ジュリエット殺人事件Ver錆義8_萌え系推理小説の主人公高校生探偵2


「ん~結局2Fは異常なしっぽいな。
これは…3Fの連中集めて事情聴取かぁ。
俺のランニングタイム邪魔してくれたわけだし、みっちりお仕置きしてやんないとな」

腰に手を当ててそう吐き出す宇髄の言葉に錆兎が吹き出す。



こうして3階組訪問開始。

まず木戸。
だが出ない。
ドアをノックするがやっぱり出ない。

「木戸~!起きろ~!!つか、でてきやがれっ!」
ガンガンとドアを叩いても出て来ないので、宇髄も諦めて

「ま、昨日あれだけあり得ない状態で負けて突き上げくってたから、眠れなかったのかもしれねえな。
しかたねえ、寝かしといてやるか。自業自得なわけだけどな」
と、宣言してその隣の美佳の部屋をノックする。

「おはよ…どうしたの?天元も早いねっ…っあ…」
美佳はドアを開けて顔を出したが、そこに錆兎と義勇もいる事に気付いて慌ててドアを閉めた。

「ご、ごめんねっ。錆兎君達もいたんだ。今着替えるから…」
慌てた声と共にワタワタしてる気配がする。

「…ったく…鈍臭いから…」
宇髄が言って苦笑する。

「俺達…外していようか?で、宇髄が事情を…」
と錆兎が気を利かせて言うが、それに対して宇髄は
「あ~いい、いい。それはそれでまた気にするから。すぐ出てくるから」
ヒラヒラと手をふって答え、その言葉通り本当に2分ほどで美佳は着替えて髪を手櫛でとかしながらでてきた。


「ごめんね、お待たせ。まだご飯じゃないよね?」
と、こんな状況とは知らないので仕方がないのだが、緊張感のない台詞。
錆兎はそれに小さく噴出した。

そして現状を説明すると、美佳は
「ご、ごめんなさいっ!ホント悪い子じゃないんです。
天元もっホントごめんなさいっ!」
と、こちらも舞の仕業だと思い込んだらしくペコペコ謝る。

「天元…怒らないで?私もお掃除手伝うからっ」
と、また美佳は宇髄を見上げて言った。

「…ったく…。確かにガキの頃からの付き合いだからお互い甘いのはあるけどなぁ…。
身内だけじゃなくて他人様にまで迷惑かけるようなら甘やかしたらダメだな、あいつも」
と、だんだん宇髄も舞の仕業な気がしてきたのだろう、ため息をついて言う。

「とりあえず…犯人問いつめるか。美佳も来い」
と、宇髄はクルリと反転。今度は舞の部屋の前に立つ。

嫌だな…と、そこで義勇は思う。
別に夢の通りになるとも思えないが、今はなんとなく錆兎と一緒に舞に会うのは怖い。

だがまさか夢で錆兎を舞に取られたから会いたくないとも言えないだろう。
仕方なしにせめて…と、錆兎に寄りそうように立った。

しかし事態は思わぬ方向へ…


「舞~!ネタはあがってるんだぞっ?でてこいっ!」
いきなり怒鳴って宇髄が激しくドアを叩くと、中から
「きゃっあああああ~~~!!!!!!」
とすごい悲鳴が聞こえて来た。

ドアに向かって誰かが駆け寄ってくる足音。
それからガチャガチャとノブが回される。

「天元っ?!天元、そこにいるのっ?!!
ドアが開かないのっ!!助けてっ!!!死んでるっ!!!!」

舞の混乱しきった泣き声に、さすがに異常事態だと思ったのか宇髄はガチャガチャとこちらからも開けようと試みるが開かない。

まさか…部屋の向こうで暴漢か何かに襲われていて鍵を壊された?!

切羽詰まった空気に義勇は蒼褪め、宇髄は即
「マスターキーを取ってくるっ!」
と反転しかける。

しかしそれを制して、錆兎は中に向かって声をかけた。

「おい、聞こえるか?俺だ、鱗滝錆兎だ。よく確認しろ。中から鍵かけてないか?」
「鍵?!!そんなのかけたこと…あ…」
カチャっと音がしてノブが回される。

「…かかって…た」
ドアが開いてネグリジェのままの舞が呆然とした表情で出てくる。

身なりを気にする余裕もないのだろう。
いつも綺麗に整えている長い髪を振り乱して、上着やガウンすら着ていない。
むしろ義勇の方が目のやり場に困って少し視線を横にそらした。

そんな中で気にする必要がまったくない幼馴染の宇髄の視線は、しかし舞に微塵も向けられず錆兎に…。

「もし…内側からも鍵が開いてる状態でドアが開かないなら鍵自体壊れてるという事だからな…。
マスターキー使っても意味はない」
何か問いたげに自分に目を向ける宇髄に、錆兎はしごく冷静にそう説明した。

「なるほど…そう…だな。
でもお前その冷静さってありえなねえぞ?」

舞の悲鳴と騒ぎに飛び出して来た山岸と川本に舞を任せて、宇髄はそんな錆兎に小さく息をつく。

生徒会役員として短いとは言えない付き合いの宇髄から見ても元々ちょっと違う男だった…とは思うモノの、日に日にその度合いが凄くなってきた気がするのは気のせいか…?
さきほどの言葉ではないが、本当に漫画か小説の少年探偵になってきつつある。



