ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん12_襲われたジュリエット2


とりあえず義勇を着替えさせて錆兎は宇髄と甘露寺と共に義勇を連れて職員室へと向かう。
事情を説明する甘露寺に青くなる教員一同。

「警察…ですか…。なるべく大げさにならない方向でというのは無理ですか?」
まあ学校側としては当然の反応だ。

「被疑者の確保を先送りにして二次被害を出す方が問題が大きくなると思いますが?」
錆兎が言うと、さらに学校側は青くなる。

そこで厳しい顔をしていた錆兎は小さく息を吐き出して、表情を柔らかくした上で一歩前に出た。

「とりあえず…現場は屋上なので警察には主に屋上の封鎖と屋上の調査をしてもらって、校内には一応屋上で怪しい人物がスタンガンで人に怪我をさせたのであまり人通りのない所に一人で行かない様にという注意だけうながして下さい。
その程度なら学校内に不審な人物が学祭に乗じて紛れ込んだ事故ということですまされますし、問題ありませんよね?」
にこやかに妥協案を出す錆兎にホッとしたように了承する校長。

そこで今度は宇髄が前へでて引き継ぐように口を開いた。

「もちろん二次被害の心配もありますから、このままでは危険です。
そこで提案なんですが…鱗滝はこちらの甘露寺さんと武道家の煉獄槇寿郎氏に師事する兄弟弟子として親しくさせて頂いている海陽の学生で、彼も俺も二人とも現役生徒会役員なんです。
ですので、うちの学校の生徒会役員にボランティアとして校内パトロールをする許可を頂けないでしょうか?
全員海陽の中でも文武両道に秀でて、人間性も認められて生徒会に選出された人材ですし、身元ももちろん確かな者ばかりで、校内で問題を起こす様な事はまず致しません。
物々しくもならないように、品位ある祭典に相応しいよう、今着用している生徒会役員の特別仕様の制服も着用させます。
親しくさせて頂いている高校による好意によるボランティアという事でだめでしょうか?」

海陽生徒会…普通の学生からの申し出なら当然とんでもないと言ったところだが、日本で一番優秀と言われる学校の更に選りすぐりのエリート集団だ。

「鱗滝さんの身元については私の方でも保証します。もし必要でしたら煉獄先生にもご連絡させて頂いてお口添えを頂こうと思います。お願いします。」
迷う学校側に甘露寺も頭を下げる。

そこで錆兎も諦めた。
なるべく親の名は出したくはないが背に腹は変えられない。

「一応…俺の父は現在の警視総監で…今回来る警察の方々は俺が親しくさせてもらっている海陽OBの本庁警視の口添えで来て頂くので、ある程度の事を一任させてもらえる事になってます。
なので、誓って周りを暴走はさせませんし、自分自身も暴走はしません。
あくまで”友情によるボランティア”の域を出ない様にしますので、許可願えないでしょうか」

ああ、これ父親にバレたら…とは思うものの、今回だけは非常事態だ。
跡はすぐ消えるだろうが、義勇の肌に傷を付けた事には変わらない。
今回の犯人だけは絶対に逃すつもりはない。

最終的に学校側も折れて了承した。

錆兎はそこで学校側の要請を受け入れ、中井にはなるべく目立たない形での来校を要請する。
中井達はすでに出てしまっていたものの、サイレンを鳴らさずこっそり学校に入り、そのまま職員室入りした。

「お待たせ致しましたっ!お疲れさまです、鱗滝さん。本日は宜しくお願い致します」
なんとも腰の低い中井に錆兎は少し苦笑。

「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」
錆兎は中井に頭を下げて、校長に紹介。
それから事のあらましについて説明する。

「ではとりあえず屋上封鎖させます」
と、中井が敬礼して出て行くと、
「じゃ、あと任せていいか」
と錆兎もついて行こうとするが、宇髄がそれを制した。

「ちょっと待て。お前の名前で呼び出してるし、やってもらう事もあるからその後にしろ」
宇髄は言った後、また携帯をかける。

「村田ぁ!お前何グズグズしてる!10分で来いって言わなかったか?!」
『宇髄…そんなの無理ってわかってるよね?わかってて言ってるよね?』
電話口ではなさけな~い声を出す、村田。

「不可能を可能にする、それが海陽生徒会だろうがっ。
生徒役員がそんなヘタレでどうするっ」
それに対してきっぱり言い切る宇髄。

『とりあえず…今タクシーが聖星ついたからっ。いったん切るよっ!』

宇髄が最初の電話をかけてから40分ほど…。
休日にいきなり呼び出されたわりにはすごい早さだと錆兎は感心した。

そんな事をやっている間に、警察もついた事だしと、甘露寺に依頼された放送委員が全校に向けて屋上でスタンガンで怪我をさせられた人間が出た事、そのため現場である屋上を警察が封鎖している事、ひとけのない場所に一人で行かない事を放送で注意を促す。
ざわめく校内。
教師達も少し表情を硬くした。


