「…錆兎…本当にすみませんでした…」
結局別荘に戻って舞は松井が、美佳は宇髄が見ているということになり、いったんリビングに落ち着くと、まず炭治郎が頭を下げ、その隣で状況を聞いて青褪めた顔で禰豆子も同じく頭を下げた。
ありえないほど危険なことに巻き込んでとんでもない迷惑をかけてしまったと思う。
謝って済むものではないが…と、悲壮な顔で謝罪する炭治郎だが、
「あ~、今回のはもうお前らがどうという問題じゃないだろう。
確かに面倒に巻き込まれはしたが、俺が来なければ宇髄が色々やばかったかもしれないし、まあ来て良かったんじゃないかと俺は思うぞ」
と、錆兎は温かいコーヒーをすすりながら苦笑した。
義勇が一番ではあるが宇髄だって大切な友人だ。
特に生徒会の繋がりは例年一生ものの付き合いになることが少なくはない。
だから大切にしなくてはならないと思っている。
そんなことを主張していると、隣の義勇がピタリと寄り添ってくるのに、錆兎は
「ん?どうした?
何か怖くなったか?もう大丈夫だぞ」
などと労る様に言うが、それに義勇は小さく首を横に振って、──あの栞…とポツリと呟く。
「あの栞?奈々の?」
と少し不思議そうな顔で聞き返す錆兎の言葉にこっくりと頷いた義勇は、なんと
「同じもの…見た…と、思う」
などと驚くべき言葉を口にした。
「ええ??!!」
と、義勇の方へと身を乗り出す面々に、少し気圧されたように錆兎の腕にぎゅっとしがみつく義勇。
「確かか?どこでだ?」
と、目を丸くする錆兎に、義勇は言った。
「この前の殺人事件の時…。
マリア様の像に自分のを願いの紙を置こうと思ったら、奥の方に随分と古びた包みがあって、なんだろうと手に取った瞬間に錆兎にすごい勢いで呼ばれたから、思わず持ってきてしまったんだ。
で、あまりに古い包みだったからおそらく置いた人間が忘れたまま奥に入ってしまったんだろうと思って、遺失物としてシスターに届ける前に念の為中身を確認したら、四葉のクローバーのしおりが3枚。
確か…姫ちゃんへ、みぃちゃんへ、げんちゃんへって」
「ちょっ!炭治郎っ!宇髄呼んでこいっ!」
錆兎の言葉に炭治郎が弾かれたように立ち上がって駆け出していく。
そこでおそらく美佳の見張りを代わったのだろう。
宇髄が1人で戻ってきた。
「どうしたよ?」
と、不思議そうな顔の宇髄に錆兎がさきほどの義勇の話を伝えると、宇髄は呆然とその場で立ち尽くしたあと、
──間違いねえ。その呼び方は、奈々だ…
と、両手で顔を覆ってソファに崩れ落ちた。
そしてしばらくそのまま手で顔を覆ったまま固まっている。
その間に義勇が続けた。
「台紙が特別なんだ。
4年前のうちの学校創立50周年で、その時だけ系列校でしか買えない限定販売だったんだ。
しおりの台座になってるカードの上の方にマリア様の透かし入ってて。
俺も当時これ買ったからっ。
マリア様ファン必須限定レアアイテムなんだっ。
この他にも便せんとかノートとか…」
と、変な部分に盛り上がりを見せて脱線しかける義勇を、錆兎が仕方なく引き戻す。
「ごめんな、義勇。その話は今度丸一日でも聞くから…とりあえず話戻していいか?
そのおまじないってのは、何か願いごとをするものなんだよな?
その願いってのはなんだったんだ?」
「あ~…確か…──四葉のクローバーみたいにずっと仲良く一緒に幸せでいられますようにって…」
「…死ぬ直前の願いじゃないな…というか、死ぬならまじないしても回収できないしな…」
「え~っとつまり?」
と、そこで禰豆子がよくわからないと言った風に小首をかしげる。
「おまじない終了の7日目という事でわざわざ台風の中おまじないをかけた袋を取ろうとしてマリア像によじ登って足を滑らせて転落…というだけの事なんだろう。
ようは、台風の風のせいか奥の方に入り込んだその包みをだ、取ろうとしたら暴風にさらわれたってことだな」
と、それに錆兎が複雑な表情で説明する。
シン…とする一同。
それに、
「あぁ、本当にそうなんだろうな。あいつはそういうやつだ。
ありえないほど前向きで楽天的で…あんまり周り気にしてない奴だったもんな…確かに…。
誰も恨んでもなかったし、別に傷ついてもいなくて…舞がガチギレしてんのもいつものことだから、普通に仲直りできるって思ってたんだろうよ」
と宇髄だけがそう言って泣き笑いを浮かべた。
「本当に…四葉のクローバーなんて葉が一枚欠けたら、幸運なんてなくなっちまうのにな…マジ考えなしの馬鹿……だったから……
…とりあえず…遺った人間に奈々の最後の意思だけは伝えてくるわ」
と言葉を残して宇髄はリビングをあとにする。
警察と救急車が到着したのはそれから1時間後。
全てを大人に引き渡して全てが終わった。
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