待ち合わせ時間は10時でその10分前に聖星についた善逸だが、正門前に見えてきた3人を見て、正直このまま帰ろうかと思った。
だって、なんだかキラキラしすぎだ。
どちらもモデルか俳優のようにスタイルが良いイケメンで、しかも二人揃って海陽の冬用の制服である燕尾服に生徒会役員だけ着用が許されているというマント付き。
もうその二人がそこに立っているせいで、正門前にはイケメンを堪能する女の子でいっぱいだ。
それでも彼女達が逆ナンというチャレンジをしないのは、二人の間にちんまりと人形のように綺麗な子がいるからで…。
こちらは先日会ったときとは違ってセーターにジーンズとラフな格好だが、上着が…どう見てもあれ錆兎のだよな?というブカブカのジャケット。
女装しているわけでもないのに、どう見ても彼ジャケで萌え袖になっている彼女にしか見えない。
不死川が、男の格好をしていても変な輩がよってくるから…と言っていたのがよくわかる。
壮絶にわかる。心の底からわかってしまうどこか可愛い美女っぷりなのだ。
しかも…その義勇を見る錆兎の目がすごく優しく、ソレに応える義勇もふんわりほわほわしていて、前も思ったのだが流れる空気が砂糖を吐きそうな勢いで甘ったるい。
美形カップルとそのイケメンな友人…どう見てもそうとしか見えない中に入り込んでいく勇気は善逸にはなかった。
もうあそこに行って良いのは、彼らに見合う美女くらいだ。
あと一人一緒に行くはずの炭治郎はなんだか電車が人身事故で遅れているとのことで30分は遅れるから先に行っていてくれとのことなので、余計に行きにくい。
せめて時間ギリギリまで離れていよう。
そう思った善逸は空気を読んで少し離れて隠れるようにしていたのだが、面白がりでデカイ美形男は空気を読む気はさらさらないというか…むしろ面白がっているらしい。
「お~い、善逸!早く来い!」
と、思い切りでかい声で呼んでくれる。
や~め~ろ~~~!!!
と声を大にして叫びたいが、叫ぶ勇気すら出ず、結局仕方無しに合流すると、
「おお~元気だったか~!!なんだか電波に追い回されたってな、お前も」
と、宇髄が上からグシャグシャと髪を撫で回した。
「お前は…本当に笑い事じゃないんだぞ、あれは。
おかげで俺まで”お兄ちゃん”とか言われたぞ」
と、錆兎が面白がっている宇髄をたしなめるが、宇髄はケラケラと笑いながら
「いいじゃないかっ。お前そういうの好きそうな気がするがっ。他人の世話とか好きだし」
「電波な妹なんて要らん」
「電波な恋人ならいいのか?」
「義勇は電波じゃないっ!少しばかり世慣れてなくて”やんごとない”だけだっ」
と、錆兎とそんな言葉を交わしている。
「電波とやんごとないってどう違うんだ?」
みんながそれで流すところをわざわざそう返すのが宇髄だ。
それに対して錆兎はきっぱり
「”やんごとない”というのは、そのわけのわからなさを理解できない自分が全て悪いという気にさせられるくらい可愛いということだ!」
と力説。
宇髄に
「なかなかすごい血迷いっぷりだな。」
と呆れられる。
善逸も呆れた。
でもわかる。
最初にオンラインゲームの洞窟の中で出会った時から、明らかにプレイヤースキルもレベルも自分達よりはるか上にいるはずの錆兎は義勇に弱くて振り回されっぱなしだった。
そう言えばあの時も『負けた。どこのやんごとないお姫さんだよ』みたいな事を言っていたなと、思い出して小さく笑う。
しかし”やんごとない”というのは錆兎相手だけではなく、全てにおいて最強だということが、驚いたことにこのあと証明されることになった。
とりあえず今日聖星の学祭に来たのは聖星の学生ならしいアリスの身元確認と、もしアリスを捕まえられたなら、先日錆兎が言っていたように迷惑行為を続けるなら学校に言うぞと警告を与えるためだったのだが、なんと噂をしていたら探すまでもなく
「お兄ちゃんっ!アリスに会いにきてくれたのねっ!」
と、いきなり現れる電波。
で、でたあーーー!!!
