ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん5_ステーキハウスにて2


「今日俺いきなり知らない女子高生に結婚してくれって言われたんだ。
でさ、全然知らない子だったから人違いですか?って聞いたら、実名だされてなっ。

いきなり叫ばれたし、そのままだと周り中に誤解されるしで、しかたなしに話聞く事にしたんだ。

で、俺達は初対面なのになんでいきなりそんな話になるんだ?ってきいたらさ、初対面じゃない。あの夜はあんなに優しかったのにとか言われて…。

でも俺は毎日早朝から家の手伝いとかもあるから夜出歩いたりしないし全く覚えがない。

そしたらさ、私アリスですって言われて…どこのアリスさん?って聞いたら、その子はどうやらオンラインゲームで、Lvが低い時にたまたま通りがかった人に助けられた事があって、それが炭治郎って名前だったっていうんだ。
キャラの見かけもなんだか俺っぽかったとか…」


席についたら即、前菜というには随分と大盛りの前菜が運ばれてきて、それを待ちかねたとばかりに
「美味い!!美味いっ!!」
と叫びながら煉獄が食べるのに、

「食うのは良いし、なんなら俺のもやるから、煉獄はちっと黙っとけ」
と、宇髄が自分の皿を隣の煉獄に流すと、煉獄は
「すまんなっ!」
と、遠慮なくそれも引き寄せて黙って食べている。

そんな中で宇髄が話を聞く体制で促すので、善逸が炭治郎に何があったか聞くと、そんな答えが返ってきて、ああ、あれがその場面だったのか…と、善逸は納得した。

まあ色々ツッコミどころは満載だ。

「お前…新学期早々にネトゲかぁ?
随分と余裕だな、おい」
と、行儀悪く肘をついて言う宇髄だが、それに

「あぁ?新学期早々寮の門限破って夜遊びに興じてる男に言われたかァねえだろうォ?」
と、それまで黙々とフォークを口に運んでいた不死川から突っ込みがはいる。

「おいおい、あれは社会勉強だって。
社会に出て最終的に自分を窮地から救ってくれんのも、窮地に陥れんのも女だからなァ」
と、にやにや言う宇髄には、イケメン死ね!と善逸は秘かに思うが、炭治郎は空気を読まずに

「でも俺達と錆兎が出会ったのだって錆兎がオンラインゲームをやってたからだぞ」
などと言う。

善逸は、この話題に錆兎を巻き込んで良いのかよ、錆兎の人間関係大丈夫かっ?と、秘かに青ざめるが、少なくとも宇髄は知っていたらしい。

「あ~夏休みのあれか。
あいつも学校の自治だけじゃなく、全国のオツムのお軽い高校生の自治まで気にして厄介事に首突っ込むって、本当に病的なお節介だよなっ。
挙句の果てに殺人事件なんてもんに巻き込まれてるし…。
なるほどなぁ、あの時のメンツだったのか、善逸も炭治郎も。
そりゃあ構うわなぁ。
錆兎は一度懐に入れちまうと、とことん面倒みずにはいられねえ奴だし」
と、うんうんとうなずいた。

「錆兎は特に俺のことはたぶん…弟弟子みたいに思ってるから…」
「は?弟弟子?お前剣道か何かやってんのか?」
「いや、俺はただのパン屋の長男だけど」
「なんだそりゃあ??」

炭治郎はたまにわからない。
放っておくと先に進まない。
だから善逸はとりあえず話を先に進めることにする。

「もう錆兎のことはとりあえずおいておいてさ、まずお前のことだろ、炭治郎。
その助けた通りがかりってのはお前のキャラじゃないんだよな?」

「ああ、そう、そうなんだけどな、俺は今ネットゲームはやってない。
だから俺のはずがないんだ」

「あ~そうなりゃ周りだな。
誰かお前に似せてキャラ作ったんだろうぜ。
友だち周り聞いてみろよ。
まあそれはそれとして…それでなんで結婚?」

「それ俺が聞きたいんだけど…。
なんだか実は自分と俺は前世では魔王に引き裂かれた恋人同士で来世で結ばれようと誓った仲だとか言われたところで、これは駄目だと思って、大切な約束があるからと話を打ち切ってつい逃げてしまったんだが…」

炭治郎の言葉に善逸は軽い目眩を覚えた。

「電波…なのか…」
と、隣で村田もため息を付いている。

「あ~そいつぁ逃げて正解かもなぁ。
その手のは下手につつくと危ねえから。
できればなるべくかち合わないように気をつけて、お前の名前使ってキャラ作った奴を早々に割り出して引き取ってもらえ」

