ジュリエット殺人事件Ver錆義11_迷探偵スキル発動3


こうして宇髄と共にソロリとその斜め後方に控える義勇の目の前で、錆兎は他の者など存在しないかのように室内のあちこちに目を向け、奥に進みバルコニーに出た。
その後また室内に戻り、室内に視線を向け、ぱちりと目を閉じる。

静かに…何か憑かれたように…もしくは祈りを捧げるように…小さく口を動かして何かを反復すると、

「わかったっ!」
と、いきなりカッ!と目を開いた。

「は??」
と、さすがに義勇はわけがわからず目を丸くする。

「物理的な謎は全部解けた。まあ動機はわからんが…」
「…ほんとに?」

確かに錆兎はすごい人間だとは思ってはいるものの、この短時間に?とさすがに思うわけなのだが、錆兎は義勇の言葉にニコリと頷いた。

「義勇が解決してくれと言うならな、この程度の謎などいくらでも説いてやるぞ」
と言う言葉はでたらめのようには思えない。

「まあ…錆兎がその気になれば不可能ではないわな。
単に普段はその気にならないだけで」
と、宇髄はこれを見越していたように後方に立たずみながらため息をつく。

「要は集中力の問題だな。
あいつは常人じゃありえないほど知能が高いけど、普段から全力で生きてたら疲れるだろ?
だから無意識にセーブしてる。
で、奴の大事な大事な恋人様にお願いさせることでその無意識につけてるリミッターを取り払ってみたってわけだ」

と、パチンとウィンクしながら義勇が意味がわからずにいる事に気づいて説明してくれる宇髄も十分頭がよく周りが見えていると思う。
ポンと軽く義勇の肩を叩いてそうフォローを入れた後、宇髄は再度錆兎に視線を向けた。

そして
「で?ご説明願おうか、迷探偵?
犯人は舞…じゃないよな?」
とさらに続く言葉に、錆兎は頷く。

「当たり前だ。
自室にひとを呼びつけてその場で殺してそのまま死体放置で一晩死体と寝るなんて馬鹿まずいないだろう。
というか…普通嫌だろう?死体と一緒の部屋に寝るのって」

「あ、それもそうだな…」
宇髄は苦笑。
そしてすぐ笑みを止めた。

「でもそうすると密室じゃないか?
舞が起きるまでは鍵かかってたわけだし…
バルコニーから逃げたにしてもここ3Fだしな。
地面からだいたい6mか?
近くに飛び移れるような物もない。
バルコニーの手すりにロープとか結んで降りるにしても降りた後にはずせないから結んだままのロープが残ってないとおかしいし…梯子なんかここにはないし万が一外から持ち込んだにしてもそれならぬかるんだ地面になんらかの後がついてないとだしな」

二宮は…ここでは施錠する習慣ないみたいだよな?

「ああ、子供の頃からきてるからな。
子供の時は逆に鍵かけた状態で室内で何かあったら危ないから鍵かけちゃだめとか言われてたし。その頃の習慣だな。
いまでもどうせかけないから舞が来た時はこの部屋の鍵はマスターと一緒にしてる。
…って事で…もしかして俺が疑われてたりとか?」

「ないな。
全員容疑者と言えば容疑者と思うべきだけどな。
すごくぶっちゃけると宇髄が犯人というのはありえないと思っている。
お前が犯人ならこんなトリック使う必要ないし
肩をすくめてそう言う錆兎に宇髄はちょっと興味深げな視線を送る。

「トリック?」
「ああ。全然密室じゃないというか…
今回の事で1Fのいたずらについてすごく納得できたんだが…犯人はわかっても動機がわからん。
お前達の人間関係知らないしな」
と言う言葉に犯人がここにいる人間なのだと再認識させられて、さすがに義勇は蒼褪めたが、宇髄は淡々としたものだ。

