温泉旅行殺人事件_Ver錆義19_潜伏

こうして離れに戻り中に入って和室にあがりこむと、錆兎はタンスの側に自分の鞄をおいて中を探りつつ、善逸に座る様に指示をする。

「炭治郎は旅館の秋ちゃんにかくまってもらうから、それまでここから出るな。部屋にいないと気付いたら氷川夫妻が様子見にくる可能性がある」

外に聞こえるほどではなく、タンスの中の炭治郎と部屋にいる善逸にだけ聞こえるくらいの絶妙な大きさの声で錆兎は言った。

「詳細と状況は炭治郎にはかくまってもらってから携帯で話す。
善逸と義勇にもあとで。
とりあえず何で拉致られたのかわかるまでは炭治郎が救出されてここにいるって知られるのはまずい。
とにかく炭治郎がいないふりで秋さんからの連絡待つぞ」


錆兎の言葉はもっともだ。しかし…

錆兎の後ろに炭治郎がいるのだ、無事を確認して安心したい…。
善逸はその強い衝動をじっとこらえて膝の上で拳をにぎりしめる。

錆兎はそんな善逸にお茶をいれた。

「少し…茶でも飲んで一息入れろ」
唇を噛み締めて俯く善逸をいたわるように錆兎が手渡してくる湯のみを、善逸は黙って受け取った。

じれったい気持ちと…それ以上に安堵がわきあがってきて、善逸の目から落ちたしずくがぽつりと湯のみにおちる。


そのとき…
「こんばんは」
と声がする。

「来たな…。丁度いい、善逸、お前が出てくれ」
錆兎が油断のない視線を玄関の方へ送り、善逸をうながした。

「おっけぃ」
善逸が湯のみをおいて立ち上がり、部屋を出ると玄関に降りる。


「こんばんは、どうしたんですか?」
開けたドアの向こうには雅之が立っていた。

「いや…今日の事聞いてたんで心配になってね…」
言って雅之は善逸の目をみつめる。

「錆兎君や彼女さんといるの…今日はつらくないかい?
妻とも話したんだが、もし善逸君が一人なのがつらいとか他の二人が善逸君を一人にするのが心配とかなら、僕たちの部屋にこないか?」

思いがけない申し出に善逸はちょっと驚いて考え込んだ。

「えと…でもそこまでは…」
反射的に答えると、雅之は

「妻も…つらい経験してるからね。他人事とは思えないらしくて。
ホント僕らには全然遠慮する事はないし、良かったらぜひ」
とさらにすすめてくる。


心底心配しているようなその素振りに、真相知らなければほだされそうだなと善逸は思った。
目的は炭治郎が部屋から消えたのでこちらに探りをいれたいのだろう。 

それなら…
「ホントに申し訳ないです…。
錆兎が悪いわけじゃない…。
錆兎が運動神経良くて義勇が帰ってこれたのも、なのに俺は暗闇で足取られて転んで失敗なんてしたのも、しかたないんですけど…そうですね、俺やっぱり今は錆兎といるの情けなくてつらいのかも。お言葉に甘えていいですか?」

もちろん雅之には言えないが、その善逸の失敗のせいで戻ってこれなかった炭治郎を見事に救出したのもやっぱり錆兎だ。

自分だけ何も役に立っていない…そう思うと、何か少しくらいは役に立たないと…という気持ちにはなる。
だから逆にこちらから探ってやる、と、善逸はその誘いにのることにした。

「ちょっと…錆兎にことわってきますね。」
と、言っていったん部屋に戻って錆兎に事情を話す。


「だめだっ!断って来いっ!」
当然…錆兎が快く送り出すはずはない。

「大丈夫だって。氷川夫妻の離れに行くのはもう知れ渡ってるんだから返さないってことないだろうし。
俺をどうこうする理由もないでしょ?
それより少しでも情報集めた方がいい。
それにさ、俺が行く事で炭治郎が移動する間、氷川夫妻の目をそらせるし」
善逸が自分が行った方が良い理由を列挙すると、錆兎は黙り込んだ。

