ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん2_怒りの善逸

その日は土曜で学校は半日。
楽しいには楽しい放課後ではあったが、家に帰っても誰も居ない。

こんな時に彼女でも居れば…などと前日に炭治郎に愚痴を言うと、

──暇なら俺と遊びにでも行くか?
と、実に炭治郎らしい反応が返ってきて、まあ彼女じゃなくても友人と過ごすのも悪くはないと会う約束をした。

こうして土曜の放課後13時に互いの学校の中間地点の大きな駅の改札で待っていたわけなのだが、時間にはいつも正確な炭治郎が30分経っても来ない。

おかしい…。
そう思って念の為とホームに上がれば、なんと有名なお嬢様学校の制服を来た可愛い女の子と話している。

自分との約束を放置で美少女と…。
これはもう…裏切り行為と言っていいだろう。

腹をたてた善逸は
『お前が可愛い女の子と楽しくやってる間、30分待ったけどもう帰る!』
と、炭治郎にメールを送って、階段を駆け下りた。

それでもこのまま帰るとなんだかイライラしそうなので、何か旨いものでも買って行こうかと、改札を出て街中へ。

そして駅前にある美味しいと女子に人気のクレープ屋にたまたま目をやって、そこで女子に混じって並ぶえらく目立つ男子高校生に目を止めた。

長身でイケメンでそれがさらに見るからにオシャレでカッコいい名門進学校の制服を身にまとっているのだから、周りの女子の目はメニューよりその男に釘付けだ。

本人の視線はまっすぐメニューにむけられているのだが…


ともあれ、え?お前そういうの並んじゃう?と思いつつ思わず凝視していると、順番になって2つのクレープを買う男。

それを手にクルリと反転したところで、向こうも善逸に気づいたらしい。

「久しぶりだな。善逸」
と、錆兎が両手に持っていたクレープを片手に持ち替えると手を振ってくる。



お前…自覚しろよ。
周りの女の子の視線が痛いよ。
なんでこんなフツメンと?とか思われてるよ。
てか、2つ持っているうち1つは俺のため?とか思われてるからっ…

などなど、言いたいことはやまほどあるが、とりあえず突っ込む。

「錆兎、お前なにしてんの?」
色々な意味を込めて聞けば、この無自覚イケメンは腹がたつほどにこやかに

「ああ、今日は甘味めぐりDAYというか…な、このあとデザートバイキングに付き合う約束を…」
と、言うので、こいつも女かっ!と、思ったが、何故か後ろから伸びてくる手は男のソレだった。


「駄賃に一口な」
と、言って片方をとったのは、こちらも目の覚めるようなイケメンだが、大柄な錆兎よりまだ大きい。

「ふざけんなっ!返せっ!宇髄!!
どうしてもなら俺の方にしろっ!そっちは駄目だっ!!」
と、錆兎が怒ってその手からクレープを取り返し、もう片方をそいつの口元に。

その謎のイケメンとそんなやりとりをしながらも、

「…久々だったからつい声をかけてしまったが、待ち合わせとかなら済まなかった、善逸。気にせず行ってくれ」
と、錆兎はこちらにも気を使うが、善逸はそれで思い出してまた腹がたってきたので

