ツインズ!錆義_14_義勇視点-王子さまの恋人

相手がその気だと言うのは天元の嘘だったらしい。

連れて来られたオシャレなカフェで錆兎にそう聞いた。

2人して天元にまんまと騙されたと言う事だ。
本当に腹がたつ。

が、彼の方もとんだ迷惑だったのだろうが、錆兎はそれでも飽くまで紳士だった。

本人いわくすぐ帰るつもりだったのでその後の予定をたてていなかったらしいのに、とりあえず義勇が疲れないようにと座れる場所まで移動。

そこで義勇をきちんと座って休ませてくれた上で即移動するのによさげなカフェを調べ、連れて行ってくれた。


そして席に着くとメニューをまず義勇に渡してくれる。

カフェの雰囲気にぴったりの、どこか可愛らしいメニュー。
内容も豊富で、特にケーキはとても種類があって少し心惹かれるものがあったが、今は一応デートと言っても差し支えない状況だ。

そして自分は女の子と言う事になっているし、相手は年上の男性である。

もちろん自分で払う気は満々だが、万が一相手が出すと言ってくれた場合に、あまりに頑なに固辞すると角が立つだろう。

だから、そうなってしまった時に相手に負担をかけないように…と、美味しそうなケーキの数々は今度アオイと一緒に来て食べようと、義勇がミルクティを選んでメニューを錆兎に返すと、錆兎はそれを見る事なく元の場所へ。

こうして、メニューを見ている義勇には『ゆっくりでいいぞ?と言っていたのに、自分の方は一切待たせることなく呼び鈴を押してウェイトレスを呼び、来るまでの時間に一言。

「アオイ、甘いもんて苦手か?」
と、声をかけてくるので、義勇が深く考える事なく首を横に振って

「大好きですっ!
この前も兄がパフェをごちそうしてくれるって話で待ち合わせしてたんです」

とそう答えると、やってきたウェイトレスに、自分用にコーヒーを、義勇にミルクティ。

そして、もう一つ
「ここで何かオススメのケーキがあればそれを一つ」
とケーキを一つ注文して、運ばれてきた可愛らしいフルーツたっぷりのケーキを当たり前に義勇の前へ。

「ノープランで待たせたお詫びな?」
と勧めてくれる。

…優しい。
本当に優しい。

そこは義勇のために注文してくれたものを遠慮しても仕方ないので、お礼を言ってありがたく頂いた。

ブルーベリーにラズベリー、ストロベリーにキウィにピーチ。
見た目が可愛らしくて見て楽しく、口に運べばカスタードクリームの甘さとフルーツの酸味のハーモニーが絶品で、思わず顔がほころんでしまう。

こんな風に無条件に甘やかされたのは初めてだ。

自宅だと義勇がケーキなどの甘い菓子類が好きなのを父があまり良くはおもっていないので、食べる機会があってもどこか気不味いものがあるのだが、錆兎はそうやってケーキをつつく義勇に楽しげな視線を向けてくれるから、安心して堪能できる。

あまつさえ

「俺は一人っ子で弟分みたいな従兄弟もいるけど男だから甘やかさせてくれないし、日々こんな可愛い妹を甘やかせるなんてアオイの兄貴が羨ましいな」
なんて事まで言ってくれるのだ。

しかしそこで少し…ほんの少しだけひっかかる。

「…男…だったら、甘やかせないんです?」
と、おそるおそる、その藤色の目をみあげつつ聞いてみた。

そう言えば今女の子の格好をしているから…。
父だって義勇が女の子だったら、おそらくあんな風に嫌そうな顔はしないのだろうと思う。

もしかして、錆兎も…と思って口にした疑問に、錆兎は全く躊躇することなく、

「いや?男でも女でも自立できるように躾けるのは他ではなく親の務めだしな?
親以外の親族としてはそう言う意味では責任もないし、下の従兄弟達は男でも女でも可愛がり倒したいけど今事情があって一緒に住んでる年下の従兄弟はしっかりしすぎててな。
逆に近所にいる一番近い年上の従姉妹には色々頼まれたりやらされたりするんだけど
と、明るく笑う。

ああ…なんて羨ましい。
こんな兄が欲しかった…。

成績が良くて顔も体格も運動神経もなにもかも良くて、しっかりしていて強い兄。
そんな完璧な兄がいれば父親にはまた兄はあんなにしっかりしていて男らしいのに…と言われるだろうが、アオイとも比べられまくってるのでそんなの今さらだ。


否定され続けた人生の中で、いつのまにやら他人が苦手になっていた義勇だったが、錆兎の側は本当に心地いい。

でも…もう一緒にいる機会はなくなってしまう。

自分はアオイに頼まれて交際を断りに来たのだし、錆兎も直接断るつもりでここに来たと言っていたのだから。


──また会いたい……

そんな事を言いだせるだけの理由は義勇にはない。
だから少し悲しい気分になったのだが、なんと錆兎の方から、これも縁だしまた会いたいと言ってもらえたのだ!

嬉しいっ!!…と、まず思って浮かれて、しかしすぐ、でも…と考え込んだ。

交際を断って来て欲しいと頼まれたアオイにはなんて言おう?
そもそもが、義勇は本当は男だし、さすがに自分は女装の男だとカミングアウトする勇気はない。

男の義勇が、妹から自分のふりをして交際を断って来て欲しいと頼まれた相手と交際をする大義名分……

そんな事を考え込んでいると、錆兎は気を回して

「無理はしないでいい。
俺はこれも縁だし、なんていうか…お姫さんといるとなんとなく楽しいし、一緒にいてほしいけど、お姫さんは色々怖い目にもあってるしな。
知らない男と二人が不安ってのはわかるから。
嫌なようなら、ここ出たらちゃんと天元の家の最寄り駅までは送るから、遠慮なく言ってくれ」
などと言ってくれる。

違う、違うんだ。
義勇だって錆兎といると楽しいし、一緒に居たい。
でも…同性だから、恋人としてはまずいだろう。

そして悩む…
早くしないと錆兎は気を使って前言を撤回してしまうかもしれない。
それは嫌だと、真剣に悩む。

悩んで悩んで悩んで……そして思いついたっ!


──お友達から!!

と言う事ではダメだろうか。

一応名目上は恋人同士という事にして、実際は普通に友人づきあいとして会う。
わざわざそうする理由としては、ここで互いにお断りをして分かれたら、また天元が余計なおせっかいをしかねないから…と言う事で。

錆兎に付き合いたい相手が出来るまで、という期限を切れば、錆兎にとっても悪い話ではないはずだ。

アオイもあの分では当分付き合いたい相手など出来ないだろうし、自分が関わらずに済むと思えば別に問題はないだろう。

それは素晴らしい名案に思えた。

錆兎にそれを提案してみると、快諾されて、全てはめでたしめでたしだ。

こうして義勇は錆兎と恋人という名のお友達として交際をスタートさせる事になった。

あとで冷静になって考えてみると、この時にもう少し考えるべきだったのでは…と、色々と後悔する事になるのだが、そんな悩める日々が到来することは、この時には全く想像もしていなかったのである。



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