こうして3人で向かった川本の部屋。
宇髄が一歩前に出てノックをするが返事がない。
そこで
「川本、開けろ」
と、さらに宇髄が声をかけると、
「ちょっと待ってくれ」
すぐ中から返答はあったが、それでもドアは開かれない。
状況が状況だけにあまり穏やかとは言えない想像が頭をよぎった。
「ちょっと!川本開けろっ!何かあったのか?!」
痺れを切らした宇髄がドンドン!とドアを乱暴に叩くが、相変わらず
「ちょっと待ってくれ」
の一点張りである。
「これ…何かあったのかもな。ちょいマスター取ってくるから錆兎見張っててくれ」
宇髄は言って踵を返した。
「川本…何かドアを開けられない理由でもあるのか?」
錆兎は宇髄を待っている間も一応声をかけてみるが、返答がない。
「取って来たっ」
やがて宇髄が帰ってきて、マスターキーで鍵を開けるが、いざドアを開けようとすると開かない。
向こうからつっかい棒か何かをしているらしく錆兎と宇髄だけでは開かない。
「ダメだ、開かない!宇髄…2F組呼んで来い。
開けるのは男だけでいいが、女1人だけ部屋に残すのは危険だからな」
錆兎が言うと、
「了解っ」
と、また宇髄が走って行く。
やがて2F組を連れて宇髄がまた戻って来た。
「理由はわからないが、何故かドア開けたくないらしくて向こうからドアを押さえているようだから、男全員でこじあけるぞ」
と、錆兎が説明して男4人でドアを引っ張る。
今度はさすがに押し切ってドアが開いた。
キラリ…
ドアが開いた瞬間、いきなり何かが光る。
飛び出してきたそれが丁度ドアの開いた所にいた宇髄に向かうのをかばうように立った義勇をさらに慌ててかばう宇髄。それをさらに錆兎がかばった。
錆兎の腕から血飛沫が飛び、禰豆子と義勇の悲鳴が上がる中、錆兎はナイフを持った川本の腕をつかんでそのまま投げ飛ばし、ナイフを叩き落とす。
「おい…冗談じゃすまないぞ…これ」
錆兎は有無を言わさず善逸のカーディガンを取り上げると、それで川本の手を固定して、足元に転がる川本を睨みつけた。
「ご、ごめん!錆兎…お…おれ……」
義勇が蒼褪めて泣きだすが、錆兎は
「ああ、腕だし皮一枚だから大丈夫だ。義勇のせいじゃないから。
お前に怪我がなくて良かった」
と、厳しい表情のまま言うと、自分でちゃっちゃとハンカチを出して止血し始める。
他は本当に呆然だ。
「ねっ、救急車…」
思わず言う禰豆子に
「だから…土砂崩れで…」
と青ざめたまま言う宇髄。
「…俺が止めなきゃ下手すりゃ義勇を刺すとこだったぞ、貴様…。
止められて良かったな…。
義勇に小指の先ほどの怪我でも負わせてみろ。
俺は日本の政財界の中枢にいる海陽OBを始めとする全人脈を使って、貴様だけでなく一族郎党に一生どん底から這い上がれないくらいの社会的制裁を加えた上で、死んだ方がマシだと思う程度には心身ともに苦痛にのたうちまわる思いをさせてやるぞ…」
思わず凍り付く様な怒りきった目で言う錆兎に川本は青ざめて震え始める。
「……で?何のつもりだ?」
さらに低く殺気立つ錆兎の声。
そのままゆっくり屈むと錆兎はたたき落とした川本のナイフを拾い上げた。
「どうして閉じこもってたかと思ったらいきなりナイフなんだ?言えっ!」
全員がドッと冷や汗をかく中、錆兎が川本を睨みつける。
「宇髄が木戸…殺した犯人で、今度は舞を狙ってるっていうから…」
川本の言葉に少し宇髄が表情を硬くし、他は驚いた顔になる。
もちろん錆兎がそれに気づかないわけはない。
拾い上げたナイフを手に一歩前に出た。
「貴様ただの筋肉馬鹿だな。いきなり刺して捕まるのは貴様の方だ。
警察に聞かれたら思いっきり証言してやる」
その言葉にも青ざめる川本。
それでも
「舞が人殺しなんてするはずないし…あの部屋中から鍵かかってたってことは、合鍵持ってる宇髄しかいないだろ、犯人は」
と言う川本の言葉に、錆兎はスイっとさきほどのナイフから手を離した。
そして…それは本当に川本の耳からわずか2mmくらいの所の絨毯につきささって、川本にヒッと引きつった声をあげさせる。
「ああ、すまない。手が滑った。
宇髄は昨日あれから10時半くらいまで俺と炭治郎と義勇と4人で露天風呂入ってたんだ。その後は炭治郎の部屋行って、そのタイミングでそこで先に待っていた善逸と禰豆子が犯人らしい影を目撃してるんだが…」
ニコリと口元だけ笑みの形を作って言う錆兎の藤色の目は笑ってない。
そしてその後に続いて
「…実は…そのあと3時くらいまで俺の部屋で話してたんだけど…」
と、そこで善逸が初めて口をはさんだ。
それは初耳だったので、ぴくりと眉毛を器用に片方だけあげる錆兎。
「じゃ、決定だな。
貴様は無差別に一般市民に切りかかって怪我をさせた犯罪者だ」
と、あくまで静かに錆兎はそう言い放つ。
その感情のこもらない声音が怒鳴るよりも恐ろしい。
しかし川本は果敢だった。
恐ろしさに震えながらもそれに対して
