温泉旅行殺人事件_Ver錆義16_絶望と希望

眩しい…。
善逸は眩しさに腕で明りをさえぎった。

「善逸っ!!気がついたか…」
聞き慣れた声がそう言って明りと自分を遮るように影ができる。
そのすぐ後ろで大きなため息が聞こえた。

「…義勇…錆兎…?」
いぶかしげに目を細める善逸に義勇は

「平気か?どこか痛んだりとかはないか?」
と心配そうに言うと、少し潤んだ綺麗な青い目で顔をのぞきこむ。

その義勇のすぐ後ろには腕組みをした錆兎がホッとしたような…でも少し困ったような顔で立っていた。


何してるんだ、自分…と一瞬考え込む善逸。

そして…思い出したっ。


「義勇っ!受け渡しはっ?!!」
ガバっと起き上がって直ぐ側の椅子に座る義勇の腕をつかむ善逸だが、義勇も錆兎も無言。

「俺……失敗…した?」
呆然とつぶやく善逸。


「暗闇で足を取られて転倒したあと、そのまま意識失ったようだ。
お前…部屋帰っても寝てなかったんだって?
雅之さんが心配して聞いて来て…責任を感じていた…」
と、それに錆兎が答える。

確かに…寝不足だったかもしれない…でも…こんな状況で寝てしまうのは…
言葉もなく青くなる善逸。

「身代金は転倒したお前の近くにあった。手つかずだった…」
「まじ…?」
善逸は頭を抱えた。

「それでっ?!次の受け渡しはっ?!」
自分を見上げてきく善逸に言葉がない錆兎の代わりに、和田が答える。

「22時の時点で犯人から身代金を払う気がない認定の電話が入りました。
が、まだ遺体が見つかったわけではありませんし、気が変わって再度の身代金の要求があるかもしれません。
警察としても全力をあげて解決に向けて動いてます」

ありえない…自分のせいだ…。

茫然自失の善逸。

錆兎は少し身をかがめてその善逸に視線を合わせる。

「炭治郎は絶対に助ける」
善逸の腕をつかんで錆兎が言う。

無理だろ…と善逸は思う。
身代金を払う意志がないと見なされたのだ…。


当たり前だ。
2時間…普通に歩けば30分の距離を2時間かけてたどりつかなければそう思われても仕方がない。

錆兎の時のように妨害があったわけじゃない。
犯人は辿り着かせる気満々で、思い切り時間の余裕を持たせたのだ。

それを自分は……

「…無理だ…」
虚ろな目で言う善逸に義勇がきっぱり言い切った。

「無理じゃないっ!遺体確認するまでは絶対に無理じゃない!
助けよう!諦めるなっ善逸!
大丈夫!錆兎がいれば絶対に解決できる!!」

何故そこで”錆兎がいれば”…になるのかな?
…と思ったのは善逸だけではなかったようである。

「無理だろ…普通に考えたら…」
と、肩を落とす善逸の目の前で、指名された錆兎も一瞬とても微妙な表情をしたのを善逸は見逃さなかった。

しかしそこはさすが会長様。
次の瞬間には見事なポーカーフェイスで

「まあ、そうだな。
俺が解決してみせるから、何も心配するな。
善逸もあまり思い詰めるなよ?」
と、にこやかに請け負う。

すげえな…断言しちゃうんだ?
と、どう考えてもこの状況で大丈夫なはずはないのに、堂々と宣言する錆兎の言葉に善逸まで大丈夫な気がしてきてしまう。

もちろん義勇は自分で言い出したことを微塵も疑っていない。

「さすが俺の錆兎!
他の人間には出来ないだろうが、錆兎なら出来ると思ってたんだ」

と、キラキラした目で彼を見上げた。

錆兎が居れば全ては大丈夫、全ては解決する、と、大きく頷いて、義勇は

「とりあえず…食事だな。
腹が減ってるとと余計に悲観的になるんだ。
部屋に持って帰って良いそうだから、部屋でゆっくり食べよう!
善逸もお腹が満たされたら少し元気も出るだろう」
と、相変わらずぽわわ~んとした口調で言って食事を指差す。

なんだろう…この二人のそれぞれの反応を見ていると、こんな状況なのに本当に解決できるような気がしてきた。

というか…錆兎は義勇が望むならなんでもやり遂げてみせる男だ、ということは、これまでの付き合いから善逸も知っている。

凶器を持った連続殺人犯を素手で張り倒す身体能力と、善逸が関わっていないものも含めると4件もの難事件を華麗に解決してしまう、萌え系推理小説の主人公高校生探偵並みの頭脳と容姿の持ち主だ。

これ、解決できるの当たり前なのかもしれない。
だってこいつリアル主人公キャラ過ぎるし…。

…などと思う自分もたいがい疲れて考えがぶっ飛んできているのかもしれないが…

とりあえず遺体を目にするまでは解決出来る可能性はあるのだ。
そうなら少しでも食べて寝て何かあった時にまた動ける状態をキープしなければ…

そして…男二人、大人しく義勇の言う通り食事を離れに運び込む。
3人で食事と相成った。


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