前世からずっと一緒になるって決まってたんだ1_6お館様の隠密

宇髄天元…彼には他には知られぬ顔がある。

お館様の隠密…そう、彼ははるか昔から、記憶を持って生まれ変わっていた。
最初の記憶は平安時代。
その頃には隠密やら忍者やらと言う言葉すらない。

ただ、帝に連なる名門貴族である産屋敷家の家臣の家に生まれ、その家の若君に仕えて、最終的にはわかりやすい表の用事から他人には言えぬ裏の仕事まで、様々な仕事を請け負っていた。

周期としては3代に1度ほど、産屋敷家の当主として天元の最初の主の記憶と魂を持つ者が転生してくる。
天元もそれにあわせるように、主が生まれて前後半年ほどの期間に転生をし続けた。

産屋敷の当主は皆短命だったので、天元と同時期に生まれても先に逝く。
なので天元はその子どもか孫の代まで仕えて寿命を迎え、また転生した主と共に転生。

最後に転生したのは大正時代だった。


最初の平安時代では、鬼となった元一族を滅する使命を帯びた主を助け、しかしその代では叶わず…主と二人で何度も何度も転生を繰り返した末、前世の大正時代で鬼の始祖となった鬼舞辻無惨を主が率いた剣士達が見事討ち果たしたので、天元的にはそれでこの輪廻も終わりだと思っていたのだが、何故か平和になったはずの現代でまた生まれ変わっている。

しかも今回は大正時代に共に戦った仲間のうちかなりの人間が転生をしているという謎な状態。

逆に主であった産屋敷耀哉は今回は何故か天元より10ほど年上に。
幼稚舎に居る頃に進みたての高校の制服で会いに来られて驚いた。

その主よりも前、幼稚舎に入りたての頃に二人ばかり見知った姿を見かける。

不死川実弥は大正時代に主が率いていた鬼征伐の団体、鬼殺隊の最高位、柱として共に戦った仲間で、あちらにも記憶があったらしい。
すぐ意気投合した。

もう一人はもっと古い付き合いだ。
そう…平安のあたりからの………

渡辺錆兎……かの有名な頼光四天王の筆頭、渡辺綱の子孫で、宇髄の…というよりは主の知人と言ったほうがいいかもしれない。

血筋は嵯峨源氏の流れを組み、身分も主ほどではないがそれなりに。
内裏警護に従事する一方で海軍を率いる猛者でもある美丈夫だった。

主も信頼を置いていて、鬼退治にも協力をしてもらっていたのだが、宇髄達と違い、定期的に転生をしていたわけではないらしい。

ただ、実は大正時代には転生していたらしく、しかし主と合流する前に鬼殺隊の最終選別を受けて亡くなったとのことで、

「お前さんほどの猛者がなんで?」
と問えば、
「ん~、調子に乗って山にいる全ての鬼を退治しようなんてやっていたら、刀の劣化に気づかなくてな。
おそらく最後の鬼で刀が折れた」
と、あっけらかんと言う。

そこで思い出した。

通常は選別の突破者は5人も居ればかなり多いほうなのだが、確か水柱の冨岡義勇が最終選別を受けた時には一人を除いて全員突破したらしい。

鬼殺隊始まって以来の異例なことでちょっとした騒ぎになったのだが、その理由というのが、唯一亡くなった少年が、なんとすさまじい数がいる鬼を1匹を除いて全て退治したからだと言うことだった。

その少年以外は誰も一匹の鬼すら倒せていない。
だからその年の選別は大失敗だったのでは?と物議をかもした。

鬼を倒せない隊士数十人を生かすよりは、一人で山の鬼を全て倒せる隊士を生かすべきだった。
それが出来ない選別のあり方は変えるべきなのではないだろうか…と。

結局人手不足の忙しさに紛れてその話は流れてしまったのだが、実際、その年に突破した隊士の入隊後の死亡率はやはり高かった。
生き残ったのは後に水柱となる冨岡義勇ともう一人、村田という隊士の二人きりである。


「あ~!!あれかっ!!山の鬼をことごとく倒して回って最後に死んだって伝説の男、あれ、お前だったのかっ!!」

今で言う脳筋を地で行くこの男らしくて宇髄がそう言って噴出すと、

「せめて刀を二本持っていくべきだったな」
と、男、錆兎は肩をすくめてそう返して来た。


そうか、あれが錆兎だったのか…と知ればふと思いつく。

「じゃあ…もしかして冨岡って…知ってるか?」
と、問えば、錆兎はにやりと

「知ってる。
でも俺だけじゃなくお前も昔からよく知ってる相手だぞ?
もっとも何故か俺達と違って記憶を受け継いでないようだが…」
と、笑う。


冨岡…冨岡…とみおか??
首をひねる宇髄に錆兎はさらりと

「…俺が常に側に寄り添う相手と言えばわかるだろう?」
と、続けた。

それで合点がいった。

「ああーーー!!もしかして四天王家系仲間の卜部んとこのぎゆうか?!」

「そそ。途中で苗字と名前の漢字が変わってるけどな。
中身は同じだ」

「あーー、そういえばあんな顔立ちしてたな。
だが、あまりになんというか…表情と性格が違いすぎてて…他人の空似かと思ってた。
あいつ、すげえよくピーピー泣く奴だったし」

