いきなり錆兎の悪評が流れたことがあった。
本校の人間はその人柄を良く知っているために笑い飛ばしたが、壱校弐校の人間はそうではない。
しかし錆兎自身は
「やましいところがなければ放置でいいんじゃないか?
それで壊れるくらいの人間関係なら元々たいしたものじゃないんだろう」
などと苦笑。
まあ妬まれることなどよくあることと言うことなのだろうが、天元は嫌な予感にかられて、昔取った杵柄と火消しがてら出元を調べればやはり弐校出身者の間からだった。
ここでもう放置はできないとばかりに、情報を集めていた時に出てきたのが、例の炭治郎の話で、宇髄は自分の中での想像にある程度の確実性をつけるために、動くことにした。
例の弐校での炭治郎の話を聞かせてくれた同級生は現在進行形で去年委員長を務めていた炭治郎と現在委員長を務めている弟が揉めているらしい。
本来なら3月の始めに全ての引継ぎ資料を渡して説明して終わりのはずが、それから3ヶ月たっても終わらないため、わざわざ系列校からここまで来て炭治郎と会うらしいので、物陰から様子を見させてもらうことにした。
放課後…同級生も立会いの元、教師の許可を取って借りた会議室。
宇髄はついたての向こうに身を潜めた。
同級生とその弟は予定時間の15分前に会議室入り。
それから10分後、
『あれ?竈門、珍しいとこにいんじゃん』
と、音楽室や視聴覚室、その他、特別教室の並ぶ棟で部活中の学生の声に
『ああ、中学の後輩の委員会の委員長が未だ委員会でわからないことがあるからって言うから教えてやらないといけなくて。
色々複雑な部分があるから、理解できない奴は理解できないみたいだから』
と、答える炭治郎。
その、さも自分と弟の能力に差があって…と言わんばかりの言い方に、同級生がぎりりと歯噛みをする。
その声が聞こえてすぐ、会議室のドアが開いた。
濃い茶の髪にやや赤味がかった茶色の目。
額にうっすら痣がすらあって、見た目は本当に竈門炭治郎そのものだが、どことなくまとう雰囲気が違う。
教室内では大正時代のままの真っ直ぐそうなキャラだが、今、こうしてほとんど人目がない場だと、どこか薄暗さを感じた。
そこで宇髄の中では前世の炭治郎ではないということはほぼ確定する。
少なくともそこそこ人を見る目がある宇髄からすると、前世の炭治郎は良くも悪くも馬鹿みたいに真っ直ぐ単純な人物だった。
…では…これは誰だ?
前世よりも遥か昔、どこかでこんな雰囲気の相手を見たことがある気がする…。
いつ…誰だった?
そんな風に宇髄が頭を悩ませている間に、すでに同級生の弟と炭治郎のやりとりが始まっていた。
「竈門先輩、いい加減、引継ぎ資料を渡してくれませんか?」
と、しょっぱなから気色ばむ弟を炭治郎が馬鹿にしたように鼻で笑う。
「もう委員会を引退したどころか、学校すら卒業したあとなのに、こうして時間を取ってやってる先輩に対して挨拶もなしか?」
「時間を取らざるをえないのは竈門先輩が引き継ぎ資料を渡してくれないからでしょう?」
「だからそんなものはないし、お前は学年トップの優秀な人材と聞いたから、俺のやり方なんて踏襲しないでも、やりやすいようにやってくれれば良いと思って、わざわざ自分のやり方を書面にするなんて押し付けがましい方法を取らなかっただけなのに、自分の能力不足を俺に責任転嫁なんてひどいんじゃないか?」
非常にわざとらしく肩をすくめる炭治郎に、さらに口を開こうとする弟を制して同級生が言った。
「お前のやり方はこの際どうでもいいし、お前のやり方を残したくなければ残さないのはお前の自由だけどな、少なくともお前よりも前の委員長が残した資料はあるはずだろう?
