リビングに通されて事情を聞いた時、錆兎は頭にか~っと血が上った。
そんなの俺のお姫さんにはなんにも関係ないじゃないかっ!!
そんな理由で自分の大切な義勇が小さい頃からずっと否定されて怯え続けていたのか…
そう思うと、怒りのあまりクラクラする。
思わず怒鳴ってしまいそうな錆兎を叔父の耀哉は
「母上のことではないだろう?
母上の方はそれを不憫に思ったからこそ、こうして御主人の反対があるかもしれなくても私達の申し出を受け入れて下さろうとしているのだから」
と、制する。
確かにそうだ。
今彼女を責めたりしても気が変わられるかもしれないだけで、良い事はない。
義勇の事を本当に考えるなら、協力を申し出てくれている母親まで敵に回す意味はない。
そう思えば自分の感情を通すのは愚かだ…と、錆兎は怒りを堪えてただ黙り込む。
母親の話によると、錆兎の義勇は、父親が子ども時代に自殺した母親にそっくりで、父親は幼い日に自分を捨てるように死んだ母を見るようで辛く当たったらしい。
しかも、あまりに辛いならと、事情を知る母親が義勇を自分の母親に預けようかと提案したのだが、母親に見捨てられた感がある父親は、それは嫌だ、相手が離れていくのは嫌だとそれを拒否したのだと言う。
なんて身勝手な!と怒りが収まらない錆兎だが、父親がそういう理由で義勇を手放すのを望んでいない以上、成人までの2年間は母親の許可と説得だけが頼りだ。
とりあえず当座は義勇は母方の祖母に預けていると言うことにして、その間に学校の転校手続きをすませ、義勇の安全を完全に確保した時点で説得開始。
状況によっては正式に叔父の紹介する弁護士を通して接近禁止を言い渡す事も視野にいれる。
まあ出来ればそこまではしないで済む方がいいのだが……
幸いにして学力は決して低くない義勇の転校先は錆兎の通う高校。
義勇と同学年の1年には友人たちの弟も多数いて、ずっとガードする事が可能だからだ。
そのあたり叔父は抜かりがないと思う。
おそらく自分達の両親が亡くなった時も、莫大な祖父の遺産の半分を相続した娘の遺産をさらに相続する事になる自衛も出来ないような幼い甥達を、まだ若干24歳くらいの叔父はそうやって守ってくれたのだろう。
大切な誰かを守れるだけの強さと知恵のある人間になりたい…
錆兎は叔父の姿を見て改めてそう思った。
とりあえずは今は守るべきは義勇の心身だ。
とにかく父親と接触させないだけではなく、そうやって父親から追われるであろうこともプレッシャーになるだろうから、全てが解決できる時期がくるまでは告げないでやりたい。
今まで辛く心細い思いしかしてこなかった義勇に、ただただ楽しく幸せなだけの生活を提供してやりたいと思う。
それでも色々納得がいかなくて、顔に出ていたらしい。
義勇の部屋に荷物の運び出しがてら迎えに行ったら、自分でも無意識に険しい表情をしてしまっていたらしく、少し怯えた顔をされた。
そう言う時、叔父は大人だと思う。
飽くまでにこやかに穏やかに一緒にいた双子の妹にまで挨拶をして、義勇がうちに来る事になったという事を2人に説明した上で、荷物を一緒に運びだす。
それだけではなく、どことなく心細くなって落ちつかないのであろう義勇を気づかって、帰りに可愛い服を買いに行こうとデパートに。
まるで父親のような態度で義勇を緊張させずに甘やかしてやる様子を見て、正直負けていると思った。
早く心身ともに大人の男になりたい。
義勇が安心して頼れるように…
そんな事を思いながら帰宅して、炭治郎も交えて楽しく食事をして2人して離れに戻る。
そして就寝時間。
一応今日デパートに行った時にいずれ必要になるかと思って大きめのベッドは注文しておいた。
それは今寝室に置いている本棚と机を別室に移して、場所を作ってそこに置こうと思っている。
そして当座は義勇にそちらの広い方のベッドを使ってもらって、自分は元々使っていた狭い方のベッドを使い、2年後、籍を入れたら狭い方のベッドは片付けて広い方で同衾すれば良い。
しかしながらベッドが届くまで2,3日ほどかかるので、それまでは自分はリビングのソファで寝よう。
そう思っていたのだが、義勇に異を唱えられた。
いわく…
──一緒に寝ればいいんじゃ?
──いや、それはまずいだろ。
──同性なのに?
──きちんと籍を入れるまでは……
──…やっぱり……俺と一緒に寝るのは嫌なのか……?
うあああーーー!!!なんでそうなるっ!!!!
と、そのあとに、居候なんだから錆兎が一緒に寝るのが嫌なら自分の方がソファに寝ると、言われた時点で負けた。
自分がベッドに寝て義勇をソファに寝かせるなんてとんでもない!!
ということで…非常に緊張しながらベッドに寝る義勇の隣に潜り込む。
するとふわりと香る花の匂い。
周りにいた女性陣のように鼻につくようなものではなく、本当にふんわりと香るそれに、このフローラルな香りってもしかして本当に義勇自身の体臭なのか?と驚く。
本当に…今まで見て来た女性陣とも自分達男ともどこか違う。
義勇は男でも女でもなく、お姫さんと言う生物なんじゃないだろうか…
そんな事を考えながら、錆兎はその日は花の香りに包まれて眠りについた。
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