ツインズ!錆義_22_錆兎視点-お姫さんを手にする方法2

そして5分後…錆兎は叔父の分と2つコーヒーの入ったカップを持ってリビングへ。

「遅くに訊ねて悪かったね」
と、こんな時間に呼びだしたのに先に謝られてしまった。



産屋敷財閥総帥、産屋敷耀哉。



錆兎達の母方の叔父はいつも口調も柔らかく腰も低い。
だが、そんな優しげな物腰に騙されてはいけない。

なんのかんのでうるさい親戚一同を黙らせて自身の結婚を避け、若い男に子育てなんて無理だと猛反対されながらも、亡くなった姉の子である錆兎と炭治郎を引き取ってこの年まで立派に育ててくれた、意思の強い頑固な男である。

正直…叔父を敵には回したくない。


「…いや、俺の方こそこんな時間にごめん」

ことりと叔父の前にマグカップを一つ。
そしてローテーブルをはさんで正面に自分用のカップを持ったまま座る錆兎。

さあ、鬼が出るか蛇が出るか、お姫様獲得交渉の始まりだ。




「錆兎、君は未成年で私はその保護者で責任者だと言う事はわかってるね?」
と始まるその言葉に、錆兎は緊張の色を強くする。

「…わかってる。
だから離れは俺のテリトリーだけど、館全体の責任者でもある叔父さんに事情説明の連絡を入れてお姫さんの宿泊許可を求めた」

静かな声。
穏やかな口調。
だが気を抜くと主導権を持って行かれそうだ。

いや、別に主導権を持って行かれるのは最悪構わないのだ。
義勇を無事に保護できる状況に持って行かれればなんでも良い。

だからあえて相手の主張を肯定する。

そんな錆兎に叔父は

「おや。あたりは柔らかくても内心プライドの高い君の事だから、『お姫さんに関しての事は俺が…』と言いだすのかと思ったよ」
と、興味深そうな笑みを浮かべた。


…これは…とりあえず大反対されている反応ではないと思って良いのだろうか。
いや、でも絶対に失敗出来ない交渉なのだから油断は出来ない。

「…もちろん全部俺がやりたいと言う気持ちがなくはない。
でもどんなに正しい事を言っても高校生じゃはなから相手にされない場所もあるから。
同じ事を社会人が言えば通ることでもな。
だから…迷惑は承知だけど、俺は叔父さんを巻き込みたいと思っている。
お姫さんは本当にぎりぎりだ。
これ以上なにかあれば死んじまうかもしれない。
…それは絶対に避けたい。
そのためなら、俺のプライドなんてちっぽけなものだと思っている」


──自分の何を犠牲にしても守ってやりたいんだ

全てにおいて情があるかというとそうではないが、叔父は甥である自分と炭治郎に関しては思い入れを持っていてくれている。

だから本当に自分が生きていくのに絶対に不可欠だということを信じさせる事が出来れば動いてもらえる。


叔父の言う通り、錆兎はなまじ色々出来すぎる子どもだったため、実はプライドが高い。

法的な部分以外では自分自身の事で物理的に大人を必要としなかったし、何かと手助けや保護を必要とした年下の従兄弟と違って、錆兎は叔父に助力を願った事はほぼない。

ましてや自分の恋人の事だ。
本当は全部自分が取り仕切りたい。
自分の手で守ったと言いたい。
一番大事な部分を他人に任せたくはない。

そういう類のことで自分が子どもで力がないと認めた上で助力を乞わなければならないということは、確かに錆兎の自尊心をひどく傷つけた。

でも、自身でも言った通り、義勇の幸せのためなら、自分自身のちっぽけなプライドなどどうでも良いし、犠牲というのも軽いくらいだ。

自分自身だけに跳ね返ってくる事なら、どんなに大変でも他に任せたりはしないが、義勇の安全に関しては“万が一”があってはダメなのだ。


他人に物を頼むのに、頼むこと自体が不満だなどと言う顔をするのはもってのほかだ。

そう思うのに、完全には割り切れない自分は、紛れもなく子どもなのだと錆兎は思う。

もちろん不満だなどと口にする事はないが、ずいぶん複雑な表情になっていたのだろう。
それまでは淡々と話していた叔父は、つい、耐えきれずといったようにふきだした。

「叔父さん??」

目の前でふきだされて、さすがに憮然とする錆兎。

それに叔父はちょっと待って、と、手で制して、ひとしきり笑うと、笑いすぎて出た涙を拭き拭き謝ってきた。

「いやいや、ごめん。
君がそんな子どもみたいな顔をするのは、本当に子ども時代にさえみたことなかったからね。つい。
笑い事ではなかったね。
さあ、話をしよう。

もちろん私も私と同じように、“自分らしく生きること”で周りの大人に迫害されている恋人を救出したいという君に全面的に協力する事にはやぶさかではないよ。
別に世界中を救いたいというほどの善人ではないけど、特別な子ども達である君と炭治郎が私の感性にあう方向の事で助けを求めているのだからね。

プランを語り合おうじゃないか。
君はどういう手段でどういう方向に持って行きたいのかな?
君のことだからビジョンはあるんだろう?」

膝に肘を置き、両手を組んで身を乗り出す叔父。
なんだか生き生きとしているように感じる。

「…お姫さんは未成年だ」
「うん、そうだね」
「……下手をうてば責任は俺じゃなくて叔父さんのところに来るかもしれない」
「うん。だから下手を打たないようにしないとね」

