「え?ええ??いいの?なんかめっちゃ高そうなんだけどっ!!!」
善逸が連れて行かれた店はなんだか格調の高そうな店だった。
なにしろ表にお品書きとかどんな物を置いているのかわかるようなメニューのようなものが一切なく、何かの店なのはわかるが何の店かもわからない。
「うんうん、わかる。わかるよ、善逸。
生徒会の中でもさ、宇髄の家はちょっと違う金持ちだから、ここはファンタジーの世界だと思ったほうがいい。
俺も最初はびっくりしたけど、何も考えずに楽しむのが正しい。
気にしたら負けだ」
と、唯一の一般人ぽい村田がそうなだめてくれる。
「俺…死なない?ねぇ、実は入ったら出られないとかない?」
と、思わずびびって言うと、村田は
「大丈夫。俺も何度かこういうとこ連れ込まれて無事生きて帰ってるから」
と、苦笑した。
そんな二人のこそこそ話も気にせずに、宇髄が
「炭治郎っつ~のはもう着いてるか?」
と、ドアマンがうやうやしくドアを開けた先に立っている初老の立派そうな男性にぞんざいな調子で声をかけると、彼は
「はい。天元様のご指示の通りに藤の間にお通ししております」
と、答えたあと、ちらりと善逸達の方に視線を向け、そして宇髄に視線を戻す。
「あ~錆兎なら今日は奴のお姫ちゃんとデートでな。
期間限定のデザートビュッフェで今日行っておかねえと終わっちまうらしい。
それやめて来いなんて野暮なこたぁ言えねえから来てねえが、大丈夫。ちゃんとうまくやってる。
なんなら他の奴らに聞いてもいいぜ?
制服違うのはなんとやつのプライベートのダチってやつだからな。
お義理の付き合いってのを超えて仲良くやってるから心配すんなってジジイに伝えとけ」
どうやら彼は宇髄が言っていたように彼が学校でうまくやっているかを祖父に伝えるためのお目付け役といったところなのだろう。
宇髄の言葉に
「それはようございました。
それでは…料理はすぐに運ばせてもよろしゅうございますか?」
と、にこやかに言って、それを宇髄が了承すると、礼をして下がっていった。
「宇髄さんの家の人って…宇髄さんを錆兎と仲良くさせたいの?」
男性が下がって宇髄がかつて知ったる廊下を先導して進むのについていきながら、善逸は少し気になって聞いた。
確かに自分の知っている錆兎はすごい男だったが、すごいお金持ちだという宇髄の祖父が、わざわざ孫との仲を気にするほどの人物だったのか…と今更ながら気になって聞いたのだが、そこで宇髄がピタリと足を止め、少し驚いたように善逸を見下ろす。
「お前…もしかして海陽生徒会がどんなとこか知らねえのか?」
「へ??」
きょとんとする善逸に、宇髄は
「おいおい、本気でなんであいつから声かけるくらいの関係築いてんだよ、一般人」
と、呆れたように片手を額に当てて天を仰いだ。
「へ?なに?錆兎から声かけるってそんなに変なことなの??」
と、ますますわからない善逸に、宇髄がため息交じりに説明をしてくれる。
「日本一頭の良い学校の生徒会のOBともなれば、日本どころか世界でも活躍してて、それなりに権力持って動かせる奴も多いわけだ。
で、そういうOBは優秀な後輩はガンガン自分のとこにひっぱりたいと思ってっからな。
海陽の生徒会長ってのは、日本の各界のトップがこぞって奪い合っている人材なわけだ。
将来日本の何処かのトップになっている可能性も高ければ、OB達にも顔が効くからな。
そりゃあ良い関係を築かせておきてえだろ、普通。
ってことで、もう皆お近づきになりたがるからな、学校外では白ジレに一般の学生の方から挨拶以上の声をかけるのは禁止。
ましてや会長様になんて論外。
相手の方から声かけてもらえるのをすっげえ待ってるわけだ。
あ、ちなみに白ジレってのは生徒会役員のことな。
だから会長様がおデート中に声かけてくるなんてのは、海陽の生徒ならもうひれ伏して喜んじまうようなことなんだよ」
