「宇髄、一応女性の部屋なんで、ちょっと付いて来てくれ。
絶対に周りの物動かさない様に気をつけろよ?
事件現場は現状維持が基本だ」
そして続いて入ろうとする義勇と宇髄をスッと手で制して、一瞬悩む。
それに対して、何故制されたのかわからずきょとんとする義勇と違って宇髄は錆兎が言わんとする事を言われずとも察したらしい。
「ついてきたんだし、覚悟は出来てるぜ?」
と、そのあたりは生徒会での補佐役というのもあって阿吽の呼吸なのだろうか。
そう言いつつもこちらも義勇に対しては気遣っているらしく、一応義勇の腕をとった状態でドアの所で待機する。
続いて
「いたずらでも勘違いでもなく、確かに遺体を確認出来たと言う事なら、俺は一旦外して自室で義勇と一緒に警察に電話かけてくるか?」
と言う宇髄の言葉で義勇もようやくそこに舞が大騒ぎをしていた木戸の遺体がある事を思いだした。
いつになく厳しい錆兎の横顔。
そりゃあそうだ。
死体なんて見て楽しいものでは決してない。
しかも…殺された遺体なんて……
それでも恐れているような様子はない。
義勇の事は完全に宇髄に任せる事にしたのだろう。
錆兎は関心を完全に室内に向けつつ、注意深くあたりを見回している。
まるで夏休みの連続殺人事件の時を思わせるような冷静で頼もしい様子に、義勇は同い年のはずなのに何故こんなに違うモノなんだろうか…と、前回も思った事を今回もまた思った。
犯行当時には鍵のかかっていた舞の室内。
どう考えても舞以外に手にかける事が出来た人間なんて居ない気がするし、そんな相手を放置して良いのかと一瞬思うが、錆兎がそうすると言う事は間違いなく大丈夫なのだろう。
ここは自分がいても邪魔になりそうだし、錆兎がそう言うなら…と、義勇は宇髄に続いて廊下に出た。
「…錆兎を死体の部屋に1人にして平気かな…」
舞が他を引きつれて戻ってきたりしないだろうか…とか、死体と2人きりなんて非常に精神衛生上よろしくないのでは…とかそれでも道々気になり始める義勇に、宇髄は安心させるようにあえて軽い調子で口を開く。
「大丈夫だろ。
あいつが一番すごいのは、動揺して自分が大丈夫か大丈夫じゃないかの判断を間違ったりしないとこだから。
大丈夫じゃないなら残ってくれって言えるやつだ。
ま、それじゃなくてもあいつがダメなようなら、悔しいが俺達がいてもどうなるもんじゃないしな」
「……そこ…悔しがるところなのか?」
自分ならあれだけ何もかも出来てしまう完璧な相手と張り合おうと言う気はしない。
と不思議に思って聞くと、宇髄は
「思い切り悔しがるところだろうよ?」
と苦笑する。
そして、だってな…と、宇髄はさらりと前髪を煩わしげにかきあげつつ言った。
「確かにあいつは親が警察関係者で色々学んできたとは言っても、俺も財閥の跡取りで危機管理や護身術は叩き込まれてきたからな?