お前、それはどこやったんだよ」
「そんなもの覚えてないな。でも自分だけじゃやっていけない、わからないというなら、仕方ないからこれからも時間をとってやるけど?」
と、シラを切られて、今度は同級生が憤って身を乗り出すのを、弟が止める。
「なるほど。こうやってわざと後続が引き継げない環境を作ることで、先輩が優秀だと言う噂を流させるカラクリだったんですね」
と、にらみ付ける弟の視線にも炭治郎は嘲笑するのみ。
「俺が優秀かは周りが決めることだからね。
俺は別に自分が優秀だなんて言って回ったりはしてないよ。
ただ後輩が困っているから任期が終わっても助けてあげてるだけで…。
それで優秀だとか優しいとか言われてしまうけど、俺が言ってくれと言ったことはないし」
と、その言い草に、宇髄も、あ~これは当事者だったらかなりむかつくわ…と苦笑。
「でしょうね。自分で言わないで、教える条件に噂を流させているんですよね」
と、弟はイラついた笑みを浮かべて言う。
それに対しても炭治郎は
「前年度までの情報が全てない状態でやっていけるんだったら、好きにすればいい。
それで壊れるくらいの人間関係なら元々たいしたものじゃないんだろう」
などと苦笑。
まあ妬まれることなどよくあることと言うことなのだろうが、天元は嫌な予感にかられて、昔取った杵柄と火消しがてら出元を調べればやはり弐校出身者の間からだった。
ここでもう放置はできないとばかりに、情報を集めていた時に出てきたのが、例の炭治郎の話で、宇髄は自分の中での想像にある程度の確実性をつけるために、動くことにした。
例の弐校での炭治郎の話を聞かせてくれた同級生は現在進行形で去年委員長を務めていた炭治郎と現在委員長を務めている弟が揉めているらしい。
本来なら3月の始めに全ての引継ぎ資料を渡して説明して終わりのはずが、それから3ヶ月たっても終わらないため、わざわざ系列校からここまで来て炭治郎と会うらしいので、物陰から様子を見させてもらうことにした。
放課後…同級生も立会いの元、教師の許可を取って借りた会議室。
宇髄はついたての向こうに身を潜めた。
同級生とその弟は予定時間の15分前に会議室入り。
それから10分後、
『あれ?竈門、珍しいとこにいんじゃん』
と、音楽室や視聴覚室、その他、特別教室の並ぶ棟で部活中の学生の声に
『ああ、中学の後輩の委員会の委員長が未だ委員会でわからないことがあるからって言うから教えてやらないといけなくて。
色々複雑な部分があるから、理解できない奴は理解できないみたいだから』
と、答える炭治郎。
その、さも自分と弟の能力に差があって…と言わんばかりの言い方に、同級生がぎりりと歯噛みをする。
その声が聞こえてすぐ、会議室のドアが開いた。
濃い茶の髪にやや赤味がかった茶色の目。
額にうっすら痣がすらあって、見た目は本当に竈門炭治郎そのものだが、どことなくまとう雰囲気が違う。
教室内では大正時代のままの真っ直ぐそうなキャラだが、今、こうしてほとんど人目がない場だと、どこか薄暗さを感じた。
そこで宇髄の中では前世の炭治郎ではないということはほぼ確定する。
少なくともそこそこ人を見る目がある宇髄からすると、前世の炭治郎は良くも悪くも馬鹿みたいに真っ直ぐ単純な人物だった。
…では…これは誰だ?
前世よりも遥か昔、どこかでこんな雰囲気の相手を見たことがある気がする…。
いつ…誰だった?
そんな風に宇髄が頭を悩ませている間に、すでに同級生の弟と炭治郎のやりとりが始まっていた。
「竈門先輩、いい加減、引継ぎ資料を渡してくれませんか?」
と、しょっぱなから気色ばむ弟を炭治郎が馬鹿にしたように鼻で笑う。
「もう委員会を引退したどころか、学校すら卒業したあとなのに、こうして時間を取ってやってる先輩に対して挨拶もなしか?」
「時間を取らざるをえないのは竈門先輩が引き継ぎ資料を渡してくれないからでしょう?」
「だからそんなものはないし、お前は学年トップの優秀な人材と聞いたから、俺のやり方なんて踏襲しないでも、やりやすいようにやってくれれば良いと思って、わざわざ自分のやり方を書面にするなんて押し付けがましい方法を取らなかっただけなのに、自分の能力不足を俺に責任転嫁なんてひどいんじゃないか?」
非常にわざとらしく肩をすくめる炭治郎に、さらに口を開こうとする弟を制して同級生が言った。
「お前のやり方はこの際どうでもいいし、お前のやり方を残したくなければ残さないのはお前の自由だけどな、少なくともお前よりも前の委員長が残した資料はあるはずだろう?