と、そんな話をしているうちにスープが来て、その後、ドン!とすごい量のステーキがそれぞれの前に置かれた。

「ジジイの奢りだから遠慮なく食えよ。
おかわりもし放題だからなっ!」
と、言う宇髄に

「おかわり…できる奴いんの?」
とそのすさまじい量に青くなる善逸。

すると、村田が苦笑しつつ善逸の肩を叩いて、煉獄の方へと視線を促す。

そこでは話が終わったと理解したのだろう。

「うまい!うまい!!」
と言いながら、おそらく400ぐらいはありそうな肉をもう半分以上平らげている煉獄の姿が…。

「あいつは普通の弁当なら10個以上食える男だから」
と言われて初めて、宇髄が最初に煉獄がいたら多少人が増えてもわからないだろうと言った意味を理解した。



確かにすごい量の肉だった。だが量だけじゃない。
本当に口の中でとろけるような柔らかさで、しかもしっかり味が濃い、おそらくとてつもなく高級な肉なのだろう。

…じいちゃんにも食わせてやりたいなぁ……と思わず思った言葉はなんと小さくだが声に出てたらしい。

周りの視線を感じて思わず焦る善逸が何か言う前に、宇髄が

「おう!焼きたてには劣るが、ここのステーキサンド土産にもたせるつもりだからな!
存分に食わせてやれや」
と、にこやかにいう。

「え?え?いや、ごめん、そこまでは……」
もしかして気を使わせたかと、慌てて善逸は顔の前で手をふるが、宇髄は

「これもこっちの都合だから気にすんな。
うちのクソジジイはとにかく錆兎と関係のあるもんに顔繋いどけば機嫌いいしなっ。
どうせ錆兎とお姫さんの分も用意させるし、不死川と煉獄は寮だから自分の分だけだけど、村田は家のモン全員分用意させる。
炭治郎も家族が肉嫌いじゃなければ全員分用意させるからな」
と、鷹揚に言った。

「ありがとうっ!うちは両親と兄弟6人なんだが、大丈夫だろうか?」
と、炭治郎がなんだか宇髄に対しては全く遠慮する様子もなくまるで旧知の人間のように接している事にも驚いたが、錆兎だけじゃなく彼女にまで土産を用意する宇髄にも驚く。

「なに?錆兎の彼女さんにもこのあと会うの?」
と思わずそこに突っ込むと、そこで宇髄と不死川、村田が顔を見合わすが、答えたのは煉獄だ。

それまで一心不乱に肉を平らげていて、ちょうど目の前の皿が空になって追加待ちのわずかに出来た合間に、実に微塵も迷うことなくにこやかに

「ああ、彼女ではなく”彼”だな。
あれは錆兎がうちの学校に連れてきた男だ!
あの事件の錆兎の仲間ということは君たちも知っているだろう?
冨岡義勇という」

「はああああ?!!!!」

炭治郎はよく状況がわかっていないのでただ首をかしげているが、善逸は絶叫する。

「嘘っ!あの美少女が義勇っ?!!
ちょっと冗談っ!!性別への冒涜だよね?!!
てか、なんであんな格好してんのさっ!!
なんでお姫さん?!!!」

と、矢継ぎ早に叫ぶも、当の煉獄はそれだけの爆弾発言をかましておいて、ちょうど肉が運ばれてくるともう答える気はないとばかりにライオンのような目で肉の攻略に取り組んでいる。

「あ~…えっと……」
と、何か話さないとと村田が苦笑しつつ口ごもり、結局それを引き受けたのは宇髄だった。

「あ~、義勇が入ったのがちょうどうちの学祭前でな。
うちの学校は学祭でも女人禁制とか馬鹿な規則があるくせにミスコンなんてもんがあるんだわ。
出んのは当然野郎な。
で、OBのジジイたちから絶対に生徒会からも候補者出して優勝しろなんて厳命が下って、うちの候補者になったのが義勇で…まあ、錆兎は大反対するから俺らは義勇の方から落としたんだけどな」

…まあ…錆兎の性格からして反対はするだろうな…と、善逸も思う。

「で、それ用の服も買ってもう優勝する気満々で準備してたら、新聞みたかもしれねえけど、殺人事件なんて起きて、実はその原因、表沙汰にはなってなかったけどOBが自分が殺したい後輩をミスコンにかこつけた方法で殺したってやつで、ミスコン中止になったわけなんだけどな。

むさ苦しい男だらけの学祭で唯一の華だったわけだ、そのミスコンてやつは。

学祭の色々な表彰とかも本来はミスコンの優勝者からメダル渡されたりとかな、そんな伝統だったんだけど、今年は錆兎からか~とかそんな空気だったから、どうせなら生徒会の候補者のお姫さんにやってもらえば?ってことで、ミスコンにする予定だった格好でやらせたらこれがもう大ウケというか…

今では学校では錆兎がカイザーなら義勇は姫扱いで、俺達もなんとなくお姫さんって言い方が身につきすぎちまったというかな。

で、今回は、なんか錆兎がお姫さんと何かの会話で甘いモンは別に嫌いじゃないが男一人で行くのは気恥ずかしいから行かないって話をした時に、自分も甘いモン好きだがいつも1人だと食いきれねえから一緒に行きたい。
錆兎が恥ずかしいなら自分がミスコンの時に買った服を着ればいいだろうって言い出して…」