「炭治郎がさ、ひどいんだよ!」
と、錆兎に訴えた。

「…炭治郎が?」
「そそ!俺と待ち合わせしてて30分もこないと思ったら、可愛い女の子と話してんだよ!」

そう言うと、
「う~ん…何か誤解なんじゃないか?炭治郎はそういう男ではないと思うが…」
と、錆兎が言うのに被せるように

「そりゃあこんな地味なのと遊ぶより派手で可愛い子と遊ぶほうが……」
と、さきほどの男が言いかけるが、そこで錆兎が後ろ蹴りを食らわせ、男が慌ててそれを避ける。

そして
「宇髄の言うことは気にするな。なんなら俺達と来るか?
二人でも三人でも変わらんし」
と、言ってくれるが、宇髄と呼ばれた男はまたも

「お前もあまり待たせてると怒って帰られるぞ?いいのか?」
とにやにやと錆兎の肩に顎を乗せて言った。

それに
「あいつに限ってそんな事は…」
と、言いかけた錆兎が、バッと宇髄を振り向いて

「宇髄!俺はお前にあいつを見ておいてくれと言ったよなっ?!
護衛はどうしたっ!!何故ここにいるっ?!!」
と、焦ってまくしたてる。

それに宇髄は、今更気づいたか…とカラカラ笑いながらも

「大丈夫、大丈夫、番犬が通ったから預けてきた」
と、あごをしゃくった。

「あ~不死川か……」
と、錆兎も宇髄の視線の先を追う。


そちらの方には顔中傷だらけで目つきが妙に鋭い恐ろしげな男…。

え?え?なんで海陽の制服とか着てんの?
海陽の学生から奪い取ったとか?!

と、善逸はびびるが、錆兎の視線に気づいたのだろう。

その隣のサラサラの黒髪の日本人形みたいに綺麗な少女が錆兎の方に駆け寄ってくるのを、

「あ~、走んなっ!お前すぐ転ぶだろうがっ!!」
と、慌てて追っている。



そうしてぽすん!と美少女が錆兎の腕に収まると、後からきたおっかない男は

「お前らなァ、お姫さん1人にしたら危ねえって何度言ったらわかるんだァ?!
錆兎も宇髄に任せてんじゃねえぞォ?こいつ愉快犯だからなァ!
どうしても他にいねえなら混んでても自分で連れ歩けェ」
と、そんな風に心配するような言葉をかけていた。
見かけによらず案外いいやつらしい

そんな中、錆兎は当のお姫さんに
「な、今日善逸も一緒でいいよな?」
などと聞いている。

うん、ここまで状況が見えたら、さすがにそれはありえない。
いくらイケメンだからって、デートにいきなり知り合いも一緒に連れていきたいとか言ったら本当に振られるよ?!

と、善逸は焦った。

「わかったっ!お前がいいやつなのは俺もよおぉ~~くわかってるっ!
だからデートは二人で行って来い!!」
と、善逸は錆兎の肩にポン!と手を置いて言う。この上なく真剣に言う。

「いや…でも……」
と、さらに錆兎が言うのは、おそらく炭治郎の事で愚痴った善逸を心配してくれてのことなのだろうし、善逸はリア充はもれなく敵だと思っているのは確かなのだが、その対象から錆兎は除外しようと思った。

「せっかくだし、一緒に…」
と、嫌な顔ひとつせずに言ってくれる彼女も、顔だけじゃなく錆兎に似合いの心根まで美しい優しい子なのだろう。

もうあんた達はいい。
外見も心根も美しすぎて一般人じゃないからもういいよ。
末永くめでたしめでたししててくれ…と、善逸はその尊さに涙する。


そんな善逸を後押しするように、宇髄が

「普通は男はデザートバイキングより肉だろ、肉!!
このあと煉獄と合流する予定だから、よければ善逸は今日は俺達と派手に肉食おうぜ~!
お前らは二人でケーキ食ってこい!」
と、ドン!と錆兎の背を叩く。

その勢いで錆兎の手に握られたクレープを餌付けされる小動物のようにあむあむ食べていた彼女の小さな口元に思い切りクリームが付いたのを、錆兎が指先で拭ってやってそれをためらわずに自分の口に入れた。

そんな二人を見て、気遣う気持ちとは別に、この二人と甘いものを食べるのは無理…なんか今でも甘さで胸焼けがしそう…と、善逸は宇髄の言葉にのっかることにして

「うん、俺あまり甘いもの得意じゃないから、肉行くわ~」
と、うんうんとうなずく。


「そうか?」
「うんうん。炭治郎の話はまた今度聞いてくれ」
「じゃあまた今度」

いつのまにやら錆兎が持つ自分のクレープを食べきって、頬にクリームをつけながら錆兎の分のクレープをあむあむしつつ手を振る彼女はめちゃ可愛い。

また今度…って、錆兎に言ったつもりだったのだが、彼女は一緒に来るつもりなんだろうか…
まあ可愛いから構わないけど…
そんな事を思いながらも、彼女の笑顔につられて善逸もついつい笑顔で手を振ってしまう。