一応のそんなやりとりで叔父が全てのリスクを理解したうえで協力してくれる気でいることを悟って、錆兎は心の底から感謝した。

もちろん叔父に責任が行くような事は絶対に避けなければならない。
でも…大事な大事な恩人にそのリスクを負わせることになっても、義勇が大事なのだ。

そうやって互いに決意してからは話は早かった。
錆兎はまず淡々と義勇の側の状況を説明し、そして自分の意思を伝える。

「俺は義勇が18になったら籍入れて離れで一緒に住みたいんだ。
確かにまだ学生だけど…今でも成績はトップキープしながらバイトしてるし、普通の新卒の初任給くらいにはなってるから、最低限食費と光熱費くらいは出る。
もちろん安定した生活とは言い難いけど…義勇にとっては今よりは良いと思う」

「それまでは?
君は来年18だけど、1歳年下だと言ったね?
そうしたらあと2年あるわけなんだが」

「…なるべくうちに来てもらって……」

そう、それまでは義勇は保護者である親の管理下だ。
それはどうしようもない。

もちろん今日のようにうちに泊まってもらう事は構わないが、親がNoと言えば泊めたら犯罪になってしまう。

もちろん錆兎は義勇のためならそうなっても構わないが、そうしたら誰が義勇を守るのかと思うと、それも出来ない。

自分の家族以外で誰が義勇の救出に協力してくれるのか…

そんな事を考えてグルグルしていると、そこはさすが大人と言う事か。
叔父はスマホを出してどこかへメールを送っている。

どこへ?と視線を向けると、どうやら送信をし終わったらしく、叔父はスマホを見ていた顔をあげ、ニコリと笑った。


「明日一番でお姫さまは病院に連れて行くよ」
「…病院?」

いきなり飛ぶ話に錆兎が目をぱちくりさせると、叔父は笑顔のまま頷いた。

「殴られて口を切ってるしね。
他に打撲とかもあればそれも一緒に診断書だ。
今探偵の知人にお姫様の親の調査を依頼したから、どのあたりを突けば弱いのかもじきわかる。
そうして準備がある程度終わったら、お姫さんの家に電話をかけてアポイントを取った上で、私と君とお姫様で、お姫様の自宅へGOだ。

君はお姫様を可愛がっている年上の友人。
私はその保護者。

で、昨日、公園にいるお姫様を保護して我が家に泊めて、事情を聞いて心を痛めている。
自宅で関係がうまくいっていないなら、我が家は広いし親族とは言え親子ではない叔父と甥の3人暮らし。
1人くらい増えても問題ないし、君も楽しいし、我が家でしばらく預かりたい。
そんなところかな。

それで渋るようなら、そこからは穏便な方向は諦める。

大事な年下の友人を君も心配しているし、私も関わってしまったからには心配だし、虐待で負った怪我は診断書も取ってある。
それを公けにしてお姫様の保護を要請する準備は出来ているということで説得。

それまでに探偵の知人から親の弱いあたりの報告があれば、なんならそちらの方面に相談してそちらから言ってもらっても?と添えれば完璧か」


…叔父さん…こんなキャラだったっけ?

普段穏やかな紳士そのものの叔父が目を爛々と輝かせて話すその内容に、ありがたいことではあるが、遠い目になる錆兎。

それに対して叔父は画策なんて久々だけどね、などと言いながら

「資産家の家の跡取り息子なんかに生まれると、善良で大人しいだけの人間でいたら強欲な親族に身ぐるみはがされてしまうからね。
不本意ながら多少強引にでも我を通す術を身につけてしまうものだよ。
そして…私に何かあればそうやって行くのは君だからね、錆兎」
と、苦笑する。

叔父はおそらくこれを機会に、そういう生き方は出来ないであろう炭治郎の分も錆兎にその役割を担えと言う意味もあって言っているのだろう。

なるほど、理解した。
そう言う事なら錆兎もその方針で生きていく事には抵抗はない。

結局このあと、一通りスケジュールについて話しあうと、

「君のお姫様を怖がらせたりしないように、朝には私は善良で優しい叔父さんになっているから紹介してね」

と、叔父は中央へと戻っていった。



…まあ…根回し的には成功と言って良いよな……

叔父が帰ったあと、錆兎はもう一度寝室へ戻って義勇の眠るベッドの端へと腰をかけた。

そしてウィッグくらいなら大丈夫か…と、そっと外してみると、同じ色合いのウィッグよりは当然短いが少し長めの髪。
それでもやっぱり少女にしか見えない。
というか、ウィッグを被った時よりも若干幼く見える気がする。
…可愛い。

こんなあどけない様子の義勇に手をあげられるというのが信じられない。
親はどんな心境で手をあげたのだろう…。

…これからはさ、我が家の男全員で守ってやるからな?

錆兎はその短い髪を一房手に取って口づけると、心の中でそう言って、少し迷ったが結局棚から予備のブランケットを出すと、それを手にリビングに戻ってソファに横たわった。

同性だから別に一緒に寝りゃあいいじゃん…と流すには、あまりに可愛すぎて後ろめたい気分になってしまう義勇にため息をつきながら…



Before <<<  >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