それでも全然敵わねえ。
もう生まれついての資質ってやつなんだろうな」
そこで宇髄は大きく息を吐き出した。
「結局な、俺は天才の域に到達できねえんだよ。
あいつは天才でカリスマ。
俺は凡人の頂点ってとこか。
あいつとやりあった1年前にそれを悟って、それからは敵わねえもんにはりあおうなんて無駄な努力はしても仕方ねえから、天才カリスマ以上に色々学んで身につけて、天才にとって不可欠な存在になって、最高のNo2,凡人の最高峰を目指すって決めたわけなんだが…
あからさまに能力の差を見せつけられると、たまにな…頂点を目指していた身としてはモヤっと来る時があんだよ」
そんな話をしながら宇髄と共に宇髄の私室へ。
他の客室と違って意外にシンプルな雰囲気の家主の部屋で、義勇はこれも客室のような可愛らしいフリルのカーテンと違ってシンプルなベージュの厚手のカーテンの合間から、窓の外を所在なさげに眺めて、電話をかける宇髄を待っている。
本当に…暴風雨だな……
強い風に木々が揺れ、雨がすごい勢いで窓をノックしている様は嵐と呼ぶのにふさわしい感じで、確かに土砂崩れが起きても不思議ではないくらいではある。
窓ガラスを乱暴に叩きつける雨の音。
その音に混じって、宇髄の舌打ちが聞こえた。
「義勇、ちょっと下行くから一緒に来いっ」
と、返事を待たずに義勇の腕を掴んで、宇髄は1階の管理人室へ。
「松井、もしかして停電してたりするか?」
ノックもせずにドアを開けて開口一番そう聞く宇髄に、老執事は困ったように眉尻をさげてうなづいた。
「そのようですな。
建物内は非常電源に切り替えましたし2日ほどは普通に持ちますが、おそらくこのあたり一帯が停電しているらしく、電話が通じません。
まあじきに復旧するでしょうが…」
まだ殺人うんぬんを知らない松井はだから心配はいらないとばかりに言うが、一気に蒼褪めた主に、何か緊急な事が?とまゆを寄せた。
「…緊急も緊急だ……」
はぁ~…と額に手をやりつつ大きくため息をつく宇髄。
事情を話すとさすがに松井も蒼褪めた。
「とにかく…電話は復旧したらすぐ警察に連絡してくれ。
俺は錆兎に伝えて来るわ」
ここでとどまっていても仕方ない。
宇髄はそう言ってまた義勇の腕を掴んだまま錆兎の待つ3階の現場へと急いだ。
こうして舞い戻った3階の舞の部屋。
宇髄は言いにくそうに口を開いた。
「錆兎…悪い知らせだ…。
別荘内は非常電源に切り替えられてるが、このあたり一帯どうも停電してるらしくて電話が通じない」
義勇もこんなに困ったような心細そうな様子の宇髄は初めて見る。
まあ当然だ。
だって人を殺した人間と一緒に建物内に閉じ込められて、助けも呼べないのだ。
しかしながら
「あ~…そうか、まあそう言う事もあるよな…」
と、一方で錆兎はそんな状況も何故か想定していたのだろうか…
たいして慌てた様子もなく淡々と、宇髄に
「悪い、死体にかけとくから新しいシーツくれ。
もっと言うなら新しいレジャーシートとか大きなビニールとかあると理想なんだが…」
と、要求する。
「は?」
と、その言葉にポカンとする宇髄。
「いや…とりあえずすぐ警察こないなら長時間いろいろを放置する事になるしな。
何も起こらないならいいけど万が一考えたらなるべく現状把握しておきたいだろ。
だから調べる時になるべく影響しないように遺体を保護しときたいから」
宇髄の反応に当たり前に説明を始める錆兎。
その錆兎の言葉に宇髄は力が抜けたように大きく息を吐き出してしゃがみこんだ。
「ちょ…違うだろ……。
お前はなんでこんな状況でそんなに平静なんだよ…」
まあ確かに…普通ならそうだろう。
殺人事件が起こって警察に連絡もつけられない。
犯人と一緒に山奥の山荘に閉じ込められている。
そんな状況ならパニックだ。
でも相手は錆兎なのだ…と、義勇は思う。
錆兎は強い。
錆兎は賢い。
錆兎がいれば全て大丈夫なのだ。
そう信じているから義勇もそこまで今の状況を不安に思っていない。
「だから言っただろう?
俺は何回も思い切り殺人事件の渦中に放り込まれてたんだ。
相手の正体が見えない今までに比べれば、全員顔見えてる今回の方が対処しやすい。
とにかくへたっている暇はないぞ。
やらねばならん事は山積みだ」
「了解。わかった。
で?ビニールシートはたぶんある。
他にやることは?」
と、それでも即切り替えるところがそれでも宇髄も只者ではない。
「ん。とりあえず3階組にも2階組にも事情を話して、それぞれ全員一つの部屋に集まって出ないように言ってくれ。
あと食事はできれば松井さんに調理しないで食べられる食料を各集合部屋に届けてもらえ。
1F廊下、ダイニング、キッチン、そしてこの部屋はなるべく現状保存したいから」
小さく息を吐き、淡々と色々をチェックしつつ言う錆兎の言葉を小さく反復しつつ、それが終わると
「了解。あとは?」
と、尋ねる宇髄。
それに錆兎が
「とりあえず以上だ」
と答えると、
「じゃ、行くか」
と宇髄は再度義勇の腕を取って階段を下りてまず一階に向かった。
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