「待たせたっ!」
そこに村田が職員室へと駆け込んできた。

「遅い!30分の遅刻だっ」
容赦のない宇髄。

「全く休日に人使いが荒いな、宇髄はっ」
と、言葉のわりににこにこと煉獄が言う横で、不死川が

「とりあえず長丁場になりそうだし、他はまあ気合と根性でなんとかなりそうだけど、お前はちっこいしな。倒れてもアレだし、食っとけェ」
と、義勇におにぎりとお茶を渡してやっている。

「不死川…だんだんオカンじみてきたな…」
とそれに目を丸くする宇髄には蹴り。

「てめえが気ぃ使ってやんねえからだろうがぁ!
姫さんになんかあると錆兎ブチ切れんぞォ」
という不死川の言葉に、宇髄は──もう、一度ブチ切れられたあとなんだがな──と、苦笑した。

そんなやりとりをしていると、錆兎の制服の内ポケットに入れた携帯が着信音を鳴り響かせた。



ああ…なんだかうるさい…
善逸は目を閉じたままそう思った。

体がだるい。
突き出した様にしている両手には冷たい感触。
人の肌のような…誰かの腕…にしては太い気が…。
近くで知らない複数の人間の声…。

その時…
「うあああ~~~!!!」
という聞き慣れた人物の悲鳴で善逸はようやく目を開けた。

伸ばした手の先にあった腕と思ったのは首で…茶色のウェーブのかかった髪が手にかかってくすぐったい…などと半分寝ぼけた働かない頭で考えた。

(…あれ?)
まばたき二回。

目の前には…目を見開いたまま動かない女の子…アリス。
自分の手がかかっていたのは、まぎれもなく彼女の首で……

「うっああああ!!!!!!!」
善逸は慌てて手を首から放すと思い切り悲鳴をあげた。



炭治郎が目覚めたのは善逸よりも少し前である。
遠くで誰かの声がする…と、重たい瞼を開けてみるとまず目に入ったのは少し離れた所で誰かを呼んでいるらしき知らない大人の男。

なんだか寒くて膝が重たいと、次に目を落とすと自分にのしかかる様にしているアリスと、その首に手をかけた状態でぐったりしている善逸。

悪夢のような光景に思わず悲鳴を上げた。
それで善逸が虚ろに目を開ける。
そして数秒後…善逸も絶叫。

皮肉な事にその善逸のパニックぶりで炭治郎は我に返った。

「動くなっ!」
と、男が3人。
警察手帳を見て青くなる炭治郎。

どうやらアリスは死んでいて…寒いと思ったのは自分がシャツをはだけていたからで…そのアリスの首には善逸の手がかかっていたわけで……。
関連性を考えると目眩がした。

必死に記憶を探るがアリスにうながされて屋上についてからの記憶がない。

「善逸…落ち着いて」
とりあえず声をかけると、嗚咽をあげながら炭治郎を見上げる善逸。

「事情を聞かせて頂けますか?」
さらに表から回ってきた温和そうな人物を見て、炭治郎は少しホッとした。

とりあえず錆兎の名前を出させてもらおう。
色々な意味で顔がききそうだ…と、もう、迷惑をかけるのは申し訳ないが背に腹は変えられないと、

「校内に鱗滝錆兎という高校生がいると思うので…呼んでいただけないでしょうか?」
と、炭治郎が言うと、その人物は苦笑した。

「実は別件で鱗滝さんに呼ばれてここにいるので…連絡します」



とりあえず錆兎が来るまではと善逸も説得してそのままの状態で。
炭治郎は動けないため言葉で善逸を慰める。

「大丈夫、錆兎がなんとかしてくれるから。」
自分でも長男として思い切り情けない台詞だと思う。
が、善逸まで巻き込んでこの状態で体すら動かせない今の自分が他に何を言っても説得力がない気がした。

「俺…屋上ついてからの記憶ないのっ。
ホントだよっ。何にもしてないっ」
ひたすら泣きながら言う善逸に
「うん、わかってる。俺もだから。大丈夫、錆兎が証明してくれるから」
と炭治郎はなるべく自分の動揺を表に出さない様に、極力冷静を装って繰り返す。

そんなやりとりを繰り返しているうちに錆兎が来た。

すぐ義勇をマリア像のあたりで数人の警察官と待たせて自分だけ階段裏に回ると、いつになく厳しい表情で無言で状況を見回す。

いつもならある気遣う一言が錆兎からない事に善逸が不安げな表情で炭治郎を見た。

「ほぼこの構図で、変わってるのは善逸の手が電波の首にかかってた事くらいだな?」
前置きもなしに錆兎が確認をいれてくる。

一瞬誰に言っているのかわからず無言で硬直していると、
「炭治郎!そうだなっ?!」
と厳しい口調で名指しされて炭治郎は慌ててうなづいた。

「で、炭治郎、善逸、それぞれ何故ここにいるか説明しろっ」

さらにピシっとした言い方をされて思わず硬直する善逸。
炭治郎はそれをかばうように、まず自分の状況を説明する。

といっても正門でアリスにあって、アリスが指定する場所で一度だけ好きだと言えば今回は諦めると言われて屋上へ連れて来られた事、屋上へ来てからの記憶がない事程度しか言えない訳だが…。