「ひえ…なにそれ。
会長ってお貴族様扱い?」
と、さらに引く善逸に、
「あ~、奴は一般生徒にはカイザーって呼ばれてんぞォ」
と、今度は不死川が補足するように言う。
「え?え?じゃあなに?俺いまお貴族様に連行された一般人ってことなの??」
と、思わず叫ぶと、全員が一瞬固まって、次にそろって吹き出した。
「いやいや、前言撤回だわ。お前、派手に反応面白いわ。
そりゃあ錆兎でもちょっかいかけるわ、こりゃあ」
「ビビってんだかウケ狙ってんだかわかんねえ奴だなァ」
「発想が独創的だな!なるほど!そういう人物と交流を持つのも見識を広めるために必要ということか!さすが錆兎だ!」
と、口々に言われて、
「もしかして…俺からかわれてんの?」
と、善逸が一番普通そうな村田に聞くと、村田は
「う~ん…まあ宇髄が言ったのは海陽では本当のこと…かな。
会長はすごい人で、生徒会役員はその会長がこいつなら任せられるって人材をひっぱるから、単なる人気投票じゃなくてね。
まあ…たまたまずっと錆兎と同じクラスで近くにいて慣れてるから楽だって理由で引っ張られた俺以外は、白ジレは確かに一般人じゃないし、文武両道、何かしらの特殊技能持ってたりする人たちだから、学校内のお貴族様っていえばお貴族様だと思うよ」
と、苦笑した。
「何を言う!これと言って目に見えた特出したものがなくても錆兎の信頼が厚い村田は、ある意味一番のすごいやつだろう!!」
と、煉獄にでかい声で言われて思い切り背を叩かれて、
「いや、普通に痛いからっ!ついでに煉獄、声大きすぎ!」
と、村田が不死川の方に逃げる。
「むぅ!すまなかった!これからは加減することにしよう!」
「…っていつもそう言って5分で忘れるのがお前だよなっ!!」
という二人のやり取りを少し笑って、また宇髄が歩を進めた。
「まあ、そういうわけで、あいつも俺らもそれなりに色々こなせるから、困ってんなら助けてやれるからな。派手に大船に乗ったつもりでいろ!」
と、請け負って、炭治郎の待つ部屋の前までついたらしく、宇髄はドアの前で足を止め、ドアノブに手をかける。
「あ~!炭治郎無事だったかぁ~」
20畳くらいはあるだろうか。
広い部屋の中央に丸テーブル。
そのテーブルを囲む椅子の1つにひどく落ち着かない様子で座っていた炭治郎は開いたドアに顔を上げた。
なにかひどく切羽詰まった声音だったから大丈夫かと思ったが無事に逃げ切ったらしいと、善逸が安心して声をかけたら、炭治郎は逆に善逸の姿を認めると、さらに隣にいる不死川に視線を向けて、目を丸くして
「善逸っ!俺よりお前のほうが大丈夫なのかっ?!
この様子だと、なにかトラブルに巻き込まれているのか?!!」
と、がたん!と立ち上がる。
「いやいやいやいや、わかる、気持ちはわかるけどな?
ちょっと強面なあたりに囲まれてるしさ。
でも落ち着こう?
普通ね、本当に君が考えているようにトラブルに巻き込まれていたとしたらね、今の言い方完全にアウトだからね?」
と、それに村田が不死川の腕を念の為取った上で苦笑しつつそう声をかけた。
「そうそう!不死川さんのことなら、怖そうに見えるけど、このメンツの中で一番常識人で親切ないい人だからっ!」
と、言うフォローのつもりの善逸の言葉には
「お前も不死川以外のメンツも聞いてるとこでその発言はアウトなっ!
派手に類友かよっ!ツッコミ待ちかぁ?」
と、宇髄が苦笑して軽く善逸の後頭部をはたく。
「あ~、もういい!どうでも良いから席につくぞォ!
飯も話も始まりゃしねえ!
そいつもなんだか切羽詰まってんだろうがァ。
宇髄、話を聞いてやれェ」
と、その収集がつかなくなったモロモロは、不死川自身のそんな言葉で締められて、とりあえず全員が席についた。
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