「心配しないで。今度こそ上手くやるから」
そう言って玄関に向かいかける善逸を追い越して、錆兎も玄関に出た。

「こんばんは」
と、雅之に声をかけると、錆兎はお辞儀をする。

「ああ、こんばんは。錆兎君も今回は大変だったね」
雅之が言うのに

「ご心配おかけしてます」
とさらに頭をさげると、錆兎は軽く善逸の肩に手をおいた。


「善逸お願いします。
でも…本当に申し訳ないんですが、こいつも今日は一回行方不明になりかけたし、俺が心配なんで…絶対に一人にしないで帰る時もここまで送ってもらえませんか?
俺ちょっと限界で寝てるかも知れないんですけど、必ず起きて引き取りたいので、できればこちらに戻る前に電話頂けるとありがたいです」

錆兎の言葉に善逸は
「錆兎~、子供じゃないんだから…」
と苦笑するが、雅之は笑顔で

「もっともな心配だね。
大丈夫、僕が責任持って送ってくるから、君もゆっくり休んでね」
とうなづく。

これで…善逸が自分達と分かれてからいなくなったという言い訳はできないし、善逸に手出しはできないだろう。

「じゃあそういうことで。お預かりします」
と言って雅之は善逸と共に自分の離れへとむかった。


5分ほどで善逸から雅之の部屋の電話で今着いたという連絡がはいる。
それを了承して切ると、錆兎は部屋のカーテンを閉めた。

「夫妻は揃って部屋なのは確認できたから出ていいぞ、炭治郎」
と、タンスの中の炭治郎に声をかけると

「ホント、どうなってるんだ?」
と炭治郎がタンスの中からころがるように出て来た。

「詳細は後でな。簡単にだけ説明する」
時間がないので錆兎は早口に始める。

「昨日この宿で殺人事件が起こった。殺されたのは一人で来てた中年男小澤。
で、炭治郎一人で露天の鍵返しにいった時お前、氷川澄花に接触しなかったか?」

「あ…確かに。そうだ、ペンダント、イニシャル入りの指輪を鎖に通したペンダントを拾ってフロントに届けようとしたんだ。
だけど、ちょうどフロントの人が席外してて、氷川さんの奥さんにそれは自分のだって言われて、丁度良かったって渡したんだけど…」


「それだ!」
と、炭治郎の言葉に錆兎は叫んだ。

「それがどういう風に関わってるかわからんが殺人事件の立証に関わるものらしい。
で、お前が誘拐されて今救出したわけなんだけど、全部状況証拠だけだから相手を拘束できないし、お前を救出するために非合法な手段で氷川夫妻の離れに入ってるんで、それバレるとこちらの行動制限される可能性もあるんでまずい。

でもって、お前がみたものがどう殺人に関わってくるものなのかわからないうちは、またお前が狙われる可能性も出てくる。でも警察は不確かな情報だけじゃ動かないかもしれない。

という事でな、知っての通りここの女将は宇髄の彼女の一人だからそのコネでこっそりお前を旅館の方でかくまってもらって、その間に殺人事件の方調べてみることにした。以上」


なんで…また殺人事件なんかに巻き込まれてるんだろう…。
錆兎の話を聞いて惚ける炭治郎。

去年の夏から数えてこれで3回目?ありえない。

ああ、それでも今まで生きてるのもすごい…
これって…普通なら死んでるよな?やっぱり主人公の仲間補正なんだろうか…
と、炭治郎は善逸が以前思ったのと全く同じ事を思う。

「とりあえず…詳しい事はまたメールででも送る。
危険だからな、絶対に暴走せず大人しくかくまわれててくれ」
と、錆兎の言葉に異論はない。

というか、主役の注意を聞かずに突っ走るなど死亡フラグ以外のなにものでもないので、炭治郎は大人しくそれに頷いた。



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