お前、それはどこやったんだよ」
「そんなもの覚えてないな。でも自分だけじゃやっていけない、わからないというなら、仕方ないからこれからも時間をとってやるけど?」
と、シラを切られて、今度は同級生が憤って身を乗り出すのを、弟が止める。
「なるほど。こうやってわざと後続が引き継げない環境を作ることで、先輩が優秀だと言う噂を流させるカラクリだったんですね」
と、にらみ付ける弟の視線にも炭治郎は嘲笑するのみ。
「俺が優秀かは周りが決めることだからね。
俺は別に自分が優秀だなんて言って回ったりはしてないよ。
ただ後輩が困っているから任期が終わっても助けてあげてるだけで…。
それで優秀だとか優しいとか言われてしまうけど、俺が言ってくれと言ったことはないし」
と、その言い草に、宇髄も、あ~これは当事者だったらかなりむかつくわ…と苦笑。
「でしょうね。自分で言わないで、教える条件に噂を流させているんですよね」
と、弟はイラついた笑みを浮かべて言う。
それに対しても炭治郎は
「前年度までの情報が全てない状態でやっていけるんだったら、好きにすればいい。
俺だってわざわざ自分の時間を削ってるんだから、可愛くないこと言われてまで協力しようとは思わないぞ」
と、暗にそうしなければ協力しないと匂わせた。
そこで駆け引きをするにはまだまだ青いのだろう。
弟は
「じゃあ結構です。
俺は事情を話して本部役員会に頭を下げて協力を依頼します」
と、言い切った。
それに炭治郎は初めて少し嫌な顔をしたが、それでも
「俺が過去の資料を処分したなんて証拠はないし、俺はそれなりに評価を得ている人間だからね。
本部はきちんと仕事をしてきた俺と、何も仕事を出来ないお前のどちらを信じるかなんて火を見るより明らかなんじゃないか?」
と言うと、
「まあ、せいぜい頑張ってみればいいさ。
俺は優しいからな、もしどうしても駄目だったと謝ってくれば協力してやらないでもないから、また連絡しろ」
と、言い残して会議室を後にする。
と、暗にそうしなければ協力しないと匂わせた。
そこで駆け引きをするにはまだまだ青いのだろう。
弟は
「じゃあ結構です。
俺は事情を話して本部役員会に頭を下げて協力を依頼します」
と、言い切った。
それに炭治郎は初めて少し嫌な顔をしたが、それでも
「俺が過去の資料を処分したなんて証拠はないし、俺はそれなりに評価を得ている人間だからね。
本部はきちんと仕事をしてきた俺と、何も仕事を出来ないお前のどちらを信じるかなんて火を見るより明らかなんじゃないか?」
と言うと、
「まあ、せいぜい頑張ってみればいいさ。
俺は優しいからな、もしどうしても駄目だったと謝ってくれば協力してやらないでもないから、また連絡しろ」
と、言い残して会議室を後にする。
こうして会議室のドアが閉まると、肩の力を抜く弟と同じく脱力する兄。
「確かにむかつくけど…もう少しかき回してなんとか資料を引き渡させないと、うちの学校の各委員会の諸々は情報なしでまわすのは無理だぞ?」
と、そのあたりは同じ学校出身なので色々経てきて知っている兄がため息をつく。
が、
「あんな奴に頭を下げるくらいなら、大勢の他の委員長や役員に頭を下げまくるほうがマシだ!」
と、憤る弟。
「あ~頭さげてなんとかなるならな?
でもお前の委員会のことは他の委員長達も頭下げられたところで情報ないから何もできないし、本当に委員会まわせないぞ?」
と、宇髄をそっちのけで話し始める兄弟に、宇髄がUSBメモリをかざして見せた。
「なに?」
と、兄が聞いてくるので、宇髄は
「ん~、今回こっそり見させてもらった礼?
俺はあちこちにコネがあってだな、その一つが一昨年のそっちの中等部の弟君の委員会の委員長?