「知人の犯罪暴かれるの嫌だったらわざわざ日本一賢い高校生様をこの部屋に残さねえし、サクっと言ってくれて良いぞ。
いったい誰がうちの別荘で殺人事件なんてふざけた真似してくれたんだ?
逃げられないうちにふん捕まえようぜ!」
と、冷やかに言い放った。

「わかってる範囲で説明する。
でもたぶん俺だと内情知らなさすぎて結論まで辿り着かない。
だからそこからお前の情報を加味して考えてくれ」
「了解だ」
「一気に行くぞ」
錆兎は宣言して小さく息を吐いた。


「まず…木戸の寝返りの顛末から。
木戸は二宮に何か弱みを握られていて、本当は心情的には禰豆子の側につきたくてそのつもりだったのを、そのネタを盾に二宮に引き抜かれた。

これは…木戸から感じた印象。
気が弱くて神経質で臆病。そんな奴だ。
自主的に個人的好みで裏切ったりとかする度胸はないと思う。
以上から脅されての寝返りという推論が成り立つ。

次に…昨夜この部屋に起こった事の推論に移る。
弱みを握られた状態で協力してチェス勝負に負けた木戸は、当然二宮からの制裁を怖れる。
犯人はそこにつけこんだ。

犯人は木戸に次のように言った。

二宮が木戸の謝罪を求めている。ただし普通の謝罪など欲しくない。
どうせ謝罪するならこの豪雨の中バルコニーまでよじ登ってきて謝罪するくらいの事をしろと言っている。
ただし…二宮の立場上万が一にでもそんな事をさせたのがバレては問題だから、他に見つからない様に。

二宮とごく親しい人間が言う事でもあるし、二宮はああいう性格だしペナルティだからそういうむちゃくちゃな注文もありうるだろうと信じる木戸。

そこで犯人は木戸に時間を指定した上で、その時間に二宮の眠りが深くなるように睡眠薬か何かを飲み物にまぜて飲ませる。
あとは普通にドアから二宮の部屋に入り、バルコニーからロープを垂らして木戸を待ち伏せて、木戸がロープを伝って登って来て部屋に入って二宮に気を取られてるうちに後ろから刺す。
木戸の死を確認したら、あとは二宮の部屋のドアの鍵をかけ、自分は木戸が登って来たロープを伝って降りる。そのロープの跡がここにある。かすかに塗装が剥げてる」
と、錆兎は手すりの一本の下の方を指差す。

「ストップ!でもな、それなら犯人はどうやってそのロープを回収したんだ?
下からバルコニーの手すりに結んだ結び目解くのは無理だろ?
それに地面には足跡ないし」
宇髄の言葉に錆兎は自分のハンカチを出して、それを手すりに巻いて両端を片方の手でつかんだ。

「こういう事だ。
犯人はロープを結んでない。
長いロープを半分にしてその間に手すりを挟むような感じで使ったんだ。
で、木戸にもおそらくそこから出る様に指示したんだろうが、開けておいた1Fの廊下の窓から自分も室内に戻った。

ただここで一つ誤算が。

行きは良かったんだが、降りてくる際に当然この豪雨だから犯人はかなり濡れていて、室内に入った時に絨毯が濡れてしまった。
丁度二宮の部屋の真下の絨毯が濡れていれば何らかのチェックをいれる人間がいるかもしれない。

犯人は迷った挙げ句、廊下のあちこちを濡らす事にした。
水だと雨を連想させる可能性もあるから、撹乱のため、よく血の代わりに使われるトマトジュースで非日常を演出。単にいたずらか何かでぶちまけたんだと思わせる。