「死体見つかったの6時くらいなんだから3時間あるだろっ!」
そう言うが、
「それはない」
と、錆兎はきっぱりと断言した。
「遺体発見時刻が5時47分。
で、遺体の状態から推測するに発見時に死後5~8時間くらいはたっていた。
以上の事から犯行推定時間はおおよそ昨夜10時から今朝1時前くらいだな。
更に言うなら…昨日の夜11時頃善逸達が見た影っていうのが犯人の可能性高いから多分11時前後か、殺されたのは」
錆兎の説明に宇髄と義勇以外はぽか~ん。
「お前…一体何者だよ」
それまで無言を通していた山岸がコソコソっとつぶやくと、錆兎は綺麗な笑みを浮かべて
「萌え系推理小説の主人公高校生探偵…らしいぞ?お前が刺そうとした男に言わせると。
ま、その実態は単に幼い頃から色々教え込まれた警察関係者の息子というだけだがな」
と言い放つ。
ここは笑っていいところなのかどうなのかもわからない。
そこでみんなが戸惑い黙り込んだところで、錆兎がさっき宇髄と義勇にした密室トリックを説明した。
「…というわけで、だ」
一通り説明して錆兎は息を吐く。
「合鍵持ってるならこんな面倒なトリックなんか使う必要はない。
だから宇髄はまず犯人ではない。
そういうわけで部屋いれろ。そっちの女性陣に聞きたい事があるから」
錆兎が言うと、それでも悩む素振りの川本と山岸。
「時間がないっ!!」
と、焦れて2人を押しのけようとする錆兎とそれを阻む2人に、義勇が飛び出した。
ふわりと揺れるスカート。
ウィッグにヴェールという姿なのも忘れて、川本に走り寄る。
「優しい美佳さんに…これ以上悪い事させたくないだろう?
お願いだから…」
今回の木戸の殺害が本当に錆兎が言うように美佳の手によるものだったとしても、その他の彼女の優しさは嘘ではないと思う。
きっと何かの事情があるのだろうし、罪を犯してしまっていたとしても出来れば自首してもらって、少しでも罪を軽くして欲しい…
美佳は本来は気弱な性格なのに、姉の蔦子と…いや、死んだ親友の奈々と重ねていたのだとしても、義勇を舞の暴言から守ろうとしてくれたのだ。
本来人見知りの義勇だが、美佳のことはやはり少しでも悪い方向に行かないようにしてやりたい。
そんな思いで、涙ぐんだ目で自分より頭一つ分高い川本を見あげた。
長いまつげを彩るキラキラと光る涙の雫。
その下に覗く澄んだ青い目。
透けるように真っ白な肌に震える桜色の唇。
祈るように胸元で合わせた手の指先は細く、肩も頼りなげに震えている。
「…あ…あの……えっと……」
と口ごもり赤くなる川本に、きょとんと首をかしげる義勇。
「…えっと…もしかして熱でもあるのか?体調悪い?」
と、そっとその額に伸ばしかけた白い手をいきなり握る。
「え?あ、あの…???」
「…優しいんですね。
見かけも天使、中身も天使。
あなたのような人に初めて出会いました」
「…は???」
「宇髄のお友達ですか?」
「はあ??」
ぽかんと呆ける義勇。
その次の瞬間
「俺の義勇に何をするー!!!」
と、錆兎の蹴りが炸裂して川本が吹っ飛んだ。
ふっとぶ川本。
慌てて駆け寄りかける義勇を錆兎が引き寄せ、代わりに床に伸びた川本の顔すれすれに宇髄がドン!!と足を振り下ろす。
「良いからっ!吐けっ!!」
上から見下ろしつつそう宣言する宇髄に、川本はようやく口を割った。
「あの…宇髄が犯人だと思ってたから…舞を逃がさないとと思って俺が囮になってなるべく引きつけるって事で美佳と外に…」
おずおずと言う川本に
「こっ…の愚か者があぁぁっっ!!!!!!」
と錆兎がキレた。
「殺人犯とそいつが殺したいと思ってる奴セットで逃がす馬鹿がどこにいるんだっ!!!」
錆兎の怒声に川本以外の面々もすくみあがる。。
「とにかく探すぞっ!雨で地盤緩んでて危ないから禰豆子は松井さんと留守番っ。
そこの馬鹿は勝手に探せっ!宇髄はこの辺り詳しいし来い!義勇は…」
「俺も行くっ!美佳さん止めないとっ。錆兎こそ休んでなくて平気か?」
義勇はそう錆兎に申し出る。
「ああ、大丈夫だ。
俺はまあ…怪我はたいしたことないし、多少の怪我をしていてもそこの馬鹿2人よりは役に立てると思うから」
錆兎は言って、今度はちらりと炭治郎と善逸に視線をむけた。
それに気付いて炭治郎が
「もちろん俺達も行くぞ。
そもそも今回は俺の妹の禰豆子のことで錆兎に来てもらったんだから、ここで俺が行かない理由がない」
と、さらに善逸が
「まあ…怖いの嫌だけど連絡係くらいにはなれそうだし?
同じくそこの馬鹿2人よりは役にたてると思うよ」
と、苦笑まじりに頷く。
こうして一応錆兎の腕の応急手当だけすませて探しに出る事にする。
川本達は家の周りを探すという事で、他5人はとりあえず土砂崩れの所まで行ってみる事にした。
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