と、思わず宇髄の後ろに隠れる善逸。
「錆兎…こいつ?」
と、指を指す宇髄に錆兎はため息で答える。
そしてアリスの言葉に対しては
「俺はお前みたいな妹持った覚えはないっ!」
と、きっぱり拒絶する錆兎。
しかしアリスは都合の悪いことは右から左に流れる都合の良い耳をしているらしい。
それには全く反応しない。
そのかわりそこにいる善逸に気付き、ドン!と突き飛ばした。
その拍子にアリスの小さなバッグの口が開くが、それにも構わず
「お兄ちゃん騙されてる!
こんな奴に近づかないでっ!魔王に呪い殺されちゃうよっ!」
と、叫ぶ。
「なかなかすごい電波っぷりだなっ」
爆笑している宇髄とすでに涙目の善逸。
だが錆兎が怒鳴ろうとした時、ぷくりと膨れた義勇が錆兎とアリスの間に割って入った。
「大丈夫っ。
錆兎にはちゃんとマリア様のご加護があるように俺が日々お祈りしてるからなっ!
それより…錆兎の事を何も知らないのに妹なんて名乗るなっ!失礼だっ!」
珍しく怒っている様子の義勇。
まあ…怒ってもどこか幼女味があって可愛くてあまり怖くはない訳だが…。
しかし圧倒的にどこをどう見ても段違いに美少女な義勇の乱入に、アリスは少し引きながら
「し、知らなくないもん…」
と口ごもる。
「知るわけないっ!マリア様に誓ってもいいっ。
錆兎にはちゃんと俺が名前も書いてあるし、全部丸ごと俺のなんだから、俺の許可なく錆兎の事を知ってるわけがないっ!」
あまりにきっぱりとした意味不明の言葉に、アリスはウッと口ごもった後に、いきなりクルリと反転して駆け出して行った。
「すっげえ!電波対決お姫さん圧勝かぁ?!
許可なくって何だ?許可なくってっ!!知るのに許可必要かぁっ?!」
もう宇髄は大ウケである。
「義勇…すごいな…」
あの錆兎ですら撃退は出来なかった電波を見事撃退する義勇に、もう善逸は呆然だ。
当の義勇はフンスフンスしながら、錆兎に抱きついている。
「いくら有名女流画家だって、何でも思いどおりになるわけじゃない。
錆兎は俺のだっ!」
と、言う義勇に、他3人は、え?と言う視線を向けた。
その疑念を口にしたのは錆兎だ。
「義勇…あの電波の事知ってるのか?」
と、聞いてみると、義勇は当たり前のように
「白鳥アリスだろ?
本人もアリスって言ってたし。
少し前にうちの学校でも話題になってて写真を見たことがある。
聖星の生徒の夕凪姫乃って子の父親が白鳥アリスの母親と結婚したんだって」
「マジかっ?!あれ、白鳥アリスなのか!!」
と、そこで宇髄が、
「そうか…義勇は聖星の兄弟校の聖月にいたもんな」
と、錆兎がそれぞれ反応する。
「ごめん、その白鳥アリスってなにもん?」
と、1人何もわからない善逸が聞くと、宇髄が言った
「知らないのかよ?今話題の女流画家だっ。
親も有名画家だが、アリスは100年に一人の天才と言われていて、その作品の価値が今すごく上がってんだよ。
確か今高2だとは聞いてたが…」
「そんな…すごい人なんだ…」
呆然とする善逸。
その横で錆兎は
「あんな電波にも取り柄はあるんだな。まあ…迷惑なのは変わらんが」
と淡々と言う。
その後
「あ…でも警告するの忘れてたな…」
と、ため息。
しかし宇髄はそれに
「ま、身元割れたから校内探せば見つかるだろ。知り合いが来たら行こうぜ」
と、その肩をポン!と叩いた。
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