「マリア様、久しぶりだ~」
あれから数日後、錆兎と義勇は、シスターに預けてある例の栞を宇髄に頼まれて受け取りに来ている。
なので代わりに受け取りに行く事を申し出た義勇は、自分が元通っていた学校の隣にある姉妹校なので、そこに見えるかつて知ったるマリア像を懐かしんでいた。
いかにもミッション系女子校らしい綺麗な4階建ての校舎の上にそびえ立つ重ねた両手を胸に当てた聖母マリア像に両手をかざしてにこやかに微笑む義勇に、しかし錆兎は少し青ざめる。
「義勇……」
「ん?」
「あれ…確かに高いよな。落ちたら死ぬ」
と言う錆兎に、
「でもすごく眺めが良かった」
と意外に平気な義勇。
「錆兎…高所恐怖症か何かか?」
きょとんと首をかしげる義勇に
「…そういう問題じゃない…」
と錆兎はがっくりと肩を落とした。
前回もそうだったが…この学校は電波を寄せ付ける何かがあるんじゃないだろうか…
本当に…馬鹿と煙は高い所に…というが、それに電波も付け足してくれ…と心中思う錆兎。
その全然悪気のない4年も前に亡くなった電波な天使様のおかげで、今頃まだ実に3人もの人間の人生が大きく狂ったのかと思うともう、人騒がせという域を超えて恐ろしい。
宇髄からあのあとの事を聞いたのだが、舞は…実は宇髄がくるまでもう少し時間があると思ってた美佳はゆっくりといたぶって殺すつもりだったらしく、あの時点ではまだ範囲は広くとも致命傷になるような傷は負わせていなかったということで、体の傷自体はたいしたことはなく、整形手術なども駆使してほぼ傷跡も残らないらしい。
ただ、今回の一連の恐怖で心の傷の方が重傷で、現在対人恐怖症で自宅にこもって精神安定剤を服用しつつ精神治療を続けているが、回復のメドはたってないそうだ。
そして美佳の方も宇髄から事の真相を聞いてかなりショックを受けたらしい。
精神衰弱もひどく自殺の怖れもあることから身体を拘束しての生活を送っているとのことで、この彼女がこよなく愛した幼馴染の形見を届けてやったら何かが変わるのではないかと思っての、今回の回収作業なのだ。
そして宇髄自身については奈々に対しての最後のご奉公代わりに実家の財力にものを言わせて美佳のために優秀な弁護士を手配し、それでもう今後は二人とは距離を置いて過去は振り切る事にしたらしい。
事件直後はさすがに元気がなかったが、忙しい生徒会の中で気の置けない面々とバタバタと過ごしてるうちに、少しずつ元に戻りつつある。
本当に本当に……
博愛を説いているはずのキリストの母マリア像。
殺人の発端になんてされて、さぞや迷惑だろうなぁと錆兎はまた遠く屋上のマリア像を見ながら思う。
とにかくもう殺人事件はお腹いっぱいだ。
これを最後にあとは恋人様と平和に楽しく過ごしたいものだ…という彼の願いは、聞き届けられることなく、まだまだトラブルがヒタヒタとあちらから歩いてくるのだが、そのことは当然この時の彼も知る由もない。
──完結──
Before <<<
0 件のコメント :
コメントを投稿