「ごめんください」
と声がかかった。
「は~い」
その声に止める間もなく義勇が転がり出て行く。
母屋の内側で警察が警戒態勢を取っている中で何か…ということはありえないとは思うが、一度誘拐されていることもあって錆兎は焦ってそれを追った。
と声がかかった。
「は~い」
その声に止める間もなく義勇が転がり出て行く。
母屋の内側で警察が警戒態勢を取っている中で何か…ということはありえないとは思うが、一度誘拐されていることもあって錆兎は焦ってそれを追った。
なんの警戒もなく義勇が開けたドアの向こうには、軽食の盆らしき物を持った先ほどの女将が立っている。
そして追いついた勢いで無警戒の義勇と彼女の間に入った錆兎の慌てた様子に、小さく噴出した。
「ホント、“会長様”は義勇ちゃんが大切なのね。
天元の言った通りね。ホッとした」
そして追いついた勢いで無警戒の義勇と彼女の間に入った錆兎の慌てた様子に、小さく噴出した。
「ホント、“会長様”は義勇ちゃんが大切なのね。
天元の言った通りね。ホッとした」
と、ころころ笑いながら中に入ってくる彼女の言葉に錆兎が少しいぶかしげな表情をすると、彼女はそれに
「えっとね、天元は海陽に戻って会長様の下についてから会長様の話ばかりしてるから、私すっかり疑っちゃってね。
そうしたら会長様とは“そういう意味”じゃない、あくまで友情だって。
会長様には最愛の恋人もいるし、そもそもが“抱かれてくれる側”ではないからって。
確かに実際会うとそんな感じだなぁって」
と、堂々と言い放つ。
いや、確かに宇髄に…恋愛的な感情というのも本当に想像できないし、義勇一筋だし、そもそもが抱きたい側だし…と、まさにその通りなのだが、妙齢の女性に面と向かってそれを言われるとなかなか恥ずかしい。
だが腕の中の義勇はその手の話はぜんぜん平気らしい。
「確かに。
宇髄も錆兎も抱かれる図というのは想像できないな」
と、真顔で言う。
そんな会話を交わしながらも、秋は盆から布巾を取った。
「はい、これに着替えてね」
と、盆の中身…従業員用の着物を錆兎と同じく…いや、錆兎よりもずいぶんとわかりやすく赤くなって硬直している炭治郎に渡す。
なるほど、それなら離れをうろついていても目立たないか、さすが宇髄の彼女!と、錆兎は感心しつつ、気転のきく秋に少しホッとする。
「今回はありがとうございます。色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
炭治郎が着替えに寝室の方へ消えるのを見送って、錆兎がまずそう挨拶して頭をさげると、秋はニコニコとさらにもう一つ抱えてきた包みを差し出してきた。
「これね、義勇ちゃんの替えの浴衣ね。
天元がお詫びのつもりのご招待でさらに事件に巻き込んでしまったから色々サービスしてくれって。
あとは絹の夜着とか…おしろいとか紅とかもあるし、お風呂に浮かべるように花も用意したわ」
「ちょっ……」
あまりに露骨なサービスにさすがに赤くなって絶句する錆兎に、秋はにっこり
「会長様に恋人さんとの仲を深めて頂けていると、私の精神衛生上もとても良いから。
もちろん実際にお会いして、ああ、天元とはそういう仲になる可能性はないタイプなんだなと思い切り実感したけど、それでも天元以外の相手に思い切り夢中になっていて欲しいのが女心なのよ」
と、笑みを浮かべる。
…もしかして…宇髄は彼女がそういう心配をしているのを知って、そういう関係ではないとわからせるためにわざわざこの宿を選んだのか…と、今更ながらに気づいて錆兎は苦笑した。
そして
「いや…宇髄とそういうことを疑われてるってありえなさすぎて、そんな発想すらなかったんですが…
そもそも宇髄は異性愛者だと思うし…」
というと、秋はきっぱり
「彼女がたくさんいるのは知ってます。
でも恋愛という枠じゃなかったとしても、唯一無二のような扱いだったのは私が知ってる限りではお爺様と会長様だけだったので。
少し疑っちゃってたんです。
天元には内緒ですよ?年上の女が嫉妬なんて引かれそうですし」
というので、錆兎は首を振って言う。
「いや…秋さんの気持ちに気づいて、誤解を解いて安心させてあげたいと思ったから、今回俺をここに来させたんじゃないかと。
たぶん、引くどころかしっかり者の彼女の小さなやきもちを可愛いなと思ってると思います。
あいつは嫌だと思ったら容赦なく切る男だから」
すると秋は初めてちょっと顔を赤くして固まると、次に照れたようにふにゃりと笑みを浮かべた。
「そう…かな。だと嬉しい」
というその様子はまるで少女のようで、微笑ましい。
そして
「ご飯も少しだけサービスしちゃうので、楽しみにしていてくださいね~」
と、いそいそと機嫌よく言ったところで従業員用の着物に着替えた炭治郎が出てきたので、錆兎は説明に入った。
「えーっと…とりあえずあまり時間がないので簡単に事情を説明させて頂きます。
炭治郎は実は今回の小澤さんの殺人事件の犯人にとって都合の悪い物を見てしまったらしいんですが、本人を含めてそれが何かいまだわからない状況なので、犯人が捕まらない限り非常に危険な状態なんです。