そうして二人が仲良く並んで街の雑踏へと消えていくと、そこで電話の着信音。

『すまない、善逸!今逃走中で…待ち合わせ場所を変更して構わないか?!』
と、出るなりいきなり息をせきった、どこか切羽詰まったような炭治郎の声。

嘘ではない、嘘をついているわけでは決してなく、炭治郎は困っている。
なんとなくそれを感じて青ざめる善逸に、

「おい、どうした?なんか困ってるか?」
と、宇髄が言ってくる。

「ええっと…なんか友だちがトラブルに巻き込まれて逃げてる最中らしくて…」
と、相手が錆兎の友人だと思うとなんとなく頼れる気がしてしまった善逸がそう言うと、宇髄がふ~ん…と、顎に手をやって頭をひねり、

「それならこれから言う場所まで逃げてこさせろ。
うちのジジイが経営する店の1つで、一見お断りの店だから。
ダチの特徴教えろ。店のモンに言っておく」
と、言ってくれる。

そうして善逸が錆兎の友人と一緒なことと、その店の住所と名前を言うと、
『わかった。すぐ向かう!助かる!』
と、炭治郎はそう言って電話を切った。

その上で宇髄に炭治郎の特徴と名前を言うと、宇髄が店に連絡。
その間に随分と派手な感じの体格の良い男子高校生が1人、

「すまん!部に連絡があって寄っていたら遅れてしまった!!」
と、すごい大声で手を振ってくる。

「煉獄…声でかい。すっごく目立ってる。目立ちすぎ」
と、その横には同じ制服を着ているものの、錆兎を含めてなんだかとてつもなくイケメンで体格の良い面々の中で妙に一般人している男子高校生が1人。

「お~!煉獄に村田、やぁ~っとついたか。
肉行くぞ、肉!!」
と、そこで電話が終わったのだろう、宇髄が大きく手を振った。

「で?これ誰?」
「うむ、1人見かけない顔がいるが、紹介してくれないか?」
と、その二人が善逸に視線を向ける。

すると宇髄は
「あ~、こいつは善逸なっ!」
と、善逸の肩をぐいっと引き寄せてそう言ってそれだけで済ませようとするが、2人はそれを全く気にする様子はなく、ちらりと不死川のほうを見た。

ああ、なるほど。
宇髄はだいたい大雑把で、この怖い男は実は見かけによらずマメで律儀な性格をしていて、それぞれ普段からそうなのだろうと、善逸は内心思う。

「あ~…なんつ~か…錆兎のダチ?
さっき会ってな、錆兎はお姫さんのお供でケーキ食いに行くし、じゃあお前はこっちの肉組に来ねえ?って宇髄が誘ったんだ。
あ~、あとあれか、なんだかもうひとりのダチが厄介事に巻き込まれてるらしい。
だから宇髄の爺さんとこのステーキハウスに逃げ込んどけっていうことで、もうひとり向こうで合流な」

「ん~わかったようなわかんないような…?」
「うむ!でもまあ錆兎の友人と言うなら、良いだろう!
肉を食うのに一人二人増えても変わらんしなっ!!」

一般人っぽいほうが苦笑しつつ首をかしげ、声のでかい方は腕組をしながら相変わらずでかい声でうなずいた。

「まあなぁ。
煉獄一人いる時点でた4,5人増えたところでわかんねえよなぁ。
ま、俺がちゃんと人間関係作れてんのか心配だとか頭が沸いた事抜かしてダチがいるなら連れてきやがれっつ~ジジイのおごりだから、皆で派手に食えっ!!」

と宇髄が豪快に言うのを聞いて、てっきりみんなで安い肉でも食いに行くものと思っていた善逸は

「え?え?宇髄さんのおごりって……。
初対面でさすがにそれは悪いからっ!!」
と、慌てて言うが、宇髄と反対方向から肩に不死川の手が伸びてきて、

「俺が言うのもなんだけどなァ、宇髄に遠慮するだけ馬鹿だからなァ。
錆兎のダチなら黙って奢られとけェ」

と、宇髄と不死川両方から肩に手を回される。
こうして二人共体格が良くてやや強面なのもあり、怖い奴に掴まった一般人のように、善逸は宇髄の祖父の店とやらに連行されていった。




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