ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん1_ヤンデレ来たる!

「あのっ、結婚して下さいっ!」
「はいぃ??」

いきなり…本当にいきなりだった。
帰宅する学生でにぎわう駅のど真ん中。
炭治郎は突然後ろから腕を掴まれた。

振り向いてみると女子高生。

見覚えのあるその制服は、確かご近所の胡蝶家の美人姉妹の通う有名ミッション系お嬢様学校である聖星女学院のもの。
もちろん当然の事ながら相手は知らない顔なわけで…。

ふわふわウェーブのかかった髪をバレッタでまとめ、背は胡蝶家のしのぶよりは若干高いくらいだろうか…。目はぱっちりとしてて、まあ可愛い。

というか…普通の男子高生ならこのレベルの容姿の聖星の女子高生に声をかけられたら舞い上がるかもしれない。
しかし炭治郎の口から出てきた言葉は…

「人間違いですよね?じゃあ失礼します」

言ってくるりとまた彼女に背を向けて歩き出した。

そう、炭治郎は容姿や制服で惑わされたりはしない。
ついでにいうと、女の子が大好きな善逸などとは違い、知らない美少女に声をかけられて誤解から始まるラブロマンスなどを期待するタイプでもない。

例えるなら、森の泉に鉄の斧を落としたなら、女神に金や銀の斧をちらつかされても、自分が落としたのは鉄の斧なので、お手数ですが拾って頂けると嬉しいですと、飽くまで丁寧に相手に願い出る程度には正直者だ。

そんな彼にとっては、見知らぬ美少女に迫られる覚えがない以上、人違いだと告げて立ち去るのが正しい選択だった。


しかしながらそこで

「待って下さいっ!!人違いじゃありませんっ!
竈門炭治郎様っ!!ちゃんと結婚して下さいっ!!」
と、いきなり駅で絶叫されて、さすがの炭治郎も慌てて引き返した。


「あのっ!ちょっとそういう事大声で言わないでくれないかっ?
というか、俺達は初対面だよね?」

周りが何事かと振り返って見ている。
当然だ。いきなり公衆の面前で結婚を迫る女子高生。

下手すると”責任をとらないといけない様な事”をしておいて逃げた不埒な輩と取られかねない自らの立場を思って、炭治郎は青くなった。
心持ち顔も引きつる。
それが余計にやましい男感を醸しだしてしまうわけだが、さすがにそんなことまで気を使う余裕はない。

「なんで君は初対面の男にいきなりわけわからない事言ってるんだ?」
「初対面じゃありませんっ。炭治郎様、私を命がけで助けてくれたじゃないですかっ!
あの夜はあんなに優しかったのにっ…私の事忘れちゃったんですか?」

言われて炭治郎の脳内を色々がぐるぐる回る。
あの夜?いつの夜?

少なくともパン屋の長男、竈門炭治郎として命がけで人を助けた覚えはない。

その前だとしたら……う~ん…助けた相手を全ては覚えていない。
でも少なくとも“ちゃんと結婚”しなければならないような事はしていないはずだ。

絶対に知らないとは言い切れないが…忘れたと言えば有罪確定認定をされてしまう。
と、さすがに焦る炭治郎
タラタラ額を伝う冷や汗。
周りの人非人でもみるような視線が突き刺さる。

「あ、あの…本当に人違いだよね??」
少なくとも”ちゃんと結婚”うんぬんに関しては、そういい切れる。

しかし相手はガン!として人違いではないのだと言って聞いてくれない。
ひたすら焦る炭治郎

そして…そのやりとりを…実は遠くで見ている人影が…。



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