「確かによく泣くが、よく笑いもするだろう?
感情表現豊かと言え、人聞きの悪い!」

「はいはい。いついかなる時代でも、ぎゆうの事大好きだな、お前は」

「当たり前だろう!何度死んで生まれ変わっても俺の心はぎゆうだけのものだし、たぶんぎゆうもそうだと信じている!」

「…だよなぁ……ってか、それなら置いて逝くなよ。
大正時代の義勇のあの無感情無表情は絶対にお前のせいだぞ」

「…わかってる。前世ではちょっと調子に乗りすぎた」

…などと言う言葉を交わしつつ、実弥には全ては語らないが、以前にも転生したことがあって、その時の友人だと紹介しておく。
そうして3人揃って前世の記憶を持ったまま幼児のふりから小学生、中学生を経て高校へ。

前世の記憶があるわけだから、当然諸々の飲み込みも早い。
互いに普通だったら小学生でこのレベルできたらやばいよな。
エリート教育のこの学校で良かったな…などと言いつつ色々な実績をあげ、系列校も一つになる高等部に進級すると、さらにどこかで見た顔がちらほらしてきた。

前世で部下だった善逸や炭治郎。
伊之助がいないのは、おそらく勉強が得意そうじゃないからだろうな…などと勝手に思いつつ、彼らにもさりげなく接近してみると、善逸はどうやら記憶持ちとのことである。

なので善逸は喜んで懐いてきたが、炭治郎の方はどこか距離がある。

そのあたり不思議に思って善逸に聞いてみると、なんと彼らは従兄弟として転生したらしいが、血縁ということで前世より距離が近いはずの善逸に対しても、何故か前世より微妙に距離があるらしい。
ということは、おそらく記憶がないのだろうとその時は思った。

というか…大正時代の義勇ではないが、似た面差しの同姓同名の別人なんじゃないかとすら思い始める。


宇髄達が通っていたのが本校なら、炭治郎や善逸が通っていたのは通称弐校と呼ばれる系列校だった。

弐校では一般的には優秀と言われていたらしいが、弐校から来た下に弟がいる同級生に言わせると、目下…もっと言うなら、委員会などでその下についていた事がある者は口をつぐむような存在だったらしい。

いわく…小等部の頃から積極的に委員会やら部やらの長に立候補してはこなしていたが、炭治郎が抜けた後、その委員会は混乱を極め、部は衰退する。

外側から見る分にはしっかりとした委員長あるいは部長のあとを次代がきちんと務められていないように見られるが、その同級生に言わせると、それは仕組まれたものなのだそうだ。

その同級生の弟は炭治郎のあとに委員会の長になったのだが、書面で残されていたはずの代々引き継がれてきた資料は何故か破棄されていて、引継ぎは炭治郎からの口頭のみ。

それも必要なことを一度に言わず、そのつど聞きにこさせるので何も知らない周りからは、新委員長がいつまでたっても旧委員長である炭治郎を頼っているような印象を持たれるというカラクリらしい。

しかも…それに苦情の一つでも言おうものなら、今度は一切何も教えないと言うので、逆らうこともできない。

こうして炭治郎の評価はあがり、新委員長の評価は下がるということだ。


その話を聞いて、宇髄の違和感は決定的なものとなる。

確かに前世でも炭治郎は強い意志を持つあまり、やや独善的なところがなかったわけではないが、少なくともそういう他人の視線を操るような、画策するようなタイプの人間ではなかったはずだ。
むしろ他人の目を気にしなさ過ぎてトラブルを起こすタイプである。

善逸から聞いていた炭治郎像もあり、色々がひどく気になってくる。

最初は鬼を倒すために転生していたと思っていたのだが、鬼の元締めを倒してもなお転生している今回は、ある意味、神様というものが関わっているのだとすれば、今までお疲れ様的に慰労というか、本来自分のためだけに生きることのできる人生をおまけしてくれているくらいに思っていた。

しかしあるいは今生でも自分が気づいていないだけで何かあるのか?

そう思ってまず産屋敷の主に聞いてみるが、あちらでも転生については元々絶対にこうという情報はないので、そもそもが宇髄が考えていたように、自分達が転生を繰り返してきたのが鬼退治のためということ自体が定かではないと言われた。

こうなると、もうよくはわからないが、用心するに越したことはない。
すでに不穏な空気は高等部進学時からあったのだ。


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