一方で舞は本能で安全圏を察知したらしい。
しかもその安全圏は容姿的にもその他のステータス的にも十分すぎるほどの男なわけで…

「鱗滝君、ありがとうっ!!」
と、取り巻き達をふりきって、舞は当たり前に錆兎に抱きついて、薄いネグリジェに包まれただけの自慢の胸をぐいぐい押しつけた。

まるで夢の再現のような状況…

ふわりとした薄いピンクのネグリジェ。
アンダーが細身なせいで余計に大きく見えるDカップ。

錆兎の腕にぐいぐいと押し付けられている柔らかそうなその膨らみに、義勇はチラリと自分を見下ろした。

当たり前だが柔らかさの欠片もない自分の身体。
かといって錆兎や宇髄のように筋肉がついているわけでもない。

ふわふわの長い髪だって、可愛らしいフリルが似合うような女性特有の柔らかそうな身体だって、自分にはない。
リボンやレースは実は嫌いではなかったりするが、自分が本当の女性には到底敵わないのはわかっている。

せめてそこまで愛らしい容姿じゃなかったとしても女性だったらそんな格好で公で錆兎に抱きついたりするのも許されたのだろうが…

正直、同性から見ても錆兎は惚れぼれするほど格好よくて、そんな風に愛らしい女性に抱きつかれている図は非常に絵になる。

錆兎自身だってどうせ触れるならこんな貧相な男の身体よりは、ああいう柔らかい女性の体の方が心地よいだろう。
そう思うと正直落ち込んだ。

そこで今朝の夢を思いだす。

同じようなシチュエーション。
あの夢のように錆兎から突き放すように別れを告げられるよりは、いっそのこと自分の方から別れを切り出した方が良いんじゃないだろうか…

そんな事を考えると目の奥が熱くなってじわりと涙があふれかけたが、しかし義勇の耳に入ってきたのは、ひどく硬く冷ややかな錆兎の声だった。

「こういうの…やめてくれ。
俺は基本的にパーソナルスペース広い方なんだ。
ベタベタされるのは好きじゃない…気持ち悪い」

顔をあげると目に飛び込んできたのは、冷やかな表情でぐいっと舞を引きはがす錆兎の姿。

「そういう事するなら自分の取り巻きにしてやれよ」
と、淡々と言いつつ引きはがした舞をそのまま宇髄の方へと押しやる錆兎の様子に
「まあ、会長様はそういう男だよな」
と苦笑する宇髄。

たいていの男はこれで当たり前にメロメロになっていた自身の行動を真っ向から否定されて舞は茫然とする。


そして…茫然とする人間がそこにもう一人……

普通なら恋人がベタベタしてくる相手を引きはがしたと言う事は喜ぶところなのだろうが、そこは悲観主義者である。

――さび…と…ベタベタされるの嫌いだったんだ……

と、今度は先ほどとは別の意味で血の気が引く思いで、錆兎のすぐ横にいた義勇は蒼褪めて一歩距離を取った。

確かにやや吊り目がちな綺麗な藤色の目は綺麗に澄んではいるが眼光鋭く、精悍で整った顔立ちはどこか他人を寄せ付けないような雰囲気がある。

そんな錆兎の全身から立ちこめる冷ややかな空気を見ると、身体的接触が好きではないという言葉もなんとなく頷けてしまう。

だが義勇にはずっと普通に接してくれていたからまったく気付かなかった。
義勇とは色々と触れ合ったりしているが、そう言えば最初は未成年であることを理由に断られたのだった。
未成年うんぬんは実は口実で、あれは本当は触れる事自体が嫌だったからなのか?
本当は嫌なのを我慢してくれていたのか……

あんな可愛らしい女性でも不快だと言うなら、自分のような冴えない同性など不快どころの話じゃなかったのではないだろうか…

そんな事を思いながら恥ずかしさと申し訳なさと悲しさと…色々がごちゃまぜになって脳内をグルグルまわっていると、ふいにグイッと腕を掴まれて引き寄せられ、そのままポスンと硬い胸元に抱え込まれて、驚きで溢れかけた涙がぴたっと止まる。

「…お前なら大丈夫…というか、俺の方が触れたくてうずうずするんだけどな。
他の相手はダメなんだが…」

と、そこでまるで義勇の心のうちを読んでフォローをいれているかのような言葉。
いや、いれているかのような…ではなく、いれてくれているのだろう。

そして義勇よりは一回り大きく骨ばった手が義勇の額にかかった前髪をかきあげると同時に端正な顔が近づいて来て、そこにチュッと軽く口づけを落とした。

「…それでも18歳未満の間は清い関係でいないとなのが辛いところだな…」

そんな軽口を言いながら眉根を寄せて困ったような顔で苦笑する様子は大人びていて、そのカッコ良さに義勇は少し赤くなってうつむいた。

そんなやりとりの間に宇髄が舞を引きずって行って再度川本達に預けている。


錆兎は本当にすごい。
と、義勇は思う。
こんな非常時でも義勇のちょっとした気分沈みを察知してフォローをいれてくるのだ。

優しく接してもらえるのは嬉しい。
こんな風に甘やかされるのは心地良い。

だけどそこで素直にそれを表に出せるはずもなく…

「…俺は…18歳過ぎてもあんな色気のある格好出来ないけどな……」
と半分照れ隠しで義勇が言うと、
「…してくれても良いけど……可愛すぎて俺が抱きつぶさない自信がない」
と真面目な顔で言うのは、絶対におかしいと思うが…。

しかしそれに突っ込みを入れる余裕は
――早く完全に食いたい…大急ぎで18になってくれ…
と、耳元で低く囁かれた時点で完全に無くなった。

耳を押さえて飛びのく義勇に楽しそうに笑うと、錆兎は
「さて、現場検証に入るか」
と、クルリと反転、木戸の遺体があるという舞の部屋へと入って行った。

……その錆兎の顔もまたやや赤く、しかも色々な妄想で錆兎の錆兎が少しピンチになりかけていたのは、やや腰が抜けてその場に立ちすくんでいるため後ろ姿しか見えない義勇が知る由もないのだが…。



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