だいたいどこも毎年引き継ぎ資料はその年に変更したこととかを修正するからな。
紙では持ってなくてもその時修正したデータがPCに残ってたりすることが多々あるだろうと思って聞いてみたわけだ。
一昨年がだめなら一昨々年、一昨々年が駄目でもその前の年って聞いてみようかと思ったんだが、一昨年の委員長の時点で残ってたから、それもらってきた」
「「おおーーー!!!!」」
と、歓声をあげる兄弟。
「…ってわけでな、こいつを進呈するけど、俺のことは内緒な?
俺は俺で、以前、たぶんあいつ発信で錆兎の悪評広められたりとかあって、色々調べたりしてる最中なんで、今はまだ目立ちたくねえわけなんだわ。
一昨年の委員長にも口止め済みだし、どこからどうやって資料手に入れたかわかんねえままのほうがあいつもプレッシャーだろうしな」
シ~ッと言うように宇髄は立てた人差し指を口元に持っていった状態で、ぽとりとUSBを弟の手の中に落とした。
「ありがとうございますっ!何か弐校の情報が必要なら協力しますし、兄に言ってください!!」
「さんきゅー!天元。
何か俺で協力できることがあったら何でも言ってくれ!」
と、それぞれに手を合わせる兄弟に
「あ~、その時はよろしく頼むぜ」
と、軽く片手をあげると、宇髄は廊下に誰もいないのを確認して、こっそりと会議室を後にした。
さて…学園の平和を乱す炭治郎もどきとの戦闘開始かぁ…ま、学園の平和なんてどうでもいいんだが、天元様の身内にちょっかいかけてくる以上、敵は敵!
などと思いながら、決意を新たにしたわけなのだが、それから1年ほどのち、直接対決の火蓋は思いがけない方向から落とされたのである。
「確かにむかつくけど…もう少しかき回してなんとか資料を引き渡させないと、うちの学校の各委員会の諸々は情報なしでまわすのは無理だぞ?」
と、そのあたりは同じ学校出身なので色々経てきて知っている兄がため息をつく。
が、
「あんな奴に頭を下げるくらいなら、大勢の他の委員長や役員に頭を下げまくるほうがマシだ!」
と、憤る弟。
「あ~頭さげてなんとかなるならな?
でもお前の委員会のことは他の委員長達も頭下げられたところで情報ないから何もできないし、本当に委員会まわせないぞ?」
と、宇髄をそっちのけで話し始める兄弟に、宇髄がUSBメモリをかざして見せた。
「なに?」
と、兄が聞いてくるので、宇髄は
「ん~、今回こっそり見させてもらった礼?
俺はあちこちにコネがあってだな、その一つが一昨年のそっちの中等部の弟君の委員会の委員長?
だいたいどこも毎年引き継ぎ資料はその年に変更したこととかを修正するからな。
紙では持ってなくてもその時修正したデータがPCに残ってたりすることが多々あるだろうと思って聞いてみたわけだ。
一昨年がだめなら一昨々年、一昨々年が駄目でもその前の年って聞いてみようかと思ったんだが、一昨年の委員長の時点で残ってたから、それもらってきた」
「「おおーーー!!!!」」
と、歓声をあげる兄弟。
「…ってわけでな、こいつを進呈するけど、俺のことは内緒な?
俺は俺で、以前、たぶんあいつ発信で錆兎の悪評広められたりとかあって、色々調べたりしてる最中なんで、今はまだ目立ちたくねえわけなんだわ。
一昨年の委員長にも口止め済みだし、どこからどうやって資料手に入れたかわかんねえままのほうがあいつもプレッシャーだろうしな」
シ~ッと言うように宇髄は立てた人差し指を口元に持っていった状態で、ぽとりとUSBを弟の手の中に落とした。
「ありがとうございますっ!何か弐校の情報が必要なら協力しますし、兄に言ってください!!」
「さんきゅー!天元。
何か俺で協力できることがあったら何でも言ってくれ!」
と、それぞれに手を合わせる兄弟に
「あ~、その時はよろしく頼むぜ」
と、軽く片手をあげると、宇髄は廊下に誰もいないのを確認して、こっそりと会議室を後にした。
さて…学園の平和を乱す炭治郎もどきとの戦闘開始かぁ…ま、学園の平和なんてどうでもいいんだが、天元様の身内にちょっかいかけてくる以上、敵は敵!
などと思いながら、決意を新たにしたわけなのだが、それから1年ほどのち、直接対決の火蓋は思いがけない方向から落とされたのである。
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