これが密室のカラクリなんだが…
ここで犯人の特定に移る。

木戸が二宮からの使者と信じたという時点で、二宮と不仲な禰豆子側の人間はありえない。
明らかに意地の悪い要求というのは目に見えてるため、相手には性格の悪い女だと思わせたくないと思っているとりまきの川本達に二宮がそういう伝言を伝えさせるというのもありえないから奴らでは同じく木戸が信じない。
松井さん…だと当然お前の耳にも入るよな?
ではお前か?
お前なら鍵を持っているからトリックを使う事自体に意味がない。
で、残りだ、犯人。
二宮と親しくて、そいつが言う事なら二宮の言葉だと信じさせる事ができ、普通に飲み物をすすめても二宮が疑いなく飲む相手。
そして…二宮がここにいる間は施錠しない事を知っている人物

錆兎は言ってチラリと宇髄の表情を伺う。

「美佳…なのか…?でも何故木戸を?」
呆然とつぶやく宇髄に錆兎もうなづいた。

「そこがわからない。が、」
「が?」
「木戸と二宮がおそらくジュリエットの死にかかわっていて、それが二宮が木戸を脅していたネタなんだと思う。
ジュリエット、奈々が亡くなってもう4年だ。
何故このタイミングに、なのかと考えた時に、二宮が木戸を奈々の死に関する事で脅していたのを矢木が聞いていて復讐をと考えると納得がいく。
矢木が食事の時に亡くなった奈々の事を話した時の二宮の動揺ぶりを見ると、二宮自身も奈々の死に無関係じゃないのかもな。
で、1Fのいたずらに戻るが、あのメッセージは…おそらく二宮に向けたものかと…。
共犯者(?)の木戸を密室の二宮の部屋で殺し、ああいうメッセージを残す事で二宮に恐怖とプレッシャーを与えるのが目的なんじゃないかと言うところまでは考えたんだが…」

そこで錆兎は動きかける宇髄の腕を掴んだ。

「お前は…暴走すんなよ」
「暴走するなっ?!至極冷静なる報復だったらいいのか?!」
その錆兎の手を振り払って宇髄はさけぶ。

錆兎はその腕をまたつかんで静かに言った。
「これは俺の推論にすぎない」
「限りなく事実に近い推論だろうよっ!」

「暴走する前に…真実を知る方向で動くべきだ」
「真実がわかって?!それでどうなるって?!」
「とりあえず…処罰されるべき人間が処罰されて…お前は長年納得のいかなかった謎を解決できる。
その後…お前は…俺と義勇と炭治郎達と一緒に帰りにロマンスカーで駅弁食って、休み明けに生徒会室で渡した土産を1人でかっ食らう煉獄を横目に、村田と不死川に箱根の土産話をして、そうだな、今度は生徒会役員皆で押しかけて行こうなんて話になって、新しい思い出を作っていく。そうだろ?」

「そこであいつらまで出すか…」
思わず力が抜ける宇髄。

なんのかんのいって、それまで同年代の同性と親しい交友関係がなかっただけに、宇髄は今の生徒会の人間関係をとても大切にしている。

「ここでお前が暴走して何かあったらみんな心痛めるだろ」
と錆兎の口から出た言葉に、茫然とやりとりを聞いていた義勇は慌ててコクコクと首を縦に振った。

「それ…ずるいぜ…会長様よ」
と言いつつ宇髄はため息をついた。

「木戸は本当にわからない…でも二宮に関しては…自分がジュリエットやりたがってたってことだからな。
だからそれが原因で嫌がらせくらいしてても不思議じゃないとは思うけどな…
とりあえず…木戸本人は死んでるから事情聞けるとしたら二宮か矢木だが…」
と言って錆兎はチラリと宇髄を伺う。
その無言の問いに宇髄は考え込んだ。

「………聞くなら美佳の方がいい。
本人も関わってる奴から話聞いたら俺が殺人犯になりかねねえから」
何か苦いものでも飲み込む様に宇髄は言う。

「じゃ、とりあえず川本の部屋行って矢木を一人連れ出して事情聞くか」
錆兎は言ってバルコニーを出て部屋に入ると、そのまま部屋を通り越して廊下に出た。




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