夕凪姫乃が警察に連行され、海陽生徒会役員一同が見回りに戻って行った後、錆兎はぽつりとつぶやいた。
善逸が聞くと錆兎は小さく首を横に振って言う。
「いや、俺が。
金程度の事で義勇を傷つけた犯人を今でも殺してやりたいと思ってる…」
もしかして…あのいつにない厳しい態度と不機嫌さはそれだったのか…と善逸は内心苦笑した。
確かに…普通ではないとは思うものの…しかし…
「でもさ、取り返しのつく程度の事で錆兎に殺人犯になられても義勇さんも困るよな」
と、まさに善逸が今思ったことを炭治郎が口にすると、錆兎は
「そういう冷静さがな…なくなる。言われてみればそうなんだけどな…」
と、唇を噛み締めて片手で顔を覆う。
「まあ…今度から、それがなくなった時には俺が指摘してやるから」
宇髄が軽く肩を叩くと、それに
「ああ、頼む」
と、錆兎は少し肩の力をぬいて笑みを浮かべた。
「ところで…」
ようやく心身ともに戻った平和。
それを満喫しつつ、ふと善逸は疑問に思ったことを口にした。
「結局さ、俺と炭治郎が屋上へきた理由ははっきりしてるわけだけどさ、義勇はなんで来たの?呼び出されたわけじゃないでしょ?」
と、その言葉に宇髄がまず青ざめた。
「そう言えばお姫さんどこだっ?!」
「あ、あそこっ!!!」
と、炭治郎も青ざめて指差した先にあるのは、屋上の大きなマリア像。
それに義勇がよじ登っている。
「うあぁぁあああ!!!義勇――!!!何してんだっ!!!!」
真っ青な顔でそこまでダッシュする錆兎。
「動くなっ!そこ一歩も動くなよっ!!!」
と、像の前までたどり着くと、マリア像によじ登ったまま止まっている義勇に向かって叫んだ。
「…もう…動いていいか?」
「駄目だっ!!!」
と言うと、錆兎は上に向かって両手を差し出した。
「俺の方に…降りてきてくれ。頼む…」
「…わかった」
義勇は意外にあっさりと了承すると、ストン!と重さのない音をたてて錆兎のすぐ前の地面に降り立つ。
「義勇っっ!!」
義勇の足が地面につくかつかないかのうちに、錆兎は義勇をぎゅうっと抱きしめた。
「さびと?どうしたんだ?」
錆兎の腕の中できょとんと小首をかしげる義勇に、
「どうしたんだ?じゃないだろうがっ!!この愚か者っ!!!
足滑らせて落ちたら死ぬぞっ!!!」
と、錆兎が怒鳴りつける。
しょぼ~んとうなだれる義勇。
それに、まあまあと間に入った宇髄が、
「で?なんであんなとこ登ってたんだぁ?」
と、マリア像を見上げると、義勇が手の中に握り込んだ紙を差し出した。
「ん?」
と、それに目を通した宇髄は首をかしげて、それをさらに錆兎に手渡す。
「○○ホテルのデザートビュッフェの予約が取れますように…??」
それを読み上げつつ、錆兎もやっぱり頭の上にはてなマークだ。
「えと…な、ジュリエットの格好で撮影してた時、ここの生徒が言ってたんだ。
願い事書いてマリア像の右手の中に1時間以上放置してから回収したら、その願いが叶うってまじないが流行ってるって…
それでさっき屋上に来たのに置きそこねたから今がチャンスかと思って…」
と、錆兎にしっかり抱き込まれた状態でそういう義勇に、錆兎と宇髄は二人して頭を抱えた。
「んな程度の事に命かけんな~~!!!!」
「いや…だって早々落ちないし…」
「絶対じゃないだろうがっ!」
「でも…願い事……」
「………」
「………」
「………わかった…」
はぁ~と錆兎がため息をついて肩を落とした。
「俺が叶える……」
「…え?」
「どうしてもお前がそのまじないをしたくなるような事が出来たら、それは全部俺がもれなく叶えてやるから、頼むからそのまじないはやめてくれ」
ということでな…と、錆兎は顔をあげて宇髄を振り返り、
「今回のこれは、宇髄、予約頼む」
「お~、任せとけ。
なんならホテル買収すっかぁ?」
「…いや…そこまでは要らない……」
…なんだかすごい話になっている。
と、善逸と炭治郎は目を丸くした。
「これでいいな?もうこのまじないはしないこと。約束な?」
錆兎が少し身をかがめて、義勇の額にコツンと自分の額を軽くぶつけて言うと、義勇も善逸達と同様のことをおもっているのだろう。
目を丸くしながらうんうんと頷くと、
「ゆびきり?」
と、小指をたてて半ば強引に錆兎の小指に絡めて
「ゆ~びきりげんまん、う~そついたら…は~りせんぼん」
と歌い出す。
が、そこでも錆兎の待ったがかかる。
歌う義勇の口を小指を繋いでない方の手で塞ぐと、
「ソレは駄目だ。まじないで死ななくても針千本飲んだら死ぬだろう。
お前にそれやられたら、俺は死ぬ。
だから嘘ついたら俺が針千本飲むからな。
俺を死なせたいと思わないなら絶対やめろよ?」
「………なにあれ。脅し?それともノロケ?」
「あ~…冗談通じねえ堅物の迷言てことで…」
「さすが錆兎だなぁ…。あれ言われたら義勇さん絶対に約束破れないと思う」
それを遠目に3者3様の感想。
ますます糖度のあがる2人にため息をついたところで、事件は幕を閉じたのであった。
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