誘拐犯のメドはついていて、おそらくそれは小澤さんの事件の犯人と同一なんですが、今の時点で証拠がないので安全のため炭治郎を隠したいんですけど、俺達といるとバレるので」
「なるほどねぇ。ま、お預かりしましょ。他ならぬ天元と会長様のお願いですしね」
秋は言ってウィンクをする。
こうして従業員に扮した炭治郎を連れて秋は母屋へと戻って行った。
Before <<< >>> Next(9月29日公開)
「えっとね、天元は海陽に戻って会長様の下についてから会長様の話ばかりしてるから、私すっかり疑っちゃってね。
そうしたら会長様とは“そういう意味”じゃない、あくまで友情だって。
会長様には最愛の恋人もいるし、そもそもが“抱かれてくれる側”ではないからって。
確かに実際会うとそんな感じだなぁって」
と、堂々と言い放つ。
いや、確かに宇髄に…恋愛的な感情というのも本当に想像できないし、義勇一筋だし、そもそもが抱きたい側だし…と、まさにその通りなのだが、妙齢の女性に面と向かってそれを言われるとなかなか恥ずかしい。
だが腕の中の義勇はその手の話はぜんぜん平気らしい。
「確かに。
宇髄も錆兎も抱かれる図というのは想像できないな」
と、真顔で言う。
そんな会話を交わしながらも、秋は盆から布巾を取った。
「はい、これに着替えてね」
と、盆の中身…従業員用の着物を錆兎と同じく…いや、錆兎よりもずいぶんとわかりやすく赤くなって硬直している炭治郎に渡す。
なるほど、それなら離れをうろついていても目立たないか、さすが宇髄の彼女!と、錆兎は感心しつつ、気転のきく秋に少しホッとする。
「今回はありがとうございます。色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
炭治郎が着替えに寝室の方へ消えるのを見送って、錆兎がまずそう挨拶して頭をさげると、秋はニコニコとさらにもう一つ抱えてきた包みを差し出してきた。
「これね、義勇ちゃんの替えの浴衣ね。
天元がお詫びのつもりのご招待でさらに事件に巻き込んでしまったから色々サービスしてくれって。
あとは絹の夜着とか…おしろいとか紅とかもあるし、お風呂に浮かべるように花も用意したわ」
「ちょっ……」
あまりに露骨なサービスにさすがに赤くなって絶句する錆兎に、秋はにっこり
「会長様に恋人さんとの仲を深めて頂けていると、私の精神衛生上もとても良いから。
もちろん実際にお会いして、ああ、天元とはそういう仲になる可能性はないタイプなんだなと思い切り実感したけど、それでも天元以外の相手に思い切り夢中になっていて欲しいのが女心なのよ」
と、笑みを浮かべる。
…もしかして…宇髄は彼女がそういう心配をしているのを知って、そういう関係ではないとわからせるためにわざわざこの宿を選んだのか…と、今更ながらに気づいて錆兎は苦笑した。
そして
「いや…宇髄とそういうことを疑われてるってありえなさすぎて、そんな発想すらなかったんですが…
そもそも宇髄は異性愛者だと思うし…」
というと、秋はきっぱり
「彼女がたくさんいるのは知ってます。
でも恋愛という枠じゃなかったとしても、唯一無二のような扱いだったのは私が知ってる限りではお爺様と会長様だけだったので。
少し疑っちゃってたんです。
天元には内緒ですよ?年上の女が嫉妬なんて引かれそうですし」
というので、錆兎は首を振って言う。
「いや…秋さんの気持ちに気づいて、誤解を解いて安心させてあげたいと思ったから、今回俺をここに来させたんじゃないかと。
たぶん、引くどころかしっかり者の彼女の小さなやきもちを可愛いなと思ってると思います。
あいつは嫌だと思ったら容赦なく切る男だから」
すると秋は初めてちょっと顔を赤くして固まると、次に照れたようにふにゃりと笑みを浮かべた。
「そう…かな。だと嬉しい」
というその様子はまるで少女のようで、微笑ましい。
そして
「ご飯も少しだけサービスしちゃうので、楽しみにしていてくださいね~」
と、いそいそと機嫌よく言ったところで従業員用の着物に着替えた炭治郎が出てきたので、錆兎は説明に入った。
「えーっと…とりあえずあまり時間がないので簡単に事情を説明させて頂きます。
炭治郎は実は今回の小澤さんの殺人事件の犯人にとって都合の悪い物を見てしまったらしいんですが、本人を含めてそれが何かいまだわからない状況なので、犯人が捕まらない限り非常に危険な状態なんです。
誘拐犯のメドはついていて、おそらくそれは小澤さんの事件の犯人と同一なんですが、今の時点で証拠がないので安全のため炭治郎を隠したいんですけど、俺達といるとバレるので」
「なるほどねぇ。ま、お預かりしましょ。他ならぬ天元と会長様のお願いですしね」
秋は言ってウィンクをする。
こうして従業員に扮した炭治郎を連れて秋は母屋へと戻って行った。
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