆帰るなり部活に向かうなりして誰もいない1年の教室へ。
教室内の机にぽつんと置かれたカバンが義勇のなのだろうと念のために開けて中の教科書の記名で確認すると、宇髄はそれを持って人通りが少ない方の階段から特別教室が並ぶ4階まで駆け上った。
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