炭治郎が話し終わると今度は善逸が炭治郎からメールで屋上にくるように言われて来て、炭治郎と同じく屋上についてからの記憶がない事を錆兎に伝える。

それを聞き終わると考え込む事5分。
錆兎は相変わらず厳しい表情で淡々と言い放つ。

「炭治郎と電波の浮気現場を見た善逸が逆上して電波を絞め殺したと」

善逸は顔面蒼白で気を失いかけ、炭治郎は言葉もなく口をパクパクするが、まだ途中だったらしい。
その後錆兎はそんな二人には全く構う事なく続けた。

「ありえん馬鹿なシチュエーションを考えついたもんだな。
稚拙すぎて開いた口が塞がらん」
言いながら錆兎は手袋をはめなおす。

「炭治郎も善逸ももう動いていいぞ。その辺座っとけ」

その声にはじかれたように炭治郎と善逸が端に寄ると、錆兎はアリスの首の辺りを丹念に調べた。
ついでアリスの手、それからブラウスの上の方のボタンを外して背中を確認する。

「善逸、炭治郎の背中のどこかに紅い跡ないか探しとけ。
それが終わったらお前も炭治郎に確認してもらえ」
一通りアリスを調べると錆兎はそう言って手袋を外した。

「本当に行き当たりばったりの稚拙な犯行のようですね。馬鹿馬鹿しいほど…。」
吐き捨てるように言う錆兎に中井は
「そう…なんですか?」
と聞き返す。

「ええ。そもそも動機からして、被害者の白鳥アリスの勘違いした設定をそのまま使ったので、信憑性がかけらもありませんし。
警察としては容疑者を放置もまずいでしょうし、二人としばらくここで待機お願いします。
俺はこれから物証を確保してきます」

そう言うと錆兎は調べて欲しい点をいくつか指示した後、マリア像の前に待たせておいた義勇と共にまた校舎内に戻って行った。


校内ではもう生徒会役員達が見回りを始めている。
といっても…女生徒達に捕まっている時間の方が多いと言う話もあるが…。
クラシカルで素敵だと評判の海陽学園生徒会役員の制服は、なかなかお嬢様方には受けているようだ。

とりあえず下に降りて甘露寺と合流すると、錆兎は体育館に向かった。
「で?何故体育館なんですか?」
と聞く甘露寺に、錆兎はちょっと考えこんで、それから手を合わせた。

「ん、今回の犯人は浅はかな人間だとわかったからな。
多分…危機感なしに物証を残してる気がするから。甘露寺、一つ頼んでいいか?」



「あ~、みつりん、どうしたの?」
甘露寺が舞台裏に入ると女子高生の一人が気付いて寄ってくる。
そろそろ舞台はクライマックスだ。ジュリエットが仮死状態になる薬を飲んでいるシーンで、ロミオも舞台の袖にスタンバってる。

「えっと…これ。返し忘れてたから。ラスト困るかなと思ったんだけど…」
甘露寺が、義勇がロミジュリの衣装を借りた時に一緒に持ち出した短剣を見せると、彼女は首をかしげた。

「あらら?短剣、ちゃんとあるわよ?」
と、刃がひっこむ演劇用の短剣を出してくる。

「えと…それはどこに?」
「ああ、夕凪姫乃先輩がダンス終わった後に稽古で使っていたらしいけど?」
「あら…じゃあ大丈夫…みたいね」
と言った後、
「それ…使う場面終わったらこっそり貸してもらっていいかしら?記念撮影に…」
ニッコリと微笑む甘露寺に女子高生は了承する。

「これから最後のロミオが短剣で自殺する場面だから…もうちょっと待ってもらえれば…
衣装も使う?」
「ううん。そこまでの時間はないから短剣だけで」
甘露寺は言ってそのまま舞台裏で待つ。

舞台が終わり演技者が全員挨拶に舞台に上がると、同級生が短剣を持って来てくれた。

「えと…ちょっとお話もあるので舞台が終わったら夕凪先輩に取りにきて頂ける様にお願いしていいかしら?私ちょっとこれから屋上にいるから。」

「屋上って…例の事件と何か関係あるの?」
その言葉に同級生は少し心配そうに聞いてくる。

「ううん。単に私が個人的に屋上に用事があって。
夕凪先輩にはちょっと義妹さんの事で伺いたい事があるだけなの。お願いね」
それに甘露寺はにこやかにそう答えると、舞台の下で待つ錆兎の所に戻って短剣を渡した。

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