ツインズ!錆義_28_錆兎視点-エンゲージリングはトラブルの始まり1

義勇が高31月の終わり。
28日生まれの義勇の誕生日がもうすぐ来る。
そしてそれは錆兎にとって特別な事を意味する。

そう、高3の誕生日を迎えると言う事は、義勇が18歳になると言うことだ。
つまり…その日になれば彼を自宅に引き取ってからずっと考えていた、“籍を入れる”、と言う事が可能になる。

正式にそうできれば義勇は彼の父親の子どもである前に、錆兎の配偶者だ。

そうなれば義勇を手放す事に反対しているらしい父親に見つかっても、堂々と拒否できる。

今はかろうじて母親の許可の元、父親に居所がわからないように気をつけながらの同居なので、見つからないように、万が一見つかっても強硬手段で連れ戻されたりしないようにと、義勇1人で外出させないように、常に周りをがっちりガードしている状態だが、そんな生活ももうすぐ終わるのだ。

無理矢理父親に連れ戻されても、当然の権利として自宅に連れ戻せる。

もうすぐ…もうすぐだ。



ということで、錆兎の中では半ばそれは決定事項だし、義勇だって錆兎の元に居る事を望んでくれているようなので、誕生日と共に籍を入れてしまいたい。

だが、それはそれとして…、まるで便宜上のように大急ぎで籍だけ入れて終わると言うのは、あまりに味気ない。

だからせめて誕生日の少し前あたりに、きちんと指輪を渡してプロポーズをして、誕生日の日に2人で書類を役所に提出しに行こうと思っている。

新婚旅行とかも連れて行ってはやりたいが、2月始めだとまだ高校生の義勇は学校があるので、それは春休みのお楽しみだ。

ということで、義勇が寝ている間にこっそり指輪のサイズを測って、今日は指輪を購入しに街へと出て来た。

幸いにして従姉妹の家が有名な宝石店のお得意様なので、慣れない事もあって彼女に付き合ってもらう事にしている。



このことについては義勇には秘密だ。

サプライズ的な意味合いと言うよりは、錆兎の大切なお姫様のメンタルの問題である。

実は父親が義勇に執着をしていて義勇を見つけたら連れ戻そうとするであろうことは、彼は知らない。
単に父親は自分を嫌って自分を見たくないから、義勇が家を出る事は双方が望んでいると思っている。

ずっと追われているのだ、というプレッシャーを大切な義勇に与えたくなかった。

本人にそうと知られないように、叔父と弟と3人で協力してガード体制を作って2年。

やっと……やっとだ。


もう役所で必要書類はもらっているので、今晩、2人きりの離れでそれと指輪を渡してプロポーズ。

その時には本当の事は知れてしまって誕生日で完全に籍を入れるまでは若干心細い思いをさせるかもしれないが、籍をいれて半月後には錆兎はもう大学の試験が終わって春休みに突入しているので、全面的にガードできる。

ということで、とにかく指輪、そう、あとは指輪が必要なのである。



ということで指輪購入のXday

これまで2年間、不安だろうと言う事でなるべく義勇を1人にしないように、誰かしらが極力一緒に居るように努めて来たし、今回自分が出かけるにあたって誰もいなくなると言う事を避けて日程を組んだつもりだったのだが、前々日に急きょ部活の先輩のお別れ会を開く事になったと言う炭治郎と、やはり同日に普段は忙しくて会う事ができない外国済みの古い友人が訊ねてくるので会うと言う叔父。

2人とも相手の都合なのでこの日を外せなくなってしまったわけだが、錆兎も自分だけで買いに行くならとにかく、同行して馴染みの店員を紹介してくれると言う真菰と約束してしまっている。

まだ真菰だけなら錆兎が頭を下げて日を変えてもらって後で埋め合わせの一つに彼女の趣味の薄い本の原稿の手伝いでもすれば良いが、紹介してもらう店員は仕事がある。

お得意様の令嬢である真菰自身の買い物ならとにかく、錆兎のために何度も予定を変えさせるわけにもいかない。

なのでその日は仕方がないので可哀想だが義勇1人に留守番をしていて貰う事にした。



指輪を買いに行く事は当然義勇には内緒なので、指輪のサイズは義勇が眠っている時にこっそりはかっておいて、今日はただ野暮用があるから…と、家を出る。

真菰は自宅からそう離れていない所に住んでいたが、少々変わった性癖のため、義勇を巻き込みたくないというのもあって今まで会わせないようにしていたし、万が一を考えて待ち合わせは家の近所ではなく、宝石店のある場所の最寄り駅。

