ツインズ!錆義_24_義勇視点-神様のいる世界

幼い頃からもう、義勇には神様に救いを祈るという発想すらなかった。

だって、神様が救わなければならない大きな不幸を背負った人達はいっぱいいて、義勇のようにちっぽけな不幸程度しかない人間にまで手は回らないだろうと思ったから。

でも…神は義勇が思うよりもずっと偉大で慈悲に満ちていたらしい。

今まで居た小さな小さな不幸な世界からいま、義勇は救い出されて光に満ちた優しい世界にいる。



あの日…錆兎にこの家に連れて来られた日の翌朝、おそるおそる対面した錆兎の家族は驚くほど温かかった。

最初に会ったのは従兄弟の炭治郎。


事故で亡くなった両親は近所でも評判の美味しいパン屋だったということで、その才能が受け継がれているのか料理がとても上手いのだと錆兎が言っていたのだが全くその通りで、きれいなきつね色の美味しそうなパンケーキや香ばしい匂いを放っているカリカリに焼いたベーコンの朝食を用意してくれていた。

これで義勇より年下だと言うから驚きだ。


その後はそのふわふわのパンケーキを3人で食べたのだが、なんと義勇の大好きなホイップクリームまで用意しておいてくれたらしい。

それに対して錆兎が
「おいおい、すごい量だな」
と目を丸くすると、炭治郎は
「すまない。甘い物が好きだと聞いていたのではりきって作りすぎた」
と、しょんとうなだれる。

本当に失礼な話なのだが、そんな風にうなだれる炭治郎は年下らしくて可愛いと思う。

そんな彼らの微笑ましいやりとりを横目にせっかくなので大好きな生クリームをたっぷり乗せて美味しくパンケーキを頂いていたら、炭治郎が申し訳なさそうに

「無理に食べなくても構わないから…。
余ったらコーヒーにでも入れよう」
と言うので、義勇は慌てて、

「あ、ごめん。
他にも使うんだな。
つい嬉しくてつけすぎてしまって……」
と、生クリームをすくう大きなスプーンを置いた。

それに一瞬固まって、それから顔を見合わせる兄弟。

「いや、違うんだ!
俺も錆兎もそこまで甘い物が得意ではなくて食べないから、君が無理して食べてくれているのかと思っただけで…」
と、わたわたと焦ったように言う炭治郎の言葉を、錆兎が引き継ぐ。

「別に使う用途があるとかじゃなくってな。
余ったら捨てるのももったいないからコーヒーにでも入れるかって話をしただけで、お姫さんが作りすぎたって言う炭治郎に気を使ってとかじゃなくて、本当に美味しく頂いてくれているなら、作った方としては当たり前だがその方が嬉しいという事だ。
な?炭治郎」
「うん!」

錆兎の言葉にうんうんと炭治郎が頷くと、錆兎は生クリームをスプーンにたっぷり乗せて、

「無理なら残しても良いからな?」
と言いつつ義勇の皿に。


「無理じゃない。美味しい。
それだけでも食べられるくらい生クリーム好きだから」

と、皿にたっぷり追加された生クリームをフォークですくって口に入れると、濃厚なミルクの甘みに思わず笑みが零れ落ちた。

それを見て、錆兎と炭治郎が嬉しそうに笑みを向けてくれる。

炭治郎などはさらに
「男3人所帯でそこまで甘い物を食わないし消費しきれないからあまり作る機会が持てなかったんだけど、お菓子作りとかも実は好きなんだ。
だから…食べてくれるなら今度作ろうかな」
とまで言ってくれた。

