と、そう付け加えて微笑む錆兎は冷ややかで…なのに泣きたくなるくらい格好良かった。
キラキラと…周りにスターダストのような煌めきが見えるほどに…
と、義勇は白く染まる息を吐き出す自らの口元にやった手をこすり合わせる。
いつもならそんな風に義勇が寒がっていたらきっと抱きしめて熱を分けてくれていたであろうその逞しい筋肉質な腕の中には勝気そうな美少女。
たくさんの取り巻きがいるらしい女子高生…二宮舞……
――やっぱり錆兎君だって貧相な同性より可愛い女の子の方が良いわよね~
と寄りそう舞の毛先が綺麗にカールした髪がふんわりと豊かな胸のふくらみを彩る。
華奢で柔らかみを帯びた身体。
綺麗な長い髪。
まったく彼女の言う通りだ…と思う。
だから引き留める…という発想はわかなかった。
だって敵うわけがない。
相手が同性だとしても、見かけも貧相なら性格だって陰気な自分が誰かに勝てるような気は到底しないのに、ましてや相手はこんな風に可愛らしい女性だ。
敵うわけがない…
錆兎が他に素敵な相手を見つけたのだと言うなら義勇に出来る事なんて、せめて自分と一緒に居た事が不愉快な思い出にならないように笑顔で礼を言って身を引く事くらいだ。
いつかそんな日が来るのだろうとどこかで恐れ、どこかで覚悟していた気がする。
その時が来たら最後くらい面倒でうっとおしい人間だったと思われないように、明るく笑顔で…
そう思うのに、涙があふれて止まらない。
そこで無意識に硬く握り締めていた手の中にふわりと現れる短剣。
――…壊してしまえ…
どこからともなく聞こえる声…
――…壊して捨ててしまえば、幸も不幸も知らなかった少し寂しいけれど穏やかだったあの頃に戻れる…
それは心の声だったのか、それとも……?
まるで気配なくいつのまにやら、舞の肩を抱いて立つ錆兎の後ろへと移動している身体。
自分よりも少し上にある綺麗な宍色の髪の下に覗く首筋。
それを赤い血のリボンで彩ったらきっと綺麗だ…と、ぼんやりと思う。
ふりあげる手。
その手の中に光る短剣。
――さよなら…錆兎……
涙でぼやけるその背中に声ならぬ声でそうつぶやいた義勇が短剣を振り下ろした先は自らの心臓だった。
――だって…俺は人魚姫じゃない…ジュリエットだから……王子の方に剣を向けるって選択肢は始めから存在しないんだ……
誰にともなくそう呟いて足元から崩れて行く。
ガンガンと痛み始める頭…
ドンドンと不快な音が遠くから聞こえてくる気がする…。
ドンドン!
ドンドンドン!!
それは………
「義勇っ?!!!!」
あれ?
何故目の前にいるはずの錆兎の声が遠くから?
え????
(……夢…か…)
眠りながら夢を見て泣いていたらしい。
あるべき体温がそこにないことに無意識でも不安を感じてあんな夢を見たのだろうか…
義勇は濡れた目元をグイッとぬぐって、反応がないためかひどく焦った様子になってきた錆兎の声に、慌ててドアに駆け寄った。
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