「…なんでそれ誰もとめてやんないのっ?!」

と、言う善逸はおかしくないと思う。
絶対におかしくないと思うのだが、

「「「なぜ?」」」
と、宇髄と煉獄、不死川まで返してくる。

「派手に面白いし、いいんじゃねえか?
ちゃんとウィッグと化粧品まで俺が用意してやったんだし」

「うむ。実に素晴らしい完成度だったように思うぞ」

「あ~…なんつ~かな、お姫さんは男の格好してても普通に変な輩が寄ってくるからなァ。
密着して護衛すんなら女の格好しててくれたほうが、むしろ自然に見えて楽なんだよなァ」
と、不死川だけはなんとなく若干ではあるが納得できなくもない補足をしてきた。


「まあ…本人、あんまり自分の服装に頓着しない性格みたいでさ、きぐるみ着て歩けとか言われても平気で着てく気がするし…
そもそもが制服着てないと、錆兎の上着借りてぶかぶかになってるだけで下手すると女の子に間違われちゃったりするしね…」

と、そこで村田がさらにそう補足するのに、

「あ…それは確かに……錆兎でかいし。
俺も初対面の時に間違ったわ」
と、善逸は思い出した。

「まあ…錆兎と義勇さんは特別だから、どういう形でも一緒に居られたら良いと思うぞ、俺は。
二人共幸せそうで何よりだ」
と、炭治郎はまたニコニコと何か意味ありげに善逸にはわからないような事を言う。


「うむ…まあ別にうちの学校では学生時代の交友が一生続いて行くことも少なくはないし、学生時代にずっと一緒にいた二人がそのまま公私ともに一番近いパートナーとして色々な分野で活躍することもあるので、錆兎と義勇はおそらくそういう二人なのだろう」

「ま、そういうことだな。
あとは権力があるだけに人権掌握も求められるうちの学校では、会長、副会長、書記、会計っていう仕事の種類的な役割とは別に、人間性とかキャラクタ的な役割を求められたりもするからな。
錆兎はまあ、そういう意味ではよくやっている。
強くて賢くて正しくて思いやり深い。
皆の頭で誇りで、まあ、みんなに言われてる通りカイザー、皇帝だ。
俺は参謀でカイザーの直の補佐役。
錆兎が俺に言えば大抵のものは揃うしな。顔も広い。
煉獄は下々の一般学生と生徒会の橋渡し役。
優れた人材でありながら、親しみやすく一般生徒が気軽に頼っていける。
村田は…まあモブ代表?
煉獄に言うほどでもないようなことでも、こいつにならこぼせるし、一般学生の忌憚ない意見を拾い上げる役。
ってことでな、まあ色々揃ってっけど華がなさすぎだろ。
男子校で女っ気ないからな。
みんな可愛いもの綺麗なものに癒やされてえんだよ
つ~わけで、そのお姫さん枠に綺麗なお姫さんを組み込んで今完璧になったわけだ。
あいつならいつも錆兎が横にいるから、おかしな手を出されたりすることもねえから安心安全だしな」

「…なるほど……」

確かに学園祭ですら女人禁制、男女七歳にして席を同じうせずという校風と言うから、色々一般社会とは違うのだろう。

全員本当に変わった人たちだとは思うが、悪い人な気はしてこない。

…というか、何故だろう。
みんな初対面の気がしない。
どこか懐かしい…

不思議な事もあるものだと思いながら、食事を終えて宇髄たちと分かれて炭治郎と二人での帰り道、そんな話をしたら、炭治郎が

「そうだな。懐かしいな」
と、また謎発言をするので、

「なに?炭治郎実は知り合いなの?」
と聞くと、炭治郎は

「長い時の中のどこかで人は知らずに交わってるのかもしれないぞ」
と、曖昧な笑みを浮かべた。

「…お前…たまによくわからないこと言うよな」

こういう不思議な発言をする時の炭治郎には、そのワケを聞いても答えてはもらえないことは何度か経験してわかっているので善逸がそう切り上げようとすると、炭治郎は

「でも嫌いじゃないだろう?俺も善逸の事は大好きだぞ」
と、やっぱり笑って言う。

「あ~その発言、錆兎達の話聞いたあとだとシャレにならんから…」
と、善逸がそれに返そうとした瞬間、まさにシャレにならないことが起こった。



「炭治郎様っ!!炭治郎様は騙されてるんですっ!!
そいつは私達を引き裂こうとしてる魔王の手先なんですっ!!」

真後ろで響く金切り声。
仁王立ちしてピシっと善逸を指差すのは、さきほど見た美少女。

「「出たーーー!!!!」」
と、叫んで思わず手に手をとって逃げ出す二人。

「炭治郎さまっ!!私から離れちゃだめぇ!!魔王の手先に殺されちゃいますぅ!!!」

そんな絶叫を背に浴びて、2人は周りの視線もこの際見ないふり。
オリンピック選手も真っ青な走りでその場を逃げ去ったのだった。



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