もちろん、その後、お茶の時間になると炭治郎が焼いた美味しい焼き菓子が山と積まれる事になったのは言うまでもない。


そんな風に炭治郎とも打ち解けた頃、義勇は錆兎のもう一人の家族に会う事になる。

義勇が一番苦手な年上の男性…

義勇達が朝食を食べ終わった頃に会う事になったのは、いかにも強い男と言った感じの錆兎と違い、どこか優雅だが穏やかな雰囲気の紳士。

食事が大方終わって3人で談笑していると、ダイニングのドアをコンコンと軽くノック。

3人が視線を向けたところで、

「楽しそうだね。私もお邪魔して良いかな?」
と、優しい口調でそう言った。


もちろん異論などあるはずもなく、錆兎が緊張する義勇を紹介すると、彼はきょとんと眼を丸くして錆兎に言った。

「…男の子…だよね?」
「ああ、男だ」
と、その錆兎の返答にもう一度義勇に視線。

その時点で義勇は泣きたくなった。

昨日飛び出したまま少女の格好で当たり前にいたが、父親世代に受け入れられないのは昨夜でわかりきっていたことなのだから、錆兎の服でも借りれば良かった…。

そう思えば居たたまれなくて、泣きそうになりながら震えていると、驚いた事に錆兎の叔父はふんわりと言ったのである。

「あ~そうだよねぇ…。ギラギラした感じしないし?
男の子で良かったよ。これで女の子だったら、私が結婚しろ跡取りを作れとうるさい親族避けに欲しくなって、錆兎と争わないといけないところだった」

へ???

義勇がその言葉に驚いて目をぱちくりしていると、錆兎に後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「お姫さんは、いくら叔父さんでも譲らないぞ?」
と、少し険のある警戒するような錆兎の声。

そんな余裕のない風な錆兎とは対照的に、叔父の方は、ハッハッと、笑いながら

「女性だったら、だよ。
彼らは可愛くても男の子じゃ許してくれないだろうしね。
どうせ許されないで揉めるなら、可愛い甥っこの恋路を邪魔したりはしないさ。
でもまあ、良い子をみつけたね、錆兎。
お前達がギラギラした、いま風に言うと“肉食系”?っていうのかな?
そんな女性を恋人として連れて来たら、私はマンションでも買ってこの年齢から1人暮らしをしないとならないところだった。
見た目は可愛くて中身も可愛い。
最高じゃないか」
と、言いつつ席について炭治郎に食事を出してくれるよううながした。


錆兎いわく、昨今の女性のギラギラ感が苦手で、プライベートでは極力女性との接触を避けているというこの叔父にとっては、むしろ義勇が少女ではなく少年だったほうが喜ばしいとのことだった。

まあ紳士なので、もし甥っこ達がそういう女性の恋人を連れて来たとしても、本人が言った通り何かしらの理由をつけて自分の方が家を出て、さりげなく距離を取るつもりだったらしいが…。

そんなわけで大丈夫!と太鼓判は押されたものの、この格好はまずいのでは…と、それでも秘かに義勇は思ったわけなのだが、叔父は目の前に錆兎と並んで座る義勇ににこやかな視線を送りながら

「う~ん。せっかく可愛い子が来てくれたわけだし、私も服を色々選びたいなぁ。
クラシカルなワンピースとか取り寄せて良いかなぁ?」

君の恋人に服をプレゼントしたら君は怒るかい?などと、錆兎に聞く。

それに対して錆兎が、怒らないけど…と言いつつ

「叔父さん、女嫌いだったんじゃ?
服は良いのか?」

と聞くと、叔父はどキッパリ

「服は大好きだよ。
女性モノの方が可愛い服多いしね。
問題は…それを着る中の人間がギラついているのが嫌なんだ。
中身がギラギラしていなくて、可愛い服を着て自宅で目を楽しませてくれる、そんな相手になら着せたい服はいくらでもある。
綺麗なモノは大好きだ」
と断言した。

……変わっている。
自分も他人の事は言えないが、錆兎の叔父さんは随分と変わった人だった。

すましてコーヒーをすする穏やかで優雅な外見に変わった嗜好の人物。
だが、彼がただの変なオジさんではないことを、義勇はこのあと実感する事になる。

そう、義勇の親との、義勇の身の振り方についての交渉の場において…。



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