そう、初めて義勇と待ち合わせをしたあの駅のあの場所だ。



今日は訊ねる店が店なので、セミフォーマル。
ラフな服も嫌いじゃないし、普段はジーンズで過ごすことがほとんどなのだが、錆兎は実はフォーマルも嫌いじゃない。

時間が取れたら正装をして義勇と出かけたいな…などと籍を入れたあとの未来に思いを馳せながら、錆兎は電車のドアの横の手すりにもたれかかって流れて行く景色を眺めていた。



こうしてもうすぐとりあえずのゴール時点に辿りつく今にして思い返せば、義勇と出会ってからは色々が激動だったと思う。

義勇に関しては【受け入れる】or【受け入れない】、【保護する】or【保護しない】、【先を決めて進む】or【進まないで現状維持】と、二択の選択肢が次々と出てきて、いずれも“しない”という方を取れば、そこで義勇とは終わり。
縁が切れる代わりに静かでたやすい日常がもどってくるところだった。

もちろん錆兎としてはおそらく電車の中で出会って一目惚れをした時点で、どれだけそれが困難を伴う関係だったとしても、自分の人生の中から義勇の存在が消えるなどという選択肢を取る事はありえなかったのだが……

義勇と一緒に生きていくための道は色々が困難だったし忙しかったが、錆兎の人生はそこからが本番だったと言っても良い。

それまでだってダラダラ生きていたつもりはないものの、それまでの人生は今にして思えば準備期間だった。

そう、義勇と出会って、義勇を守って生きて行く力をつけるための……


この国は確かにマイノリティではあるものの同性同士の結婚もできて、一部過激な否定派が全く居ないかと言えば居ないわけではないのだが、恋愛相手の性別の自由はおおむね認められているし、特に都市部ではそのあたりには寛大だ。

だから同性であるというのは問題にはならないのだが、義勇の場合は本当に実家の諸々が大変だし、本人もなかなか繊細にして難しい性格をしているので、これから歩む道も平たんとは言い難いだろう。

それでも…腕の中に幸せそうに微笑む義勇を抱え込めると思えば、それもたいした障害ではない。

まあ…錆兎的に当座の一番の問題というか関心事は、籍を入れて正式に夫婦になったということで出てくるであろう“”の事だったりするのだが……



(…義勇…“そういうこと”も込みで考えててくれてっかなぁ……)

最初に自宅に連れて来た夜、義勇は錆兎と一緒に居たいと言ってくれた。
恋愛的な意味で義勇を好きだと言う錆兎自身の気持ちはその時に伝えてあるし、義勇もそれは受け入れてくれている。

だが複雑な家庭環境のせいでどこか人慣れていない義勇が、その“恋愛的なこと”をどこまで知っているのか、理解しているのかは実はいまだ確認もしていないので、謎である。

もっと言ってしまうなら、異性間ですれば子どもが出来るような性的な行為についての知識を持っているのだろうか?

同性の親である父親とは折り合いが悪いのでそんな話はしないだろうし、同性の親がいるのに異性の母親がわざわざ息子にそんな話はしないだろう。

もしかして下手をすれば、錆兎が実地で教える羽目になったりするのだろうか…
その際に、そんなことまでするものだと思わなかったとか言われたらどうしようか…

(…そんなことになったら…俺一生利き手が恋人になったりするのか?
てか、それ以前に教えて怯えられたらどうするかな…)

もし知識がなかった場合、怯える義勇を強引に暴くなんてことは絶対にできないし、そうなると、すやすやと子どものように安らかに眠る義勇を隣に、悶々と眠れない夜を過ごす日々…なんて事になる可能性は十分ある。

しかたがないから“相手を怯えさせない性教育マニュアル”でも帰りに探すか…と、電車の中で考えることではないなと思いながら、錆兎はため息をついた。


Before <<<  >>> Next (9月2日公開)


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